第04話 新たな仲間、ポケモンゲット
ここは29番道路、たった今草むらに足を踏み入れたところ、なのだが……。
「お兄ちゃん! あのポケモン欲しい! あっ、あっちのも!」
草むらを歩くビッパを指差し、次は空飛ぶスバメに指を動かすルミ。
「……はあ。頼むから、せめて捕まえてほしいポケモンを少しくらい絞ってくれ」
会うポケモン会うポケモンをその度に捕まえていてはきりがない。頭を抱えるヨウタに、ルミはしかたないなあ、と手を目の上に当てて周りを見渡し始めた。
「あのポケモンかわいいなあ。けどあっちも……。あ!」
かわいいポケモンがたくさんでとてもじゃないけど決められない。悩みながらも探していると、びびっと彼女の感性ずばりなかわいらしいポケモンを発見した。
青い球体に毛と足と綿のようなモフモフの羽の生えた小鳥だ。
「お兄ちゃん、あのポケモンがいい!」
「ん、確かにお前が好きそうなかわいいポケモンだ」
「本当だ、かわいい!」
「でしょ、アカリちゃん!」
肩を叩いてすぐに指差し、彼もそれを見つけてポケモン図鑑をかざした。
「チルット。わたどりポケモン。
綿雲のような翼を持つポケモン。
エサの少ない冬を越したチルット達は春になると街の近くまでやってくる」
図鑑の電子音声が説明を読み上げる。
エサってなにを食べるんだろう。木の実かな? まあいっか。
「じゃあ早速! 行け、モンスターボール!」
逃げられる前に捕まえないと! 早速ボールを当て、青い光とともにその球の中に収まった。が、なんと一瞬で飛び出して来た!
「ええっ!?」
「な、なんで!?」
「……ぷっ」
戸惑うヨウタ達。その様子を見ていた黒髪で真ん中分け、空色のシャツにベージュのズボンの男性が思わず笑いを漏らした。
「おーい、君達! ポケモンを捕まえる時はまずダメージを与えないと、大抵逃げられちゃうんだぞ!」
「そ、そうなんですか!?」
「あ、お兄ちゃん!」
ルミが慌てる。男性の助言に驚いている間に、チルットが逃げ出そうと羽ばたいていたのだ。
「しかたないな。行くんだグライオン! 軽くはたいてくれ、倒しちゃだめだぞ」
しかし男性が出したポケモンがすぐに回り込み、翼で軽くはたくとチルットは地面に叩きつけられた。
「今だ、モンスターボール!」そこにボールをぶつけると、今度は三回等間隔で揺れ、動きが止まった。
「はい、君」
男性はそれを拾って、ルミに手渡した。
「あ、ありがとうございます! ほらルミ、お前もだ!」
「ありがとうお兄さん!」
「いや、いいよ気にしないで。あんなもの見せられたら放っておけないからね」
彼は思い出して溢れる笑いをこらえようと口元に手を当てるが、クツクツという声が漏れている。
「……い、いや、ごめんごめん、馬鹿にしたわけじゃないんだけどさ。あそこまでの初心者は見たことないから……! ……き、気を悪くしたなら謝る!」
「いえ、気にしないで下さい」
「本当に悪かった!」
この人は謝る気があるのか、と内心少し苛立ちながらも、捕まえてもらったのだから感謝しなくては、と返事をする。しかしそれは、隠しきれず声に表れていたみたいだ。彼は両手を合わせ深々と頭を下げている。
「ほ、本当に大丈夫です! 顔を上げて下さい!」
そこまでされては逆にこちらが申し訳ない。ヨウタの言葉に彼はパッと笑顔を見せ、
「ありがとう! ところで俺はヒロヤって言うんだ。君達は?」
唐突に自己紹介を始めた。
「え、あ、僕はヨウタ、ヒガキタウン出身です」
「同じくヒガキタウン出身のアカリです」
「あたしルミ! この体力を減らさずにボールを投げちゃうバカなお兄ちゃんの妹なんだ、よろしくね!」
「お前だって一緒に驚いてただろ!」
「お兄ちゃんのバカっぷりにね! ね、アカリちゃん!」
こいつ……! 自己紹介ついでに自分をけなすルミにツッコミを入れるが、彼女はしらを切りながら同意を求める。
「ごめんね、私も知らなかった」
「ええ!? 空気読んでよ!」
これでアカリが悪ノリしたらどうしよう、立場が無いぞ。と心配してたけど良かった。さすがアカリ、まともだな。けど……。
「アカリも知らなかったのか……」
ジムリーダーの娘だから、知らないとは思わなかった。
「うん。お父さんのバトルは見たことあったけど、捕まえるところはね……」
「そうなんだ……。あっ」
すっかり忘れてた。
「すみませんヒロヤさん! 存在を忘れてました!」
「君もなかなか失礼だね」
……確かに。今の言い方は少しまずかったかもしれない。
「じゃあありがとうございました!」
「あー、ちょっと待って!」
再び頭を下げて先に進もうとしたら、彼に呼び止められた。
「はい?」
「君達見てて面白いし、正直こっちが不安になるから俺もついてっていいかな?」
「……どうする? 僕は経験のある人が来てくれるのはいいと思うけど」
独断で決めるわけにもいかないので、隣の二人にも意見を求める。
「うん、私もそう思う」
「そうだね。お兄ちゃんよりは頼りになりそうだし」
「……ということで大丈夫ですよ」
二人も同意してくれた。けどルミ、一言余計だ。
「いやあ良かった。じゃあ早速行こうか少年少女!」
「はい」
こうして彼らに新しい仲間が加わった。そして四人で、29番道路を進んで行く。
「待てーっ!」
そしてまだ29番道路。アカリ、ルミ、ヒロヤが見守る中ヨウタは一匹のポケモン、むくどりポケモンのムックルを追いかけていた。
群れをつくることで一匹での弱さをカバーしあっているが群れが大きくなると揉めだす。らしい。
たまたま一匹で居たところを見つけたため捕まえようとしたが、逃げられてしまい追いかけているところだ。
「コリンク、でんげきは!」
自分より足が速いコリンクが彼よりだいぶ先を走りながら電気を放ったが、旋回して技が届く前に消えてしまう。そしてそのまま真っすぐコリンクに向かってくる。
その表情は怒っているようにも見えるが、しつこく追ってくるのに痺れを切らしたのだろうか。
「よし、来た! アイアンテール!」
跳んでしっぽを振り下ろそうとしたが、ムックルの突進をお腹に食らってしまう。
「コリンク、大丈夫かい?」
声をかけると、振り返って元気に頷いた。まだまだ戦えるみたいだ。
「うん、なら次はでんげきはだ!」
気付いたら相手は羽ばたいて風を起こしていたが、コリンクには大したダメージでは無いようなので食らいながらも電気を浴びせる。
効果は抜群、その場に落下した。
「今だ、モンスターボール!」
相手は空を飛べるため早くしないと逃げられてしまう。駆け寄って、飛ばれない内にモンスターボールをぶつけた。
すると赤い光がムックルを包み、一瞬でボールに収まる。
そして三度の揺れの後カチッという音が鳴り、それは止まった。
「やった! ムックルを捕まえたぞ!」
「ヨウタ君、おめでとう!」
「やったねお兄ちゃん!」
「やるじゃないか」
拾い上げ、高く掲げて喜ぶ。
見ていた三人も、それを祝った。