第19話 アカリ、新たなライバル
アジロタウンを抜けて34番道路を通り、到着したのはサヤガタシティ。
そしてポケモンセンターへ向かう途中で、一人の少年に出会った。
「もしかして君はヨウタ君?」
「そういう君はコウイチ君!」
その少年は、以前コウシタウンでバトルをしたコウイチだ。
「ヨウタ君達もこの街に来たばかりかい?」
「うん。コウイチ君も?」
「そう。ボクはこれからポケモンセンターに行くんだけれど、良ければ一緒に行かないかい?」
やはり彼もこの街に来たばかりらしい。断る理由は無い。
「もちろん」
すぐに返事をして、五人はポケモンセンターに向かった。
「じゃあコウイチ君、やろうか!」
「うん、負けないよヨウタ君! なんたってライバルだからね!」
二人が公園で向かい合い、ベルトについたモンスターボールに手を伸ばしたその時。
「あっ、コウイチ!?」
一人の少女が叫ぶ声が横から聞こえた。
「この声……」
ヨウタ達もボールを投げるのを中断し、全員の視線がその声の方向へと注がれた。
立っているのは赤毛でウェーブのかかった髪の女の子。
つり目で腰に手を当てているたたずまいが、彼女の強気な性格を窺わせる。
「久しぶりねコウイチ!」
「う、うん……。久しぶり、スミカ」
なんてことだ。僕にはあんなにぐいぐい自分の意思をごり押してきたコウイチが押されている。
彼女の迫力に、ヨウタもひっそりと畏怖する。
「その人達は?」
「ああ、前に話したヨウタ君達だよ」
「ふーん、そう」
スミカはそれだけ聞くと、アカリのことをまるで品定めでもするかのごとくしげしげと眺め始めた。
「えっと……。なにか……?」
「身長は平均的、顔はまあ、……かわいいわね……。スタイルは……」
そう言って彼女はいぶかしげにぶつぶつと独り言をつぶやいていたが、いきなり明るい顔に変わった。
「あの、なんですか……?」
「よし、いいわ! あなたじゃ少し役不足かもしれないけど、アタシのライバルにしてあげる!」
「役者不足ね。それか力不足」
「う、うるさい!」
彼女はアカリを指差し高々と宣言するが、コウイチの指摘に恥ずかしそうに怒鳴る。
「え、なんで私が?」
当然アカリはわけが分からず首を傾げる。
「もちろん、あなたもアタシもモクラン博士からポケモンをもらったトレーナー同士だからよ!」
その理由を聞いたヨウタには、かなりの既視感があった。
そしてまたかよ、なんだよその理由、と声に出しそうになるのをこらえて心の中で叫んだ。
「ライバル……! 分かった、そういう理由ならしかたないね! いいよ、じゃあ私とバトルしよう!」
「(アカリはそれでいいのかよ!)」
ヨウタがまたも心の中でツッコミを入れながらちらと横を見ると、ヒロヤもならしかたない、と言わんばかりの顔をしている。
もしかしておかしいのは自分なのかと思い始めたヨウタは、もうこの理由にはツッコまないと心に誓った。
「ふん、度胸だけは認めてあげる! 負けても泣かないことね!」
「そっちこそ! 泣いても慰めてあげないからね!」
「余計なお世話よ! ルールは二対二、じゃあ始めましょう!」
そうして火花を散らしながら二人は距離を取り、
「まずはあなたよ、メリープ!」
「さあ、行きなさい! チョロネコ!」
モンスターボールを投げてポケモンを出した。
「メリープ、でんじ……。でんきショック!」
アカリが先に指示を出す。でんじは、と言いかけて指示を切り替えた。
メリープは電気を放つが、チョロネコは軽い身のこなしでかわしてしまう。
「なんで指示を変えたんだろう? 先にでんじはをしたら有利なのに」
「それは俺の口から説明するぜ!」
「すっかり解説役が板についてる……」
首を傾げるヨウタに、横からヒロヤが口を出す。
幾度となくその光景を見てきたルミは、二人に聞こえないようにつぶやいた。
「チョロネコの特性なーんだ?」
「はい、かるわざ!」
「と?」
「え? えっと……」
ヒロヤが出した問題にヨウタは意気揚々と答えるが、さらに続けられて言葉に詰まってしまう。
「メリープ、もう一度でんきショック!」
「がんばれアカリちゃん!」
二人がクイズをしている間にも、バトルは進んでいる。
ルミの応援に、アカリはウインクで応えた。
「うう〜ん……!」
「はい時間切れー」
「そんなっ!?」
「答えはじゅうなんだ」
「じゅうなん?」
せっかく答えを教えてもらったのはいいが、彼にはさっぱり分からない。
「どんな効果で、いつ発動するんですか?」
