ポケットモンスタータイド


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ポケットモンスタータイド
第16話 しんかポケモン、しんか
ここはアジロタウン。ポケモンのお墓があるらしいが、他にはポケモンジムくらいしかない小さな街だ。
そこの公園で、
「ええ!? いいなヨウタ君!」
叫ぶ一人の少女が居た。
「ずるい! 私も捕まえたかった!」
「駄目、譲らないよアカリ」
「うう、かわいいなあ……。イーブイ……」
叫んだのはアカリ。理由は簡単、ヨウタがイーブイを捕まえたことが羨ましいからだ。
ベンチに座るヨウタの膝の上で撫でられて気持ち良さそうにしているイーブイを見つめて、彼女はもう何度目かになるため息を吐いた。
「……で、ヨウタ。そのイーブイをどいつに進化させるつもりなんだ?」
そんな彼女に呆れつつも触らずに、そのポケモンのトレーナーに声をかけたのはヒロヤ。
「はい。やっぱりサンダース! って言いたいですけど、僕はブースター派です」
「ほう、そりゃなんで? ブースターって昔、なんかの本で進化させるのは苦行って書かれてたぜ」
苦行って、さすがにブースターがかわいそうだろ……。
ヨウタは思ったが、あまり深くは聞かないことにした。
「イーブイの進化は色々居ますけど、ブースターが一番イーブイの進化系! って感じがするんですよね」
言いながら彼は雑誌の一ページを開いて、イーブイの進化系が全員載っているところを見た。
「まあたくさんいるけど、一番イーブイに似てるよな」
「はい。だからブースターがいいかなって」
「わあ、このニンフィアってポケモンかわいい!」
「うーん……。私はこのグレイシアがいいな」
雑誌を眺めるヨウタの背後で、ルミとアカリがそれに目を落として盛り上がっている。
楽しそうだ。
「じゃあ、そんなヨウタにプレゼントだ! ジャンジャジャーン! ほのおのいし!」
ヒロヤがカバンを漁り、取り出したのは燃える炎を閉じ込めたような橙色の石、ほのおのいしだ。
「い、いいんですか!?」
彼のその行動に、ヨウタは思わず叫んでしまった。
ほのおのいしは店では売っていない貴重な進化アイテム。
本当にいいのだろうか……?
「こんな貴重なの……。いいんですか?」
「え、貴重?」
「え?」
本当にもらっていいのか。尋ねてみたが、帰ってきた反応は予想外のものだった。
彼は不思議そうな顔をしている。
「いや……。ほのおのいしくらいデパートで買えるだろ?」
「……え?」
なんてことだ。すごく僕とヒロヤさんの間にギャップが生じていた
……そうだ、ヒロヤさんは色々な地方を旅してる。
それに出身の地方が都会だったりするかもしれない。
「ヒロヤさん。僕、すごく……。カルチャーショック受けてます」
「……俺も。……ま、とにかく」
言いながらヒロヤはまたカバンを漁り、
「これ、やるよ。アカリにも」
と言いながらヨウタにはつきのいしという石一つを、アカリには袋を渡した。
「なんですか?」
アカリが開けると、なんと……。
つきのいしが一つ、ひかりのいしが二つ入っていた。
「いいんですか、こんな!?」
「ヒロヤさん太っ腹!」
「もっと褒めろルミ!」
「ハンサム!」
「もっと!」
「ルックスもイケメンだ! よ、大統領!」
なんなんだよこれ……。ヨウタは口にしたが、アカリから苦笑いが帰ってくるだけだった。
「まあまあそろそろ良いだろう! ……で、気にすんなよアカリ。シンオウ地方ってとこで地下の探検して壁掘ってたらいくつも出てきてさ。
いらないけどなんとなく捨てれないし困ってたんだ。礼ならこっちが言いたいくらいだ」
「シンオウ地方! 知ってます! 時空伝説とかのあそこ」
彼の発言。その中に一つ気になる名詞がヨウタあって飛びついた。
「お、そうそう」
「全ての命は別の命と出会い何かを生み出す。シンオウ時空伝説の一説です。
シンオウ地方の伝説は主役の二匹、伝説のポケモンディアルガとパルキアを始めとしたスケールの大きさが特徴ですね!
時間を司る神、ディアルガと空間を司る神、パルキア。けど本当は後一匹居るんです。
暴れ者故に世界を追放され反転世界で暮らすと言われる、反物質を司るギラティナがそれです。
そして世界を創ったアルセウスや人々の感情」
「お兄ちゃんそろそろうるさい!」
「分かった、もういい! 黙ってくれヨウタ!」
「ええ!?」
さすがにそろそろ長くなり、シンオウ地方の伝説について熱く語る彼をうっとうしく思った二人が抗議した。
彼はそれでも続けようとしたが最終的にアカリに諭され、語ることを止めてもらった。
「……本当にありがとうございますヒロヤさん」
「まあ気にすんなよ」
「じゃあ早速……!」
ヨウタは膝の上のイーブイを地面に下ろして、ほのおのいしを構えた。
そしてそれをイーブイの額に当てると……、イーブイが光り始めた。
そしてたちまち姿が変わって行き、赤い体で、頭と胸元、しっぽが黄色いモフモフの毛に覆われたポケモンになった。
「ブースター。ほのおポケモン。
体内に炎袋があり、深く息を吸い込んだあと1700度の火を吐く」
「うん、これでOKだ! じゃあジム戦、誰から挑戦します?」
「ヨウタからでいいぜ。早くそいつ戦わせたいだろ?」
「あはは、まあ。いいかな、アカリ?」
「うん、全然いいよ!」
「ありがとう。よし、がんばるぞ!」
二人からの許可を得たヨウタはまずブースターを戻し、タウンマップを開いてこの街のジムの場所を確認した。


せろん ( 2014/02/08(土) 16:20 )