ポケットモンスタータイド


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ポケットモンスタータイド
第51話 到着、ポケモンリーグ
 朝一番に街を発ち、アサノハシティへ着く。しかしそこからもすぐに出て、数日かけて辿り着いた。ポケモンリーグの開催地、アキクサシティだ。
「ついたーっ!」
 ルミが歓声を上げる。その街はお祭りモードで、ポケモンリーグの旗や貼り紙、宣伝用トラックなど、街と人々を活気づかせるものがそこら中に見渡せる。
 もうすぐ開催されるからか血の沸き立っているトレーナーも多く見受けられ、右ではバトル、左でもバトルが繰り広げられている状態だ。
「みんな盛り上がってるね」
 大理石で出来た白い道に、八つの靴音が新たに響き渡る。
「とりあえず、参加の登録をしようか」
 この街は噴水の広場を中心に、北が雄大な山を背にポケモンリーグの会場の巨大なドーム、広場周辺に店が立ち並び、東西は居住区、ただ行き過ぎると陰りが差してやや治安の悪い区域となる。
 街の建物は美しい景観を守る為煉瓦造りとなっていて、それがこの街をポケモンリーグ開催地としてだけではなく、観光地としての価値も高めている。
 ヨウタ達は真っ直ぐ、北のドームへと向かった。



 多くの挑戦者、このポケモンリーグで戦うことになるであろうライバル達の作る列に、自分もそれを成す一員となる。隣の妹とはぐれないようにしっかりと手を繋ぎ、どんどん流れていく直線の波に乗って、ようやく自分達も列から外れる時が来た。
 要求されるジムバッジとトレーナーカードの提示に応え、受付がその中の一つ、ユキワシティのジムリーダー、氷冠の男、ビャクグンに勝った証のクラウンバッジに驚きながらも渡された宿泊施設のカードキーを誇らしい気持ちで受け取った。
 となればもうここに用は無い。人混みから離れてドームの入口で仲間の帰還に備える。といっても同じタイミングで入ったのだ、当然二人もすぐに現れる。
「じゃあ行こうか」
 ドームの入口から、向かって左手にヨウタ達は進む。更に北に歩いて十分程で、到着した。ヨウタ達がリーグ開催期間を過ごすホテルだ。
 その道中でも当然、バトルに打ち込む姿は見受けられた。それを脇目で眺めていたが、やはりバッジを八つ集めただけある、どのポケモン達も手強そうな雰囲気を纏っていて、ヨウタにリーグで繰り広げられるであろう激闘を予感させ、闘志を掻き立てるには十分だった。
 割り当てられた部屋の数は参加人数分、つまり三つだ。当然アカリとヒロヤとは別室で過ごすことになる。
 部屋の前で別れて早速中に入ってみると、窓際の丸いテーブルに、花と手紙の添えられたバスケットが置かれていた。
「これは……」
 手紙の宛名を見ると、母より、と書いてあった。宛先は僕とルミになっている。
「お兄ちゃん、だれから?」
 後ろでぴょんぴょんと跳ねて名前を確認するルミに「母さんからだよ」と手紙を見せてあげると、よほど嬉しかったのか、わーい! と先程よりも高く跳ねた。
 ……もちろん僕だって、すごく嬉しい! うん、早速読みあげよう。
「えっと、ヨウタ君、ルミちゃん、元気にしていますか。お母さんです。ヨウタの活躍は……」
 読んでいるだけで、母の聞き慣れた声が耳に入ってくるようだった。
『ヨウタの活躍は、いつも耳にしています。悪い人達をやっつけたり、ジムリーダーっていう強い人達の中でもコウジンで一番強い人を倒したりしたみたいですね。
 お母さんは、ヨウタ君がこんなにも成長してくれて嬉しいです。ポケモンリーグ、応援してます! お父さんを倒せるくらい強くなれ! 目指せ優勝、頑張れ少年!
 母より』
 母さんの言葉はそれで終わっていた。
「……はは、これは」
 母さんからの応援なんて……。これは絶対、負けられないな。母さんも応援してくれるんだ、恥ずかしいバトルは出来ないぞ。
 読み終えてから気付いた。手紙はもう一枚、二枚目もある。宛先を確認してルミに渡す。
 ……読み始めると、ルミはニヤニヤと笑い始めた。
「どうしたんだ、そんなににやけて」
「なっ……! アカリちゃんとはなしてるときのお兄ちゃんよりはましだよ!」
「えっ、……え!?」
 読み終わったのを確認してから、茶化しにかかる。すると思わぬ反撃にあった。
「ルミだってミツキと話してる時はひどいじゃないか!」
「お兄ちゃんよりはましですー!」
 と、顔を突き合わせるが少しの間を置いてうなだれる。
「……どっちもどっちだね。というか……」
「……うん、どう思われてるんだろう。気持ち悪いとか思われてたらやだなあ……」
「……きをつけよ」
「だね……」
 戦いは虚しいものだ。何も得られずに、互いの心に傷痕だけを残した。



