第34話 再登場、ライバルコウイチ
コザクラシティ。ヨウタとアカリがバトルを終わらせ、翌日の朝だ。
ピピピピ、と枕元に置かれた時計から電子音が鳴り出し、
「うーん……」
少年が目を覚ます。時刻は八時ちょうどだ。
時計を叩いて、目覚ましのアラームを止める。
「ふわぁ……」
「おはよ〜、ヨウタ君……」
同じく目を覚ました、隣のベッドのアカリが眠そうに目をこすりながら声をかけてきた。
彼女の隣、彼女と一緒のベッドで寝ているルミはまだ寝息を立てている。
「ほらルミちゃん、起きて」
彼女は妹を起こしてくれている。
となると自分に出来ることは一つしかない。
「ヒロヤさん、起きてください!」
部屋に四つあるベッド。自分の向かい側で大きないびきをかいている青年。
ヒロヤを起こすのが、自分のいつもの役割だ。
ヨウタはヒロヤの体を揺すりながら呼びかけた。
「じゃあ行こうか」
朝食や歯磨き、着替えなども済ませ、ヨウタ達はポケモンセンターを出た。
まぶしい朝日に目を細めつつ、三人に声をかける。
「うん」
「ねむ……。……だな」
「ねむい……。……だね、お兄ちゃん」
「ストップヨウタ君!」
と返事が来て……、あれ?
「一つ多い……」
アカリ、ルミ、ヒロヤの他にもう一人、誰かが後ろから返事をした。
多少いぶかしがりなりながらも振り返ると、黄色のパーカーに緑のズボンの少年が立っていた。
「やあ、久しぶりヨウタ君!」
「コウイチ君」
久しぶりのライバルの登場。しかし、何を言うかはもう分かっている。
「ボクとバトルしよう!」
「……やっぱりね」
僕もポケモントレーナー。勝負の申し出を断るわけにはいかない。
「うん、受けてたつよ!」
昨日は負けてしまったけど、今日こそはきっと勝つ!
気合い十分に、場所を移動して公園へ。
「出てきて、チルット」
ルミは先ほどコウイチの登場でチルットをボールから出しそびれた為、今出す。
チルットは頭の上にちょこんと乗っかり、ルミはかわいい、と褒めながらそれを撫でる。
「行くよ、コウイチ君!」
「うん、負けないよ!」
「頼むよムクホーク!」
「行くんだドラピオン!」
向かい合った二人、昨日敗北したばかりのヨウタは特にやる気たっぷりにポケモンを出した。
「まずは手始め、ブレイブバード!」
「受け止めるんだ!」
ムクホークは翼を畳んで突撃するが、ドラピオンの両腕に受け止められ、弾かれてしまう。
「やるね、まさか受け止められるなんて。けど、それなら上からブレイブバードだ!」
「むっ、近づかせるな! いわなだれ!」
一旦下がって今度は上から攻めようとするが、岩の回避に集中しなければならず攻められない。
「……一度戻るんだ、ムクホーク。次は君だ、オノンド!」
一度ムクホークを戻して、オノンドを出す。
「オノンド、接近するんだ!」
「させない、いわなだれ!」
今度はオノンドで攻めるが、やはり近付かせまいと岩を飛ばしてくる。
「牙で砕くんだ!」
「なっ!?」
だがオノンドは向かってくる岩をたやすく砕きながら、目の前まで迫る。
「ドラゴンクロー!」
跳んで振り下ろした爪が、ドラピオンの頭を切り裂いた。
「うん、一度離れるんだ! ヒットアンドアウェイ!」
「させないよ、捕まえるんだ!」
オノンドはバックステップで距離を取ろうとするが、長い両腕に捕まってしまう。
「しまった……!」
「かみくだく!」
そして宙に持ち上げられて、鋭い歯で思いきり噛み砕かれる。
「もう一度!」
さらにドラピオンはオノンドを掴んだまま、再び大きく口を開けて牙を剥く。
「お兄ちゃん、危ない! 戻して!」
「大丈夫さ、ルミ。オノンド、口の中にりゅうのはどうを撃ち込め!」
とうとうその牙がオノンドに襲いかかる、寸前、開けられた大口に衝撃波が放たれた。
ドラピオンは思わずオノンドを離してしまう。
自由になったオノンドは、軽々と着地する。
「よし、やった! ……とはいえ、近付けば掴まれるし遠くからだと防がれる。ここは、……地面からだな」
「なにを言っているかは聞こえないけど、来ないならこっちから行くよ! かみくだく!」
「オノンド、りゅうのまい!」
オノンドが指示を受け、神秘的で力強い舞を激しく踊り出す。
しかし舞が終わった直後、接近してきたドラピオンに掴まれ噛み砕かれてしまう。
「お、お兄ちゃん大丈夫!?」
「うん、もちろん! 振りほどいてあなをほる!」
これでは先ほどの二の舞だ、今度は向こうも二度目のかみくだくはしないだろう。
ルミが叫んだ直後、オノンドは手で推しながら身をよじって無理やり両腕から逃れ、そのまま地面に潜った。
りゅうのまいは自分の攻撃と素早さを上昇させる技。
先ほどは両腕から逃れられなかったが、りゅうのまいによって上昇したパワーが脱出を可能にしたのだ。
