第28話 少女の挑戦、エスパージム
「今だハーデリア、かみくだく!」
ハーデリアのかみくだくがキリンリキに直撃する。
「キリンリキ、戦闘不能!」
効果は抜群、キリンリキは倒れた。
「やったぞハーデリア!」
ヨウタが拳を掲げて喜び、ハーデリアが返事をしながら振り返った瞬間。
ハーデリアの体が光り始めた。
「これは、まさか……」
ハーデリアを包む光はどんどん大きくなり、立派な毛を生やした姿に変化した。
「ムーランド。かんだいポケモン。
長い体毛に包まれると冬山でも一晩平気なほど暖かくとても心地よい」
「よし、いいぞムーランド! 絶対勝とう!」
ムーランドは再び返事をしたがその声は、先ほどよりも少し低くなっていた。
38番道路を通って、到着したのはキチョウシティ。
「最後、私の番だ」
エスパータイプのポケモンジムがある街だ。ヨウタとヒロヤがジム戦を終わらせて、残ったのはアカリだけだ。
「アカリちゃん、がんばってね!」
「アカリならきっと勝てるよ!」
「負けんなよー!」
「うん、ありがとうみんな! じゃあ行きますよ! 出てきてダブラン!」
アカリはつい最近捕まえたばかりのポケモン、ダブランを出す。
「負けないわよ。行って、キリンリキ」
対して黒色の長髪で紫色のキャミソールの女性、ジムリーダーのベニフジはキリンリキを出した。
余談だが、ヒロヤさんは黒色で長髪、クールそうな感じが俺好みと言っていた。
「上から読んでも下から読んでも?」
「キリンリキー!」
「あはは、楽しそう。ダブラン! 早速シャドーボール!」
ヨウタとルミのやり取りに笑みを浮かべながらアカリが早速攻撃を仕掛けるが、彼女は指示一つ出さない。
そして微動だにしないままシャドーボールが直撃、したが……。
「あ、あれ?」
キリンリキはそれを意に介さず立っている。
「残念だったわね。キリンリキのタイプはノーマルとエスパーの複合なのよ」
「ん? えっと、ノーマルタイプに効かなくて、エスパータイプは弱点だから……」
「ノーマルに効かないから、無効。ですよねヒロヤさん?」
「ああ」
頭を抱えるルミに、ヨウタが答える。
「キリンリキ、シャドーボール!」
「ダブラン、迎え撃って! シャドーボール!」
効果抜群の攻撃をしようとしたアカリだが、逆にこちらが食らいかける。
ダブランの目の前で二つの影の球はぶつかり合い、弾けた。
「ふう、危なかった。ダブラン、一度戻って! 次はあなたよ、トゲキッス!」
なんとか攻撃を防いだが、これでは一方的に弱点を突かれてしまう。アカリはポケモンを交替することにした。
「まずは手始め、でんじは!」
「キリンリキ、10まんボルト!」
出て来たトゲキッスが早速微弱な電気をキリンリキに浴びせるが、向こうが同時に放った技を食らってしまう。
「ああっ、効果抜群だ!? アカリ、結構不利だぞ……!」
「そうとも言えないぜ」
「え?」
「まあ見てりゃ分かる。……かもな」
「はあ……」
トゲキッスが効果抜群の技を受けたことヨウタは焦るが、ヒロヤはそれとは正反対に楽しげな笑みを浮かべる。
わけが分からないが、彼にそう言われてバトルに集中することにした。
「もう一度10まんボルト!」
「させないよ、エアスラッシュ!」
再び電気を放とうとやけに長くエネルギーを溜めているところにに、トゲキッスが空気の刃で切りつける。
するとキリンリキは、10まんボルトの動作をなぜか中断した。
「おっ、早速。な、見れば分かるだろ」
「いえ、さっぱり……」
ヒロヤは得意気だが、自分には全然分からない。
「……そう。じゃあ説明しよう! でんじはは相手を麻痺状態にする技で、エアスラッシュは相手を怯ませる追加効果がある。そしてトゲキッスの特性は?」
