ポケットモンスタータイド


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ポケットモンスタータイド
第46話 ミツキVSエミット団幹部シアン
 その身軽さを生かして木々を飛び交い、翻弄して背後から斬りつける。
 鈍重な体系もあって、トドゼルガは死角からの攻撃に対応出来ず背中を裂かれた。
 それが決定打となり、残り僅かだった体力を削りきり、その巨体を下した。
「サンキュートドゼルガ、ゆっくり休めよ」
 そのポケモンの主、黒いトゲトゲ髪が特徴の少年、ミツキはこれまで自分を信じて戦ってくれていたことを労いボールに戻した。
「戻れ、マニューラ」
 トドゼルガと先ほどまで交戦していたそのポケモン、黒い体で頭に赤い扇を付けた、長い鍵爪の持ち主。マニューラも、その主によりボールに吸い込まれていく。
「ゆけっ、ドリュウズ」
「次、頼むぜ! リングマ!」
 これでお互い残るは三匹ずつ。そしてどちらも二匹ずつ手持ちが割れている為、条件は同じと言ってもいいだろう。
「リングマ、じしんだ!」
「じしんで返せ」
 互いが地面を叩いて、衝撃波を起こす。
 二つの波と波は二匹の中央でぶつかり合い、衝撃が打ち消しあって相打ちになった。
「接近しろ!」
「迎え撃て!」
 ドリュウズが地を蹴り駆け出す。
 対してリングマは、不動の態勢を崩さない。
「かわらわり!」
 ドリュウズはその、組み合わされば鉄板をも貫く破壊力のドリルを構成する一つ、片腕の鋼の爪を突き出す。
「ほのおのパンチ!」
 迎え撃つリングマは、炎を纏った拳を振り下ろした。
 二つの拳がぶつかり合い、発生したエネルギーが風となり周囲の木々に茂る葉を揺らした。
 リングマが少しずつ優勢になっていくかと思えば、ドリュウズに一気に押し戻される。どうやら、パワーはほぼ互角のようだ。
「距離を取っていわなだれだ!」
 瞬間、今まで目の前で競り合っていた相手は消えた。リングマは思わず前のめりになる。
 弾かれるように後ろへ飛び退ったドリュウズは、虚空から岩を召喚してそれをリングマの頭上で雨のように降らせる。
「腕で防げ!」
 リングマはそれを、頭を抱える形でダメージをなるべく和らげる。
「もう一度接近だ!」
 まだ岩が降り止まぬ中、ドリュウズは新たに仕掛けた。
 降り注ぐ岩を砕きながら眼前に迫る。
「迎え撃て、ほのおのパンチ!」
「ドリュウズ! 穴を掘れ!」
 思いきり振り上げたリングマの拳は、虚しく空を切り裂いた。
 ドリュウズは射程に入る前に腕を伸ばして頭と爪でドリルをつくり、地中に潜ったのだ。
「マズい……! じしんだ!」
じしんは、地面の中に居る相手にダメージが二倍になる技だ。それで何か仕掛けられる前にこちらから攻撃しようとしたのだが……。
「しまっ……!」
「アイアンヘッド!」
 そのドリルの破壊力の高さが可能にした高速の穴掘りがそれを許さなかった。リングマの背後の地面が隆起した、気付いた時にはもう遅い。
 穴から勢い良く飛び出したドリュウズは、腕を振り下ろす最中のリングマの背中に思いきり頭突きを食らわせる。
 前のめりになったリングマが少し遅れて乱雑に背後へ腕を凪ぐが、当然相手の姿は既にそこに無い。
「……さて、恐らく二度も同じ戦法が通用する子どもじゃないだろう。だが当然相手は二度目を警戒しているはずだ。だが……」
「また同じ戦法を取られたら厄介だけど、二度目があるとは限らない。フェイントを交えて普通に攻撃してくる可能性だってある。だったら……」
 互いに相手を警戒しつつ、次の戦法を決める。
 最初とは逆に、ミツキの前にはドリュウズが、シアンの前にはリングマが立っている。
「ドリュウズ、もう一度接近だ!」
「来い!」
 またも二匹の距離が縮まっていく。
「跳べ!」
「構えろ!」
 二度目は無いはずだ、と踏んだのか、ミツキはリングマにいつでも迎え撃てるよう指示を出した。
「敢えてもう一度だ!」
 だが当ては外れ、再び地面に潜ることを許してしまう。当然先ほどと違って、すぐにじしんなどは撃てない。撃てば先ほどの二の舞になるのだから。
 相手は、まるで焦らすかのようにまだ地上に姿を現さない。
「くっ……!」
 地中にいる相手を、リングマの図体に追える筈が無い。何かないのだろうか、地中の相手の位置を捉える方法が……!
