ポケットモンスタータイド


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ポケットモンスタータイド
第05話 挑め、アサノハジム
四人は29番道路を抜け、アサノハシティにやってきた。街路樹が立ち並び公園には噴水がある。地面は石畳で景観の良い街だ。
その為この街にもポケモンジムはあるが、そのジムリーダー、アカリの父親のセンサイは、自分の故郷にジムを構えずわざわざヒガキタウンから毎朝通っているらしい。
「ここ、初めて来たけど良い街だな」
「あれ、ヒロヤさん旅の経験ありそうに見えますけど……」
彼の発言を聞いて、ヨウタが尋ねる。ポケモンが強そうだし、野宿することになった話やちょっとしたミスの話などをしてくれたし、となんとなく不思議に思ったのだ。
「ああ、前は別の地方を旅しててさ。つい最近この地方に来たばかりなんだ」
「そうなんですか! 前に旅してたのはどんな地方ですか?」
「ああ、トウシン地方ってとこなんだけどさ。ちょっと田舎だったけど楽しかったぜ。強いトレーナーも結構居たし」
「例えば、どんな人が居ましたか?」
ヨウタとヒロヤが話に花を咲かせ、
「あの2人、仲いいね」
「うん。すっかり打ち解けてるし、良かったよね」
「あ、そういえばアカリちゃん!」
その後ろでアカリとルミも仲良く話している間にも、見えてきた。
赤い屋根にモンスターボールの形の看板がはっきりと教えてくれる。ポケモンセンターだ。
ここでは傷ついたポケモンの回復をしてくれるだけでなく、旅のトレーナーの宿泊施設としての役割も兼ねているのだ。
だが今は用事は無い為通り過ぎて、彼らはこの街のジムリーダー、センサイのところへ向かった。



「こんにちは、センサイさん!」
「お父さん、こんにちは!」
「こんにちはおじさん!」
「こんにちは、自分はヒロヤと申します」
屋根の色が橙になっている以外は特に外観に変化の無い、ポケモンジム。
そこのガラス張りの自動ドアが開くと同時に一人の男性の姿が見えて一斉に挨拶する。
「や、やあ。随分賑やかだね」
緑のトレーナーに黒いズボンの男性、この街のジムリーダーでアカリの父親、センサイ。
彼はまさか四人も来るとは思っていなかったらしく、驚いている。
「センサイさん! 僕、自分のポケモンをもらったんです!」
「ああ、私もそれを聞いて楽しみにしていたよ」
彼はヨウタの言葉に笑顔で応える。
「じゃあ、早速……!」
「もちろん!」



