第25話 再戦、アサノハジム
街路樹が立ち並び、公園には噴水がある。地面は石畳で景観が良い。
彼らは帰って来たのだ、アサノハシティに。
「ありがとうございます」
ヨウタ達は預けていたモンスターボールを受け取り、ポケモンセンターを出た。
「アカリはセンサイさんに挑むの?」
早速アサノハジムに向かいたいが、まずは順番決めからだ。
最初はアカリに聞いてみる。
「ううん。私は、本気のお父さんとバトルがしたい。だから、まだいいの」
「そっか。ヒロヤさんは?」
「俺パス。仲間のパパさんとジムバトルは、もし俺が負けたらすごく悔しいし、なんか気分も乗らないしな」
「分かりました」
二人とも挑戦をしないみたいだ。つまり、自分がすぐにジム戦を出来るということだ。
「じゃあ早速行こう、みんな!」
すでに出すポケモンは決まっている。
ついにリベンジを果たす時が来たのだ。
ヨウタは立ち止まること無くジムへの道を歩き出した。
「お久しぶりです、センサイさん!」
ジムのガラス戸が左右にスライドして開き、中へ入る。
すると待っていたかのように緑のトレーナーに黒のズボンの男性、アカリの父でアサノハジムジムリーダーのセンサイが立っていた為、頭を下げた。
「久しぶり、みんな。ヨウタ君、ルミちゃん、ヒロヤさん。うちのアカリが迷惑をかけなかったかい?」
「お、お父さん!」
「いえ、そんな! アカリはしっかりしてるので迷惑なんて全然無かったですよ!」
「なら良かった」
彼はほっとした顔で笑っている。
アカリ、本当にセンサイさんに愛されているんだな。
「じゃあヨウタ君、早速挑戦するかい?」
「はい!」
センサイの一言で、ヨウタ達はすぐバトルフィールドへと移動した。
「使用ポケモンは三体! 先に全てのポケモンを倒された方の負けとなり、交替は挑戦者のみ認められます!」
「負けませんよセンサイさん、リベンジです! 行くんだブースター!」
ヨウタが最初に出したのはブースター。
くさタイプのジムリーダーのセンサイが相手なのだから当然か。
「さあ、まずはお前だ! ルンパッパ!」
対してセンサイはみず・くさ複合タイプのルンパッパ。
どうやら苦手タイプの対策もバッチリらしい。
「アカリちゃん、どっちを応援するの?」
「うぅ……。……よ、ヨウタ君! がんばって、ヨウタ君!」
「うん、ありがとうアカリ!」
アカリからの声援を受け、彼女の顔を見ながら頷いて向き直る。
「(……あっ。センサイさん少し悲しそうだ)」
すると、対戦相手の顔が少し悲しげになっていた。
だが、そろそろスイッチを切り替えなければ。
「戻れブースター! 頼むぞレントラー!」
ヨウタは早速ポケモンを交替する。
「え、なんで戻してるのお兄ちゃん?」
「えっとね、ルミちゃん。ルンパッパはくさタイプだけじゃなくてみずタイプも持ってるから、ブースターじゃ弱点を突かれちゃうの」
「そうなんだ。お兄ちゃんのクセにナマイキだけど、ちゃんと考えてたんだね」
「うん、そうみたいだね」
アカリとルミは仲良さそうに話している。
ヒロヤは生意気なのはどっちだ、と思ったが言わないことにした。
「レントラー、かみなり!」
「そのレントラーの特性はとうそうしん、迎え撃つのは得策じゃないね。避けるんだルンパッパ!」
迫りくる電気を、ルンパッパは軽快なステップで避ける。
「ハイドロポンプ!」
「レントラーも避けてくれ!」
対してレントラーも、勢いの激しい水の直線を横に跳んで避ける。
「接近しろ!」
「エナジーボールを連打だ!」
駆け出したレントラーに緑色の光球が何度も迫るが、そのたびにステップを踏んで避けながらついにルンパッパの目の前に躍り出た。
「ワイルドボルト!」
電気を纏った突進を、ルンパッパは避けることも防ぐこともできない。
直撃して、ルンパッパは勢いで後退するが飛ばされないように踏みとどまった。
「ハイドロポンプ!」
そして反撃の水流を放つ。
レントラーも顔面に浴びてしまうが、後退しないようその場でこらえている。
「いいぞレントラー、かみなり!」
未だ水流を浴び続けながらも、レントラーは電気を放つ。
水流を押し切って届いた電気は、ルンパッパに大きなダメージを与えた。
「ルンパッパ、戦闘不能!」
先ほどのワイルドボルトのダメージもあり、ルンパッパは倒れた。
「ありがとうルンパッパ、休んでくれ。次はお前だ、ナットレイ!」
「よくやったレントラー、一度戻って休むんだ。出てこいブースター!」
相手はくさ・はがねタイプのナットレイ。ならばほのおタイプのブースターがかなり有利だ。
ヨウタはレントラーを戻して、再度ブースターを繰り出した。
「ブースター、かえんほうしゃ!」
「ナットレイ、避けてじならし!」
ブースターが早速炎を放つが、相手は背中から生えたトゲつきの触手で地面を押し、浮き上がって避けてしまう。
