ポケットモンスタータイド


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第21話 エミット団再び ピチュー泥棒を追え

ここはキクビシタウン。特に目立った所の無い普通の町だ。
ヨウタ達は回復の為に預けていたポケモン達を受け取り、ポケモンセンターを出た。
「じゃあ、これからどうする?」
「うーん、そうだな……」
日はまだ高いが、特にすることは無い。公園まで行き四人で頭を抱えていると……。
「きゃあ!? ど、泥棒!」
突如、道路から叫び声が聞こえた。
「どうしたんですか!?」
慌てて飛び出すと、一人のポニーテールの少女が尻餅をついている。
そして彼女の視線の先では、彼女に背を向けた一人の男性が小脇にピチューを抱えて走り去っていく所だった。
その男性の服装はヨウタ達にも見覚えがある。
白いハンチングに白いジャケット、背中に青いEの文字。
「あいつは、エミット団……!」
「あいつが私のピチューをいきなり……!」
どうやらこの少女はエミット団のしたっぱにピチューを奪われたらしい。
「アカリ、ルミ、この人を頼んだ」
「うん、わかった!」
「任せて!」
一人のポケモントレーナーとして、人のポケモンを奪うやつは許せない。
泣きそうな少女を二人に任せて、ヨウタとヒロヤは顔を見合わせた。
「行きましょうヒロヤさん!」
「ああ、急ぐぞ!」
互いに頷き合い、彼らは駆け出した。



「こいつがピカチュウカラーのピチューか」
「確かに色が普通とちげえな」
町の外れ。寂れて辺りに人気の無い廃屋。
その中でエミット団のしたっぱ達が話している。
「……どうやらあの女の子のピチュー、色違いらしいな」
「色違い?」
外から窓の近くに身をかがめて盗み聞きしているヨウタとヒロヤ。
その最中、ヒロヤが聞き慣れない言葉を口にする。
「ああ。ポケモンの中には稀に、通常と違う色のポケモンが居るんだ」
しかしそれにはヨウタも心当たりがあった。
「そういえば僕も聞いたことがあります。ジョウト地方で初めて発見されて、それからカントーやホウエンなど様々な地方で見られるようになったあれですね」
「知らないけど」
「今思い出したんですけど、そのジョウト地方では悪いやつらの流した怪電波のせいで」
「あー分かった、もういい。その話は後でたっぷり聞いてやるから、今はこっちに集中しようぜ」
「あ、そうですよね……。すみません……」
ヨウタが本で身に付けた知識を無駄にひけらかそうとしたが、止められてしまった。
だが彼の言うとおりだ。今は雑談をしている場合ではない。
「こいつを祠に連れて行けば何かが起こるんだよな?」
「ああ。これであのポケモンは俺達のもんだぜ」
「……声からして、三人だな」
中から聞こえてきた声の数で判断して、次にこっそり中の様子を確かめる。
やはり三人で間違いは無いようだ。
「行くぞ、ヨウタ」
「はい。でも、どこからですか?」
「当然窓からだ」
「え?」
今頭上にある窓。立ち上がれば入ること自体は容易い。
だが、それは端の方が割れ落ちているだけで人が入れる程の隙間は無い。
「穴の大きさなら、割ればモーマンタイだ」
「でも……」
戸惑う僕の様子を察してヒロヤさんが自分の案を出したけど、それバレたら怒られるの僕達だよな……。
そう思い渋っていたが、ヨウタの考えはこの一言で切り替わる。
「あいつらのせいにすれば大丈夫だ。俺達は知らぬ存ぜぬで突き通すぞ」
……確かに。あいつらは悪いやつらだ、やってもおかしくない。
そもそも元から割れてると思われる可能性もある。
それにまあもし僕達だってバレても、正義の為だしどうせ廃屋だし大したお咎めは受けないだろう。
……よし。
「行きましょう、ヒロヤさん」
「ああ、俺は二人と戦うから一人は任せた! ゆけっ、グライオン!」
「はい! ピカチュウカラーのピチューを祠に連れて行って会えるのはギザミミのピチューです! ゆけっ、ルクシオ!」
腹は決まった。グライオンが窓を叩き割り、二人がそこから突入する。
当然向こうは驚いているが、すぐにポケモンを出して対応してきた。
出て来たのはゴルバット、アーボック、ラッタだ。
「ルクシオ! でんげきはだ!」
ルクシオが先手を取って素早く電気を浴びせる。
効果は抜群、かなりのダメージだろう。
「どくどくのキバ!」
しかし敵も毒のある牙で噛みついて反撃してくる。
顎の力はなかなかに強く、暴れても振り落とせない。
「はは、どうだ小僧!」
「でんげきは」
相手のしたっぱが調子に乗ったのもつかの間、ゴルバットは再び電気を浴びる。
ゴルバットは倒れ、したっぱは慌ててボールに戻した。
ヨウタが隣を見ると、そちらも既に終わっていた。
「こ、こいつら強い……!」
「いいか覚えてろ!」
そしてしたっぱ達はあからさまな捨て台詞を吐いて窓から飛び出して行った。
「……よし、戻るかヨウタ」
「はい。行こう、ピカチュウカラーのピチュー」
ヨウタ達も、部屋の隅で震えていたピチューを保護して公園に戻ることにした。



「本当にありがとうございます!」
「気持ちは伝わってるから、そんな何度も頭を下げなくても大丈夫だよ」
「でも……」
公園に戻り、ピチューのトレーナーの少女、コトハというらしい、のもとに連れて行くと、彼女達は泣いて喜んだ。
そして先ほどから何度も頭を下げてお礼を言ってくるが、さすがにヨウタもヒロヤも困っている。
「本当に何かお礼をしたくて……。なにかありませんか? その、定番のほっぺにちゅーとか……」
「ええっ!?」
驚愕の発言に、ヨウタと共にアカリも声を上げる。
「お、いいねえ。ヨウタ、してもらったらどうだ?」
「ヒロヤさん、やめてください! お礼なんていいよ。僕もヒロヤさんも君達の笑顔が見れただけでも十分だから」
「うわっ、お兄ちゃんそのセリフ臭いよ……」
「俺はほっぺにちゅーしてくれるって言うなら喜んでしてほしいけど」
「むーっ……」
茶化されて焦りながらもヨウタが言うが、妹には引かれ、ヒロヤはふざけ、アカリはヨウタをいぶかしげに見つめている。
「え、ええ……」
彼らの反応に、ヨウタもさすがに困ってしまう。
「ヨウタさん、ヒロヤさん、アカリさん、ルミちゃん。皆さん、本当にありがとうございました……」
「気にしないでいいよ。じゃあ僕達は行くよ、じゃあね」
「はい、また会いましょうね!」
そして彼女と別れた後、四人はポケモンセンターへと向かった。


せろん ( 2014/03/29(土) 17:15 )