「……待てよ、確かリングマは……!」
 そうだ、思い出した。ポケモン図鑑にも載っている、リングマのある特徴を……!
「リングマ、臭いだ! ドリュウズの臭いを追え!」
「なっ、臭いだと!?」
リングマは、どんな匂いも嗅ぎ分ける。地面深くに埋まっている食べ物も残らず見つけだすという。リングマの鼻がひくひくと動き、遂に獲物を見つけたのか不敵に笑った。しかしリングマはシアンに背を向けている為、彼にはその表情が分からなかった。
「まずい、嗅ぎ当てられる前に出るんだ! アイアンヘッド!」
「おせえよ、受け止めろ!」
 リングマの背後だった地面が隆起した。しかしリングマは臭いで来るのが分かっていた為、既に体を反転させ来襲に備えていた。
 飛び出てきたドリュウズは驚きつつも頭を振り下ろすが、リングマがその角を掴んで勢いを止める。
「今だ、インファイト!」
 捕まえられて、両爪で反撃しようとしていたドリュウズを離す。
「オラオラオラオラ!」
 そしてその胴体に、次々連続で重い拳のラッシュを浴びせていく。
「オラァ!」
 最後に思いきり殴り飛ばして、フィニッシュを決める。ドリュウズは宙に孤を描いて飛び、シアンの目の前に落ちた。
「戻れ、ドリュウズ」
 シアンはそのドリュウズを、労うでもなくただボールに戻した。
「ゆけっ、シャンデラ!」
 彼が次に出したのはシャンデラ。高い特攻を誇るゴースト・ほのおタイプのポケモン。名前の通りシャンデリアのような見た目のポケモンだ。
「まだやれるか、リングマ?」
 ミツキが声を掛けると、リングマは振り返って肩越しに頷いた。
「よし、行くぜ! 早速じしんだ!」
「かえんほうしゃだ!」
 向かってくる効果抜群の衝撃波は、炎によってせき止められる。
「だったら接近しろ!」
「エナジーボール!」
「弾き返せ!」
 ならばと接近戦に持ち込む。相手は近寄らせまいと深緑の光球を放ってきたが腕を払って容易く打ち返す。
 だがシャンデラもそれを食らう程間抜けでは無く、宙を滑って回避した。
「まだまだ行くぜ、シャドークロー!」
 その黒い爪は真っ直ぐシャンデラに伸びていく。しかしシャンデラは微動だにしない。
「真正面から迎え撃て。だいもんじ!」
 黒爪がシャンデラを捉えようとした、まさにその時。大の字の炎が放たれ、リングマを飲み込んだ。
 魂を焼き焦がすような灼熱に包まれたリングマは、それに生気を全て吸い取られ、燃やし尽くされたかのように力を失い、無造作に崩れ落ちて起き上がらなかった。
「……っつー、さすがの火力だなシャンデラは。リングマ、良く頑張ったな。ゆっくり休めよ」
先ほど焼き払われたそのポケモンは、光に包まれ申し訳無さそうな顔をしながら吸い込まれていく。
「気にすんなよ、元からダメージがあったんだから。心配しなくても必ず勝つぜ」
 彼はそうボールに語りかけて、ベルトに戻す。そしてすぐに次を投じた。光に包まれ、この森というフィールドにおあつらえのフォルムが姿を現す。
「次はお前だ、デンチュラ!」
 それは巨大な電気蜘蛛、デンチュラだった。
「早速行くぜ、かみなり!」
 電撃が真っ直ぐに襲いかかる。特性ふくがんで狙いの定められたそれを避けるのは容易いことでは無い。
「だいもんじ!」
 だが高い命中精度を誇るその雷も、正面から突破されては為す術が無い。
「避けろ!」
 横に跳んでかわす。大の字の炎はミツキの横をすり抜ける。一瞬隣を過ぎただけだというのに凄まじいその熱気は、だいもんじの威力の高さを表していた。
