第33話 ヨウタの特訓
「ヨウタ様、アカリ様。ポケモン達の回復が終わりましたよ」
「あ、はい!」
ヨウタとアカリ。二人のバトルが終わってポケモンセンターに預けていたが、どうやら回復が終わったようだ。
自分達を呼ぶ声に応えて、アカリが立ち上がる。
「行こ、ヨウタ君」
「あ、ちょっといいかな」
彼女が体はジョーイさんを、首だけ隣に座るヨウタに向かって声をかけるが、彼は立ち上がらない。
「ヒロヤさんに話したいことがあるから、良ければ僕のモンスターボールも一緒に受け取ってきてほしいんだ。いいかな?」
「うん、分かった」
言われて彼女は、一人で受付に歩いていった。
「お兄ちゃん。いっしょに行ってあげないなんて、ていしゅかんぱく? だよ!」
「な、なに言ってるんだよルミ! 僕とアカリはまだそういう仲じゃないんだから!」
「……まだ?」
「い、いや……! ……そ、それよりヒロヤさん!」
からかってきた妹への返答にヒロヤが食いついてきたが、無理やり話を戻してちょっといいですか、と前置きしてから顔を彼の耳元に近づける。
「あの、ごにょごにょにょ……」
「……分かった」
「ヨウタ君」
ちょうど用件を伝え終わった直後、タイミングよくアカリが帰ってきた。
「ありがとうアカリ」
「えへへ、どういたしまして」
ヨウタは彼女から受け取った三つの球を、ベルトにつけた。
時刻は午後の十一時、暗くなった40道路に一人の少年と一人の青年が立っていた。
「はあ、眠い……」
その片方、空色のシャツの青年大きな欠伸をしている。
「ごめんなさいヒロヤさん、こんな時間に」
もう片方、橙色の上着を羽織った少年は、青年にぺこりと頭を下げた。
「気にすんなよヨウタ。負けて悔しいから特訓、てのはいいことだと思うぜ」
ヒロヤは下げられた頭を帽子越しに荒く撫でてから、歯を見せてニッと笑ってみせる。
「それに好きな子に負けて悔しいから特訓した、なんて、俺も本人には知られたくないからな。時間も気にしてないさ」
「ありがとうございます。……って、別に好きな子とかじゃないですよ!?」
「ははは、分かった分かった」
「絶対分かってない……! 後痛いです」
必死に否定するが、彼は聞き入れずに笑いながらバシバシと肩を叩いてくる。
ヨウタが顔を赤くしながら抗議すると、彼は悪い悪い、と悪びれる様子を見せずに叩くのをやめた。
「じゃあ早速始めるか! ……の前に。出て来たらどうだ? ルミちゃん」
彼が街の方へ振り向いて言うとしばらく反応は無かったが、やがて観念したのか頭に丸まって眠るチルットを抱いた一人の少女がゆっくりと木陰から現れた。
「る、ルミ!? どうして……!」
その少女はヨウタの妹、ルミだった。
「えっと……。お兄ちゃんとヒロヤさんがなにか話しててあやしかったから、がんばって起きてたら出て行っちゃったから……」
少女は罪悪感があるのか、うつむきながら小さな声でついてきた経緯を話した。
「なにをするのか気になったし、それにお兄ちゃん達がオバケにやられちゃったらどうしようっておもって……」
どうやら単純な好奇心もあったが、自分達のことが心配でもあったらしい。
「大丈夫だよ、ルミ」
普段は生意気な妹だが、今はこうして自分を心配してくれている。
「オバケなんて居ないし、もし居たとしても僕にはポケモン達もヒロヤさんもいるんだから」
「え、俺?」
嬉しさもあり、微笑みながら優しく頭を撫でると、彼女は安心したのかゆっくりと顔をあげた。
「どうする、ポケモンセンターに戻るかいルミ?」
「……ううん。お兄ちゃんのとっくん、見てく」
「……うん、分かった。じゃあアブソル、ルミを見守っててくれ」
果たして自分は旅立つ前からこんなに妹に慕われていただろうか。旅に出る前ならすぐに戻った気がする。
妹の言葉にまたも嬉しくなりながら、ヨウタはモンスターボールから一匹ポケモンを出した。
「じゃあ始めましょう、ヒロヤさん」
「ああ、早速実戦訓練だ。ゆけっ、ベロベルト!」
「はい、分かりました! 出てくるんだレントラー!」
そして二人は距離を取って向かい合い、ポケモンを出した。
それからしばらくして、特訓を終えて三人はポケモンセンターに戻った。