第36話 3対3 ヨウタVSミツキ
「……で、オレ達は無事逃げられたってわけだ」
「なるほど、さすがモクラン博士」
「とオレな」
ポケモンセンター。ポケモン達の回復が終わるまで、僕達はイチマツシティでミツキと博士と別れた後の話を聞いていた。
本物のGSボールそっくりのフェイクをあらかじめ用意していたらしく、最終的にエミット団に囲まれてしかたなくそのフェイクを渡して難を逃れたらしい。
ちなみに先ほどGSボールを返そうとしたが、まだ安心は出来ない、もう少し持っていてほしいとのことだ。
ならすぐにGSボールを使えば、と思ったのだが、ヤガスリの森に二人が入らないようエミット団が警備しているのだという。
「けど良かったよ、二人が無事で」
彼が、ミツキがやられるはずが無い。GSボールを持っていないのだから無事なはずだ。
そう自分に信じ込ませてらいても、やはり不安は拭いきれなかった。
今日、彼に会えて本当に良かった。
「へへ、当たり前だろ! オレは強いからな!」
口調こそ軽いものの、彼も気付いていないだろうが彼の目は笑っていない。
自分達と別れた後、余程の苦労があったことが窺える。
「強さは関係無いだろ、今の話だと」
僕はミツキの苦労に気付いたが、敢えてそこには突っ込まず話を続ける。
いつもそうだ。ミツキは僕達に心配をかけさせまいと、こういう時にはわざと軽い口調になって平然と嘘を吐く。
いくら追及しても、きっと最後まで白状しないだろう。
ミツキは強いんだ、昔から。
……本当は僕も、力になりたい。
けど、ミツキはそれをよしとしない。
だから僕は、今はミツキの気持ちを汲むことにする。
だけどいつかは、絶対に無理やりミツキの助けになってやる。
その機会が訪れるまで、僕は息を潜め続けることにする。
「うっせ!」
そんな僕の気持ちを知るはずもないミツキは、相変わらずつくった笑顔を貼り付けていた。
「ミツキ様、ポケモン達の回復が終わりましたよ!」
「あ、はい!」
そんなミツキは、自分の名前が呼ばれて行ってしまった。
「……変わらないな、ミツキは」
僕達に心配をかけまいとする優しさ、それだけではない。
「そうだね」
アカリが相づちを打つ。
……ミツキは変わらない。ミツキだけじゃない、アカリも。
今日のミツキのジム戦、ポケモンマスターを目指すに相応しいバトルだった。
一匹もやられずに、ジムリーダーに勝利。並大抵の実力で出来るものではない。
二人とも、夢に向かって歩き続けている。昔から変わらず、進み続けている。
この旅で、着実に自分の夢へと近づいている。
僕は、どうなんだろう。ポケモンバトルに関わっていきたい。
けど具体的に、どうなりたいんだろう。
ポケモンマスター? ジムリーダー? それとも、別のなにか……?
……僕は、負けたくない。ミツキにも、アカリにも。
アカリに負けた時も、すごく悔しかった。
なら、僕が目指すのは……。
「おいヨウタ、聞いてんのか?」
「え、うえっ!?」
僕は慌てて体を逸らす。ずっと考えていて気付かなかったが、目の前にミツキの顔があった。
どうやら、もう何度か呼びかけていたらしい。
「……ったく、変わんねえなお前は」
そう言って腰に手を当てるミツキの顔は、なぜだかどこか心配そうだった。
「それより、話聞いてたか?」
「え?」
だがその顔は、すぐにどこかへ消えてしまった。
今度は、先ほどと違い心からの笑みを浮かべている。
「バトルだよ、オレと。さ、やろうぜ!」
なるほど、そういうことか。
「……うん、受けて立つよ! ミツキ、絶対負けないよ!」
きっと僕も、今笑顔になっているだろう。
それほどまでに、僕もミツキも、アカリも、ポケモンバトルに魅入られていた。
「行くぜヨウタ!」
「来い、ミツキ!」
41番道路。ヨウタとミツキは、モンスターボールを構えて向かい合っている。
「まずは君だ、オノノクス!」
「ゆけっ、リングマ!」