「遠距離からじゃあ不利だ、接近しろ!」
 遠距離からでは、恐らくいつかは捉えられてしまう。ならばと先手を取ることにした。
「エレキネット!」
「焼き払え」
 接近しながら電気を纏った糸を辺りに吐いて自分のフィールドをつくりあげようとしたが、炎で悉くを灰燼に変えられてしまう。
「やっぱ駄目か、しかたねえ」
 エレキネットとシャンデラはどうやら相性が悪いようだ。罠を撒くのは諦める。
「だいもんじだ!」
「跳べ!」
 互いの距離は後数メートル。そこで仕掛けて来た炎を跳躍で避ける。シアンは笑みを浮かべた。空中に居てまともな動きは取れない、今なら当てられる。
「もう一度だいもんじ!」
「来ると思ったぜ。あそこの木に糸を吐いて軌道を変えるんだ!」
 ミツキはシャンデラの背後からやや離れた場所にある木々の一つを指差した。
 そこに糸を吐いたデンチュラはそれを手繰って素早く木に飛び移り、幹に張り付く。
「チッ、後ろだ! だいもんじ!」
「おせえよ、かみなり!」
 シャンデラが振り返った時にはもう遅い。全身を電撃が包み込む。
「何をしている、やれ!」
 だがシアンに怒声を浴びせられ、痛みを堪えるように目を固く引き結びながら大の字の炎を放つ。
「まずっ……! 避けろ!」
 炎が電気を押していく。早くどこかへ移ろうと脚に力を入れたが、飛ぶまでは間に合わなかった。炎に包まれたデンチュラは木から剥がれ落ち、うごうごと脚を動かしていたがやがて固まった。
「……サンキューデンチュラ、ゆっくり休めよ。……」
 ……これで、残るはこいつだけか。
「おし、頼むぜブーバーン!」
 ミツキの最後の一匹は、彼の最も信頼するブーバーンだ。相手は残り二匹、だがミツキは自分達の勝利を固く信じていた。いや、信じる必要があった。
 彼は勝たなければならないのだ。将来ポケモンマスターになるトレーナーが悪に屈するなど、あってはならないのだから。
「行くぜ! がんせきふうじ!」
 早速仕掛ける。岩がシャンデラを囲むように降り注ぐ。だが、相手はそれを次々避けてしまった。
「シャドーボール!」
「弾け!」
 だがこちらも、相手が飛ばしてきた影の球を腕を薙いで容易く弾き飛ばす。
「……しかし困ったな。ブーバーンの攻撃技でシャンデラに効くのががんせきふうじしかない。オーバーヒートやだいもんじは吸収されちまうし、きあいだまもすり抜ける。
がんせきふうじだけでどうやって……。……そうだ」
 今の自分の言葉がヒントになった。すり抜ける、それを利用すればいいのだ。
「おし、行くぜ! ブーバーン、がんせきふうじ!」
「無駄だ」
 次々と岩を降らせるが、やはり避けられる。しかし狙い通りだ。
「今だ、きあいだま!」
 まだ岩が降り止まぬ中、シャンデラ目掛けて渾身の力でエネルギー弾を放つ。
「は、血迷ったか」
「いや、オレはまともさ」
 当然相手は微動だにしない。そしてやはり、その弾はシャンデラの体を貫通した。かくとうタイプの技のきあいだまは、ゴーストタイプのシャンデラには効果が無い。
 直後、破壊音とともにシャンデラの背中に鋭い痛みが走る。
「何っ!?」
 きあいだまは、確かにシャンデラには効果が無い。ダメージを与えられずすり抜けてしまう。ミツキはそれを利用した。
 まだ岩は降っている。シャンデラを通り抜けたエネルギー弾は、ちょうどその背後に落ちてきていた岩に当たった。
