第29話 強襲、エミット団
キチョウシティを出て、39番道路。
次の街へ進む為に、ヨウタ達はそこを進んでいた。のだが……。
「……やっぱり、気のせいかな?」
言いながらヨウタは、正面に向き直った。
「ヨウタ君、どうしたのさっきから?」
アカリが尋ねる。そう、ヨウタが後ろを振り返ったのは先ほどだけでは無い。
キチョウシティを出発してからもう何度目かになるのだ。
「……なんだか、街を出てから見られてる、気がするんだよね」
と言ってまた振り返る。が、やはり何も見えない。
背中に、まるで監視されているかのように突き刺さる視線を感じるのだが、気のせいだろうか。
「気のせいだよきっと。お兄ちゃん、怖い話見た後はいつもそんなこと言ってるし」
「な……! る、ルミ!」
「そうなんだ、ヨウタ君。ふふ、かわいいね」
「ふ〜ん。もっと詳しくお聞かせ願いたく候だ」
「や、やめて!」
そしていつのまにか視線のことも忘れて、四人は楽しく話しながら道路を進んだ。
39番道路を通り、イチマツシティ。
アカリとヒロヤがジム戦を終わらせ、後はヨウタだけだ。
ヨウタはポケモンセンターを出て、意気揚々と歩き出した。
「よし、絶対負けないぞ!」
「お兄ちゃんに勝てるかなあ?」
「なにを〜っ!? ルミ、あまり僕達を侮るんじゃあないぞ!」
「うん、ヨウタ君はお父さんにも勝ったもんね!」
「も〜っ、アカリちゃんはいつもお兄ちゃんの味方をするんだからあ」
「え、そうかなあ?」
「そうだよ〜っ」
などと話しながら公園の前を通った時だ。
「ヨウタ!」
「ヨウタ君!」
「え?」
いきなり公園から幼なじみのミツキと、その父モクラン博士が飛び出してきた。
しかもミツキはアタッシュケースを持っている。
「これ、持っててくれ!」
「え、これは?」
ミツキがいきなりポケットから上が金色、下が白。
金色の方にはGとSの字が刻まれたボールを渡してきた。
「これ、もしかして……」
「それはGSボール。つーか早く隠せ!」
「え!? あ、うん、分かった……」
ヨウタはそのボールの正体と貴重さを知っていた。
もっとまじまじと、穴が空くほど見ていたかったが、彼に急かされしかたなくカバンにいれた。
「いたぞ、あそこだ!」
直後、公園の中から大声が聞こえてきた。
「げ、きやがった! 逃げろ!」
見てみるとエミット団のやつらがこちらに向かって走ってきている。
ミツキとモクランが走り出した為、ヨウタ達も慌てて追いかける。
「な、なんでお前達まで来てるんだよ!?」
「え、あ、つい……」
少し走ってミツキに追いついたが、怒鳴られてしまった。
……確かに、よく考えたら僕達は関係ないな。
「けど、やっぱり二人が追われてるのに無視は出来ないよ!」
「うん、私もそれに賛成!」
「あたしも!」
「俺はまあ、ヨウタ達がほっとけないしな」
「……はあ、しかたねえか。じゃあこっちだ!」
といってミツキは方向を変え走り出した。
ヨウタ達もそれについていく。
そして走っている間に、街の外まで来てしまった。
「よし……。ハァ、さすがに次の街まで行けば、ハァ、大丈夫だろ……」
といってイチマツシティと次の街を繋ぐ40番道路で一息ついていたのだが……。
「それは、ハァ、どうかな?」
「ちっ、また来やがった」
イチマツシティから、もう追っ手がやってきた。
ミツキとモクランが慌てて走りだそうと次の街への方角を向くと、そちらからもエミット団の人達が走ってきていた。
人数は両方合わせて20程度で、イチマツシティから来たしたっぱと次の街の方角からきたしたっぱは、それぞれ一人に率いられている。
そしていつのまにか、円形に取り囲まれてしまっていた。
「おいおい、さすがにエマージェンシーじゃねえか?」
「……まあ」
これではさすがに多勢に無勢が過ぎる。
ヒロヤの言葉に、ミツキは気まずそうに返事をした。
「さあ、大人しくそのアタッシュケースを渡してもらおうか」
「やっぱりてめえらの狙いはGSボールか!」
「いかにも」
その囲んでいるエミット団員の中で、雰囲気の違う二人が一歩前に進み出た。
一人は黒髪で、太い髪の束が二本後ろに流れている男性。
もう一人は紺色の長髪で、ポニーテールの女性。
服装はどちらも他の団員と変わりが無い。
「嫌だって言ったら……?」
と、ミツキが不敵な笑みを見せる。
「もしかしてミツキ、なにか秘策が……?」
「え、無いけど」
「……え?」
彼の様子に一瞬期待したヨウタだったが、それは直後に打ち砕かれてしまった。
「だったら力づくで渡してもらうまでだ、ゆけっヘルガー!」
「行きなさいシビルドン!」
彼ら雰囲気の違う二人に続いて、あからさまなしたっぱ団員達も次々ポケモンを出していく。
「よし来た、ゆけグライオン!」
「しかたない、正面突破だ! 来いブーバーン!」
「うん、それしかないよね。お願いロズレイド!」
「だよね、多分そうなると思ったよ。頼んだよレントラー!」
それにヨウタ達も対抗して、自分の相棒を繰り出した。
「グライオン、アクロバット!」
グライオンが早速ヘルガー目掛けて突進するが、
「シビルドン、くさむすび!」
