第38話 最後のジムバトル ヨウタVS最強のジムリーダービャクグン
ソウカクシティでミツキと別れ、ヨウタ達もジム戦を終えて街を出た。
42番道路も抜けてユキワシティ。
涼しい気候で、風車小屋が特徴的な街だ。
街を出て左を見ると白い石畳の道が、そこを更にずっと進むと風車小屋へと辿り着く。
が、やはりヨウタ達には関係ない。なぜなら……。
「最初はグーッ! ジャンケンポン!」
そう、この街にもポケモンジムがあるのだ。
彼らはポケモントレーナー。最後、8つ目のジムということいつもより気合いが入っている。
「負けませんよ、ビャクグンさん!」
「ああ、俺も負けるつもりはない」
銀の瞳に、銀の髪。グレーの戦闘服に身を包んだ端正な顔立ちの青年、ビャクグンがこの街のジムリーダーらしい。
銀の瞳がヨウタを鋭く突き刺すが、今の彼はその程度では怯まない。
「ゆけ、ラプラス!」
「行くんだムーランド!」
早速出て来たムーランドは、ラプラスを威嚇する。
ラプラスは少し怯んだが、すぐに持ち直した。
「ムーランド、なみのり!」
地面から大量の水が吹き上げる。
荒れ狂う大波が、ラプラスを飲み込……。
「れいとうビーム!」
むことは無かった。
ラプラスが放った光線が荒波を急激に冷やし、瞬く間に凍てつかせてしまったのだ。
「なんて威力だ……!」
「ハイドロポンプ!」
呆然とするヨウタを後目に、彼は次の指示を出す。
ラプラスの口から放たれた激流が固まった波を貫き、波はそこを中心に瓦解し始めた。
「まずい、早く降りるんだムーランド!」
「もう一度ハイドロポンプ!」
どんどん崩れ、大量に積もった氷の瓦礫。
間一髪、崩壊の前に後方に飛び降りていたムーランドの目の前でそれは弾け飛ぶ。
「あなをほる!」
その破片の一部はムーランドにも飛んできたが、ぶつかる前に地面に隠れた。
「おんがえしだ!」
「させない、れいとうビーム!」
不意打ちをしようとしたが、甘かった。
地面が隆起した瞬間にラプラスは振り向き、れいとうビームで地面を凍らせすぐには出られないようにしてしまった。
少しして氷を砕きながら出て来たが、遅かった。
「ハイドロポンプ!」
既に体を反転させこちらを向いていたラプラスに、顔面への攻撃を浴びせられてしまった。
「くっ、一度戻るんだムーランド!」
「すげえなあの人、攻守ともに隙が無い」
このままでは一方的にやられてしまう。
ヨウタは一度、ムーランドを戻すことにした。
「はい、それがビャクグンさんです」
ヒロヤの賞賛に、アカリが返す。
「知ってるのか、あの人を?」
「もちろん。この地方で最強のジムリーダーです」
彼女は彼、ビャクグンの経歴を語り始める。
その実力の高さはチャンピオンにも匹敵すると言われ、五年前、十六歳の時にこの街のジムリーダーに就任してから、ただの一度も公式試合での敗北は無いらしい。
なんと彼のライバルは以前会ったチャンピオン、クロガネらしく、この地方で彼を負かせられる可能性があるのはクロガネだけとも言われている。
その彼ですらも本気を出し合えば互角というのだから、よほどの実力なのだろう。
「なるほど、そりゃ難易度高いな……」
「うん、ヨウタ君が勝てるといいんだけど……」
「お兄ちゃん、がんばれ!」
「次は君だ、レントラー!」
ヨウタがポケモンを交替して、出したのはレントラー。このポケモンなら弱点を突ける。
「レントラー、かみなり!」
「れいとうビームで壁をつくれ!」
早速放った電気は、ラプラスがれいとうビームで生み出した氷の壁に防がれてしまった。
とはいえかみなりの威力は高く、氷壁は粉々に砕け散った。
「……だいぶ強敵だな、あのラプラス」
