第35話 ジムバトル ミツキの実力
ヨウタ達は今、41番道路を抜けてソウカクシティに居た。
この街の鉱山から取れる豊富な資源のおかげで発達した……、らしいが、ヨウタ達には関係がない。
なぜなら……。
「行くぞ〜!」
ポケモンセンター。割り当てられた部屋で、三人の少年少女達が拳を振りかざした。
「ジャンケンポン!」
そして同時にそれを突き出した。
茶髪の少年は握り拳をつくり、黒髪の少女は手を広げ、真ん中分けの髪の青年は指を二本立てている。
「あいこでしょっ!」
先ほどはヨウタがグー、アカリがパー、ヒロヤがチョキ。
勝敗が決せず、ジャンケンは続行される。
そう、彼らはポケモントレーナー。この街に来た目的はポケモンジムで、このジャンケンもジムに挑戦する順番を決めるものなのだ。
「ええっ、もう予定が入っているんですか!?」
ソウカクジム。入口でヨウタが叫んだ。
「ミツキって男の子が今から挑戦するところなんだ」
作業着姿の青年が答える。彼はジムリーダーの弟子だろうか。
……だが、今気になる名前があった。
「……ミツキ!? すみません、バトルを見ていってもいいですか!?」
「ま、まあ本人の許可が」
「ありがとうございます!」
「行こうヨウタ君!」
「早く早く!」
青年の言葉も聞き終わらないうちに、三人は観客席へ駆けて行ってしまった。
「……ありがとうございます」
ヒロヤは哀愁漂う彼の肩を軽く叩いてから、三人を追いかけた。
「おし、ヨウタ、アカリ、ルミちゃん! 見せてやるよ、オレのパーフェクトを!」
作業着でやや年配、目元にしわのあるジムリーダーカンゾウと、青い上着のライバルミツキ。
カンゾウの前にはみず・じめんタイプ、巨体で頭や拳などにコブのついたカエル、ガマゲロゲ。
一方ミツキの前には、牙を生やした青い巨大なポケモン、トドゼルガが鎮座している。
「ねえお兄ちゃん! ミツキさんはみずタイプだから、有利なんだよね!?」
隣に座る妹が、興奮気味に聞いてくる。
「いや。ガマゲロゲはみず・じめんタイプ。みず技でもこおり技でも弱点を突けないんだ」
「そっか……。けどミツキさんなら大丈夫だよね!?」
「うん、ミツキは強いからね」
「だよね!? さすがミツキさん、かっこいい! がんばって!」
彼女は一瞬落胆したものの、すぐにモチベーションを取り戻して応援に移った。
「先攻はわしが貰うぞ! ガマゲロゲ、ドレインパンチ!」
ガマゲロゲが拳を掲げながら接近する。
「……ん?」
「どうしたの、ヨウタ君?」
「あの拳のコブ、振動してる……」
「本当だ……」
ヨウタに言われて気になったのか、アカリがポケモン図鑑を取り出した。
「拳のコブ、振動……? へえ、拳の、振動ねえ」
「そっか、拳のコブ、振動かあ」
……? 自分の言葉を聞いたヒロヤとルミが、いきなりニヤニヤ笑い始めた。
「どうし……、あ!?」
理由が分からず尋ねようとした直前、気付いてしまった。
「ち、違うよ!? 今のはダジャレじゃないんだ!」
「はいはい、拳のコブ振動ね。面白い面白い、かなり大爆笑」
「違うって言ってるじゃないですか!?」
「ヨウタ君!」
必死に否定していると、アカリが自分を呼んだ。
「あ、アカリは分かってくれるよね!?」
「これ!」
と言って図鑑に乗っているガマゲロゲの説明を見せられた。
それによると拳のコブを振動させることでパンチの威力が倍増し、一撃で大岩を粉砕するほどになるらしい。
「なっ……!? それにドレインパンチは効果抜群! ミツキ、トドゼルガが危ない!」
慌てて彼に警告を飛ばすが、彼は何も指示せずに動かない。
「ミツキ!」
ヨウタが再び叫んだ瞬間、ガマゲロゲの拳がトドゼルガの胸に深く突き刺さった。
……仕留めた。確かな手応えを感じて、ガマゲロゲもカンゾウも笑みを浮かべる。
「……問題ねえよ、ヨウタ」
だがミツキはうろたえず、不敵に口角を釣り上げてみせた。
「え……?」
「オレのトドゼルガの厚い脂肪は、そんなにやわじゃないぜ!