「しまった!?」
もう一人の雰囲気の違う女性のシビルドンに妨害されてしまう。
「ロズレイド、ヘドロばくだん!」
「ラッタ、シビルドンを守るんだ!」
今度はアカリがシビルドンを攻撃しようとするが、それもしたっぱのラッタが身を盾にして防ぐ。
「ヘルガー、かえんほうしゃ!」
そしてロズレイドの背後からはヘルガーの火炎が迫る。
「ロズレイド!?」
「ブーバーン、きあいだま!」
だがブーバーンが飛び出して、その技を相殺する。
「ありがとうミツキ君……」
「へ、気にすんなよ。元々オレ達のせいだしな」
「二人とも、危ない! かみなりだレントラー!」
アカリとミツキが気を抜いた瞬間、上からしたっぱのゴルバットが迫ってきていた。
レントラーが電撃でそれを撃ち落とす。
「ブーバーン、かえんほうしゃ!」
ブーバーンも横から迫っていたマタドガスに腕だけを向けて火炎を放つ。
「シビルドン、かみなり!」
「ヘルガー、だいもんじ!」
だが直後二匹の大技が炸裂する。
「レントラーもかみなり!」
「ブーバーン、かえんほうしゃ!」
ヨウタ達がそれを迎え撃ち、二つの技と二つの技が拮抗する。
「レパルダス、きりさく!」
「ハブネーク、ポイズンテール!」
「ロズレイド、ヘドロばくだん!」
「グライオン、アクロバット!」
その隙をしたっぱ達が狙って来たが、アカリとヒロヤが二匹を守る。
「サンドパン、きりさく!」
「危ない、レントラー!」
「まずい、間に合わない!」
だが、さらに新手が現れた。
爪を構えてレントラーに迫る。
「レントラー……!」
ヨウタが歯ぎしりした瞬間。いきなりサンドパンの体が落下した。
「……え?」
さらに続けて、シビルドンとヘルガーにどこからか飛んできた風の刃が命中する。
倒すには至らなかったものの、二匹は気が逸れて技を中断してしまった。
「良く分からないけど、今だ! ワイルドボルト!」
「ああ、オーバーヒート!」
「分かった、リーフストーム!」
「ハサミギロチン!」
なんなのかは分からないが、とにかくチャンスには違いない。
こちらも大技を使って、一気に突破口を切り開く。
「ヨウタ、二手に分かれるぞ! オレ達はイチマツシティに戻る。お前達は次の街に進むんだ!」
「え、でも……」
今の技で開いた空間を駆け抜けながら話す。
ヨウタは、そう言いかけたがあることに気づいた。
「……分かった。行こうみんな!」
そしてアカリ達を率いて駆け抜ける。
したっぱ達がヨウタ達を追いかけようとしたが、
「その子ども達はいいわ、私達の狙いはこっちよ!」
の紺色の女性の指示でミツキ達へと向きを変えた。
そしてあっという間にいなくなってしまい、ヨウタ達は走る足を緩めゆっくり歩き始めた。
「ヨウタ君。ミツキ君とモクラン博士は本当に大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。だって、ミツキはGSボールを持ってないんだから」
「え?」
僕の返答に、アカリ達は頭に疑問符を浮かべる。
「どういうことだ、説明しろヨウタ!」
「ほら、ミツキ達に会った直後に受け取ったじゃないか」
「あ、そういえば……」
言われて皆思い出したらしい。
「そう、僕も忘れてたけど今GSボールは僕のカバンの中なんだ」
「なるほど、確かにそれなら……」
「良かった、ミツキさんは無事なんだね……」
ミツキのことが大好きなルミも、安心して胸をなで下ろしている。
「うん。じゃあ行こうか」
と言って再び前を向いた時だ。背中から風を感じ、直後目の前に一匹のポケモンが現れた。
「君は……」
全身は白い体毛に覆われており、右側頭部には鎌のように湾曲した黒い角を持つ。
「もしかして、さっき助けてくれたのも、39番道路で感じた視線の正体も君、アブソルかい?」
その問いに、アブソルは頷いた。
「お兄ちゃん、このポケモンは?」
「うん。名前はアブソル、わざわいポケモンって分類で、自然災害をキャッチする力を持っているんだ。険しい山岳地帯に生息しててめったに山の麓には降りてこなくて、災害の予兆を感じると姿を見せるために災いを呼ぶポケモンと誤解されていたみたいだよ」
「さすが伝承オタク。そういう話にも詳しいんだな」
「オタ……! ……まあ。
……ところでどうしてアブソルが僕達を助けてくれたんだ?」
と尋ねると、アブソルはヨウタの腰についたモンスターボールを叩いた。
「……?」
「うーん……。私達を助けてくれたんだし、もしかしてエミット団が許せないから一緒に戦いたい、とか……?」
首を傾げるヨウタの隣の彼女、アカリの発言に、アブソルは静かに頷いた。
「分かった、ありがとうアブソル。じゃあ、それ」
とヨウタがモンスターボールを当てるとアブソルはすぐに捕まり、パソコンのボックスに転送された。
今のヨウタの手持ちポケモンは六匹。
手持ちポケモンが六匹を越えると、捕まえたポケモンは自動的にパソコンのボックスに送られるのだ。
「よし、じゃあ行こう。早くボックスから引き出してあげないと」
「そうだね、行こっか」
そしてヨウタ達は、再び40番道路を進み始めた。