「トゲキッスの特性……?」
確か……。
「はりきり、ですか……?」
「そうそう、えらいはりきりボーイだな! って違う。もう一つあるだろ?」
「もう一つ……? うーん……」
そういえば、前にアカリから聞いたような……。それにこの状況で言うんだから、なにか関係があるはずだ。
ヨウタは喉元まで出かかっている答えをひねり出そうと懸命に頭を働かせる。
「……そうか、思い出したぞ! 追加効果が出る確率が上がる、てんのめぐみだ!」
「つまり?」
「え? えっと……。技がすごく出にくい……ってことですか?」
今までの話とさっきキリンリキが技を使えなかったことを考えると、これのはずだ。
だがまだ自信が持てず、少し控えめな回答になった。
「Exactly! そう、相手が効果抜群の技を持ってても使えなければ意味が無いんだ」
「そうなんだ、さすがアカリちゃん!」
「うーん……」
なるほど、先ほどキリンリキが10まんボルトを中断した理由に合点がいった。アカリの作戦は理解出来た、が……。
相手からしたら嫌な戦法だろうな、とヨウタはベニフジに少し同情した。
「もう一度エアスラッシュ!」
再びエアスラッシュが命中して、今度もキリンリキは動けない。
「決めてトゲキッス、マジカルシャイン!」
最後に強力な光を放って、キリンリキは倒れた。
「戻って、キリンリキ。次はあなたよ、チャーレム」
次に出て来たのはエスパーとかくとうの複合タイプのポケモン、チャーレム。
フェアリー・ひこうタイプのトゲキッスは相性が良い。
「うーん……。戻って、トゲキッス」
しかしアカリはトゲキッスを戻した。
「アカリがトゲキッスを戻したのは、れいとうパンチやストーンエッジの警戒かな?」
「だろうな」
そう、例えタイプ相性が良かったとしても相手の技次第では返り討ちにあう危険性があるからだ。
トゲキッスの体力は先ほどの10まんボルトでだいぶ削れている。もしそれらの技を覚えていれば一撃でやられてしまうだろう。
「行って、ダブラン!」
彼女が交替で出したのはダブラン。
「うん、ダブランならエスパー技もかくとう技も効かないからね」
「ダブラン、シャドーボール!」
「れいとうパンチではじいて」
ダブランが影の球を放つが、相手はそれを冷気を纏った裏拳で軽く弾き飛ばした。
「あんな簡単に弾けるなんて、すごいパワーだな」
「違うぞヨウタ」
「え?」
「あれはすごいパワーじゃなくて、ヨガパワーだ」
「……?」
なんの話だろう? いきなりヨガパワーなんて……。……まさか。
「ヒロヤさん、最近ヨガを始めたんですか?」
いきなりヨガパワーとか言い出すなんて、これしかありえない! と、思いつつも半信半疑で尋ねる。
「え? いや、特性の話だよ。チャーレムの特性ヨガパワーは、物理技の威力を倍にする効果なんだ」
「なるほど、だからあんなパワーが……」
「チャーレム、いわなだれ」
「サイコパワーで……」
チャーレムが降らせてくる岩をダブランがサイコパワーで止めようとした、が……。
「止まらない!?」
技の威力が高く、止めきれなかったようだ。
ダブランの頭上目掛けていくつもの岩が襲いかかる。
「じ、じゃあ岩を砕いて! サイコショック!」
ダブランが実体化した念波を岩にぶつけると、落ちてきた岩は粉々に砕け散った。
細かくなったものが頭に降ってきたが、ダメージにはなっていない。
「なられいとうパンチよ!」
「ダブラン、避けてシャドーボール!」
チャーレムが次は拳をかざして飛びかかって来たが、横に転がって避けてシャドーボールを食らわせる。
しかしあちらは地面を殴っていた拳をそのまま動かし、ダブランも冷気を纏った裏拳を食らって宙に投げ出されてしまった。
「もう一度れいとうパンチ!」