ヨウタが出したのは、顎に巨大な斧を装備した、黄土色の強靭な鎧の持ち主オノノクス。
対してミツキが出したのはお腹に輪っかの描かれた、茶色い体毛の熊、リングマ。
出てきたのは、どちらもパワータイプのポケモンだ。
「う〜ん……」
「どうしたの、ルミちゃん?」
アカリが、難しそうな顔をしてうなっている彼女に声をかけた。
「決めた! どっちもがんばって!」
しかし彼女は返事をせずに、二人の応援を始めてしまった。
「……私も応援しよ。ヨウタ君、ミツキ君、頑張って!」
「ありがとう!」
「サンキュー!」
二人は返事をしてから、再び向き直る。
「オノノクス、いわなだれ!」
「リングマ、ストーンエッジ!」
岩と岩がぶつかり合う。しかしリングマの放った鋭い岩は、オノノクスの飛ばした大きな岩を貫通してオノノクスに迫る。
「しっぽで薙ぎ払え!」
しかし、その鋭い岩のことごとくをしっぽで叩き落とす。
「接近しろ!」
「パワーなら負けねえぜ! 迎え撃て!」
「ドラゴンクロー!」
「きりさく!」
次は爪撃がぶつかり合う。
一見拮抗しているように見えるが、徐々にオノノクスが優勢になっていく。
リングマは押し切られないよう堪えるので必死だ。
「よし、いいぞオノノクス!」
「……今だ、退け!」
「えっ……!?」
小さくガッツポーズしながら見守っていたヨウタ。
しかしミツキの一言で、大きな動揺を見せた。
リングマはそれまで相手の力に屈しまいと必死に堪えていたが、指示を受けて一瞬で背後に跳び下がった。
同じく全力を奮っていたオノノクスは、バランスを崩して前のめりになってしまう。
「今だ、れいとうパンチ!」
今からでは防御、回避ともに間に合わない。どうすれば……。必死で頭を働かせて、しかし答えの出ないうちにオノノクスの顔面に冷気を纏った拳が直撃した。
「くっ……!」
一泡吹かされたが、ここで怯んではいけない。
大切なのはここからどう巻き返すか、だ。
「下がってストーンエッジ!」
「しっぽを思いきり振り下ろして、反動で体勢を戻すんだ!」
とりあえず体勢を戻すことからだ。
勢いよくしっぽが振り下ろされ、その反動で前のめりになっていた体勢が元に戻る。
これで色々な行動が可能になった。
「ドラゴンクローで弾け!」
その強力な爪撃で、飛んでくる尖った岩の矢を次々に落としていく。
しかしこれはまだ反撃の第一歩に過ぎない。
「跳ぶんだ!」
その巨体をものともせず、オノノクスはリングマの頭上まで飛び上がる。
「思いきりしっぽを振り下ろせ!」
「さすがにあのしっぽを食らうのはまずいな……。下がって避けろ!」
空中で一回転して、その勢いのまましっぽを振り下ろす。
だが、ミツキの指示で少し危なかったもののかすりもせずに回避されてしまった。
「やっぱり避けたね、ミツキ」
「なにっ……!?」
ヨウタは、それでも平静を崩さない。
むしろ不敵な笑みを浮かべているほどだ。
「まあ、避けても避けなくても良かったんだけど。
オノノクス、そのまま地面を叩くんだ! じしん!」
先ほど振り下ろされたしっぽが、思いきり地面を叩きつける。
その衝撃の波が周囲に広がり、もちろん先ほど下がっただけでまだ近距離にいるリングマにも届いた。
避けられなければそのまま攻撃、避けられたらじしんで攻撃。
どちらに転んでも、ヨウタが優勢になるのは変わらない。
それが彼の作戦だったのだ。
「続けてドラゴンクロー!」
相手が怯んでいる隙に、さらに攻撃を浴びせる。
「食らえ、いわなだれ!」
最後に岩を降らせると、リングマは岩に埋もれて姿が見えなくなってしまった。
少しの間待ってみても、岩の小山はピクリとも動かない。
「リングマ、戦闘不能!」
おそらくもう動く元気も無いのだろう。
そう判断したアカリは、審判を下した。
「サンキュー、ゆっくり休めよリングマ」
ボールに戻して、その中のリングマの様子を見ると申し訳なさそうな顔をしていた。
やはりもう戦うだけの元気は残っていないらしい。