「はい、良く鍛えられています。……悔しいけど、お父さんのポケモンよりも」
「……確かに強いけど、弱点は多分分かった! ラプラスはまだ一度もその場から動いていない。きっと、体型的にも速さが無くて小回りが効かないんだ。
素早く攻めれば勝てるはず。レントラー、でんこうせっか!」
「それはどうかな? ラプラス、れいとうビーム!」
足元への光線に、思わず足を止めてしまった。
しかしその攻撃はレントラーを捉えること無く方向が逸れ、ラプラス自身の周りを凍りつかせた。
次に、レントラーの周囲も。
所々には、小さな氷柱が立っている。
「まさか……」
「フィールド全部を凍らせるなんて……」
フィールドは、ラプラスとレントラーの今立っている所を除きスケートリンクのように氷に覆われてしまっていた。
「行け、ラプラス!」
ラプラスは、その上を滑り出す。
「かみなり!」
「方向転換!」
今なら攻撃出来る、と息巻いたが、相手は氷柱を叩いて方向を変えてしまった。
「けど、これならラプラスは直線的な動きしか出来ない! 今だ、かみなり!」
「れいとうビーム!」
氷柱と氷柱の間を狙っても、氷の壁に阻まれてしまう。
「ハイドロポンプ!」
「跳んで避けるんだ!」
相手が勢い良く激流を放って来たが、跳んで回避した。
「だったら、これでどうだ!」
滑りながら攻撃を仕掛けてきたラプラスは、再び氷柱に近づいていっている。
「氷柱にかみなり!」
そこを狙いうつ。氷柱は粉々に砕け散り、ラプラスはそのまま真っ直ぐ滑っていく。
「今だ、かみなり!」
「れいとうビーム!」
先ほど同様に狙ったが、やはり防がれてしまった。
攻撃を凌いでから、ラプラスは再び氷柱を作って方向転換する。
「……しかたない、こうなったら一か八かだ」
「れいとうビーム!」
「かみなりで防いでくれ!」
相手はレントラーの真下、唯一凍っていない足場を狙ったがそうはさせまいとかみなりで防いだ。
「かみなり!」
着地して、再び氷柱を壊す。
「行くんだレントラー!」
「れいとうビーム!」
相手はやはり、かみなりを防ぐ壁を生み出した。
「ワイルドボルト!」
だが、ヨウタはかみなりを指示しない。
レントラーも氷のフィールドに前足を乗せ、後ろ足で勢いをつけて滑りだした。
「……まさか、自らフィールドに足を踏み入れるとはな。もう一つ壁をつくるんだ!」
「かみなりで氷を砕け!」
レントラーは電気を纏いながら、二度のかみなりで二つの氷壁を砕く。
今のレントラーは破片程度では止まらない。
勢い良く、ラプラスの背中に激突した。
レントラーはラプラスを蹴って最初の位置に戻り、ラプラスはうなだれたままフィールドを滑っていった。
「ラプラス、戦闘不能!」
「良くやったラプラス、休息を取ってくれ」
滑っている途中で、ラプラスはボールへと戻された。
「次はお前に任せる、ユキメノコ」
続けて出て来たのはこおり、ゴーストタイプのユキメノコ。
「戻って休んでくれ、レントラー。次は君だ、オノノクス!」
ヨウタも交替するが、なんと出したのはオノノクス。
「よ、ヨウタ君!? ドラゴンタイプのオノノクスはこおりタイプのユキメノコに相性悪いよ!?」
「うん! だけど……速攻で倒せば大丈夫さ! オノノクス、りゅうのまい!」
オノノクスが神秘的で力強い舞を踊り出す。
「ユキメノコ、れいとうビーム!」
「避けるんだ!」
それを阻止しようとしたユキメノコ。しかし間に合わず、舞を終えた直後に跳躍されて避けられる。
「まずは足場づくりだ、がんせきふうじ!」
ラプラスが倒れても、まだ地面が氷に覆われているのは変わらない。
自分とユキメノコの間に、いくつも岩を落としていく。
「避けろ!」
