ポケットモンスタータイド


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ポケットモンスタータイド
第32話 幼なじみ対決 ヨウタVSアカリ
コザクラジムも、無事みんな勝利することが出来た。
現在時刻は午後六時、辺りも夕日に染まり始めた時間帯だ。
「ねえヨウタ君!」
ヒロヤのポケモン達を預けた後、ポケモンセンターのソファに座っているアカリが声をかけた。
「どうしたのアカリ」
彼女はやけに瞳を輝かせている。一体どうしたのだろうか。
「今日は少し疲れたよね」
「うん、まあちょっとはね。けど見てるのも楽しかったよ」
いきなりよく分からないが、とりあえずジム戦の感想を返す。
「だよね。というわけで……しよっか」
「え?」
しよっかって、なにを……? 頭に疑問符を浮かべていると、彼女は続ける。
「ポケモンバトル!」
「……え?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
先ほど少し疲れていると話した直後にそれを言うのか、と戸惑っているのを察したらしく、彼女はさらに続けた。
「だって前に約束してから、結局一度もバトルできてないんだもん。
誘ってくれるのを待ってたのにヨウタ君は何も言わないし、もうバッジも六個になるんだし……。ね、やろうよ」
アカリは少し寂しそうな表情を浮かべている。
「(……そういえば前は途中にミツキが現れて、ミツキとバトルしたんだった。
あれからずっとバトルしてないな……)」
なんて考えていると、彼女が悲しそうな声で
「……ダメ?」
と聞いてきた。
……そんな顔で言われたら、断れるわけないじゃないか。
「よしやろう」
「本当に? やったあ! ルールは三体三! じゃあ行こうヨウタ君!」
と言って彼女は立ち上がり、早足にポケモンセンターを出ていった。
「待ってよアカリ!」
ヨウタは情けない声を出しながら、ヒロヤとルミ、二人と一緒にそれを追いかける。



「それでは始めます! ルールは三体三、先に相手のポケモンを全て倒した方の勝ちとなります! 行って、ニドクイン!」
「まずは君だ、アブソル!」
アカリのセルフ審判によって、二人の勝負が幕を開けた。
ともに旅する仲間とはいえ手は抜けない、真剣勝負だ。
「どっちの応援をするんだ、ルミちゃん」
「……どっちも。……お兄ちゃん、アカリちゃん、がんばってね!」
「うん、もちろん!」
……って、あれ、普通に僕のことも応援してくれてる?
初めてバトルした時はアカリのついでだったのが、今回は扱いが違うことに疑問を持ったがバトルが始まるので頭から追い出す。
「ありがとうルミちゃん! ニドクイン、きあいだま!」
ルミへ返事をしつつ、指示を出す。
ニドクインが渾身の力でエネルギー球を放つ。
「きあいだまは、威力の高いかくとうわざだ。横に跳んで避けるんだ!」
アブソルは素早く横に跳び、きあいだまは虚しく空を切った。
「よし、サイコカッターだ!」
「きあいだまで迎え撃って!」
今の隙に、と実体化させた心の刃を飛ばすが、青いエネルギー球に威力の差で敗れてしまう。
「まだまだ! 避けてサイコカッター! 高さを変えて連続でやるんだ!」
またもきあいだまを避け、一撃目は地上から。二撃目、三撃目は跳んで高さを変えて放つ。
「どくづきで防いで!」
三日月形の刃が、ほぼ同じタイミングで三段に高さが分かれ迫ってくる。
一、二撃目はどくづきで相殺出来ても、一番高い三撃目までは防ぎきれなかった。
心の刃がニドクインの頭を切り裂く。
「よし、もう一度だ!」
「防いで接近して!」
着地してさらに刃を飛ばしたが、これはどくづきで相殺されてしまった。
相手は拳をかざして接近してくる。
「引き付けて、攻撃の寸前に下がるんだ!」
ついに眼前にたどり着いたニドクインは、勢い良く右の拳を振り抜いた。