 ヨウタの隣の部屋で、少女は机の上にバスケットを見つけた。その中に手紙を確認して、封を破る。
 父からだ。
『アカリ、旅はどうかな。ヨウタ君のジム戦の後も、ポケモンを捕まえたかい? トゲピーは元気にしているかな? 聞きたいことはたくさんあるけど、これだけは言えるよ。
 アカリ、アカリはもっと強くなる。アカリなら、きっとポケモンリーグだって勝ち抜ける。アカリなら優勝だって夢じゃない! 頑張って、パパは応援してるよ!
 パパより』
 ……お父さん、ありがとう。私は、きっと勝つよ。ポケモン達の為にも、私にジムバッジを託してくれたジムリーダーの皆さんの為にも、お父さんの為にも、私自身の為にも。
 私は負けない、絶対に優勝する。だから、お父さん。
「楽しみに待っててね」
 アカリは呟いて、手紙を閉じた。



 ヒロヤが部屋に入ってまず目に飛び込んで来たのは、木彫りのリングマだ。
 コイキングを加えた木彫りの像の首には、スカーフのように紙がくくりつけられている。
「なんだこれ」
 それを外して、どうやら幾重にも折り畳まれていたらしく開いていくと、長方形が姿を現した。
「……手紙か」
 早速上を破って中身を取り出す。
 ……誰からだ?
「……げ」
 それは、以前ヒロヤを下した相手だった。この地方に来る以前、ヒロヤはトウシン地方という地方を旅していた。
 その時のポケモンリーグ、準々決勝での対戦相手。
「タカオかよ」
 タカオ。それがこの手紙の送り主の名前だ。性格はヒロヤと似ている彼は準々決勝でヒロヤを倒し、準決勝へと駒を進めた。彼は強かった。当時のヒロヤでは、肉薄は出来ても押し切り、勝つ自信の無かった相手。
 だが、彼も準決勝で敗退してしまった。それが前回のトウシン地方ポケモンリーグのヒロヤの思い出。
 とにかく、その彼、タカオからの手紙、早速開けて中を見る。
『よお、元気してたか? おれは元気だぜ! おれは今年もトウシン地方のポケモンリーグに出ようと思う。お前はコウジン地方だろ、 おれは今度こそ優勝するぜ、お前もがんばれよ!
 おれより』
 ……こいつ、またトウシンリーグに出るのか。ったく、懲りない奴だな。……仕方ない、後で電話するか。俺もまあ一応応援しといてやるよ。
 ……こいつには、去年悔しかったし、負けたくないな。絶対こいつよりも良い成績を残してやる。
 ヒロヤは手紙を置いて、ポギアを手に取った。



