01
とうとうポケモンワールドトーナメントも大詰め。
レッドとグリーンのバトルではレッドが勝利。キョウヘイとダイゴのバトルは、キョウヘイが勝利した。
「レッド君! 決勝戦……、君と戦うことになるなんてすごく嬉しいよ! 絶対負けないよ!」
彼はダイゴとのバトルに勝利すると、わざわざグリーンと雑談中だったレッドにそれを言いに来てどこかへ行った。
もちろんレッドも負けるつもりは無い。すぐに決勝で出すポケモンを決めて、グリーンに特訓に付き合ってくれ、と頼んだ。
彼は二つ返事で了承し、二人で街外れの洞窟に移動した。
「じゃあ、手加減しねえぞ! 出て来いウインディ!」
ウインディ、出したのはグリーンだ。
四足歩行で橙色の体、黒いラインが入っているほのおポケモン。
彼は普段ほのおタイプ要因はリザードンに任せているが、ジムでのバトルなどでは代わりにこのポケモンを出している。
リザードンではレベルが高すぎて、挑戦者とまともな戦いが出来ないからだ。
しかしなぜウインディを出してもらったかというと、キョウヘイの選んだ六匹の中に入っていた為だ。
使っていた技はだいもんじとソーラービームを、持ち物はパワフルハーブだったことが一、二回戦で確認出来ている。
「行け! ピカチュウ!」
対してレッドが出したのは、赤いほっぺに黄色のシャツ、ギザギザ模様のかわいらしい電気鼠。世界最強を決める場にはあまり相応しくないように多くの人が思うだろう。
「お前、よりにもよって決勝でピカチュウかよ!?」
それは幼なじみのグリーンも同じだ。呆れどころでは済まない。
確かにピカチュウの選出は意表を突くという点だけなら大成功を収めるだろう。
しかし問題はその後だ。ピカチュウでは、意表を突くだけで終わってしまう可能性が高いと彼は思っているからだ。
「うん。この大会で、ピカチュウだけ出さないなんてかわいそうだろ」
「お前……」
かわいそう……。下らない、しかしあまりにも彼らしい理由に、呆れて声も出なかった。
思わずかわいそうなのはお前の平和な頭だ、と言いたくなったのを喉元で止める。
「だからぼくは、誰になんて言われようとピカチュウを出すつもりさ。ほら、ピカチュウの顔を見てみろよ」
言われて、視線を彼の足元のかわいらしい電気鼠へと移す。
ピカチュウは、自分に任せろ、と言わんばかりに腰に手を当て凛々しい目つきで頷いた。
「……な? それにこいつは、やる時はやってくれるやつだよ」
「……まあ、お前のピカチュウはな」
確かに彼のピカチュウがレベルが高く、彼自身のバトルタクティクスもありやる時はやってくれるというのも事実だ。
それにレッドのピカチュウは持たせると全ての技の威力が上がる専用アイテム、でんきだまを所持している。
いくら元の能力がお世辞にも高いと言えないものでも、その効果で数値以上の働きはしてくれるはずだ。
やはりレベル差か、それとも戦略か、それらにより収めた幾度もの勝利がピカチュウの自信の裏付けなのだろう。
「……とりあえず、やるか」
しかし所詮ピカチュウはピカチュウ。グリーンは正直あまり期待出来ない、と思っていたが言葉には出さなかった。
「うん、頑張ろう」
そして微妙な空気のまま、二人は特訓を開始した。
「……そろそろ特訓をやめようか。戻れ、フシギバナ」
「ああ、分かった。リザードン、お前も戻れ」
まだ決勝戦開始まで時間はあるが、遅れるなんて冗談では無いので早めに切り上げる。
「それでさ、グリーン。そのリゾートエリアで釣り上げたコイキングのレベルが……」
「はあ、高すぎだろ!? ……マジで?」
「マジマジ」
「……そういえば、前にオレが釣りしてた時……」
「や、野生のカイリュー!? うそだろグリーン!」
「いや、本当だぜ……!」
二人は、会話をしながら待合室に向かった。
「ついに決勝戦だな、レッド」
「うん、すごく緊張するなあ……」
世界最強を決める、ポケモンワールドトーナメント。
とうとう、その大規模な大会の決勝戦が始まってしまう。緊張と不安で胸の辺りがもやもやするが、同時にどんなバトルになるのかワクワクもしてくる。
相手はこの大会で初めて知り合った友達、キョウヘイ。彼と一緒に特訓したりもしたが、もうすぐ始まるバトルは違う。
厳しい戦いに勝ち抜いて来たトレーナー同士の真剣勝負なのだ。油断は出来ない。
「じゃあ、行ってくるよ。また後でな」
「おう、じゃあな」
部屋を出て、廊下で一時の別れを告げ彼に背を向ける。
バトルフィールドに向かうレッドと、観客席に移動するグリーン。進行方向が反対だ。
「……レッド!」
「ん?」
数歩足を進めていたレッドは、呼び止められ肩越しに振り返る。
しかし彼は背を向けたままだ。
「……絶対、負けんじゃねえぞ」
「……ああ、もちろん!」
それ以上言葉は交わさなかった。
幼なじみであり最大のライバル、グリーンからの応援を胸に、レッドは再び歩き出した。