 そして岩は粉々に砕け、辺りに破片が飛び散った。そのいくつかが、シャンデラの背中に突き刺さったのだ。
 予想外の方向からダメージが来たことで、シャンデラは思わず固まってしまう。そこに岩が落下。シャンデラは岩に埋もれて見えなくなってしまった。恐らく、もう戦える体力は残っていないだろう。
 シアンは不愉快そうに舌を鳴らしながらシャンデラをモンスターボールに戻した。そして少し声を荒げながら最後の一匹、マニューラを出す。
 ……今の光景を見て、ますます負けるわけにはいかなくなった。相手は、シアンはポケモンを道具としてしか見ていない。
 リベンジだとか、そんなことはもうどうでもいい。こんな奴には、絶対に負けてはならない。
「行くぜブーバーン、がんせきふうじ!」
「岩に飛び乗れ」
 ブーバーンが岩を降らせる。だが、相手は身軽な体型を生かして岩に飛び乗り、岩と岩を伝って迫ってきてしまった。
「きあいだま!」
「避けろ」
 瞬間、マニューラは影すら残さず消えてしまった。相手の行方を追えたのは最初だけだった。次々に木を飛び交われるうちに、見失ってしまう。
「つじぎり!」
 どこかで、軽やかなステップを踏む音がした。直後、ブーバーンとミツキの背後から現れた影がブーバーンの背中を切り裂く。
「っ……! かえんほうしゃ!」
 すぐに後ろを向いて炎を撃ったが、その時には既に相手の姿は無かった。
「ああっ……! すばしっこい奴だな……!」
 段々と苛立って来たが、このままでは状況は変わらない。何か策を立てなければ。
「もう一度つじぎりだ!」
再び、マニューラが仕掛けてくる。
「……まただ」
まただ、また聞こえた。背後で戦うクロガネとしたっぱ達。チャンピオンという絶対的な強者が弱者であるしたっぱ達を圧倒的力で蹂躙する破壊音。
 その中に混じる、一つの異様な音。この戦場とも呼べる修羅場に似つかわしくない、軽快なステップ音。先ほどマニューラが攻撃を仕掛けてくる直前に聞こえたのと同じものだ。
 今度は位置まで特定出来た。
「ブーバーン、右斜め後方から来るぞ! 避けろ!」
 ブーバーンは身を翻す。しかし、どうやら避けきれなかったらしい。爪の先が少しかすったらしく、ブーバーンは痛みを我慢するように口元をわずかに歪ませていた。
「今の……」
 だが、どうやら一方的にダメージを負わされたわけでは無いようだ。マニューラが再び姿を隠す寸前、一瞬だったが眉間にしわを寄せているのが見えた。
「はっはーん、なるほど読めたぜ」
 ブーバーンの体温は、ほのおタイプらしくかなりの高温だ。加えて特性はほのおのからだ。爪の先がかする程度でも、こおりタイプのマニューラには堪えるらしい。
 ……これで、勝利への道が見えてきた。あのすばしっこいマニューラの攻略法が。
「つじぎり!」
「ブーバーン、今だ! 避けろ!」
 相手は再三攻撃を仕掛けてくる。そしてこちらは攻撃の直前のステップ音、それを聞いて先ほどと同じタイミングで指示を出す。つまり、僅かに避けきれないタイミングだ。
「ええい、しぶといな……!」
シアンがその度に舌を鳴らす。なかなか仕留められないことに痺れを切らし始めているようだ。
 それを何度も繰り返しているうちに、遂にその時が訪れた。
「なっ、マニューラ!?」
 マニューラがまたも攻撃を加え、離脱する。その瞬間、突如体が燃え上がった。
「……へ、ほのおのからだ発動」