「なるほど、地面から攻めるつもりだね。けどさせないよ、じしん!」
「遅いよ! 出てくるんだ、オノンド!」
ドラピオンが思いきり地面を殴って衝撃波を起こそうとしたが、その前にドラピオンの目の前の地面が隆起し直後オノンドが地中から姿を現した。
「ドラピオン!?」
爪を構えながら飛び出したオノンドは、その勢いのまま顎に一撃を叩き込む。
コウイチの呼びかけも虚しく、ドラピオンは地に臥して起き上がらない。
「ドラピオン、戦闘不能!」
アカリが今回も審判を下す。
「りゅうのまいをされたからじしんが間に合わなかったか……。ありがとうドラピオン、ゆっくり休んでね。じゃあ次はモジャンボだ!」
「お、オノンド!?」
コウイチが二匹目を出している最中、オノンドが突如輝き始めた。
みるみるうちに立派な体格になっていく。
「オノノクス。あごオノポケモン。
キバの破壊力は抜群。太く硬い鋼鉄の柱もいとも簡単に切りさけるのだ」
図鑑が説明を読み上げ、聞き終わるとポケットにしまう。
「じゃあバトルを続けようか。オノノクス、ドラゴンクロー!」
オノノクスが素早く接近して、モジャンボを覆うツタの中に爪を叩き込む。
「よし!」
確かな手応えを感じて腕を引き抜こうとするが、……引き抜けない。
「ふふ、逃がさないよ」
コウイチが不敵に笑い、オノノクスの腕をどんどんツタが這っていく。
「きあいだま!」
ヨウタとオノノクスが困っている間に、コウイチは指示を出した。
至近距離で放たれたエネルギーの球はオノノクスの脇に直撃、オノノクスは倒れた。
「オノノクス、戦闘不能!」
「あ、ありがとうオノノクス、戻って休んでくれ。……接触攻撃だと絡めとられる。なら、次は君だ! レントラー!」
「相性は有利だけど、モジャンボは特防が低い……。いや、行こう! モジャンボ、じしん!」
「避けてかみなり!」
「受け止めるんだ!」
向こうが地面を叩いて衝撃波を起こしたが、避けて電気を放つ。
しかしそれも腕でたやすく防がれる。
「やっぱり正面からは厳しいか……。接近だ!」
「させないよ、いわなだれ!」
「でんこうせっかで切り抜けるんだ!」
レントラーは自分に向かって接近してくる。
それを止めようと岩をいくつも降らせるが、意味が無かった。
「右に避けてくれ! 次は左だ!」
ヨウタの指示でレントラーは勢い良く地を蹴り、方向転換する。
「だったらじしん!」
「跳んでくれ!」
相手は再び地面を叩き、衝撃波を起こす。
しかしレントラーはまたも勢い良く地を蹴って、高く跳躍した。
「今だ、きあいだま!」
「アイアンテールで打ち返せ!」
空中に居ては身動きが取れない。その隙を狙ったようではあったが、逆効果だった。
向かってきた球に、レントラーが縦に一回転してしっぽを叩きつける。
すると球はバットに打たれた球のように、一転してモジャンボに向かっていった。
「しまった……!」
「かみなり!」
顔面に直撃してモジャンボは思わず怯んでしまい、さらに直後電流が走る。
「モジャンボ、じしんだ!」
いくらくさタイプのモジャンボと言えども、ただでさえ威力が高い上にレントラーの特性とうそうしんで上乗せされたかみなりは、きあいだまを食らった後では耐えきれなかったらしい。
最後に地面を叩いて衝撃波を起こしてから、うつ伏せに倒れた。
「モジャンボ、戦闘不能!」
「ありがとうモジャンボ、ゆっくり休んでくれ。
最後は頼んだよ、フローゼル!」
とうとうコウイチは最後の一匹だ。しかもレントラーには相性がいい。
「レントラー、君も一度休むんだ」
だが、ヨウタは交替をする。
モジャンボは倒したものの、着地の直後に襲いかかってきた衝撃波に直撃してしまった。
効果は抜群だった。ダメージも大きいだろうと一旦休ませることにしたのだ。
「ゆけっ! ムクホーク!」
またもムクホークが姿を現す。
「ムクホーク、早速ブレイブバード!」
先制で攻撃を仕掛ける。翼を折り畳んで突進するが、横に跳んで避けられてしまう。
「れいとうビーム!」
「上昇するんだ!」
背中に冷気の光線が迫るが、ムクホークが上昇したことでその技は虚空を過ぎていった。
「もう一度だ!」
そして再びムクホークが迫る。
しかし今度も、先ほどと同じ形で避けられた。
「速い……! ならでんこうせっか!」
ならば、と今度はブレイブバードを上回る速度で突進する。
「翼を掴むんだ!」
突進はお腹に直撃した。が、翼を掴まれ少し後退りした後止められてしまった。
「れいとうビーム!」
そして至近距離から冷気の光線を浴びてしまう。
直撃箇所の背中から徐々に氷に包まれていき、やがて全身が覆われていった。
「まずい……!」
「行くんだ、きあいだま!」