先ほどのりゅうのまいで、攻撃も素早さも上がっている。通常よりも速く落ちてくる岩に、ユキメノコは宙を滑って必死にかわす。
「ドラゴンクロー!」
だが、攻撃はそれだけでは終わらない。
オノノクスは落下した岩を足場代わりに、岩から岩へと伝ってユキメノコに迫る。
「れいとうビーム!」
飛びかかってきた相手を、間一髪横に滑って避ける。
反撃に冷気の光線を放つも、氷の足場をものともせずに着地してすぐに跳躍されて、空振りしてしまう。
「接近しながらがんせきふうじ!」
今度はヨウタが氷を利用する。
オノノクスはその堅く鋭い爪を地面に突き刺して無理やりバランスを取り、勢いをつけて氷上を滑り出した。
ユキメノコとの間にある岩もたやすく飛び越えて、接近すれ。
「続けてドラゴンクロー!」
正面からはオノノクスが迫り、左右や背後は岩が落ちてくる最中で下手に動けない。
「……れいとうビーム!」
もう避けるのは諦めたようだ。
冷気の光線を放ってくる。効果は抜群だが、オノノクスは止まらない。
「行け!」
跳躍して、思いきり爪を叩きつける。
ユキメノコは爪に弾かれて背後に飛び、そこにちょうど岩が落下した。
ユキメノコは岩の下敷きになってしまう。
「ユキメノコ、戦闘不能!」
「よし、かなり良い感じだ! いいぞオノノクス」
ヨウタがガッツポーズして、オノノクスを褒めている間にビャクグンはポケモンを交替する。
「後はお前だけだ。頼んだぞ、ユキノオー」
ついに最後の一匹が現れる。
「な、なに……?」
ユキノオーが姿を表した瞬間、ジム内にも関わらず小さな氷の結晶、氷霰が豪雨のように激しくフィールドに降り始めた。
「な、なんだ!?」
ヨウタが思わず声を挙げた。
「ユキノオーは、場に出た瞬間フィールドに霰を降らす力を持っている。
」
霰の無効、不明瞭な視界の向こうから微かに声が聞こえてくる。
「天候を支配し、どんな日照りも暴雨でさえも自分の領域、霰状態に変えてしまう氷雪の王。
ユキノオーの持つ特性、それがゆきふらしだ。
ユキノオー、ふぶき!」
「オノノクス、避けるんだ!」
前後不覚で、攻撃がどこから来るかも分からない。
かろうじて見えたのは、オノノクスがそれでも避けようと大きく飛び上がるところだった。
「無駄だ。天候が霰の時、ふぶきは不可避の技となる」
少しの間の後、聞こえてきたのはゴトッという重たい音だけだった。
霰の勢いが弱まり、視界も晴れてきた。
ようやくまともに見えるようになったフィールドの中央には、氷の結界に閉じ込められ、戦う力を失ったオノノクスの姿があった。
「オノノクス!?」
「オノノクス、戦闘不能!」
「ついにヨウタ君のポケモンがやられちゃった……」
言っているアカリは、寒そうに体を抱いて肌を擦っている。
「なあアカリ、お互いにくっつけばちょっとは暖かくなるんじゃないか?」
「そうですね。おいでルミちゃん」
「うん!」
アカリに言われ、ルミが彼女の膝に乗る。
「えへへ、ちょっと暖かいかも」
「うん、さっきよりはましかも。ありがとうございます、ヒロヤさん」
アカリが膝の上の彼女を軽く抱きしめ、二人とも安心して顔をほころばす。
「……おう」
こんなはずじゃ無かったんだけどな。俺の予想じゃ、笑顔で断られたはずなのに。羨ましいぞ二人とも。
ヒロヤは、肌寒さに悲しくなりながら肌を必死に擦った。
「……次は君だ、ムーランド!」
続けて出したのはムーランド。
そろそろ氷も溶けはじめてきて、ムーランドの足をわずかに濡らす。
「ふぶき!」
「ムーランド、あなをほるだ!」
強い風に乗って吹きつけられる雪を、ムーランドは地中に潜ることでやり過ごせた。
「……そんな!?」
かに思えたが、甘かった。やはりふぶきは必中。