「使用ポケモンは互いに二体。交換は挑戦者のみ認められ、先に相手のポケモンを全て倒した方の勝ちとなる! それでは、始め!」
「最初のジムだ、絶対勝つぞ! まずはムックルだ!」
「行くんだテッシード!」
ヨウタは先ほど捕まえたムックル。センサイはオナモミに似た、銀色の体に緑のトゲの生えたポケモンだ。
「お兄ちゃん勝てるかなあ? ねえアカリちゃん、アカリちゃんはどっちに勝ってほしい?」
「うーん……。……どっちにも、かな?」
「それはダメ! どっちか!」
「ええ? ……ごめんねルミちゃん、決められない!」
「えー?」
「……行け! つばさでうつ!」
アカリに応援してほしかったな、と思いながらもヨウタは指示を出す。
早速攻撃を仕掛けるムックル。動かないテッシードに翼をぶつけるが……。
「よし、効果は抜群だ! これで大ダメージを……!」
しかしテッシードは大したダメージを受けていない。その上なぜかムックルまで傷を負っている。
「ヨウタ君、あいにくだがテッシードにははがねタイプが入っている。ひこうタイプの技も効果抜群にはならないのさ」
「そうだったのか……。それで、ムックルはどうしてダメージを?」
「それは、テッシードの特性さ」
「特性……。コリンクのとうそうしんや、ムックルのするどいめみたいなあれですよね?」
「ああ。テッシードの特性はてつのトゲ、直接攻撃してきた相手にダメージを与えるんだ」
「なるほど……」
タイプの相性や特性など、ポケモンバトルは結構奥深いんだな。
「けど、ダメージを与えてることに変わりはないんだ。もう一度つばさでうつ!」
「アイアンヘッド!」
「ムックル!」
もう一度翼をぶつけようとしたが、それに合わせてあちらも鋼のような硬い頭で攻撃してきた。
ムックルは山なりに飛んだが、なんとか体勢を立て直す。
「くっ……。けど、コリンクに有効打は無い。ムックル、ごめん! つばさでうつ!」
ムックルは今の攻撃で大ダメージを受けたらしい。顔は痛みを堪えているかのように歪んでいる、次のてつのトゲを耐えられるとは思えない。しかし次に繋げる為には、ここは特攻するしかなかった。
翼をぶつけ攻撃するが、てつのトゲによるダメージで倒れた。
「ムックル、戦闘不能!」
「……ごめんよムックル。戻って休んでくれ」
今の指示は、自分でやられに行けと言ったようなものだ。他に道が無かったとはいえ、罪悪感がある。
「お兄ちゃん、なにやってるの! ムックルがかわいそうだよ! ねえ、アカリちゃん!」
「それは……」
「う……」
「……」
その行為にルミが非難する。
ヨウタもアカリも、言葉に詰まってしまう。
「しかたないさ。ここで戻したところでコリンクじゃ倒せないし、結果は変わらなかったんだ」
「けど……」
「だからあまりヨウタを責めるなよ。むしろあいつの判断は正しかったと思うぜ」
「……うん。お兄ちゃん、ごめんなさい」
しかしヒロヤの説得で、彼女も納得したようだ。申しわけなさそうに謝ってきた。
「いや、いいんだ。ルミがそう言うのも無理はないよ」
ルミにそう返して、センサイを見る。
「さすがセンサイさん、ジムリーダーだけあって強いです。けど負けませんよ! コリンク、行ってくれ! でんきショック!」
「ミサイルばり!」
電気を放つコリンクに、テッシードも尖った針で迎え撃つ。
「くっ……! かわしてスパーク!」
しかしミサイルばりは弾数が多い。数ででんきショックに競り勝ち、コリンクに迫る。
残ったのは2発の弾。それを跳んでかわし突進するが、やはりこちらもダメージを受けてしまった。
「次はでんきショック!」
あまりテッシードに触りたくはない。今度は下がって、電気を浴びせる。
「決めるんだ! もう一度でんきショック!」
「ミサイルばりで迎え撃て!」
今度も押し負けると思ったが、幸いにも2つしか発射されなかった。おかげで押し切り、攻撃を食らわせられた。
「よし、スパークだ!」
そして電気に痺れている間に、再び突進を食らわせる。
ついに限界らしい。テッシードはゴトン、という音ともに倒れた。
「ヨウタ君、なかなかやるじゃないか。相性の不利なコリンクで倒すとは」
「コリンクだけじゃなくて、ムックルも頑張ってくれましたからね!」
「そうだね。行くんだモンジャラ!」
これでお互い残り一体。だが体力的にも相性でもコリンクは不利だ。
「頑張って、ヨウタ君! あ、お父さんも!」
「お兄ちゃん、頑張れ!」
「頑張れよ、ヨウタ」
「はい! 二人もありがとう! でんこうせっか!」
応援を受け、指示を出す。
「パワーウィップ!」
「なっ……!」
目にも留まらぬ速さで迫るコリンクに、しかし相手が体に巻きつくツタを思いきり横に薙いで食らってしまう。
「続けてげんしのちから!」
「か、かわしてくれ!」
コリンクはなんとか受け身を取って構えたが、直後に飛んで来た岩のようなエネルギーの塊に直撃してしまった。
「コリンク!」
その衝撃でフィールドに土煙が舞い、静かに晴れて行く。
そこには、うつ伏せに倒れるコリンクの姿があった。
「……ありがとうコリンク、ゆっくり休んでくれ」
「ああ、負けちゃった……」
「あらら……」
「お兄ちゃん、ミツキさんに勝ったのに……」
「ヨウタ君」
三人も、もちろんヨウタ本人も残念そうにしている中、センサイが歩み寄る。
「は、はい……」
「他にもジムを挑戦するつもりはあるかい?」
「はい、もちろん! 強くなって、また挑戦に来ます!」
「そうか、楽しみにしているよ。なら次は30番道路を通ってコウシタウンのコウシジムに行くといい。あそこならひこうタイプのジムだから有利に戦えるはずだが……」
彼は言いながら、アカリを見た。自分の娘の相棒はくさタイプ、相性が悪いため不安なのだろう。
「大丈夫お父さん! 相性が悪くても、きっと勝ってみせるから!」
だが彼女はそれにハツラツと返した。
「そうだ、アカリにこれをあげようと思ってたんだ。少し待っててくれ」
そしてセンサイはどこかへ行き、少しして帰って来た。
大きな、タマゴのようなものを抱えている。
「これはポケモンのタマゴ。お前がポケモントレーナーになったらあげようと思って知り合いから譲り受けたんだ」
「どんなポケモンが入ってるの?」
「それは生まれてからのお楽しみさ。じゃあヨウタ君、アカリ、ジムバッジ集め頑張ってくれ」
「はい! センサイさん、ありがとうございました!」
「お父さん、ありがとね!」
そしてアカリがそれを譲り受け、彼に見送られながら4人はジムを出た。

せろん ( 2013/11/23(土) 13:08 )