第10話 遭遇、悪いヘンテコ集団
ヨウタ達は31番道路を抜けてヤガスリタウンに着いた。
昔の伝承が今にも伝えられていると言われている、古臭い景観の町だ。
五十年は時代を間違えているかと思える町並みで、しかも家は全て木製だ。
町の周りは木に覆われていて、次の街との間には森もある。
「……で、その森には祠があってね。そこでセレビィを見たって人が何人も居るんだ」
早速ポケモンセンターに向かう彼らだが、その間にヨウタは自分が本で読んで、知ったことをアカリに話している。
「そうなんだ……。さすがヨウタ君、物知りだね!」
「え? そ、そうかなあ。本で読んだだけだよ」
彼女が褒めてくれたが、恥ずかしくて頭をかきながら言う。
「とか言ってお兄ちゃんったら照れちゃって!」
「う、うるさいぞルミ! アカリ。ち、違うからね?」
「え、なにが?」
「……いや、なんでもないよ」
彼女の不思議そうな顔に少し悲しくなったが、とりあえず話を続ける。
「それでセレビィに会うには金の葉っぱと銀の葉っぱが……ん?」
話していると、ポケットの中でトゥルルル、と自分を呼ぶ電子音が鳴りだした。
「はい、ヨウタです」
二回目のコールで電話に出る。ヨウタがポケットから取り出したのはポケモンギア、縮めてポケギア。
黒い四角に同じく黒い丸がくっついた形で、通話機能と時計機能がついている。
それを耳に当てて少しの間相槌を打っていたが、話は終わったようだ。
すぐにまたポケットに戻した。
「なんだったの、今の?」
ルミが尋ねてきた。
「ああ、モクラン博士からだったよ。見せたいものがあるから公園に来てくれだって」
「見せたいもの?」
「うん、ポケモンを預けたら行こうか」
そしてちょっと歩くと、四人はポケモンセンターに着いた。
「ここも古臭いな」
公園に到着したヨウタ達。しかしやはりというか、良く言えば公園も昔らしい景観を保っていた。
ブランコも滑り台もベンチも、テーブルも木製だ。
そしてそのベンチに腰掛けた男性と、滑り台に乗っている少年が居る。
モクラン博士とミツキだ。
「あ、ミツキさん!」
ミツキがこちらに気付いて滑り台から飛び降り、ルミがそれに駆け寄る。
「モクラン博士、久しぶりです」
ヨウタ達は真っすぐ彼の座っているベンチに向かい、ミツキとルミも一緒に来た。
「うん、久しぶり。ところでそっちの人は?」
「あ、俺ヒロヤって言います。ヨウタ達と一緒に旅をさせ」
「それより、見せたいものってなんですか!?」
「おいおい、マジかよ」
ヒロヤが自己紹介をしていたが、早く見たくてヨウタが遮る。
まさか遮られると思ってなかった彼は驚いている。
「ああ、じゃあ早速」
「しかも本当に続けちゃうのか」
「ふふふ、聞いて驚け見て笑え!」
「驚きはしても別に笑いはしないと思うよ、ミツキ」
「もう、お兄ちゃんうるさい!」
「(……俺は無視なのか?)」
完全に自分の発言が無視されていることに、彼は寂しさを覚えた。
そしてアカリに一言告げておいてから、ポケモンセンターに預けたモンスターボールを取りに行くことにした。
しかしそんなのは気にしないで、モクランはスーツケースを開く。
「ジャンジャジャーン! なあヨウタ、これが何か分かるか?」
中に入っていたのは、金色と銀色の二枚の葉っぱだった。
「これは……」
「そう、金の葉っぱと銀の葉っぱだよ!」
「あ、名前はそのままなんだ」
「君達は知っているかい? この二つの葉っぱがあれば、この町の先の森にある祠でセレビィに会えるみたいらしいんだよ!」
「あの、博士……」
「え?」
「それ……」
モクランもミツキもとても興奮している。それほどまでにその二つの葉っぱを手に入れられたことが嬉しかったのだろう。
だからこそ、ヨウタには言いづらかった。しかし言わなければならない、と腹を決める。
「博士! 言いにくいんですけど……。それ、その話……。デマ、ですよ……?」
「……え?」
「わりいヨウタ、もう一度言ってくれ」
「葉っぱ持ってってもセレビィには会えない。少し前に流行ったデマ」
「マジかよ……!」
二人は顔を見合わせ、そして聞き直して、顔を青くしながら絶句した。
「え、いや本当マジ?」
「うん、僕は大マジだぜ。ガチの本気のマジ」
「いやいや、え、ウソだろヨウタ?」
「……残念ながら」
やはり二人は知らなかったようだ。モクランに至っては顔を両手で覆い隠してしまっている。
かわいそうには思うが、いずれ分かることだったのだからしかたが無い。
「……そっか。これすごく高かったけど、デマか。……しかたないか」
モクランも、そう言いつつも声が震えている。よほどのショックだったのが伺える。