 それはミツキの狙い通りだった。僅かにかすらせることでダメージを最小限に抑えつつ、接触攻撃をした際相手をやけど状態にすることのある特性、ほのおのからだの発動を目論んで居たのだ。
 それでもマニューラは踏ん張って、木の上へ離脱を果たす。
 そして再び、ステップ音が聞こえた。マニューラが攻撃を仕掛けてくる合図の音だ。
「ブーバーン、自分の周りにがんせきふうじ!」
 ブーバーンが腕を天に向け、その体を取り囲むように岩が落下した。マニューラは思わず木の上に戻ってしまう。
「さあ、どうすんだ? ここで引いても、やけどのダメージは蓄積し続ける。もし仕掛けてきても、攻撃出来る位置は限られてるぜ」
 ミツキの言う通りだ。ブーバーンの体の周りに鎮座する岩が壁の役割を果たしていて、頭上からしか攻撃を当てられない。
 しかしここで仕掛けなければ、いずれやけどのダメージで倒れる。
「……行け、マニューラ! つじぎりだ!」
「左斜め後方だ! 迎え撃て、オーバーヒート!」
背後から迫ってくる黒い影は、極太の熱線に飲み込まれ体力を燃やし尽くされた。地面に無抵抗に落下し、ピクリとも動かない。
「……よし、やったぜブーバーン!」
 ブーバーンは、振り返って腕を振り上げて返した。
「ありがとな、ゆっくり休めよ!」
 その彼の労いに頷き、彼の相棒は光に包まれてモンスターボールに戻された。
「くそ、使えない……!」
 一方、シアン。彼は苛立ちを隠すこと無く面に出している。その端正な顔立ちは、怒りで醜く歪んでいた。
 マニューラは、労うどころか名前すら呼ばれずにボールに戻された。
「どいつもこいつも……! そもそももっと強いポケモンだったらこうはならなかったんだ……!」
「おい!」
 今だ女々しくぶつぶつと恨み言を垂れるシアン。そんな彼に怒鳴りながら歩み寄る。
「さっきからよ……! ポケモンはお前の為に頑張ってんだぞ! なのにその態度はなんなんだよ! 負けたら責任をポケモンに押し付けてよ!」
 トレーナーの風上にも置けないその態度。怒りに任せ、ミツキは我を忘れて掴みかかっていた。
「なんなんだよ……? ……それは僕のセリフだ!」
 胸ぐらを掴んで、牙を剥くミツキ。彼に、同じくあらゆる怒りを全て乗せた拳が振り下ろされた。
 しまった。我に返った時にはもう遅い。その拳は、今にもミツキの頬を鋭く捉えようとしていた。
「その辺にしておけ」
 痛みに備えて、反射的に目を瞑る。確かに、皮膚がぶつかり合う音が辺りに響いた。しかし頬には今だ痛みが襲って来ない。
「あれ……?」
 恐る恐る目を開けると、シアンの拳はクロガネの手のひらに包まれていた。どうやら、彼が助けてくれたらしい。
「クロガネ……! 第一お前のせいで……!」
 その言葉は最後まで発せられることは無く、彼の口からは渇いた呻き声が漏れた。
 クロガネが思いきりシアンの腹を蹴り飛ばし、彼は無様に地べたに転がって腹を抑えていた。
「こんな屑に、お前の叫びが届くことは無い。むしろ今のように、怒りを原動力にして攻撃してくる」
「けどクロガネさん、オレ、いや、僕は……!」
「……気持ちは分かる。だが、今はそれよりも優先することがあるだろう」
 言われて、怒りに包まれていた心が一気に冴え返った。
「そうだ、ヨウタ……!」
 全てを託した、自分のライバル。彼は今も戦いを続けているはずだ。
「行くぞ」
 クロガネが駆け出す。
「はい!」
 ミツキもそれに遅れを取ることなく、走り出した。

せろん ( 2014/07/03(木) 19:15 )