ポケットモンスタータイド


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第39話 僕と俺との旅の相乗り
昼間の公園。アカリとルミがショッピングに出かけて、残されたヨウタとヒロヤは暇そうにベンチに腰掛けていた。
「これでついに後一つか……」
雲一つ無い澄んだ青空を眺めながら、ヒロヤがバッジケースを開く。
それに視線を落とすと、中には七つのバッジが収まっていた。
「後一つで、ポケモンリーグに参加出来ますね!」
「ああ、そうだなー」
……あれ?
「……ヒロヤさん、あまり嬉しくなさそうですね」
その青年の返事は、あまりに心がこもっていなかった。
それを追及すると、彼は少し唸った後に口を開いた。
「実はさ、ヨウタ」
「はい」
それまで正面の向いていたヒロヤは、少し寂しげな笑みを浮かべながら真っすぐこちらを見つめてきた。
「……俺、旅終わってほしくないんだよな」
「え?」
だがすぐに視線をどこまでも青く、どこまでも広く晴れ渡る青空へと向けて、独り言のようにぽつりと零した。
「ヨウタもアカリもルミちゃんも、弟や妹が出来たみたいですごくかわいいんだ。俺のグライオン達と並ぶくらい。
ポケモンリーグが終わったら、旅も終わるだろ? そしたら俺とお前達はもう他人で……。それは寂しいなあって」
彼は眩く輝く太陽の眩しさからか、目を細めている。
……そうか。ヒロヤさんはこれまでも旅をしていたとは聞いたけど、ポケモン達との思い出を聞いたことはあっても一緒に旅をした仲間の話は聞いたことは無かった。
きっとこれまで一人旅で、だからまた戻るのが嫌なんだろう。
「……ヒロヤさん。ヒロヤさんの夢はなんですか?」
「え、いや、……うーん」
彼は答えに詰まって頭を抱えている。だが、実際彼の夢が何かは大した問題では無い。
「僕の夢は、ポケモンマスターです!」
言いたいのは、自分の夢とそこから発展させるつもりの話だ。夢を聞いたのはその前置きに過ぎない。
「あれ、センサイさんとのバトルの後は伝説、幻ポケに会うことだって……」
「はい、変わりました! ……ミツキやアカリ、たくさんの人とのバトルを通じて、分かったんです。僕はポケモンバトルが好きで、僕は誰にも負けたくないって」
「なるほど、その為のポケモンマスターか」
「はい。……だから、少なくとも僕の旅はそれまで終わらせるつもりはありません」
それが自分の夢を叶える為の道だ。本当に長く、遥かに遠く、なによりも険しい道のり。
……レントラー達にも、今度ちゃんと話さないとな。
とにかく、話を続ける。
「ヒロヤさんも、これからも旅を続けるんですよね?」
「ああ、まあな。はあ、また寂しい一人旅かあ……。……いや、ポケモン達はいるけどさ」
彼はため息を吐きながら足をプラプラさせている。
けど僕は、そんなヒロヤさんの言葉を切らせてもらう。
「ヒロヤさん、それは違いますよ!」
「え、なにが?」
「ヒロヤさんは一人じゃありません。ポケモン達もそうですが、ヒロヤさんには僕が居ます! もしかしたらアカリも!」
「いや、でも……」
彼は戸惑っているが、構わず言葉を続ける。
「ヒロヤさん、さっき言ったじゃないですか! 僕はこれからも旅を続ける予定です。……だから、もしヒロヤさんさえ良ければヒロヤさんも一緒に来ませんか?」
そう、これが僕の言いたかったことだ。
「僕はヒロヤさんにたくさんのことを教えてもらいました。これからも、もっと教えてほしいんです。だから……」
「いいのかヨウタ!?」
「わっ!?」
自分の気持ちを伝え、一緒に来て欲しいと思っていることを言おうとしたが遮られる。
いきなり両肩を掴まれて急に顔を近づけられ、割りと本気で驚きつい叫んでしまった。
「……あー、悪い」
彼もそれを悪いと思ったらしく、急に勢いを失って少し退いた。
「いえ、気にしないでください。それより、僕もヒロヤさんと居た方が楽しいですから。むしろ僕からお願いしたいくらいです」
「ヨウタ、お前……! 本当にいいやつだな!」
「うわっ!?」
だがすぐに勢いを取り戻して、いきなり抱きついてきた。よほど僕の言葉が嬉しかったのだろう。
「いやーありがとう! 本当にありがとう!」
と言って帽子越しにグシグシ頭を撫でてくる。さすがにこんな喜んでいる人を無理やり引き剥がすのも気が引けて、抵抗はしないことにした。
「……あの、そろそろいいですか?」
「まあまあ、いいだろもう少しくらい!」
……この人、どれだけ嬉しかったんだよ。
それからしばらくして、ようやくヨウタは彼の拘束から解放されたのだった。


せろん ( 2014/06/01(日) 12:50 )