鋭く速い毒の拳はアブソルの顔を捉え……なかった。
当たる寸前、後方に跳躍して避けたのだ。
「いいぞ、サイコカッター!」
「ううん、甘いよヨウタ君! きあいだま!」
今が好機、と攻撃を仕掛けたが、まだ彼女の攻撃は終わっていなかった。
どくづきに使わない空いていた左手には、青いエネルギー球が準備されていたのだ。
発射された球は、三日月の刃を正面から打ち砕いてアブソルの顔面にぶつかり弾けた。
アブソルには大ダメージだが、まだ倒れていない。
しっかりと四本の足で、大地を踏みしめている。
「アブソル、大丈夫か!?」
効果は抜群だ。一度戻そうかとも考えたが、
「……嫌なのか。意外と負けず嫌いだな」
アブソルの不機嫌そうな声で続投を決めた。
「じゃあアブソル、サイコカッター!」
「効かないよ、受け止めて!」
再び放った三日月の刃を、ニドクインは両手を突き出し止めてしまった。
「きあいだま!」
「避けて接近してくれ!」
こちらも真っすぐ飛んでくる球を、たやすく横に避けて接近する。
「来たね、アブソル!」
「サイコカッター連発だ!」
さらに走りながら刃を飛ばすが、両腕を体の前で交差させ、防御される。
「なられいとうビーム!」
しかし次は攻撃方法を変える。
凍える冷気の光線を浴びた両腕は、徐々に氷に包まれていく。
「これで両腕は封じた!」
「けど、攻撃が出来ないわけじゃないよ! じしん!」
「高く跳んで避けるんだ!」
ニドクインの目の前から、アブソルは姿を消す。
「これで角やしっぽを使った攻撃も出来ないよ、アカリ! サイコカッター!」
低い跳躍ならばまだ相手にも反撃の機会はある。
しかし腕を使えない今きあいだまは使えず、空中の敵には対応出来ない。
空高くから、三日月形の刃が襲いかかってきた。
「ニドクイン、がんばって! きあいだまよ!」
これで倒れたな、とヒロヤは思った。
だが刃が当たる前になんとか力ずくで氷を砕き、間一髪青いエネルギー球で迎え撃った。
「おお、やるな。ギリギリだけど間に合った」
ヒロヤが言う。
やはり威力の差で、サイコカッターは破られてしまった。
「空中じゃあ避けれないよ、ヨウタ君!」
きあいだまはどんどんアブソルに迫る。
「そうだね。けど、避ける必要は無いよ」
「え……!?」
「アブソル! メガホーンで切り裂くんだ!」
指示を受け、アブソルの三日月の角がエネルギーに包まれ大きくなる。
そして一閃すると、眼前の球は二つに裂けて空中で弾けた。
「サイコカッター!」
アブソルはそのまま落下して、今度は直接頭を切り裂いた。
一瞬の間を置いて、ニドクインは倒れた。
「……ニドクイン、戦闘不能。
ありがとうニドクイン、戻って休んでね」
アカリは唖然としながらも審判を下し、ニドクインをボールに戻した。
「やったな、すごいぞアブソル!」
ヨウタが褒めるが、アブソルは目を閉じすました顔をしている。
「あはは……」
「ずっときあいだまを避けてるし、メガホーンを覚えてるなんて思わなかった。ずるいよヨウタ君」
「はは、そう思わせる為に最後まで見せないで隠してたんだ」
「やられたなあ、本当にずるいよ……。……うん!」
ヨウタの言葉を聞いてアカリは少し頬をむくれさせたが、すぐに気を持ち直す。
「次はあなたよ、コジョフー!」
アカリが次に出したのはコジョフー。
「うん。アブソル、一度戻ってくれ」
コジョフーはかくとうタイプ。
アブソルは疲労とダメージが溜まっている上に相性が悪い為、一度戻すことにした。
「次は君だ、オノンド!」
ヨウタの二匹目はオノンド。ドラゴンタイプのポケモンだ。
「コジョフー、ねこだまし!」
「オノンド、ドラゴンクロー!」
パン、とオノンドの目の前で両手を強く叩き合わせると、オノンドは怯んで攻撃を中断した。
「続けてとびひざげり!」
更に今度はオノンドの目の前で一瞬しゃがみ、縮んだバネが戻るように勢い良く飛び上がった。