「はいルミちゃん、あーん!」
「あーん!」
 アキクサシティの噴水に腰掛けて、アカリがカップに入ったチョコのアイスクリームを掬ってスプーンを突き出した。ルミが大きく口を開けて、それをくわえる。
「……おいしー! じゃあアカリちゃんもあーん!」
「ふふ、ありがと。あーん」
 今度はルミが、アカリにミントのアイスを食べさせる。そして二人で顔を見合わせ、おいしいね、と笑いあっている。
「……」
 それをヨウタが、隣から眺めていた。手に持っているのはカップに入ったバニラアイスだ。
 ……ルミめ、羨ましいぞ。僕だってアカリとそういうことをやりた……あ、いや、アカリとアイスの味を分かち合いたい。
 だが、恥ずかしくて言い出せるはずが無い。……くっ、僕の意気地の無さを恨むぞ……!
 ……いやっ、でもアカリはきっと疑わずに頷いてくれるだろう。アカリを騙してるみたいで少し申し訳ないけど、勇気を出して……!
「ヨウタ君!」
「うぇっ、あっ、うん!?」
 高まる緊張を抑えて、いざ、アカリに話しかけ……ようとした直前に声を掛けられ、変な声が漏れた。
「や、やあ、久しぶりヨウタ君……」
「う、うん、久しぶりコウイチ君……」
 声の主は、コウイチだ。
「久しぶりねアカリ」
「あ、久しぶりスミカちゃん! はい、あーん!」
「むぐっ」
 隣にはスミカも居る。アカリは立ち上がって、彼女の口にチョコの乗ったスプーンを突っ込んだ。
「えへへ、おいしいよね」
「……まあ」
 怒りたいが、確かにおいしくて怒るに怒れない。困っていると、今度は小さな女の子もスプーンを突き出してきた。
「はい、あーん!」
「あ、ありがとうルミちゃん」
 ルミもアイスを食べさせてくれるようだ。さすがにスミカも、こんな小さな女の子の好意を無下には出来ない。大人しくその冷たいミントを口に含んだ。
「……ヨウタ君、さっきの気持ち悪い声はどうしたの」
「い、いやどうもしないよ!? ちょっと考え事してたんだ! 後気持ち悪いは余計だよ」
 言えない、言える筈が無い。アカリと食べ合いっこしたかったなんて。
「ああ、それはごめんよ。確かに、もうポケモンリーグは目と鼻の先。ボクもヨウタ君には負けていられないよ!」
「う、うん、僕も負けないよ」
 適当にごまかしただけなのに、ポケモンリーグについて真面目に考えていると勘違いされてしまった。……なんか、ごめん。
 熱い気持ちをぶつけられて、罪悪感が湧いてしまった。
「よう、みんな!」
 更に人は増えていく。一人の少年が、手を振りながら走ってきた。
「やあ、ミツキ」
 彼は左手に、大量に中身の詰まったビニール袋を持っている。
「それは?」
「ああ、せっかくポケモンリーグに来たんだ、やっぱお土産って大事だろ?」
 と彼はヨウタの隣に腰掛けて、ビニール袋を開いた。
 中には木彫りの親子熊やメッキに包まれたミニリュウの置物、クロガネさんとその相棒メタグロスの写真、ポケモンリーグ優勝トロフィーの小さな置物など様々だ。
「はは、ミツキらしいね」
「だろ、特にこのミニリュウの置物はお気になんだ。なんか欲しいのあるか?」
「いや、後で自分で買うからいいよ。僕もミニリュウの置物欲しいしね」
「そうか、分かった。……いいよな、これ」
「……うん、最高だよね。二体は欲しいよ」
 そしてそれから、みんな一緒に街を回った。
 ポケモンリーグが始まれば、彼らは互いにライバル同士。だが、まだ始まってはいない。少年達はこれからの戦いの数日を一時忘れて、最後の休息を共に過ごした。

せろん ( 2014/07/27(日) 12:15 )