第41話 突入、エミット団を追って
ついに見えてきた。幻のポケモンセレビィを祀る祠のある森、ヤガスリの森だ。
「ありがとう、ムクホーク」
森の前でムクホーク達に着地してもらい、ヨウタ達はその背中から降りモンスターボールに戻した。
「む、お前達がボスの言っていた……!」
「行こう! 頼んだよアブソル、サイコカッター!」
「任せたぜデンチュラ、かみなり!」
「行ってコジョンド、はどうだん!」
「お前もだカイロス、ストーンエッジ!」
森の入口を守るしたっぱらのポケモン達を軽々と突破して、彼らは森の中へと突入した。
先陣を切ってヨウタとミツキの二人が駆け抜け、その後ろをアカリとルミ、最後尾でヒロヤが皆を守る。
やはり相手はしたっぱ、数は多いがヨウタ達の敵では無い。
彼らは敵を切り裂き、屠り、薙ぎ倒して森の中、人々が踏みしめることによってつくられた道を進んでいた。
「行くんだアブソル、サイコカッター!」
「デンチュラ、かみなり!」
「コジョンド、はどうだん!」
三つの技は空を裂き、正面のしたっぱのポケモン達を切り裂き、あるいは痺れさせ、あるいは吹き飛ばして戦闘不能にする。
「カイロス、ストーンエッジ!」
ヒロヤが右足を軸に体を半回転させて振り返り指示を出して、もう半回転して再びヨウタ達と駆け出す。
カイロスも技を使ってすぐに共に走り出す。
背後から迫るポケモン達は、技を食らって沈む者や避けようとして木に顔面を打ちつける者など様々であった。
「よし、いい調子だ!」
「そこまでだ!」
「なっ!?」
波に乗り始めたヨウタ達に、突如巨大な爪が降りかかる。
ヨウタ達はとっさに腕を構えて防御の態勢を取ったが、アブソルが三日月状の角で受け止め無傷で済んだ。
「ありがとうアブソル……」
アブソルは何も応えずに、自分達に襲いかかってきたクリムガンに対して身を低くして構える。
「ここから先へは行かせない」
何人かのしたっぱを率いて現れたのは、以前GSボールを狙って強襲してきた、ヘルガーを連れた、したっぱとは雰囲気の違う男性だ。
「おれはエミット団幹部、カーマイン。お前達の相手はおれだ」
黒髪で、太い髪の束が二本後ろに流れている。
以前はヘルガーを、今は目の前に立っているクリムガンのトレーナーの彼は、幹部で名前はカーマインというらしい。
「エミット団幹部……!? けど、僕は負けない! 必ずGSボールを取り返すんだ! 行くぞ!」
「待て、ヨウタ」
一歩前に進み出たヨウタを、ヒロヤが手をヨウタの前にかざして制止する。
「ここは俺が引き受ける」
「え、けど……」
なんと、ヨウタの更に一歩前にヒロヤが進み出た。
ヨウタはGSボールを自分の手で取り返したいと思っていたが、まず残るべきは自分な気がしていた。
だから、彼の発言に戸惑いを見せる。
「いいから行け、俺も後で必ず追いつく! カイロス、ストーンエッジだ!」
「……分かりました、ありがとうございます!」
彼がヨウタの心情を見透かしていたかは分からない。だが、とりあえずここは彼の言葉に甘えることにした。
「行かせるか、クリムガン!」
「おっと、お前の相手は俺だぜ。カイロス、シザークロス!」
道の脇を通り過ぎるヨウタ達を遮ろうとしたが、それをヒロヤが妨害する。
クリムガンは背中に走る痛みに怯み、その隙に道を一気に駆け抜けた。
「お前……!」
「さあ、満足させてもらおうか!」
ヒロヤとカーマインが向かい合い、その周りをしたっぱとそのポケモン達が取り囲む。
「とはいえ、少しまずいかな……?」
「ルカリオ、はどうだん!」
周りを見回して冷や汗をかいた時、この不利な状況を切り裂く救いの手が差し伸べられた。
突如飛んできたエネルギー弾は空中でいきなりねじ曲がり、したっぱのポケモンの一体を吹き飛ばした。
「いきなり呼び出されたと思ったら……! なんですかこれは!?」
「ちょっと、どういうことよこれ!?」
ルカリオのトレーナーともう一人の少女は、ルカリオに追いついて肩で息をしながら声を荒げる。
「いやあ悪い悪い、まあ気にすんなよコウイチ、スミカ!」
現れたのは黄色いパーカーの少年と、赤毛でウェーブのかかっている少女。
ヨウタのライバルコウイチと、アカリのライバルスミカだ。
「いやあ、サンキュー! 助かったよ二人とも」
この森に来る途中、空の上でヒロヤが連絡を取った人物。それが彼、コウイチだ。
彼女、スミカと一緒に居たらしく、増援が二人になったのは正直助かった。
「よし、じゃあ俺がカーマイン、あ、あいつな。あいつと戦うからコウイチはしたっぱをしくよろ!」
「ちょっと、勝手に決めないでよ! それにアタシは?」
「アカリ達を追ってくれ、このまま真っすぐ行けばきっと追いつく」
「はあ!? ……しかたないわね! コウイチ、やられたりするんじゃないわよ!」
とコウイチを指差し応援して、彼女は走り去る。
「……よし」
したっぱ程度なら、一人で大丈夫だろう。
コウイチには協力してもらうことにして、スミカにはヨウタ達を追ってもらった。
「じゃあ……! 行くぜ、コウイチ!」
「はあ、分かりましたよ! 行くよルカリオ!」
ヒロヤとコウイチ、カイロスとルカリオ。
二人と二匹は、背中合わせになって構えた。