第30話 GSボールとヨウタの推測
「よし! じゃあ出てこいみんな!」
ヨウタが五つモンスターボールを投げ、中からはレントラー、ムクホーク、ニドキング、ブースター、オノンドが現れた。
「みんな、新しい仲間を紹介するよ。わざわいポケモンのアブソルだ!」
次にそれら五つとは別のモンスターボールを投げて、ポケモンを出す。
出てきたのは40番道路で新しく仲間になった、アブソル。
40番道路を通ったヨウタ達は今、コザクラシティという街に居る。
家にはあまり派手な色は使われておらず、昔の街並みの良さを残しつつ現代の技術も取り入れている街だ。
ヨウタ達は今、その街の公園に居る。
理由はヨウタの他のポケモン達とアブソルの顔合わせの為だ。
「このポケモンはアブソル。エミット団のやつらを許せないらしくてついて来たみたいで、エミット団に囲まれた時に助けてくれたのもこのポケモンなんだ」
その言葉を聞いて、レントラーはアブソルの目の前まで行って頭を下げた。
どうやら助けてもらったお礼ということらしい。
アブソルはレントラーに背を向けたが、少しの間を置いて振り返り、頷いた。
「うん、大丈夫そうだな」
レントラー達からアブソルへの第一印象も悪くなさそうだ。
「はい、みんな」
もう顔合わせは終わったが、戻すのもあれなのでせっかくだしポフィンをあげることにした。
「はい、アブソル」
アブソルも用心深げに匂いを嗅いでいたが、安全だと判断したらしくゆっくりと食べ始めた。
「……ずいぶん賑やかになったなあ」
旅を始めたばかりの頃はコリンクだけだったのに、今はたくさん仲間が増えている。
それに僕も、まだはっきりとはしてないけど少しずつ夢が見えてきた。
本当に、旅に出て良かった。
「……ところでヨウタ」
と感傷に浸っていると、ヒロヤが話しかけてきた。
「エミット団の狙いってなんなんだろうな?
一度目は金銀の葉っぱ、二度目は色違いピチュー。
で、今回のGSボールはなんなんだ? あいつらが狙うくらいには貴重な物なんだろうけど、なんか知ってる?」
「……知ってますけど、なにか?」
「お兄ちゃん、それむかつく」
「……ごめん」
彼の問いかけにしたり顔で返すと、妹から手厳しい一言を浴びてしまった。
早すぎる反抗期かな、なんて自分の中で寂しさを紛らわす。
「で、あれなんなんだ?」
「はい、よくぞ聞いてくれました! まずGSボールは」
「あ、いい。要点だけ頼む」
「……はい」
自分の知っていることの一から十まで全てを話そうとしたが、止められてしまった。
ヨウタは意気消沈しながらも言われた通り自分が大事だと思ったところだけを言うことにした。
「まず、GSボールはポケモンを捕まえる為のボールじゃあないんです」
もちろん一番大事なのはこのことでは無い。
最初は前置きからだ。
「なんだそりゃ? じゃあ何に使うんだよ」
「なんだと思います?」
「え、それは……」
ヒロヤは頭を悩ませている。
「きれいだから、かんしょーよー!」
「うーん、違うんだよな」
「じゃあほぞんよう?」
「それも違うよ。先に言っとくと布教用でも無いぞ」
「えー」
ルミは不満そうに唇を尖らせているが、他に理由は思いつかないのか黙ってしまった。
「……! サンキュールミちゃん、分かったぜ……!
俺の回答はこれだ! ズバリ、趣味の悪い成金野郎が自分の権力を誇示する為に金に物を言わせてつくったんだ!」
「残念、違います。というかそんな逸話あったら嫌ですよ。じゃあ答えを言います、オホン!」
「待ちなさい、ヨウタ君!」
「なにっ……?!」
そろそろ答えを、と思った瞬間、制止が入った。
「なるほど、まだ一人残っていたか」
「みんなの仇は必ず取るよ」
「良いだろう人間、言ってみるがいい」
ヨウタは最後の一人、アカリと顔を向かい合わせる。
「うーん……。……観賞用とかじゃないなら、儀礼用、とか?」
「……まあ一番近い」
「本当?」
「俺達の犠牲のおかげだな!」
「じゃあ答えを発表します」
「あ、うん」
さすがにこれ以上はないだろう。ここで打ち切ることにした。
「GSボールはポケモンを捕まえる為のボールじゃなくて、あるポケモンに会う為のボールなんです」
「あるポケモン……?」
「うん」
あるポケモン。僕が旅立つ前に読んだ本の、最後に読んだページに載っていたポケモンだ。
「時間を越える力を持っていて、平和な時代にだけ姿を見せると言われている。
森の守り神として祀られている幻のポケモン」
言いながら、その姿を思い浮かべる。
写実的な森を自由に飛び回っていた、頭は勾玉を連想する形で、薄い羽の生えた妖精のような神秘的なポケモン。
「ときわたりポケモン、セレビィ。
GSボールは、そのポケモンに会う為に必要なんです。
ジョウト地方ではGSボールを持ってウバメの祠っていう祠に行くとセレビィに会える、という話があります」
「セレビィに会うためのボールか……。……そういや、ヤガスリの森にも祠があったな」
「きっとエミット団の目的は、セレビィを捕まえて、力を悪用することなんでしょう」
エミット団の目的は、おそらくただセレビィに会うというだけではないだろう。
その為だけに強盗をするなどあまりにも愚かな行為であり、組織をつくるだけの理由にならず人材が集まるとも考えられないからだ。
今までのことを考えると、自然とその結論に行き着いた。
「ま、だろうな。と言いたいけど、一つ疑問がある。
なんであいつらは色違いのピチューを狙ってたんだ? 会えるのはギザミミのピチューだろ?」
「それは……。知らなかったんでしょう、会えるのがギザミミピチューだってことは」
「いや、まさか」
あいつらが言っていたのは確か、祠に行けばなにかが起こる、あのポケモンは自分達のものだ、です。
それにあいつらは金の葉っぱ銀の葉っぱのデマを信じてた人達です」
「……確かに」
言われて思わず納得してしまった。
確かにそれは説得力があるな。
「ん、どうしたんだ?」
そうやって四人で話していると、後ろからなにかに触られた。
振り返ると、レントラーが自分に前足を伸ばしていた。
「ああ、分かったよ」
どうやらまだポフィンを食べ足りないらしい。
前足で何度も催促してくる。
「はいはい分かった分かった、今出すから待っててね」
そしてあと何個かポフィンを食べさせた後、ヨウタ達はポケモン達をモンスターボールに戻した。