「ああ。この特性の持ち主は、まひ状態にならないんだ」
尋ねると、親切に教えてくれた。
「なるほど、だからアカリは……。……やっぱりポケモンバトルって奥深いんですね」
「おう、まあな!」
アカリはさすがジムリーダーを目指しているだけあるな、と感心しつつ、ヨウタはバトルへ意識を戻した。
「チョロネコ、つじぎり!」
チョロネコの鋭い爪がメリープを切り裂く。
「メリープ!」
ダメージは大きいが、なんとか持ちこたえる。
「いいよメリープ、でんきショック!」
そして反撃の電気で、チョロネコは倒れた。
「あ、ち、チョロネコ!」
「どう? これで先取だよ! ってメリープ……?」
彼女がガッツポーズをしながらメリープに声をかけると、メリープが突然光に包まれた。
光はじょじょに形を変え、ピンクの体で頭と首に綿毛が生えた姿が現れた。
「モココ。わたげポケモン。
電気を通さない地肌はゴムのようにつるつるだが体毛は電気を溜めやすい」
「やったあ! うん、この調子でがんばろう!」
「うう……!」
「えっと、次のポケモンを……」
アカリが意気揚々と構えるが、スミカはなかなか二匹目を出さない。
「わ、分かってるわよ! クマシュン、行きなさい!」
少し急かすと、焦って二匹目を繰り出した。
スミカが出したのはクマシュン。こおりタイプのポケモンだ。
「クマシュン、アクアジェット!」
「モココ、避けて!」
クマシュンが、かわいらしい見た目からは想像も出来ない速さで突進を決める。
モココは直撃してしまい、せっかくの進化も虚しく倒れてしまった。
「ありがとうモココ、ゆっくり休んでね。お願い、ロゼリア!」
アカリの二匹目は相棒のロゼリア。
「タイプ相性は不利だね……」
「けど、アカリにもきっと作戦が」
「ロゼリア! 相性は不利だけど、がんばろうね!」
ヨウタがコウイチの言葉に反応して作戦があるんだよ、と続けようとしたが、どうやら……。
「作戦が……。……無い、みたいだね」
どうやら、彼女はただロゼリアが出したかっただけのようだ。
「アカリ、がんばれ! アカリとロゼリアならきっと勝てるよ!」
ロゼリアではクマシュンに弱点を突かれてしまう。それでもアカリなら勝てる気がして、そして勝ってほしくて、ヨウタも応援に力を込める。
「うん、ありがとう! ロゼリア、マジカルリーフ!」
「アクアジェット!」
ロゼリアが不思議な葉っぱを飛ばそうとするが、その前にクマシュンの突撃が決まる。はずが……。
「クマシュン!?」
クマシュンは苦しそうな顔で動かずに、葉っぱに直撃してしまう。
「まさか……」
スミカが目を凝らすと、クマシュンの体表をパリパリと電気が走っていた。
「これはまさか、麻痺……!?」
先ほどモココへアクアジェットを決めた時に、モココの特性せいでんきが発動していたらしい。
麻痺は動きが鈍り、たまに行動不能に陥る厄介な状態異常だ。
この勝負、どちらが勝つか分からなくなってきた。
「接近しなさい!」
「マジカルリーフよ!」
「防御して!」
接近してくる相手に葉っぱを飛ばして迎え撃つが、腕で防ぎながら駆け寄ってくる。
「れいとうパンチ!」
そして思いきりロゼリアに拳を叩き込む。
「効果は抜群だ!」
「ロゼリア!」
ロゼリアは宙に飛ばされ、山なりに舞う。しかし、まだ目は開いている。戦闘不能ではないようだ。
「いいわよクマシュン! アクアジェット!」
「お願い……! マジカルリーフ!」
二人の指示は同時だった。スミカが指示したのは素早い攻撃アクアジェット。
しかし、先手を取ったのはロゼリアだった。二度目のマジカルリーフを食らったクマシュンは、耐えれずに倒れた。
どうやら体が痺れて動けず、技を使えなかったらしい。
「やった、私達の勝ち!」
「うう……!」
喜びに溢れるアカリとは正反対に、スミカはうつむき肩を震わせている。
「あ、まず……!」
「うわぁぁぁん!」
「え!?」
その様子にコウイチが焦りを見せた直後、大きな泣き声が響き渡った。
「ええ!?」
「ひぐっ……! クマシュン、戻って……!
お、覚えておきなさい! 次は負けないわよ!」
彼女は突然泣き出したかと思えばクマシュンを戻し、走り去ってしまった。
「ああ……。じ、じゃあボクはスミカを泣き止ませに行くから! バトルは今度やろう!」
そしてコウイチも悩ましげに頭を抱えた後、それを追いかけ居なくなってしまう。
「……行ってしまった」
「……俺達はポケモンセンターに行くか」
「……ですね」
取り残されたヨウタ達は、とりあえずポケモンセンターへと戻った。