ゴトリと地に落ちた氷塊に、今度も至近距離でエネルギーの球が当たる。
それは氷を砕いて中のムクホーク本体にまで届いた。
「ムクホーク、戦闘不能!」
「ありがとうムクホーク、ゆっくり休んでくれ」
さすがに効果抜群の攻撃を受けた後では耐えられない。
ムクホークは氷に包まれたまま、ボールの中に戻っていった。
「最後は君だ、レントラー!」
二人の最後の一匹同士が向かい合う。
二匹ともやる気十分らしく、特にレントラーは闘争心を剥き出しにしている。
「でんこうせっか!」
「高く跳ぶんだ!」
再び先制攻撃を仕掛ける。しかし向こうも予想をしていたのかすぐに対応する。
「止まってかみなり!」
「させないよ、アクアジェット!」
これでは突進が届かない。いや、高く跳べば届かせることは出来るだろう。
しかしそれではおそらく向こうの思うつぼだ。
立ち止まって体に電気を溜めるが、一瞬の隙を狙ってフローゼルが飛び込んできた。
頭に命中して、溜めていた電気を思わず辺りに逃がしてしまった。
「ハイドロポンプ!」
さらに目の前で大きく口が開けられた。
「……っ、跳ぶんだ!」
間一髪だった。
レントラーが跳躍した直後、先ほどまでレントラーの居た位置は激流に飲まれていた。
「危なかった……」
「まだだよ、アクアジェット!」
なんとか攻撃を避けられた。安心したのも束の間、今度は腹に突進を食らってしまった。
「速いな……! レントラー、大丈夫かい?」
呼びかけると、二匹が着地した直後にレントラーは頷いた。
「なんとかあのスピードを攻略しないと、勝ち目が無いな……」
頭の中で思考の糸を張り巡らせる。
どこかに攻略の糸口があるはずだ。
今覚えている技はワイルドボルト、アイアンテール、でんこうせっか、かみなり。
……ダメだ、どれも避けられてしまう。
だったら技以外で、なにか無いか……。
ふと、レントラーのやや太めの前足が目に入った。
「……そうだ」
レントラーのダメージは大きい。それに、出来る保証は無い。
危険な賭けになるが、決まれば勝ちは確実だ。
勝負に出るしかない。
「レントラー、でんこうせっか!」
「当たらないよ、跳ぶんだ!」
「レントラー、もっと高く跳んでくれ!」
目にも留まらぬ速さで駆け出すが、相手はやはり高く跳躍する。
しかし、レントラーはそれのさらに上を行く。
「なるほど、フローゼルより上ならきあいだまが打ち返しやすい。それにハイドロポンプやれいとうビームならかみなりで押しきられる。
けど甘いよヨウタ君! アクアジェット!」
「来た……!」
相手は空中で水を纏い、上昇してくる。
それは再びレントラーの腹目掛けて突っ込んだ。
「かみなりは間に合わない。だから……! レントラー、ちょっとでもいい! 爪を当てるんだ!」
フローゼルの突進は直撃して、二匹の距離は弾かれたように離れた。
しかし完全に射程外に出る寸前、フローゼルのしっぽの先にレントラーの爪先がほんの少しだけかすった。
直後フローゼルは電気に包まれ、無抵抗に地面に落下した。
「なっ……!? フローゼル、立つんだ!」
コウイチは驚きながらも、すぐにフローゼルに声をかける。
フローゼルは呼びかけに応えようと必死に膝を立てるが、立ち上がるには至らない。
「どうして……!?」
「ルクシオは爪先に強い電気が流れていて、かすっただけでも相手を気絶させられるんだ」
うろたえるコウイチに、ヨウタが説明を始める。
「レントラーはルクシオの進化系だから……!」
「そう、その分電気も強くなっている! おまけにフローゼルは電気に弱い!」
「だから、こんなに痺れているのか……! がんばってくれ、フローゼル!」
「行くんだレントラー! ワイルドボルト!」
結局フローゼルは立ち上がれなかった。
電気を纏ったレントラーの突進は、フローゼルに直撃した。
「……ふう」
「フローゼル、戦闘不能! よって勝者ヨウタ君、おめでとう!」
「やったねお兄ちゃん!」
「ナイスだヨウタ、もうダメかと思ったのによくやった!」
わざと腹にアクアジェットを使わせて爪を当て、痺れた隙に攻撃を決める。
成功して良かった、と胸をなで下ろしていると、みんなが駆け寄ってきた。
「もう少しだったのに! 負けたよヨウタ君、悔しいなあ!」
と、コウイチも悔しそうにしながらも駆け寄ってきた。
「次こそ絶対に負けないよ、またバトルしよう!」
「うん、次も負けないよ! 楽しかったよ、ありがとう」
彼が言いながら手を差し出してきて、ヨウタも握手に応じる。
「……じゃあ、ポケモンセンターに行こうか」
「そうだね。ありがとうレントラー、よくがんばったね。戻って、ゆっくり休んでくれ」
そしてどちらともなく手を離して、五人はポケモンセンターに向かった。