第12話 ライバルバトル、その前に
「はい、お預かりしたポケモン達はみんな元気になりました!」
「ありがとうございます」
「またいつでもご利用くださいませ!」
ヨウタ達は新しく到着した街、ギョウギシティのポケモンセンターにポケモン達を預けていた。
そして回復が終わり、たった今モンスターボールを受け取ったところだ。
「じゃあヨウタ君! ポケモンの回復が終わったし、お願いしたいことかあるんだ。いいかな?」
「うん、いいよ。なんだい?」
「ふふ、なんでしょう?」
彼女は微笑みながら言った。
そんなかわいい顔でなんでしょう、って言われてもな……。
買い物、観光、食事などありきたりな回答を出すが、ことごとく否定されてしまう。
「……はぁ。ヨウタ、分かってやれよ。アカリも女の子なんだ」
「え?」
彼、ヒロヤが先ほどから答えたいらしくうずうずしていたが、とうとう痺れを切らして会話に入ってきた。
「そうだよお兄ちゃん! アカリちゃんの気持ちも分かってあげなよ!」
そして彼と同じく耐えきれなくなった妹もついに立ち上がる。
後ろで二人がこそこそ話し合いながら導き出していた答えに、よほどの自信が窺える声色だ。
「じ、じゃあなんですか……?」
「ふっふっふ……」
「それは……」
二人は順番に言ってから、息を合わせるように一呼吸置いた。
「デート!」
そして同時に回答を出す。
「え、ええ!?」
その予想外の(それなら買い物とかと変わらないだろ、とツッコミを入れたくなる)発言に驚きながらも問題を出した当人を見た。
「……え?」
彼女も予想していなかった答えらしく、口を少し開けてポカンとしていた。
「……あ、あれ?」
「じゃあルミちゃん、パターン2だ!」
「うん!」
「スパルタ! お兄ちゃんの無駄な伝説・幻ポケモン知識講座!」
「無駄って言うな!」
「あはは……」
しかしそれも当然ながら違うみたいだ。
さすがのアカリも困ったように笑っている。
「ヨウタ君、スパルタなんだ」
「違うよ!」
そして変なところに食いついてきたが、素早く否定した。
「あ、あれ……?」
「二つとも違うなんて……!」
「だ、だったら……」
「バトルだ、ヨウタ!」
ルミとヒロヤが慌てているところに、バトルだ、と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ミツキ君、正解!」
とうとうこのクイズに正しい回答者が出たようだ。
「あ、ミツキさん! 久しぶりミツキさん!」
「おう、久しぶりルミちゃん」
ライバルのミツキだ。彼もこの街に着いたところなのだろうか。
「ヨウタ達も久しぶりだな! ところで、なにが正解なんだ?」
お願いします、と受付のお姉さんにモンスターボールを預けながら尋ねてきた。
「みんな……っていうかまあヨウタ君になんだけど、私がなにをしたいかって問題を出してたんだ」
「アカリ、バトルがしたかったのか。うん、いいよ」
「ありがとう、ヨウタ君」
「うん」
「……え、オレは?」
二人がバトルの約束を目の前で取り決め、ミツキはえ? え? と困った表情で順に顔を見てきた。
「……でもごめんアカリ。君とのバトルは、今度でいいかな?」
「うん、もちろん。ミツキ君とは旅の途中でしか会えないもんね」
「サンキュー!」
「じゃあ今回も負けないよ!」
「今回こそ勝つぜ!」
「でもポケモン達にご飯をあげてからね」
「まあ、だな。オレもまだあげてねえし」
そして少しの間待って、ミツキのポケモン達を受け取ってから公園に向かった。
「じゃあみんな出てこい!」
五人は公園の広場で先にポケモン達の食事を準備して、それからみんなを出した。
食事は栄養価などを考えてつくられている茶色いカリカリ、ポケモンフーズだ。
みんなの食事の量が均等になるように(目測だが)お皿に盛り付けられている。
「たくさん食べてくれよ」
そして自分達のポケモンを一ヶ所に固めてご飯を上げるが……。
「こ、こら! ハーデリア!」
アカリとヨウタが同時に叫ぶ。
何事かとヒロヤ達が見てみると、ハーデリアがアカリではなくヨウタのところでご飯を食べ始めたのだ。
ニドラン♂がご飯を横取りされて驚いている。
「こっちに来て、食べなさい。って、ハーデリア!」
アカリがヨウタの協力を得て彼女のポケモン達の元へ抱えて戻したが、やはりスボミー達から距離をとる。
そして縋るような目でヨウタを見つめてきた。
「……な、なに?」
「もしかしてさ」
彼が困っていると、ミツキが後ろから顔を出してきた。
「アカリ、そのハーデリアの性別は?」
「え? ♂、だけど……」
「やっぱりな」
彼女から性別を聞いて、ミツキはうんうんと納得したように頷いた。
「そのハーデリアはきっと、アカリのポケモンなのが嫌なんだろ」
「え!?」
「どういうこと?」
ヨウタもアカリも眉をひそめる。
ヨウタは心の中で自分がアカリのポケモンだったら嬉しい、と思ったが言わないことにした。
「アカリのポケモンはハーデリア以外♀だろ?」
「うん。……あっ!」
「なるほど……!」
理由を聞いて、二人は納得した。
確かに、それはすごく……!
「気まずい……!」
他の三匹が異性。その気まずさは計り知れない。
ヨウタもアカリとの繋がりで経験したことがあるが、目のやり場としゃべるタイミングに困ったものだ。
ハーデリアは自分と同じ空気をヨウタに感じ取り、彼に助けを求めたのだろうか。
「ハーデリア、僕の仲間になるかい?」
二つ返事だった。すぐに足元に駆け寄ってきて、バタバタ激しくしっぽを振って見上げてくる。
どれだけ嬉しかったのだろうか……。
「……ヨウタ君。それじゃあ、ハーデリアをよろしくね」
「うん、任せて」
少し悲しそうな彼女から、ハーデリアのモンスターボールを受け取った。
そしてハーデリアの食事をアカリ達の場所からヨウタ達の場所に移すと、すぐにそれを食べ始めた。
こうして予想外の形になったが、ヨウタに新たな仲間が加わった。