ポケットモンスタータイド


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ポケットモンスタータイド
第31話 ヒロヤの挑戦、コザクラジム
「後はヒロヤさんだけですね」
コザクラシティ。この街にもポケモンジムがあるが、ヨウタとアカリはもう既に戦い、勝利している。
ポケモンセンターに預けたポケモンを受け取ってから、この街のジムへ向かう途中でヨウタが言った。
「ああ。まあ見てろよ、勝つからな!」
「はい、信じてます!」
「きっとヒロヤさんなら勝てますよ」
「うん、ヒロヤさんは強いもんね!」
「え、あ、ああ……。ま、まあな! 楽しみにしてろよ!」
ヒロヤはあまりにも持ち上げられすぎて、少し戸惑ってしまう。
そして言ってから、もう絶対負けられないな、と軽く後悔した。
「はい!」
「さっすがヒロヤさん! お兄ちゃんとちがってじしんたっぷり!」
「期待してますね」
「お、おう!」
ヨウタ達三人の眩しい笑顔が少しプレッシャーになる、などと言えるはずが無い。
ヒロヤは三人の期待に応える為に、心の中で気合いを入れた。



「おし、じゃあぶいぶい言わせちゃうか! まずはカイロスだ!」
「では我はおぬしだ、スカタンクよ!」
挑戦者ヒロヤが出したのはカイロス。とジムリーダー、忍者の格好をしたナスコンが出したのがスカタンクだ。
「む、戻れカイロス。いけベロベルト!」
早速ポケモンをチェンジする。
理由は、相手のスカタンクがだいもんじを持っているかもしれないからだ。
「ベロベルト、じしん!」
「スカタンク、避けてどくづき!」
早速攻撃をするが、跳躍で避けられてしまう。
さらに前足をかざして迫ってくる。
「よし来た、捕まえろ!」
お腹に一撃もらってしまうが、頭を掴んで逃がさないようにする。
「地面に叩きつけてじしんだ!」
そしてそのまま横に倒して、フィールドを踏みつけ衝撃波を食らわせる。
「いいぞベロベルト、もう一度じしん!」
「スカタンクよ、だいばくはつだ!」
再び地面を踏みつけ攻撃……しようとした直前、スカタンクが突如体から光を放った。
「うわっ!」
直後、耳をつんざく轟音と爆風がフィールドを包み、ヒロヤ達は慌てて顔を覆い隠す。
だがヨウタだけはルミを守っていた為、口や目に細かい砂が入ってしまった。
「うええっ……。ぺっぺっ」
「……あ、ありがとうお兄ちゃん」
「あ、当たり前だろ、大事な妹なんだから」
ヨウタはティッシュを取り出して、片目をこすりながらもう片方の手でもったティッシュに砂の混ざった唾を吐いていたが、妹から感謝されて目の痛みをこらえつつ少し照れくさそうにはにかんだ。
「ベロベルト、スカタンク、ともに戦闘不能!」
「ちぇっ、これならヨノワール出しときゃ良かったな。
悪いベロベルト、戻って休んでくれ」
「戻るのだスカタンク。次はおぬしだ、ドクロッグ!」
「相手はどく・かくとう、だったらお前だヨノワール!」
続けて二匹目、ヒロヤは相性の有利なゴーストタイプのヨノワールを繰り出す。
「ヨノワール、おにび!」
「甘いわ、ちょうはつ!」
ヨノワールは両手を構えて、紫色に燃える、不気味で怪しい炎を放とうとした。
しかしドクロッグが指を立てて馬鹿にした声を出すと、ヨノワールは不機嫌そうな顔になり技を中断してしまった。
「アカリ、あの技は確か……」
「うん、相手を攻撃技しか出せなくする補助技だね」
その様子を見て、観客席のヨウタが自分の知識が合っているか隣に座る少女に確認する。
「……お兄ちゃん、よくそんなこと知ってるね。むかしはバトルじゃなくて本をよんでたのに」
旅に出た当初はそのポケモンがどんなタイプでどんな特性かも分からなかった兄が、今では技の効果まで覚えている。
ルミは兄の変化に、素直に感心した。
「まあ、今はバトルも好きだからね。たまに勉強したり、アカリやヒロヤさんから教えてもらったりしてるんだ」
「……そうなんだ」
それだけ言うと、ヨウタは再びフィールドに向き直った。
ルミも少し兄の横顔を眺めてから、ヒロヤ達へと視線を戻す。
「しかたない、やな予感しかしないけど攻撃だ! ヨノワール、ほのおのパンチ!」
「遅いわ、ふいうち!」
ヨノワールが接近して拳を振りかぶったが、ドクロッグは素早く後ろに回り込んで背中に突きを浴びせた。
「……やっぱりな。悪いヨノワール、一旦戻ってくれ」
効果は抜群だ。だがヒロヤは驚いた様子は見せずにポケモンを交替した。
「そっか。ちょうはつで攻撃技しか出せなくして、ふいうちを確実に当てられるようにしたんだね」
ふいうちは相手が攻撃した時にのみ攻撃出来る技だ。
だがおにびは今ちょうはつの効果で使用出来ず、もしふいうちを覚えていれば食らってしまうと分かっていても攻撃するしか無かったのだ。
「……なるほど。ヨノワールにふいうちは効果抜群だし、おにびを封じられるしで一石二鳥だね」
ふいうちはあくタイプの物理技。おにびを当てられていれば相手の攻撃を下げられたが、封じられてしまい大ダメージを食らってしまった。
「おし来いカイロス!」
ヨノワールの代わりに、今までずっと出番の無かったカイロスがようやく現れた。
カイロスもやっと出番か、と意気込んでいる。
