第11話 32番道路、ハーデリアを捕まえろ
ここはヤガスリの森を通り抜けて32番道路。
「それでさ、ヒロヤさん! その時ミツキが……」
「それでね、ルミちゃ……あ! ストップヨウタ君!」
「え? いだっ……!」
草むらを歩きながら話していたら、いきなりアカリに口を塞がれた。
「ぐおおっ……!」
その際歯ぐきに彼女の手がぶつかって悶えるも、彼女は気にせずポケモン図鑑を構える。
ヒロヤが同情した顔でポン、と肩を叩いてきたのが余計に悲しさを煽る。
「あのポケモンは……」
彼女が図鑑をかざした対象は、背中を黒い毛に覆われた四足歩行のポケモンだ。
「なになに?」
背後からルミも興味津々に覗き込む。
「ハーデリア。ちゅうけんポケモン。
トレーナーを助けながら他の ポケモンの世話もする、とても忠実なポケモン」
「へぇ、かわいい!」
「ね、かわいいよね!」
女子二人は盛り上がっているが、ヨウタは痛みでそんな気分ではない。一人ため息を吐くが、励ましもなにも帰って来なかった。
「まあまあ。俺らは俺らでなんかポケモン探しとこうぜ」
その哀愁に満ちた彼の背中を哀れんだヒロヤが提案する。
「ですね。アカリ、ルミを頼んだよ」
その誘いには是非乗りたい。彼女は今妹と盛り上がっている為、世話を頼むことにした。
「任せて!」
「お兄ちゃんに心配されたくありませんー!」
「まあまあルミちゃん」
反骨精神むき出しにベッと舌を出す妹を、アカリがたしなめる。
「……行きましょう、ヒロヤさん」
「おう!」
そして昔はかわいかった妹の反抗期(ただ生意気に育っただけかもだが)に少し悲しい気持ちになりながらも、彼はヒロヤとともに別の草むらで探し始めた。
「じゃあ、行ってニドラン♀!」
それを見送ってから、彼女はポケモンを出す。
このニドラン♀をバトルに出すのは初めてだ。
ハーデリアはニドラン♀を威嚇する。
「にどげり!」
ニドラン♀はそれに一瞬萎縮したように見えたが、すぐに飛びかかった。
頭を蹴りつけようとするも下がって避けられてしまう。
「ならもう一度よ!」
しかし瞬時に距離を詰め、今度こそ頭に一度、二度蹴りを食らわせる。
「やった、またお願い! にどげり!」
アカリは調子づき、三度指示を出しニドラン♀が飛びかかった、が……。
「ニドラン♀!?」
反撃の突進が直撃、結構なダメージだ。
「ありがとうニドラン♀、戻って休んでね。次はスボミー、あなたよ!」
ニドラン♀はまだ戦えるが、あまり無理をさせるのも良くないだろう。
今度はスボミーを出した。
「くさぶえ!」
出てきたスボミーが早速仕掛ける。
美しい笛の音を辺りに響かせたが、ハーデリアは構わず突進してくる。
「あ、アカリちゃん! ハーデリア眠ってないよ!?」
「くさぶえは命中が低いから、外れたみたい……! 避けて!」
間一髪、横に跳んで避けられた。
「はっぱカッター!」
振り返ってすぐに放った葉っぱがハーデリアにダメージを与える。
「もう一度お願い!」
そしてもう一度発射するが、相手は痛みに構わず突進してくる。
「スボミー!」
回避が間に合わず直撃。山なりに飛ばされてしまう。
更に追撃の為に飛びかかってきた。
一瞬でスボミーに追いつき、もはやボールに戻すことも間に合わない程の距離まで近づいた。
「それなら……、くさぶえ!」
しかしその瞬間、美しい笛の音を響かせる。
互いにほぼゼロ距離、外すことが無い距離だ。
口を開けて噛みつく寸前だが、なんとか間に合った。
ハーデリアは急に重く感じるようになったまぶたを伏せ、勢い余って口にスボミーを挟みながら地面に激突した。
「危なかった……。モンスターボール、お願い」
ハーデリアが起きないよう慎重に足を進め、そっと近づきモンスターボールをぶつけた。
赤い光とともにその姿は球に飲まれて、くわえられていたスボミーだけがそこに残る。
ボールは少しの間揺れていたが、それもすぐに収まった。
「うん! ハーデリア、捕獲成功!」
「良かったねアカリちゃん!」
「うん、ありがとうルミちゃん。スボミー、お疲れ様。ありがとね」
そしてスボミーもボールに戻して、二人はヨウタとヒロヤに合流した。