第18話 ポケモンのお墓
「行くぞ、皆の衆よ!」
「さあ、今こそ飛び立つのだ!」
ここはアジロタウンの公園。
ここでヨウタ達が何をやっているかというと、時間潰しだ。
ヒロヤがポケモンをポケモンセンターに預け、その後家族と通話を始めた為暇になり彼らはこの公園に来た。
ヨウタ達がかけ声とともにポケモン達をボールから出し、ルミの頭に乗っていたチルットもそこから離れた。
「存分に力を振るうがいい!」
そして三人がその言葉とともにフリスビーを投げた。
ムクバードとチルットが真っ先に飛び出すが、それよりも速くルクシオが駆け抜ける。
どうやらでんこうせっかを使ったらしい。
そして三つ投げられたフリスビーのうちの右端のものをくわえて戻ってきた。
「すごいぞルクシオ、速い! けど、今のはずるいぞ」
「やったねロゼリア! 良く取ってこれたね、偉いね!」
「ち、チルット頑張って!」
そうして彼らが遊んでいる間にヒロヤが来て、今度は彼も交えて少しの間遊んでから目的地へと出発した。
彼らの目的地、それは目の前にそびえ立つ高い塔、ポケモンタワー。
死んだポケモンを弔う塔で、ヒロヤの要望により来ることになったのだ。
早速中に足を踏み入れる。
「……」
入って最初に目に入ったのは、石碑。
いくつも規則正しく並べられていて、そのそれぞれに異なる名前が刻まれている。
「……このお墓って」
「当然、全てポケモン達の墓だ」
ヨウタの疑問に答えたのは、アカリでもヒロヤでも、ましてやルミでも無い。
背後から聞こえてきた声に振り返ると、一人の青年が立っていた。
黒い短髪で詰め襟の黒いジャケットを羽織った、背の高い青年だ。
「あんた、確かここの地方の……!」
「悪いが、今の俺は一人のポケモントレーナーだ。ここでは肩書きなど必要ないからな」
ヒロヤが言いかけたことを遮るように、彼は言った。
「ヨウタ君、ルミちゃん。あの人はコウジン地方のチャンピオン、クロガネさんだよ」
彼が誰だか分からず間抜けに口を開いている二人を見かねて、アカリがそっと囁いた。
「えっ!?」
「る、ルミ、あまり大きい声を出さないでくれ。ここはお墓なんだから」
「あ、ごめんなさい……」
ヨウタとルミは元々バトルにそこまでの興味が無く、チャンピオンも名前を知っているくらいだった。
しかしそれでもそんな肩書きの人物に会っては驚きを隠せない。ヨウタも叫びたくなるのを抑えて、妹を注意した。
彼の名はクロガネ。ヨウタ達の住むコウジン地方のチャンピオンだ。
「見たところ、お前達三人は新人トレーナーみたいだな」
「はい。ヨウタって言います」
「私はアカリです」
二人が自己紹介を終え、ルミとヒロヤもそれに続く。
「俺はクロガネだ」
「あたし達、ここに見学に来たんです。クロガネさんは?」
「こ、こらルミ! あまりそういうことを聞いちゃあ……」
「俺は、たまにここに来るんだ」
自分達は見学に来ただけだが、他の人達は違うだろう。それがチャンピオンだとしてもだ。
デリカシーの無い妹を止めようとしたが、彼は目を細めながら答えた。
「ここに来ることで、強くならなければならない、という意思を強く固められる。
それにポケモン達とともに過ごす時間の大切も感じられるからな。
お前達も、ポケモン達は大切にしてあげてやれ」
彼はそう言うと、ヨウタ達の隣を通り過ぎて上階へと上がってしまった。
「……なあ、ヨウタ。ここや他の地方でもそうだけど、ポケモンが死ぬのは病気だけじゃないんだ」
「え?」
「世の中にはポケモン達を悪事に使うやつらも居るんだ。前にヤガスリの森で戦ったエミット団とかみたいにな。
そういうやつらのせいで相棒のポケモンと永遠の別れを経験する人達も少なくない」
「酷い……」
彼は、ヒロヤは普段の軽い態度からは想像出来ないような真面目な顔をしていて、聞いていたアカリとルミは思わず口を手で覆った。
「俺も色んな地方を旅したけど、ポケモンを道具みたいに使う悪いやつらはどこにでもいる。
けど悪いのはポケモン達じゃない。トレーナー次第でポケモンは変わるんだ、お前達は絶対そういうトレーナーになるなよ」
「はい、もちろん! そんな悪いやつらは許せませんからね!」
彼は言い聞かせるように口にしたが、ヨウタの返事を受け笑みを浮かべた。
「ならいい! まあ悪いことしようとしたら俺が全力で止めるけどな!」
いいながら彼は肩を叩いてくる。
「しませんよ! ヒロヤさんもやらないでくださいね?」
「当たり前だろ! なんかしんみりさせちゃって悪かったな。
じゃあ他の階も見て回ろうぜ」
「はい、ですね」
そしてそれからポケモンタワーの他の階を廻り、その後アジロタウンを出発した。