「わお、いきなり強力な攻撃がヒット! さあどうするヨウタ?」
「……お兄ちゃん、だいじょうぶかな? 勝てるかな?」
「さあ?」
「そっか……」
いつもは頼れるヒロヤだが、今回はあまり当てに出来なそうだ。
彼に向けていた視線を、ヨウタ達の元へと戻す。
「オノンド、ドラゴンクロー!」
「コジョフー、避けて!」
先ほどのお返しと言わんばかりに、勢い良く爪を振り下ろした。
爪はコジョフーのお腹を見事捉え、相手は後ずさりした。
「もう一度ドラゴンクローだ!」
「させない、コジョフー!」
続けて連続攻撃しようとしたが、相手はジャンプで避け……るふりをして一瞬で懐に潜り込んできた。
「しまった……!」
「フェイント!」
そして素早い拳を食らってしまい、オノンドは崩れ落ちる。
「オノンド、戦闘不能! やったねコジョフー!」
「ごめんオノンド、ありがとう」
アカリがジャッジをして自分のポケモンを褒める一方、ヨウタはオノンドを労ってボールに戻した。
「え、コジョフー!?」
彼女の驚いた声で、自分もコジョフーを見る。
するとコジョフーが、光に包まれ姿を変えている最中だった。
見守っている間にどんどん姿が変わり、ついに新しい姿へと進化を遂げた。
「コジョンド。ぶじゅつポケモン。
両手の体毛をムチのように使いこなし連続攻撃をはじめるとだれにも止められない」
「なるほど、厄介だ……」
アカリの図鑑が読み上げた説明を聞いて、相手、進化したコジョンドを見た。
確かに長い毛が生えていて、相手のペースに嵌れば厄介そうだ。
「最後は君だ! レントラー!」
最後に出したのは相棒のレントラー。だがレントラーはあまり闘争心が湧かないらしく、表情が乗り気には見えない。
「進化して新しく技を覚えてる。はどうだん!」
「迎え撃つんだ、かみなり!」
相手は波動の球を放ったが、強力な電気で迎え撃つ。
二つの技はぶつかり合い、相殺された。
「でんこうせっかだ!」
「避けてはどうだん!」
次は目にも留まらぬ速さで突進するが、コジョンドは当たる寸前で横に転がって避けエネルギー弾を放った。
「しまった!?」
横腹にはどうだんが命中したが、レントラーは怯まず切り返してコジョンドに突進した。
「い、いいぞレントラー! かみなり!」
続けて強力な電気を浴びせると、コジョンドはうつ伏せになって起きあがらなかった。
「コジョンド!? ……あ、戦闘不能! ありがとうコジョンド、ゆっくり休んでね」
「……ふう」
これで、相手は残り一匹だ。とはいえこちらの二匹は既に手負い、気を抜くわけにはいかない。
「じゃあ、行ってロズレイド!」
最後の一匹は、彼女の相棒ロズレイド。
彼女の最も信頼しているポケモンだ。
「よし、一度休んでくれレントラー。また頼むよ、アブソル!」
レントラーでは相性が良くない為、交替をする。
「アブソル、サイコカッター!」
相手はくさ・どくタイプ。エスパータイプの攻撃は効果が抜群だ。
「避けてヘドロばくだん!」
「君も避けて接近するんだ!」
だがそう簡単には当たらない。
相手はたやすく避けてヘドロの塊を飛ばしてきたが、横を通り抜けて接近する。
「サイコカッターが一番有効だ。けど、ここはあえてこの技だ! アブソル、ふいうち!」
「ロズレイド、くさぶえ!」
二人の指示はほぼ同時だった。
不意を突こうと身を低くして構えたアブソルは、美しい音色に目を細め、静かに眠りに落ちてしまった。
「まさか、読まれてた……!? やるね、アカリ……!」
「……え?」
ふいうちは、相手が攻撃をしなかったら失敗する技。
くさぶえは攻撃技では無い為、ふいうちを当てられなかったのだ。
「起きてくれ、アブソル!」
ヨウタは歯ぎしりしながらもアカリを褒め、アブソルに声をかけ始めた。
「たまたまだったんだけど……。ま、いっか。ロズレイド、ヘドロばくだん!」
眠っていて無防備なところに、ヘドロの塊が襲いかかる。
当然避けれず直撃してしまい、アブソルは戦闘不能になった。