トドゼルガ、ぜったいれいど!」
それまで沈黙を守っていたトドゼルガの口から、白い冷気が漏れ出す。
「なっ……! まずい、離れろ!」
「遅いぜ、やれ!」
ミツキが指を鳴らすと同時にトドゼルガが吠えた。
フィールド全体が冷気に覆われ、その発生の中心にいたガマゲロゲはカチコチに凍りついて一瞬で倒れてしまった。
「……一撃必殺だ」
ヨウタは開いた口が塞がらなかった。
わざと近づかせて避けられない至近距離から一撃必殺の大技で決める。相手にしたくない恐ろしい戦法だ。
そしてそれを可能にする自信と実力。
やはりミツキは強い。こうして端から見ていると、改めて実感出来る。
「ガマゲロゲ、戦闘不能!」
「戻るんだ、ガマゲロゲ! 次はお前だ、ワルビアル!」
「休めトドゼルガ! ゆけっ、ボスゴドラ!」
相手の二匹目は二足歩行の赤黒いワニ、ワルビアル。
ミツキもドレインパンチのダメージを心配したのかトドゼルガを交替、出て来たのは鎧を纏っているかのような鋼のボディ、鋭い角の生えたボスゴドラだ。
「ワルビアル、じしん!」
「ミツキさん、危ない!」
はがね・いわタイプのボスゴドラにじめんタイプのじしんは特大ダメージ。
「ボスゴドラ、でんじふゆう!」
だが彼はやはり焦らず指示を出す。
ボスゴドラはなんと、電気でつくった磁力の力で宙に浮かび上がってしまった。
じしんの衝撃波はボスゴドラの下を通り抜けていく。
「さすが、相変わらずやるなあミツキ」
ヒロヤは感心してうんうん頷いている。
「さあ、どうすんだ? じしんが使えなくなった今、ボスゴドラへの有効打は無い!」
「くっ……! ストーンエッジ!」
相手は苦し紛れに岩を飛ばしてきたが、ボスゴドラの強固な鋼の鎧の前ではかすり傷程度のダメージにしかならない。
「効かないぜ、れいとうビーム!」
岩を飛ばしている最中、岩と岩の隙間を縫って冷気の光線がワルビアルを貫いた。
命中した胸から徐々に凍結が広がって行く。
「かみくだくだ!」
このままその場に止まっていればやがて全身が凍りついてしまう。
飛びかかって首に牙を立てるが、これもやはり大したダメージではない。
むしろ噛むワルビアル側がダメージを負ってしまいそうな程に、ボスゴドラの鎧は硬い。
「食らえ、ばかぢから!」
ボスゴドラは首元を噛み続けるワルビアルを掴み、腹に思いきり拳を叩き込んだ。
「ワルビアル、戦闘不能!」
またもミツキが勝利する。これで相手のポケモンは残り一匹だ。
「むう、戻るのだワルビアルよ……。ならばお前だ、ハガネール!」
最後は銀色に輝く鋼の塊をいくつも連ねた、てつへびポケモンのハガネール。
「ボスゴドラ、ストーンエッジ!」
「ハガネール、ストーンエッジ!」
二匹が互いに岩を飛ばすが、ボスゴドラの飛ばしたそれはハガネールの飛ばしたものに次々と砕かれてしまう。
「ばかぢからしたからな……。だったら接近しろ!」
ばかぢからは、使うと反動で攻撃、防御が下がってしまう。
純粋な攻撃力なら上回っていても、今の状態では力負けしてしまうのだ。
とはいえ防御力の高さは健在。岩に怯まず接近していく。
「距離を取れ!」
「逃がさないぜ、れいとうビーム!」
ハガネールは慌てて下がるが、ボスゴドラの光線はしっぽの先に命中してしまう。
「おし、戻れボスゴドラ。さあ、行くぜ! ブーバーン!」
ミツキも最後の一匹、自分の相棒ブーバーンを出した。
「ブーバーン、かえんほうしゃ!」
「ストーンエッジで迎え撃て!」
ブーバーンが放った炎は、飛んでくる岩の雨に消されてしまう。
「ミツキ、危ない!」
「へ、そう簡単には食らわないぜ! 足元にがんせきふうじだ!」
岩が一直線にブーバーンに向かう。
しかしブーバーンは足元に大きな岩を発射して、それを盾にして防いだ。
「きあいだま!」
そしてその盾が砕かれ、エネルギー弾が迫る。
「しっぽで弾いて、そのままじしんだ!」
しかしハガネールもそう簡単には食らってくれない。
しっぽを垂直に振り下ろし、更にそのまま地面に叩きつけて衝撃波を起こした。
「ブーバーン、跳べ!」
「ストーンエッジ!」
「きあいだまで迎え撃て!」
飛んでくる岩を弾き飛ばして、エネルギー弾はハガネールに迫る。
「弾き返すんだ!」
だがきあいだまは方向を変え、今度はブーバーンに迫る。
空中では避けられない。
「頭上にかえんほうしゃ!」
しかしブーバーンは上にかえんほうしゃを放つことでついた勢いを利用して素早く落下。
きあいだまを虚空で弾けた。
「ハガネール、アイアンテール!」
「もう一度跳べ!」すでに充分に近付いた。
横から迫るしっぽを避け、ブーバーンはそのまま文字通りハガネールの目の前に姿を現した。
「オーバーヒート!」
ブーバーンの両手から、灼熱の光線が放たれた。
極太のそれはハガネールの顔を呑み込み、鋼の体を熱し尽くした。
重たい音を立ててハガネールが頭を垂れ、ブーバーンは軽々と着地する。
「すごい……! 一匹もやられずに勝つなんて……!」
「うん、これは私も見過ごせないよ……! 同じ街を旅立った、ライバルとして……!」
ヨウタもアカリも息を呑んでいる。
ミツキは、やはり強力なライバルだ。
「ハガネール、戦闘不能! よって勝者、ヒガキタウンのミツキ!」
「しゃあ、やったぜブーバーン!」
ミツキはブーバーンを褒めてから、モンスターボールに戻した。
そしてジムバッジを受け取って、ヨウタ達と共にジムを後にした。