第17話 挑めヒロヤ、三番目のジム
「じゃあ、ちゃっちゃと終わらせちゃいますか! カモン、シンボラー!」
アジロタウンのアジロジム、ジムリーダーはアンコウという青年。
ゴーストタイプのジムだが、ヒロヤが出したのは不利なエスパータイプのシンボラーだ。
「ゆけっ、ゲンガー!」
「ヒロヤさん勝てるかな?」
観戦しているのはヨウタ、アカリ、ルミの三人。
すでにヨウタとアカリはこのジムのバッジを取得済み、あとはヒロヤだけだ。
「(相手はやっぱりゲンガー。ヨウタ達の時最初に出したのはゴーストだったからな!
そしてゲンガーのタイプはゴースト・どく。
エスパータイプのシンボラーなら弱点をつける。
……関係ないけど、ゲンガーのせいでゴーストタイプのポケモンの弱点がエスパー技と勘違いする人が多いらしいな。
……俺もその一人だった)」
「さすがヒロヤさん! エスパータイプのシンボラーならゴーストタイプのゲンガーに弱点をつける!」
「いや、ゲンガーはどくタイプも入ってるからな。そっちだよ」
「えっ!?」
ヨウタも過去の自分と、そして多くのポケモントレーナー達と同じ過ちをしてしまっていたようだ。
それを指摘してから、ヒロヤは相手のトレーナー、ジムリーダーのアンコウとゲンガーに向き直った。
「早速行くぜ! サイコショック!」
複数の、実体化した念波の球体がゲンガーを襲うが……。
「シャドーボール!」
ゲンガーの放った影の球と相殺。
互いにダメージを負わなかった。
「次はれいとうビームだ!」
「10まんボルト!」
そして次の二匹の攻撃も威力は拮抗。
「どうしたんだいチャレンジャー、まさかその程度の実力とは言わないだろうね?」
「舐めるなよ、まだまだこれからさ! シンボラー、めいそう!」
「む……。シャドーボール!」
シンボラーが静かに精神を統一して心を鎮める。
その最中に影の球の直撃を受けバランスを崩したが、すぐに持ち直す。
「耐えられたか……!」
「もう一度めいそう!」
さらに二度目のめいそうをする。
「まずい、シャドーボールだ!」
「遅いぜ、アシストパワー!」
めいそうを阻止しようとしたゲンガーの技は、しかしシンボラーが蓄積された力を解き放つことによりかき消された。
そしてそのエネルギーはゲンガーまで届き、直撃。
「ゲンガー、戦闘不能!」
ゲンガーは一撃で倒れた。
「イエス、まずは一匹リードだ!」
ヒロヤが高々とガッツポーズをして、余裕たっぷりに笑みを浮かべている。
「次はミカルゲだ!」
「ふん、楽勝楽しょ……うぇぇっ!?」
だが、その笑みは一瞬で崩れ去った。
「どうしたんですかヒロヤさん!?」
「ミカルゲのタイプはあくとゴーストの複合、エスパー技は効果無しなんだ……。
さっきは出さなかったのにずるいぞ!」
「いや、初心者に出すわけにはいかないからさ……」
騒ぐヒロヤにアンコウは苦笑いしながら弁明する。
「こうなりゃしかたない、れいとうビーム!」
「遅い、かげうち!」
諦めて攻撃しようとしたヒロヤだが、シンボラーのその技が放たれることはなかった。
ミカルゲの影が伸びて、シンボラーの背後から攻撃したのだ。
「シンボラー、戦闘不能!」
最初に受けたシャドーボールのダメージも大きかったのだろう。
シンボラーは地に落ち、起きあがらなかった。
「ぬぅぅ……! シンボラー、戻るんだ!」
最初の余裕はどこへやら、ヒロヤは悔しそうにボールに戻す。
「ヒロヤさん、ファイト! 負けないでください!」
「当然だ、負けるわけねえだろ!? 次はジバコイル!」
彼の二匹目はでんき・はがねタイプのジバコイル。
ゴーストタイプの攻撃ははがねタイプに効果が今一つかと思ったらそんなことは無かったので、相性は五分五分だ。
「10まんボルト!」
「シャドーボール!」
ジバコイルの両手(?)から放たれた電気と、ミカルゲの口から発射された影の球がぶつかり合った。
しかしジバコイルの電気が、徐々に影の球を押していく。
「岩に隠れろ!」
完全に押し切って後少しで命中、というところでミカルゲは自身を縛るかなめいしに身を潜めた。
そして頃合いを見計らって顔を出す。
「ヒューッ、さすがジバコイル! その特攻は伊達じゃないな!」
ダメージが届いたかは分からないが、相手の攻撃を押しきるその火力の高さに彼は嬉々とした声援を送る。
ジバコイルは振り返り、にこりと笑みを浮かべた。……と思う。とりあえず目は笑ってた。
「けど隠れられるのは厄介だな……」
「シャドーボール!」
「避けろ!」
いくら火力が高くても、攻撃が当たらなければ意味が無い。
飛んできた影の球への回避を指示しながら考える。
なんとかして動きを封じられれば……。
「もう一度シャドーボールだ!」
「あ、ジバコイル!」
なんて考えていると反応が遅れてしまった。
ジバコイルはちらちらヒロヤを見て指示を待っていたが、彼は気づけなかった。
そのせいでジバコイルは技が直撃。少し不満げな声を出している。
「悪いジバコイル……! けどもう大丈夫だ! 10まんボルト!」
「隠れろ!」
ヒロヤが再び攻撃を指示したが、ミカルゲはまたもかなめいしに身を隠す。
「やっぱりな。今だ、フォーカス合わせろ! ロックオン!」
だがそこにジバコイルが狙いを定める。
ちなみに、ロックオンは次の技が必中になる技だ!