さらに炎が止むと同時に地面を踏みならして地響きを起こし、周りを攻撃する。
「しまった、ブースター!」
名前的にもじめんタイプの技だろう、ブースターには効果が抜群だ。
心配して声をかけるが、幸いそこまで威力は無いらしくまだまだ戦えそうだ。
「よし、かえんほうしゃ!」
返しの一撃でナットレイは倒れた。
「ナットレイ、戦闘不能!」
「よくやったナットレイ、ゆっくり休んでくれ」
しかし心なしか、ブースターが炎を放つまでの時間が長く思えた。
「気を付けてヨウタ君! ブースターは今じならしの効果で素早さが下がってるよ!」
「なんだって!?」
アカリの言葉を聞いて理解した。
やはり先ほどの違和感は気のせいでは無かったのだ。
「そう。じならしは当たれば必ず相手の素早さを下げる効果があるんだ。
最後だ、モジャンボ!」
とうとう最後の一匹が現れた。
彼の切り札、モジャンボだ。
全身を青いツタに覆われた巨体が、威圧感を放っている。
「かえんほうしゃ!」
「遅い、じしんだ!」
ブースターの素早さが下がっている。
バトルを急いたヨウタが指示を出したが、炎を放つ前に衝撃波を受けてしまう。
「ブースター!」
「ブースター、戦闘不能!」
効果は抜群、ブースターは倒れた。
「次は君だ、ニドキング!」
ついにヨウタの三匹目だ。どく・じめんタイプでモジャンボの弱点を突けるが、こちらもじしんで弱点を突かれてしまう。
「ニドキング、跳んでどくづきだ!」
だが、当たらなければ良い話だ。
じしんは空中にいる相手には当たらない。
だから跳んでいればじしんを食らうことはないのだ。
「なかなかのジャンプ力だ。が、甘いよヨウタ君! パワーウィップ!」
しかしセンサイは余裕を崩さない。
ニドキングの突き出した拳がモジャンボに届くよりも先に、モジャンボの両腕がニドキングを叩きつけた。
「しまった……!」
「じしん!」
ニドキングは体勢を崩し地面に倒れてしまう。そこに衝撃波を当てられ、避けられない。
効果は抜群だ。
「これで終わらせるよ、もう一度じしん!」
「ニドキング……! だいもんじ!」
倒れたままのニドキングが大の字の炎を放って直撃したが、相手が怯んだのは一瞬だった。
すぐに持ち直して衝撃波を起こし、ニドキングは倒れた。
「ありがとうニドキング、ゆっくり休んでくれ。……後は君だけだ。レントラー!」
これでヨウタも最後の一匹。タイプ相性が不利な相手ではあるが、向こうもだいもんじが効いているはずだ。
息を荒げているモジャンボと、休んでいたおかげで元気になったレントラーが対峙する。
「センサイさん、負けませんよ! レントラー、かみなり!」
「防御してじしん!」
「跳ぶんだ!」
レントラーの放った電気は両腕で受け止められたが、向こうの攻撃も跳んで避ける。
「かみなり!」
「防いでげんしのちから!」
そして空中から放った電気も受け止められ、岩のようなエネルギーの塊を食らってしまう。
「モジャンボ、パワーウィップ!」
技の直撃を受けて落下、前脚の片膝が地面に着いているレントラーに、モジャンボの両腕が振り下ろされる。
「ダメ、避けて!」
「ううん、避けないよ。突っ込めレントラー! ワイルドボルト!」
後少しで腕がぶつかる、その瞬間にレントラーは動いた。
腹への直撃を食らったモジャンボは一瞬大きく揺れ、直後あお向けに倒れた。
「モジャンボ、戦闘不能! よって勝者、ヒガキタウンのヨウタ!」
「……やったぞ、レントラー!」
「やった、ヨウタ君が勝った!」
「良かったねアカリちゃん!」
「……良くがんばったなモジャンボ、ゆっくり休むんだ」
ヨウタはレントラーに駆け寄り、アカリとルミは抱き合っている。
センサイはモジャンボを労い、静かにボールに戻した。
「おめでとう、ヨウタ君。これはこのジムに勝った証、ツリーバッジだ」
「あっ、戻って休んでくれレントラー。ありがとうございます、センサイさん!
やった、ツリーバッジゲットだ!」
センサイが歩み寄り差し出した、木を模した型のバッジ。
ヨウタはレントラーを戻してからそれを受け取り、バッジケースに収めた。
「それじゃあ、ありがとうございました!」
「待つんだヨウタ君!」
頭を下げて去ろうとした彼を、センサイが引き止める。
「え?」
「ヨウタ君、君の夢はなんだい?」
「僕の夢……?」
僕の夢。伝説や幻のポケモンに会うこと……? ……いや、それもある、けど、それだけじゃあない気がする。
僕の夢は……。
「……伝説や幻のポケモンに会うこと、です」
なぜだか脳裏にバトルしているミツキと、こそばゆそうに笑うアカリの姿が浮かんだ。
だが、すぐに振り払って答える。
「そうか、きっとヨウタ君なら会えるよ。呼び止めて悪かったね。じゃあ、アカリを頼んだよ」
「あはは、任せて下さい。僕の方が迷惑をかけちゃうかもしれませんけど。じゃあさようなら」
そしてヨウタは、今度こそバトルフィールドを後にした。