「ダブラン、サイコショック!」
そして追うように跳んで再び拳をかざして迫って来たが、実体化した念波の球を頭や胴など、拳に当たらないように飛ばして食らわせた。
「チャーレム、戦闘不能!」
「ありがとうチャーレム、休んでね。最後はあなたよ、サーナイト」
ついに最後のポケモンだ。アカリのポケモンは残り三匹、かなり調子がいい。
「じゃあ、早速シャドーボール!」
「避けてシャドーボール!」
ダブランが早速放った影の球はたやすく避けられ、あちらも同じ技で返してきた。
「あなたも避けて!」
だがそう簡単には食らわない。
ダブランは動きが鈍いが、距離が開いている為転がって避けるのは十分間に合った。
「距離を詰めてシャドーボール!」
しかし今度は避けさせまいと、サーナイトは距離を詰めてシャドーボールを放ってきた。
「っ……! シャドーボールで相殺して!」
距離が近くて明らかに回避が間に合わない。
だからといってこのまま食らうわけにもいかず、相殺をさせる。
「……うう、スピードが……」
「もう一度シャドーボール!」
やはりこれでは一時凌ぎにならない。
アカリの心に諦めが芽生え始めていた。
「……そうだ、戻ってダブラン!」
だが、ギリギリである考えが浮かんだ。
ダブランがボールに戻った直後、先ほどまでいた相手を捉えられず影の球は虚しく空を切った。
「行って、トゲキッス!」
そして出したのはトゲキッス。
ダブランのスピード不足を補う為の鍵を握っているポケモンだ。
「サーナイト、10まんボルト!」
「トゲキッス、避けて接近して!」
サーナイトが今度は電気を放つが、トゲキッスはひらりとひるがえってかわし一気に近づく。
「サーナイト、防御よ!」
「無駄無駄、ですよ! でんじは!」
そのまま近距離で攻撃……をせずに微弱な電気を浴びせた。
「サーナイト、10まんボルト!」
「トゲキッス、戦闘不能!」
しかし相手は痺れず、電気を浴びてトゲキッスは倒れてしまった。
「ありがとうトゲキッス、ゆっくり休んでね。またお願いダブラン!」
それでもアカリは焦った様子はない。むしろ余裕を取り戻し笑みを浮かべている。
「……そうか。でんじはで相手を遅くするのが目的だな。やるなアカリ」
「なるほど、確かにそれなら……。すごいなアカリ」
「?」
でんじはは相手を麻痺させるだけでなく、相手の動きを鈍らせる効果もある。
アカリの狙いは先ほどのような麻痺と怯みではなく、相手の素早さを奪うことなのだろう。
「サーナイト、シャドーボール!」
「ダブラン、シャドーボールで相殺して接近よ!」
サーナイトが手間取りながら放った影の球をたやすく相殺し、ダブランは転がって眼前に迫る。
「シャドーボール!」
そして効果抜群の一撃を食らわせた。
「あなたもシャドーボール!」
「ダブラン、戦闘不能!」
が、耐えられてしまった。反撃にあい、ダブランは倒れた。
「さあ、後はあなたよロズレイド!」
これでアカリも最後のポケモンだ。だが向こうは麻痺状態で体力も大幅に削れていて圧倒的に有利だ。
「サーナイト、サイコショック!」
「ロズレイド! 避けてリーフストーム!」
サーナイトはまたも手間取りながら攻撃を放つが、ロズレイドには遅すぎる。
跳躍でたやすく回避して、空中から尖った葉っぱの嵐を食らわせた。
「サーナイト、戦闘不能!」
「やった、勝ったよロズレイド!」
ロズレイドがアカリに駆け寄り、アカリもロズレイドに駆け寄って抱きしめた。
そして頭を撫でていると、ベニフジが歩み寄ってきて、バッジを差し出した。
紫色で波のような形のバッジだ。
「ありがとうございます! うん、サイコバッジゲット!」
その後彼女達はポケモンセンターに戻って、バトルで傷ついたポケモン達を預けた。