「次は、そうだな……。お前だデンチュラ!」
次に出てきたのは青い複眼、太い四本の足、黄色い電気蜘蛛のデンチュラだ。
「デンチュラ……。多分バチュルの進化系だ。だったら、いわなだれ!」
「エレキネットで身を守れ!」
指示を受けたデンチュラは、辺りに電気を帯びた糸を大量に吐き出しドームを作り出してしまう。
降り注ぐ岩はその全てが糸に絡め取られてしまって、デンチュラまで届かない。
「……けど、そう長くは持たないよ! もう一度いわなだれ!」
ドームは、岩の衝撃でところどころ陥没してしまっている。
おそらく次は耐えられないだろう。
「そこから出てもう一度エレキネット!」
確かに彼の言うとおりだ。ミツキは指示を出し、デンチュラはその通りに動く。
そして再び、岩が絡め取られてしまった。
「だったらもう一度いわなだれ!」
「ならお前ももう一度エレキネット!」
それを何度か繰り返していると、オノノクスの周りにはいくつものドームが形成されていた。
「あっ……!?」
ヨウタは気付いた。効果抜群のいわなだれ、それを連発させることがミツキの狙いなのだと。
直接殴りに行けばドームをつくる暇は無い。
だがいわなだれならば、自分に届くまで時間差があり自然にフィールドをつくりあげられる。
そう、今エレキネットのドームに囲まれたオノノクスは、身動きが取れなくなっていたのだ。
「い、いわなだれ!」
下手に動けば電気の網に絡め取られてしまう。
当たるか当たらないか、……恐らく当たらない、遠距離攻撃に出るしかなかった。
「避けて回りこめ!」
降り注ぐ岩を、デンチュラはドームからドームに飛び移って避けながら移動していく。
「後ろだ!」
オノノクスは振り向こうとしたが、動きは途中で止まってしまった。
自分を囲む網、その一つにしっぽが絡まってしまったのだ。
網からは電気が流れてくる。
ダメージと身動きの取れない不快感で冷静さを失ったオノノクス。
無理やり振りほどこうともがけばもがくほどに、身動きが取れなくなってしまう。
「やめるんだ、落ち着いてくれオノノクス!」
「今だ、めざめるパワー!」
そうして自分で自分の首を絞めているところに、背後から半透明な水色の光の球が直撃する。
オノノクスは、崩れ落ちてしまった。
「オノノクス、戦闘不能!」
今の威力、明らかに大きすぎる。
単に等倍のダメージを取られたわけではない。
色から判断すると、恐らくタイプはこおり。
……だが、今はそんなことが重要ではない。
「ありがとうオノノクス、ゆっくり休んでくれ」
オノノクスをボールに巡らせ、思考を巡らす。
あのエレキネットのドーム、厄介なことにまだ残っている。
ひこうタイプを持つムクホークならば飛んでいて捕まることはないが、遠距離攻撃を持たない為攻撃手段は無いに等しい。
ブースターでも一度に焼き払うことは不可能、でんきタイプのレントラーといえども網の粘性の前では行動が制限されてしまう。
なにか、なにか無いのか……?
例えばあのドーム全てを一掃する、そんな技は……。
「……そうだ、一掃だ」
……あった。この方法なら、あのドーム全てを洗い流せるはずだ。
「……頼んだよ。ムーランド!」
先ほどのオノノクスを取り囲むドーム、その手前にムーランドを繰り出す。
「へっ、何を出そうがこのオレとデンチュラのフィールドは変わらないぜ!」
「……確かに。今、ヨウタはすごく不利な状況だ」
ヒロヤさんの言うとおりだ。
このままでは、圧倒的に不利なフィールドで戦うことを強いられてしまう。
「だから……、全て水に流す! ムーランド、あなをほる!」
ムーランドは素早く穴を掘り、地中に潜って行った。
「そっか、じめんの中ならでんきのアミにつかまらないねお兄ちゃん!」
「けど、デンチュラが岩の上にいるから行動出来ないよヨウタ君!」
ムーランドの行動を見て、デンチュラはドームの上、絡め取られた岩の上に登ってしまった。