ムーランドの潜った穴の中へ、ふぶきも入り込んでしまった。
「ヨウタ君、なんとかしないと!?」
「うん、もちろん! ムーランド、急いで出るんだ!」
指示を受け、穴の中から慌てて飛び出すがその背をふぶきが追いかける。
「あ、危ない!?」
「いや、大丈夫さ。ふぶきに向かってほのおのキバだ!」
ムーランドは空中で体を反転させ、真下から迫ってくる雪に頭から落下する。
だがその雪は、大きく開けた口の中で燃える炎の牙によってことごとく溶けて消えてしまった。
「……なるほど。穴から出たのは、逃れる為ではなくふぶきに向かう為か」
「はい!」
そのままムーランドは再び穴に潜って姿を消した。
「ふぶきは必中だ。ムーランド、頼んだよ!」
少し時間が経って、ユキノオーの背後の地面がわずかに持ち上がる。
「ふぶき!」
振り返り、そこを狙って放ったが、地面はそれ以上盛り上がらない。
ふぶきは最後にムーランドが潜った穴、ユキノオーから見て数m辺りの穴に向かってしまった。
「今だ、ほのおのキバ!」
ふぶきは必中の技、フィールドのどこに居ても追いかけてくる。
しかし、それが仇となった。ふぶきは隆起した地面を凍らせること無く相手を追いかけてしまう。
穴から入り、ムーランド本体に届くまでの間に時間がある。
その隙を狙ってユキノオーの背後から飛び出して、背中に思いきり噛みついた。
「やった!」
「必中という特性を逆に利用してきたか」
ユキノオーが背中を焼き焦がす牙に耐えかねて暴れ出している最中、ビャクグンは冷静に自身の推測を漏らす。
そしてすぐに、穴から強烈な雪風が吹きつけてきた。
「ま、まずいムーランド! 耐えてくれ!」
ブリザードは徐々にムーランドの体を凍結させていく。
やがて、完全に固まったムーランドが背中から剥がれ落ちた。
「ムーランド、戦闘不能!」
「……ありがとう、ムーランド」
礼を言いながらボールに戻す。
……相手はくさタイプとこおりタイプの複合。耐えられたとは言っても、ダメージは大きいはずだ。
その証拠に、ユキノオーは呼吸を荒げて肩で息をしている。
「最後だ。……任せたよ、レントラー!」
レントラーは、ヨウタの声に応えるように吠えた。
おそらく、次のチャンスで勝負は決せられる。ならばでんこうせっかで、とは行かない。
僕はそうして勝負を焦って、アカリとミツキ、二人に敗北してしまったのだから。
幸い地面を覆う氷は激しいバトルの影響もありだいぶ溶けている、足場の不自由はなさそうだ。
霰はまだ降り続いているが、ふぶきの必中以外はたいした問題ではない。
「レントラー、かみなり!」
「受け止めろ!」
いくら相手が疲弊しているとはいえ、相性は今一つ。
突き出した両腕にたやすく防がれてしまう。
「ふぶき!」
「かみなり!」
霰の効果でふぶきは避けれない。かみなりで迎え撃ち、相殺する。
「……やっぱり、近距離戦に持ち込まないと厳しいか。レントラー、でんこうせっかで回り込め!」
「させない、エナジーボール!」
「避けろ!」
自然のエネルギーを集めた緑色に光る球が、標的から発射される。
何発も放たれるそれを避けながら背後を取ろうとすると、自然と大回りになっていた。
しかし距離が開いているとはいえ、背後は取れた。
「今だレントラー、ワイルドボルト!」
その時、ビャクグンの口角が僅かに持ち上がった。
レントラーは強力な電気を纏い、バリバリと激しい音とともに駆け出す。
「ふぶき!」
どんどん距離を詰めるレントラーに吹きつけられるブリザード。
その勢いに、徐々に勢いが落ちて行く。
「背後から来ることは分かっていた。ユキノオー、最大火力だ!」