「博士さん、ミツキさん、元気出して」
「……うん、ありがとうルミちゃん」
「サンキュールミ……」
「……」
「それいただくぜ、博士さん!」
「え? うわっ!」
そして少しの間沈黙が流れていたが、いきなり現れた男がそれを破った。
白いハンチング帽に同じく白いジャケット、背中には青色でEの文字が描かれた服装。
その男がスーツケースを中身ごと奪ったのだ。
「ああ、僕の数年間の貯蓄の結晶が!?」
「親父、悲しくなるからその言い方やめろよ! つーかてめえ待ちやがれ!」
男はそのまま走り去ってしまい、ミツキも慌てて追いかけた。
「おいみんな、モンスターボール取ってき……なんだあいつ?」
ヨウタ達が呆然としていると、モンスターボールを受け取ったヒロヤが戻ってきた。
「あ、ヒロヤさんナイスタイミング! 待て!」
「ヒロヤさん、あの人は悪い人です! 追いかけましょう!」
「あたしも行く! ……お兄ちゃんじゃなくて、ミツキさんが心配だからだけど」
そして彼らも自分のボールを携え、男を追いかけることにした。
「ほのおのパンチ!」
ブビィの炎を纏った拳が、ポチエナを殴り抜ける。
そしてポチエナは地面に転がり、起き上がらない。
「てめえら、そのスーツケースを返せ!」
「断る」
ヤガスリタウンとその次の街に挟まれたヤガスリの森。
ここにある祠の前で、先ほどスーツケースを奪った男と同じ格好の集団とミツキが向かい合っていた。
「んだと!? だったらオレも容赦しねえぜ!」
「ああ、お互いにね」
先頭に立った一人の青年が言ったと同時に、上から爪が降りかかってきた。
「ブビィ!?」
かなり素早く、指示も間に合わず食らい、やられてしまった。
「言ったろ、容赦はしないと」
いきなり現れ、ブビィを一撃で倒したポケモン。
長いかぎ爪と頭に扇状の赤いとさかを持った漆黒の体。
「良くやった、マニューラ」
あくタイプとこおりタイプを併せ持った、かぎづめポケモンのマニューラだ。
「くっ……! ブビィ、戻れ! だったらバチュルだ!」
ミツキがブビィと交代で出したのは、黄色い小さな蜘蛛のポケモンバチュルだ。
「マニューラはあくタイプ、むしタイプの技は効果抜群。けど、それで勝てるかな?」
「へっ、たりめえだろ! 絶対親父のスーツケースを取り返さないといけないからな」
とはいえマニューラは進化後。進化前のバチュルで相手をするのはかなり厳しい。
威勢良く返したが、頬には汗が伝っている。
「バチュル、10まんボルト!」
「受け止めろ」
バチュルが渾身の力で放った電気は、その長い爪にあえなく防がれた。
「こおりのつぶて」
「バチュル!」
そしてマニューラが素早く作り出した氷の塊がぶつかり、バチュルも一撃で倒された。
「こいつ、強い……!」
「どうする、ここで逃げ出すなら見逃してあげるよ?」
「うるせえ! 戻れバチュル、次はこいつだ! ヤミカラス!」
「ミツキ!」
彼が三匹目を出したのと自分を呼ぶ声が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
「ヨウタ、みんな! ……と、よく知らねえ人」
「加勢するよ」
「私もね」
「俺もな」
「ミツキさん、大丈夫? 応援はあたしに任せて!」
ヨウタにアカリ、ヒロヤがミツキの横に並び、ルミが隣に立って彼の手を握りしめる。
「おう! 心配してくれてありがとな、ルミちゃん」
「えへへ……」
「それにヨウタとアカリと……、ヒロヤさん、だっけ? もサンキュー!」
「覚えてくれてて嬉しいよ。よし、じゃあ行くぜ! ゆけっ、カイロス!」
「お前もだ、コリンク!」
「あなたも行って、スボミー!」
ヒロヤが先陣を切ってポケモンを出し、ヨウタとアカリもそれに続く。
「……今持っているポケモンだけでは分が悪いかな。引くことにするよ」
「え?」
マニューラのトレーナーらしい彼は、四匹を見てマニューラを戻した。
それもそうだ、他の仲間はミツキにやられて実質四対一なのだから。
「待て、スーツケースを返せ!」
「しかたない、お仲間に感謝するんだね。あ、そうだ。僕はエミット団幹部、シアン。覚えておいてくれよ」
そしてマニューラのトレーナー、シアンは、スーツケースをその場に置いて、仲間とともに走り去ってしまった。
「……行っちゃった。なんだったんだあいつら?」
「さあ……」
「まあスーツケースは返ってきたし、いいんじゃないか?」
「ですね。じゃあ、戻りましょう」
「ああ」
そしてヨウタ達は博士のところに戻り、しばらく話してからモクラン、ミツキの二人と別れた。