これでは岩に阻まれ攻撃が届かない。そう、このままなら。
「大丈夫さ、洗い流すんだから。ムーランド!」
ムーランドは、まだ地面に潜っている。
「なみのり!」
そして、地面の中から技を発動した。
「なっ、まさか……!?」
すると、地面のところどころから水が吹き上げてきた。
ミツキが声を挙げた次の瞬間、フィールド全体から水が噴き出していた。
オノノクスが暴れたことにより地面にへばりついてしまっていた糸も、岩を纏ったドームも、無傷のドームも。
その上のデンチュラも、全てが水の柱に流されてしまった。
「……おったまげたな! まさか本当に洗い流されるなんて!」
ミツキはそう言いつつも、笑っている。
「言っただろ、全て水に流すって!」
ヨウタも笑顔で返して、ムーランドが穴から出てくる。
デンチュラも水に噴き上げられていたが、軽やかに着地した。
「これで降り出しに戻った、行くぞミツキ! ムーランド、おんがえし!」
「へっ、おもしれえ! 来い、ヨウタ! デンチュラ、かみなり!」
デンチュラが何度も強力な電気を放ってくるが、ムーランドは避けながら接近する。
しかし目の前まできてついに直撃してしまう。
だが、ムーランドはそれでも前進して、思いきり突撃する。
「かみなり!」
「続けてあなをほる!」
後退しながら電気を放つが、目標は穴の中に隠れてしまった。
「まずいな、跳べ!」
「行くんだ!」
デンチュラが脚に力を込めた瞬間、足元に亀裂が走った。
慌てて跳ぼうとするが地面が隆起してバランスを崩してしまい、真下からの突撃をもろに食らってしまう。
打ち上げられたデンチュラは、そのまま落下して仰向けに倒れた。
「デンチュラ、戦闘不能!」
脚がピクリとも動かない。もはや戦う元気は残っていないのだろう。
「サンキュー。じゃ、ゆっくり休めよデンチュラ」
彼はデンチュラを労って、ボールに戻した。
「うん、かなりいい感じだ! この調子で頑張ろう、ムーランド!」
「ハーデリア、強くなったね……!」
ムーランドの活躍に、元トレーナーのアカリもしみじみと感動している。
「……へ、悪いなヨウタ。その調子では行かせないぜ! こいつは強いぜ! GO! ブーバーン!」
最後に彼が出したのは、やはり彼の相棒ブーバーン。
やる気たっぷりらしく、口から炎の吐息を零して笑っている。
「ん……?」
ブーバーンが出て来た瞬間、ヨウタの腰のモンスターボールが揺れた。
「……そうか、君も戦いたいよね」
どうやら激しく主張していたのはレントラーのようだ。
同じ研究所で生まれ育ち、これまで何度も火花を散らしてきたのだ。
気持ちは分かるが……。
「ごめんレントラー、まだ待っていてくれ」
出来れば、ここで引くのは避けたい。
先ほどの勝利、その勢いのまま進みたいのだ。
「ムーランドならブーバーンの弱点を突ける。行くよミツキ! ムーランド、なみのり!」
ムーランドが吠え、地面からは豪快な大波が飛沫を上げる。
「ま、ブーバーンの弱点だからそうなるよな。だが……! 甘いぜヨウタ! ブーバーン、きあいだまだ!」
文字通りビッグウェーブに乗ったムーランドがブーバーンに迫る。
だが、彼は顔色一つ変えず冷静に指示を出した。
ブーバーンが渾身の力で放ったエネルギー弾は荒波に向かって突き進む。
「一体何を……!?」
波の中に、エネルギー弾が突っ込んだ。
「なっ!?」
直後大波は、その弾とともに弾けて消えていた。
「そんな……!」
ムーランドは、あまりの衝撃に放心しながら落下する。
「言ったろヨウタ、甘いってよ! 今だ、きあいだま!」
着地さえすれば、まだたてなおせただろう。
しかし彼はそれを許さない。
落下の最中のムーランドに、エネルギー弾が直撃した。
「……む、ムーランド戦闘不能!」
アカリが、唖然としながらもジャッジする。
「な……!」
なんて威力だ……! 思わずヨウタは、ポケモンを戻すのも忘れて放心状態になっていた。まさかああもたやすく突破されるなんて……!