振り返り、技に力を込めるとブリザードは更に強くなっていく。
必死に足を進めていたレントラーだが、その勢いに押され進めなくなっていた。
そして少しずつ体が氷に覆われていき、頭、脚、胴、最後に尻尾と全身が凍りついた。
それでも吹雪は止むこと無く、ついに巨大な氷の琥珀へと変貌を遂げてしまった。
「……そんな、レントラー!」
「悪いが、これで終わりだ。ユキノオー、きあいだま!」
相手は右手に渾身の力を込め、エネルギーがそこへと集まっていく。
「レントラー! ワイルドボルトをしてくれ! レントラー!」
一向に返事が無いまま、ついにきあいだまはエネルギー充填を終わらせてしまう。
「僕は勝ちたいんだ、君達と一緒に! 一緒に勝って、一緒に勝利の証を手に入れたいんだ!」
「やれ!」
「だから、もう少しだけでいい! 後もう少しだけ、頑張ってくれ !お願いだ! レントラー!!」
ヨウタが強く叫んだ瞬間、氷から光が射し始めた。
少しずつその光は強くなり、ミシミシという音とともにレントラーを覆う氷にヒビが入り始める。
「レントラー……! いいぞ!」
そしてきあいだまがぶつかる直前に氷が砕け散り、中から先ほどよりも激しい電気と勢いでレントラーが飛び出した。
きあいだまも、ワイルドボルトの威力には及ばず弾けて消える。
「なっ……! ユキノオー、ふぶきだ!」
至近距離で、再び二つの技がぶつかり合う。
「レントラー、頑張ってくれ! こっちも最大火力だ!」
激しい吹雪と、激しい突進。
押しも押されぬせめぎ合いは、やがて終わりを告げる。
レントラーが、激しく吹きつける吹雪に負けず一歩、また一歩と足を踏み出したのだ。
「行け! これで決めるんだ!」
そして、勢い良く地を蹴り飛び出した。
激しい電気を纏った突進が、ユキノオーに直撃する。
ユキノオーはその勢いを抑えきれず、体が後ろに傾いてしまった。
そのまま止まることなく倒れ込み、あお向けになって動かなくなった。
「ユキノオー、戦闘不能!」
「……やった。やったぞ、レントラー! やった!」
レントラーが倒れ、戦闘不能になった瞬間に霰も止んだ。
まだ少し水に濡れた地面を構わず駆け出し、ヨウタはレントラーに抱きついた。
「……良く頑張ったな、ユキノオー。ゆっくり休んでくれ」
今まで頑張ってバトルをしていたユキノオーを戻して、ビャクグンは穏やかな笑みを浮かべながらボールに語りかけた。
「ヨウタ」
「……はい」
ジムリーダー、ビャクグンが近付いてきて、ヨウタは少し緊張しながら立ち上がった。
「お前とポケモンとの信頼関係、そしてバトルは見事だった。受け取ってくれ」
彼は腰のポシェットから何かを取り出し、それを差し出した。
まるで冠のような形の、白いバッジだ。中央には青く輝く丸い宝石がはめられている。
「俺に勝った証、クラウンバッジだ」
「ありがとうございます」
彼はそれを受け取って、カバンの中からバッジケースを取り出し開く。
七つバッジが並べられ、一番右下のみが空いている。
そこに最後の一つ、クラウンバッジを収め、カバンに戻した。
「やった……! これでポケモンリーグに参加出来る!」
「良かったな。俺に勝ったんだ、ポケモンリーグ、負けるなよ」
「はい、もちろんです!」
ヨウタはビャクグンから差し出された大きな手をがっしりと掴む。
そしてしっかりと固い握手を交わしてから、彼に背を向けた。
「よし、行こうレントラー!」
ずっと隣に立っていたレントラーをボールに戻して、ヨウタは歩き出した。
「……負けたのは久しぶりだな。……ヒガキタウンのヨウタ、か。クロガネ、お前もうかうかしていられないぞ」
バトルフィールドを後にする彼の背を眺め、ビャクグンは静かに微笑んだ。