「続けてでんじほうだ!」
そして未だ隠れているミカルゲに、そのかなめいしに大砲のような電気が放たれた。
命中率の低い大技だが、ロックオンの効果で必中の技となっている。
その技はミカルゲめがけて真っすぐ向かい、かなめいしに命中した。
「ああ、駄目だ!? ヒロヤさん、防がれちゃいましたよ!」
「いや、これでいいんだ」
動揺するヨウタと違い、ヒロヤは笑みを浮かべている。
頃合いを見計らって、ミカルゲが出てきた。
しかし先ほどと違い、出てくる時の動きが緩慢でパリパリと電気を帯びている。
「まさか……!」
「そう、でんじほうの追加効果まひだ!」
まひ。状態異常の一つで、この状態になったポケモンは素早さが下がり技が出せなくなることがある。
でんじほうは当たれば相手を必ずまひにする追加効果を持つ技。
かなめいしの中に隠れてダメージはやり過ごせても、その効果までは防ぎきれなかったらしい。
「今だジバコイル、やれ! 10まんボルト!」
ミカルゲは動きが鈍っていて、電気が届く前に隠れられなかった。
「もう一発!」
「ミカルゲ、戦闘不能!」
二連続の電撃を耐えきれなかったようだ。
ミカルゲはかなめいしに戻って、出てこなくなった。
「ありがとうミカルゲ、戻ってくれ。最後は君だ、ゴルーグ!」
ジムリーダーアンコウ最後の一匹はゴルーグ。
見た目は巨大な、人をかたどった人形という印象を受ける。
「ラスターカノン!」
「受け止めてくれ!」
ゴルーグはその大きな両手を前に突きだすと、でんきタイプトップレベルの高い特攻を誇るジバコイルの技をたやすく受け止めた。
「おお、さすが! デカいだけあるなあ」
「ヒロヤさん、感心してる場合ですか!?」
「じしん!」
ヨウタが彼に注意を喚起している間にも、指示が出された。
ゴルーグがフィールドを殴ると辺りに衝撃波が広がった。
「ジバコイル!?」
それはジバコイルに直撃、効果は抜群だ。
「ジバコイル、戦闘不能!」
「ジバコイル、後はゆっくり休めよ。最後は任せたぞ、グライオン!」
ヒロヤもポケモンを戻して最後に繰り出したのはグライオン。
ひこうタイプを持っている為じしんを食らうことは無い。
「グライオン、まずはじしんだ!」
「お前もじしんだ、ゴルーグ!」
二つの衝撃波がぶつかり合い、……グライオンのじしんはかき消されてしまった。
「あらら、力負けしたか。ま、いいけど」
グライオンにゴルーグの起こした衝撃波が真っすぐ向かうが、飛んでいて届かなかった。効果は無いようだ。
だから、ま、いいけどなのだろう。
「じゃあ次は……、アクロバット!」
「受け止めろ!」
続けて軽やかに飛んで攻撃するが、腕を交差させて防がれてしまう。
「そろそろ行かせてもらうよ! そらをとぶ!」
そしてグライオンが攻撃前の位置に戻ったところでゴルーグが動きだした。
「えっ!?」
「と、飛ぶの!?」
「は、え、嘘だろ!? か……かっけえ!」
なんと足が体の中に引っ込み、足があったはずの場所から火を噴いて飛んだのだ。
「わあ、すごい! なんていうか……男のロマンだ! すごくかっこいい!」
アカリとルミが驚くが、ヒロヤとヨウタは目を輝かせている。
二人が呆れた視線を送っても彼らは気にも止めない。
「グライオン、構えろ!」
ゴルーグは天井付近まで高く上がると、着地して防御の姿勢をとっているグライオンに真っすぐ突っ込んできた。
そしてグライオンの目の前に落下し……。
「なにっ!?」
「ゴルーグ、じしんだ!」
「はっ……! 飛べ、グライオン!」
ヒロヤがアンコウの狙いに気づいて慌てて指示したが、間に合わなかった。
今グライオンは突進に備えて地に足をつけている。
つまりじしんが命中するのだ。
「グライオン!」
「まあ落ち着けよヨウタ。俺のグライオンはそう簡単には倒れねえさ。アクロバット!」
グライオンは衝撃波を食らって山なりに飛ばされたが、そのまま体勢を整えて反撃を決めた。
「まあそらをとぶには驚かされたが、弱点はもう分かってんだぜ。撹乱してアクロバットだ!」
そして再び軽やかな動きでゴルーグの周りを飛び回る。
動きの遅いゴルーグはその動きにだんだんついて行けなくなっていた。
「さあ、そろそろ頼むぞ! やれ、グライオン!」
「ゴルーグ、上だ!」
ゴルーグが標的の姿を見失い、慌てて横や後ろを確認したが相手が見つからない。
アンコウの声でようやく見上げた時には遅かった。
すでに防御が間に合わないほど接近していて、なすすべも無く振り下ろされたハサミを食らってしまった。
ゴルーグは一瞬の静寂の後、大きく重たい音を立てて倒れた。
「ゴルーグ、戦闘不能! よって勝者ヒロヤ!」
「よくやったなグライオン、ゆっくり休めよ。じゃ、アンコウさん!」
ヒロヤはグライオンを軽く撫でてからボールに戻し、アンコウに駆け寄ってバッジの催促をする。
「負けたよ。これはこのジムに勝利した証のゴーストバッジだ」
彼はそれに応えてバッジを差し出した。
青白い、人の頭蓋骨を模したような形のバッジだ。
「おし、ゴーストバッジゲットだ!」
それを受け取って、ヒロヤ達はアジロジムを後にした。