「カイロス、じしんだ!」
「跳んでどくづき!」
カイロスが地面を強く叩いて衝撃波を起こしたが、ドクロッグはいともたやすく避けて迫ってくる。
「おし、おもいきり挟め!」
「させんわ、屈め!」
「なにっ!?」
迫ってくるドクロッグに合わせて二本の角で胴体を挟もうとしたが、着地と同時に屈んで避けられる。
「下がれ!」
だが回避は間に合わず、どくづきを腹にもらってしまった。
「やるな……! けどまだまだ! 今度こそ挟むんだ!」
「下がってかわすのだ!」
すぐに反撃へと移ったが、向こうは細い体に見合った俊敏さでバックステップを踏んで避けてしまう。
「なかなか素早い……! だったら! がんせきふうじ!」
しかしこれ以上好きにさせるわけにはいかない。
カイロスが吠えると体の周りにいくつもの大きな岩が漂い始めた。
「やれ!」
そして再び吠えると、ドクロッグを囲むように岩が飛んでいった。
「止まれ!」
ドクロッグは自分の目の前や左右に岩が飛んできて、慌てて跳び退ろうとした。
しかしナスコンの制止が入って動きを止め、直後背後に大きな岩が落下した。
「さあ、これで身動きは取れないな! やれ、がんせきふうじ!」
周囲を囲む岩に戸惑っている間に、頭上から大岩が落ちてくる。
避ける場も無く、ドクロッグは岩に埋まってしまった。
「やったの!?」
「いや、まだだルミちゃん! カイロス、じしん!」
これで勝ったのだろうか、と気を抜くルミに返事をしながら指示を出す。
彼の言うとおり岩が砕け、中から細い腕が飛び出した。
続いて顔も出てきたところで、衝撃波が岩を砕いてドクロッグに届いた。
「ドクロッグ、戦闘不能!」
「ぬう、戻るのだドクロッグよ」
効果は抜群、体半分ほど岩に埋もれたままドクロッグは倒れた。
赤い光を浴びて、ボールの中へと戻っていく。
「ゆけっ、ペンドラー!」
とうとう最後の一匹だ。このポケモンを倒せばヒロヤの勝ちとなる。
「カイロス、がんせきふうじ!」
「カタをつけるッ! ハードローラーだッ!」
再び岩を飛ばすカイロスだが、なんとペンドラーはその巨体を丸め、転がりながら接近してくる。
「ちょちょ、まずっ!?」
向かっていった岩は虚しく砕け、ついに目の前まで来た。
が、避ける術が無い。
踏みつぶされてしまう。
「じしん!」
続けて丸まったまま跳び、地面にぶつかって衝撃波を起こした。
真下で潰れていたカイロスは、これも直撃してしまう。
「カイロス、戦闘不能!」
「サンキューカイロス、戻って休んでくれ。おし、最後はお前だヨノワール!」
これでヒロヤもラストワン、手負いのヨノワールだ。
だが、ヒロヤは余裕の笑みを浮かべている。負ける気はないらしい。
「さあ、行くぞ! じゃあ早速!」
「ハードローラー!」
「受け止めろ!」
ヒロヤが指示を出す前に、先ほど同様ペンドラーが迫ってくる。
しかしカイロスの時と違い、ヨノワールはその大きな手で勢いを止めてしまった。
「ハハハ、カイロスとはパワーが違うのだよパワーが! 投げるんだ!」
そしてその球体は、横倒しにされてしまう。
「今だ、トリックルーム!」
ペンドラーが起き上がるまで大きな隙がある。
ヨノワールが両手を構えた直後、フィールド全体を不思議な空間が包んだ。
「なんだ……!? 歪んでる、フィールドが……!」
ヨウタはわけが分からずうろたえる。
自分で言ってから、語順が逆なことに気付いた。
「おしヨノワール、ほのおのパンチ!」
彼が指示を出した。瞬間、ヨノワールがまるで消えたかのような速さでペンドラーに迫り、炎を纏った拳を叩きつけた。
「速い、なんてスピードだ!?」
「あれは、トリックルームの効果だよ」
「え?」
驚く自分に、アカリが説明してくれた。
どうやらあのトリックルームという技を使うと、遅いポケモン程速くなり、つまり行動する早さが逆転してしまうらしい。
「なるほど、だからヨノワールはあんな速く……」
「うん。ペンドラーはかなり速いから、この技は厳しいと思うよ」
「くっ、ハードローラー!」
「避けろ!」
ペンドラーは負けじと丸まって突進するが、相手の影すら捉えられない。
「ならば、じしん!」
この技なら跳ばなければ避けられない。丸まったまま高く飛び上がる。
「ヨノワール、真下に行って受け止めろ!」
そのまま勢い良く地面に衝突して、衝撃波が……起こらなかった。
目にも留まらぬ速さでペンドラーの真下へ向かったヨノワールは、落下を両手で止めてしまったのだ。
「やれ! 放り投げてほのおのパンチ!」
ペンドラーは宙に投げ出され、それに瞬時に追いつき燃える拳を食らわせた。
落下したペンドラーは、動かなくなった。
「ペンドラー、戦闘不能! よって勝者、挑戦者ヒロヤ!」
「イエス! やったぞヨノワール!」
審判が下され、ヒロヤはヨノワールに駆け寄ってハイタッチした。
そして彼がヨノワールを愛でている間に、ナスコンがジムバッジを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
紫色の毒々しい気泡を模したバッジ、ポイズンバッジ。
それを受け取って、ヒロヤ達はコザクラジムを後にした。


せろん ( 2014/05/04(日) 16:35 )