ポケットモンスタータイド - ポケットモンスタータイド
第37話 ヨウタの夢とライバル心
今日のバトル、すごく悔しかった。
途中で巻き返したと思っても、最後はミツキに上を行かれて。
ミツキはすごいや。前よりも、すごく強くなってた。
けど、……。
「……だからこそ。ライバルが強くなっていればいるほど、頑張ろうって思える」
ミツキとのバトルが終わって、皆が寝静まった夜中。
ヨウタは久しぶりに、ベランダに出て夜空を眺めていた。
夜空には少し雲がかかっていて、煌々と照り輝く月は、今宵は黄色く真ん丸な姿で自己の存在を主張している。
「……綺麗だなあ。けど、なんだかこの月を眺めてると……」
なぜだか思い出すのは、今日の対戦相手。
ミツキ。僕の幼なじみで、ライバルで、僕の目標の一人。
「眺めてると、どうしたんだ? オレはレモンを思い出すな」
「はは、レモンはこんなに丸くないだろ」
「まあ今は満月だろうからな」
いつもはこんな感じで軽いノリのやつだけど、バトルに対してはいつでも真剣で……。
「……って、ミツキ!?」
「よっ」
「えっ、うん、やあ……」
彼が軽く手を上げて挨拶してきた為、驚きながらも返事をする。
「あんま大きな声出したら、みんな起きちゃうぞ」
「そうだよお兄ちゃん」
「え、ご、ごめ……」
なんだかデジャヴを感じながらも、とりあえずあやま……。
「……って、ルむごっ……!」
「だから静かにしようぜ」
どうしてルミが!? 思わず叫んでしまいそうになったところを、ミツキに口を押さえられてしまった。
「……気持ちはよく分かるぜ、ヨウタ」
「だよね、やっぱりちゃんと早く寝ないとダメだぞ、ルミ」
「そこじゃねえよ」
「え?」
僕が自分のことを棚に上げて妹に説教をかますと、ミツキから何故か怒られてしまった。
ついでにルミからも、ひとのこといえないでしょ、と痛いところを突かれる。
「ライバルが居れば頑張れるって話だよ」
「ああ。……き、聞いてたの?」
いつから聞いていたのだろうか。
まさか……。
「ああ、最初からな」
僕が恥ずかしさに顔を押さえたくなっているのに、ミツキは残酷な真実を告げてくる。
「もうお嫁にいけない……!」
「だいじょうぶ! すぐ近くにもらってくれる人がいるから!」
「いや、行かないよ! 僕は男なんだから!」
「けどもらってくれる人はいるよ?」
「だ、誰のことだよ……!」
「おーい、話が逸れてるぜー」
「……あ、そういえば」
危なかった、ルミのせいで話が大きく逸れてしまっていた。
……発端は僕だけど、ミンナニハナイショダヨ。
「オレも、お前に負けたくないから頑張れたんだ。お前のおかげで、ここまで強くなれたんだぜ。
もちろん、だからと言って次手を抜いたりはしないけどな」
ミツキは穏やかに笑っている。……けど、違う。
「ううん、お礼を言わないといけないのは僕の方だよ」
「え?」
「僕こそ、お礼を言わないと。
二人のおかげなんだ。ミツキとアカリ、二人が居たから、僕は夢を見つけることが出来たんだ
だから……。ありがとう、ミツキ」
心からの言葉だ。一筋の嘘偽りも無い。
僕は、負けたくない。誰にも……。特に、ミツキとアカリには。
その気持ちが、負けたくないって思うライバル心があるから、ポケモントレーナーとしての自分の夢を決められた。
はっきりとした夢を持たない自分に、ポケモンバトルを通じて夢っていう熱く輝く太陽を与えてくれた。
特にミツキは、自分に一番の影響を与えた人物だ。
ミツキとのバトルが、ポケモンバトルの楽しさと、負けたくないという対抗心を教えてくれたのだ。
その気持ちを伝えると、彼は頬をかいて、照れくさそうな笑みを浮かべた。
「……ミツキ?」
「いや、いきなりそんな言われても恥ずかしくて……」
「……ところでお兄ちゃん。お兄ちゃんの夢ってなに?」
なんだか気恥ずかしい空気になりかけたところを、ルミが助けてくれた。
「……うん。僕の夢は、ポケモンマスターさ」
その瞬間、ミツキの目の色が変わったのが分かった。
先ほどまでのカイリュー(僕のイメージの)みたいに穏やかな瞳が、今は戦いを目の前に控えたポケモントレーナーのように燃える闘志に満ち溢れている。
「……だったら」
「……うん」
「お前には、余計負けるわけにはいかなくなったな」
「……僕も、余計君には負けられなくなったよ。同じ、ポケモンマスターを目指す一人のポケモントレーナーとしてね」
僕とミツキの視線がぶつかり合う。先ほどと違い、気恥ずかしさなど微塵も無い。
あるのは、対抗心。絶対に負けられないという闘志が、二人の間で火花を散らしている。
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「りっぱな夢がみつかって、よかったね」
だがそれも、妹によって中断される。
ルミは満面に笑みを浮かべて、まるで自分のことのように喜んでくれている。
「だな。今日のバトル前みたいな難しい顔をしてないし、良かったよヨウタ」
「……二人とも、ありがとう」
……やっぱり、幼なじみか。僕がミツキが無理しているのに気付いているみたいに、ミツキは僕が悩んでいるのに気付いていたみたいだ。
これで、余計ミツキの助けになりたくなった。
「ふわあ……。う〜ん……」
ルミが大きなあくびをして、眠そうに目をこする。
「はは、眠そうだねルミ。じゃあ、そろそろ寝ようか」
「うん……」
と言って、先にルミを部屋の中に戻す。
「じゃ、オレ達もそろそろ寝るか」
「うん。……ミツキ」
「ん?」
「あまり、無理はしないでよ」
「……ああ、分かってる。サンキューヨウタ」
それから言葉を交わすこと無く、僕達は布団に潜った。
僕の夢、ポケモンマスター。もちろん今でも、伝説や幻と呼ばれるポケモンに会いたい。
けどそれ以上に、今は最強のポケモントレーナー、ポケモンマスターになりたいという気持ちが強い。
……とにかく、今日はミツキにお礼が言えて良かったよ。
……眠くなってきた。
それから僕は、何も考えず寝るのに専念することにした。


せろん ( 2014/05/24(土) 17:39 )