「アブソル、戦闘不能!」
「……最後だ。負けないよ、アカリ!」
「うん、私も負けないよ! ヨウタ君!」
「行くんだ、レントラー!」
とうとうお互い残り一匹。しかしレントラーは特性とうそうしんで技の威力が下がり、タイプ相性も悪い。
不利な条件ではあるが、ヨウタはまだ勝負を捨ててはいない。
諦めずに、バトルに臨んでいる。
「行くよ。レントラー、でんこうせっかで接近するんだ!」
「近づかせないで! 連続でヘドロばくだん!」
早速地を蹴り、駆け出すレントラー。
「速い……!」
相手が何発もヘドロの塊を飛ばしてくるが、時には横に、時には跳んだりかがんだりしながら接近する。
「アイアンテール!」
「下がって避けて!」
レントラーは軽く跳躍して縦に回りしっぽを振り下ろすが、相手はバックステップでサッと回避する。
しっぽは、地面に叩きつけられた。
「いきなり突っ込むなんて、迂闊だよヨウタ君! リーフストーム!」
「それはどうかな? しっぽの反動で飛び上がるんだ!」
ロズレイドが両手のブーケを向けて、尖った葉っぱの嵐を起こす。
だが技を発動した時には、既に相手の姿は目の前から消えてしまっていた。
「今だ、アイアンテール!」
そして嵐が収まり両手を下げた直後、頭に重く鈍い衝撃がのしかかる。
アイアンテールは見事、ロズレイドの頭に直撃した。
「く、くさぶえ!」
「させない、もう一度アイアンテール!」
ロズレイドが両手を口元に添えてくさぶえを使おうとした為、着地して今度は水平にしっぽを叩きつけた。
「ロズレイド!?」
ロズレイドは技の直撃で後方に飛ばされてしまう。
「くさぶえをされたら厄介だ、でんこうせっか!」
「あ、バカ! 焦りすぎだヨウタ!」
今が好機、と目にも留まらぬ速さで迫ってきたが、ロズレイドは受け身を取ってすぐに体勢を整えた。
ヒロヤはヨウタの指示に苦言を呈している。
「引きつけて! ヘドロばくだん!」
目の前まで迫ってきてぶつかる、その寸前にヘドロの塊を飛ばす。
顔面に命中して、レントラーは思わず足を止めてしまう。
「今よ、リーフストーム!」
そして尖った葉っぱの嵐に飲み込まれる。
「レントラー!?」
嵐が収まった時には、レントラーは倒れていた。
「レントラー、戦闘不能!」
「……負けた」
アカリの審判が下された瞬間、ヨウタは肩の力が一気に抜け落ちるのを感じた。
「……ごめん、ありがとうレントラー。ゆっくり休んでくれ」
最後は、今にして思えば不用意だったかもしれない。
負けたのは自分のせいだ。それを謝りながら、彼はレントラーをボールに戻した。
「ヨウタ、最後は少し不用心だったな」
「……はい、自分でも今思いました」
やはり、自分は焦りすぎていたようだ。
ヒロヤの言葉に素直に頷くが、心の中では勝負に負けたことと、自分の不用意さに対する悔しさがこみ上げてきていた。
「くさぶえが厄介なのは分かるけど、冷静にならないとダメだぞ。
とはいえ俺もあれは突っ込んだと思うし気にすんなよ、次があるさ」
「そうだよお兄ちゃん、がんばって!」
「……うん、ありがとう二人とも」
その後二人から励ましの言葉をかけられ、ヨウタは妹にまで気を遣われる自分が少し情けなくなりながらも礼を言った。
「ヨウタ君」
アカリがロズレイドをボールに戻して、歩み寄ってきた。
「アカリ」
「すごく楽しかったよ、ありがとね!」
彼女は相変わらずまぶしい笑顔で、右手を差し出してきた
「ううん、僕も楽しかったよ。僕の方こそお礼を言いたいくらい、だけど……」
「けど?」
その右手を受け取りながら、言葉を返す。
「負けて、すっごく悔しい! それになんだか疲れちゃったよ」
「そうだね。もう暗くなってきたから、そろそろ戻ろっか」
そして四人は公園を出た。
帰路、ヨウタは次は必ずアカリに勝つ、とリベンジを誓うのだった。

せろん ( 2014/05/10(土) 12:27 )