「ヨウタ君、ムーランド!」
「……あ、ごめん! ありがとうムーランド、戻って休んでくれ」
彼女の叱責で我に帰る。
気付けばレントラーのモンスターボールもカタカタと揺れていた。
「うん、頼んだよレントラー!」
ついに互いに最後の一匹。
出て来たレントラーは早速構え、パリパリと電気をスパークさせている。
「確かにさっきは驚いた。けど、勝負はまだまだこれからさ!」
いくら相手が強敵だとしても、負けられない。
それがライバルなのだから尚更だ。
彼は気を引き締めて、改めてバトルに臨む。
「レントラー、かみなり!」
早速電気を放つ。
「かえんほうしゃ!」
相手も炎で迎え撃つ。だが威力の差は大きく容易くかみなりに押されてしまう。
「やべ、避けろ!」
ブーバーンが横に跳んだ直後、先ほどまでいた地面を電気が穿った。
「さすがのとうそうしん、威力もでけぇな。がんせきふうじだ!」
「でんこうせっか!」
今度は岩を飛ばしてくるが、レントラーは目にも留まらぬ速さで落ちてくる岩の真下を駆け抜ける。
「火球に切り替えろ!」
このままでは当たらないと踏んだのだろうか、指示を切り替えられた。
ブーバーンが仄かに体を白くさせながら今度は腕の先から火の球を飛ばしてくるが、レントラーは横や縦に跳んで避けながら突き進む。
「きあいだまを食らえ!」
腕を構え、今度はエネルギーの球を飛ばそうとした瞬間突進が決まった。
きあいだまは上空あらぬ方向へと飛んでいってしまう。
「……下がれブーバーン!」
ミツキはそれをちらと目で追ってから、後退させた。
「逃がさないよ、ワイルドボルト!」
「受け止めろ!」
レントラーがすぐに距離を詰めて、再び突進を食らわせる。
今度は電気のおまけ付きだ。
ブーバーンは両腕を交差させて防御の姿勢を取るが、受け止めきれずどんどん下がっていく。
ブーバーンがついにゆっくりのけぞり始めた、その時だった。
「お兄ちゃん、上!」
「え?」
レントラーの背中に、きあいだまが直撃した。
「まさか……!」
まさか先ほど打ち損ない、あらぬ方向に飛んでいったきあいだまが落下して、命中したのだろうか……!
なんて偶然だ、とミツキの顔を見ると、彼は笑っていた。
「偶然じゃない……!?」
まさか、いや、それしか考えられない。
自分とレントラーは、きあいだまの落下地点へ誘導されていたのだ。
「じゃあな。今だブーバーン、オーバーヒート!」
背中への衝撃で、レントラーは一瞬動きが止まった。
その瞬間、極太の炎の直線がレントラーを飲み込んだ。
炎が徐々に細くなり、消え失せる。
後に残ったのは、うつ伏せに倒れるレントラーの姿だった。
「レントラー!」
前回同様。気付けば、叫び出していた。
何度も何度も呼びかける。しかし、少しも動く気配を見せない。
「……レントラー、戦闘不能!」
無情にも審判が下された。
もう終わった、自分達は負けたのだ。
「……」
レントラーに歩み寄る。
「……ありがとう、ごめんレントラー。ゆっくり休んでくれ」
レントラーは申し訳なさそうに見上げて来た。
優しく頭を撫で、声をかけてモンスターボールに戻す。
……自分のせいだ、レントラーは悪くない。
自分がもっと用心していれば、勝てたかもしれないバトルだった。
「ヨウタ」
「……ミツキ」
気付けば、幼なじみの彼が目の前に立っていた。
……やはり彼は強い。今回、まんまと彼のトラップにはまってしまった。
とても楽しかったが、とても悔しかった。
「……ミツキ。すごく楽しかったよ、ありがとう。
けど、すごく悔しい! だから、次は絶対に勝つ!」
「ああ! 次に戦う時はポケモンリーグだ、オレも絶対負けねえぜ!」
けど、僕は負けられない。ポケモン達の為にも、もっと強くならなければ。
彼とのバトル、二度目の敗北。
すごく悔しい。すごく楽しかった、すごく熱くなった分、悔しさも相当だった。
今のバトルではっきりと分かった、僕のやりたいことが。
やっぱりバトルは楽しい。勝っても負けても、すごく心が熱くなる。
けど、やっぱり僕は負けたくない。ミツキにもアカリにも、どんな相手にも。
レントラーや他のポケモン達を、勝たせてあげたい。
だから、僕はミツキもアカリも越える。
ミツキやアカリ以上のポケモントレーナー。
僕は、絶対なってみせる。最強のポケモントレーナー、ポケモンマスターに。
レントラーのモンスターボールを見つめて、ヨウタは自分自身にそう誓った。