04 グリーンVSワタル
01
「勝ったのは! レッドだーッ!!」
「ま、だろうな」
ここはチャンピオンズトーナメントに出るポケモントレーナーの待合室。
この部屋でモンスターボールを上に投げて、キャッチしてはまた投げて、それをまたキャッチして、と繰り返しながら少年がモニターを眺めていた。
オレ様のライバルなんだ、勝ってもらわないとつまらねえ、と口に出しながら立ち上がる。
「じゃ、オレもそろそろ行くか」
次は彼と現カントー地方ポケモンリーグチャンピオン、ワタル。
しかしグリーンは一度彼に勝っている為、心に余裕を持って部屋を出た。



「流れる一族の血が叫ぶ!
ドラゴン使いワタル見参ッ!」
「へ、来たか」
バトルフィールドには先にグリーンが上がっていて、ワタルは遅れて現れた。
「やあグリーン、久しぶりだね。こうして君とバトルをするのは3年ぶりか」
マントを羽織った青年、彼がワタルだ。
3年前、彼はポケモンリーグで四天王の大将を務めていた。そして挑戦をしてきたグリーンと戦い、敗れた。
「あの時は君に勝てなかったが、今は違う。俺達のドラゴン軍団はあの時よりも強くなっている! 今回は俺が勝たせてもらう! ゆけっ! キングドラ!」
「いいぜ、来いよ! オレもあの時より強くなってるからな、少しは楽しませてくれよ! 行け! ナッシー!」
ワタルはリベンジを果たす、と意気込み、グリーンは久しぶりに全力でバトルが出来るとやる気に満ちている。
言葉に少し遅れて2匹のポケモンが現れた。
片方は細く突き出た吻、丸まった長い尾、背中にヒレがあり角の生えた水色の体。みず・ドラゴンタイプのキングドラ。
もう片方は木の幹のような色で縞模様の入った太い胴体、ヤシの実と見紛う3つの顔、頭からは手のひら状に葉が生えている。ヤシの木そっくりなくさ・エスパータイプのナッシーだ。
「グリーン、がんばれよ」
レッドは、観客席で彼の応援をしている。やはり見るなら生がいい、もう自分の試合は終わったのだから、と見に来たのだ。
「キングドラ、れいとうビーム!」
キングドラから放たれた一直線に向かってくる冷気の光線を、ナッシーは避けようともせずに食らう。
「避けないのか……!?」
「避ける必要がねえからな。ナッシー、トリックルーム!」
効果抜群の一撃、しかしなんとか耐えて、摩訶不思議な空間をつくり出した。
フィールド全体が青色の正方形をいくつも縦横に連ねたようなものに覆われている。
「なにっ!?」
「おかしい……! なにかが……! 歪んでいます、バトルフィールドの……!」
「出たな、トリックルーム」
ワタルも実況も観客達も驚く中、レッドだけは動じずにつぶやく。
彼はトキワシティのジムリーダー。彼に実力を認められたトレーナーにジムバッジとともに渡されるわざマシンはNo.92、トリックルーム。
彼からの電話でレッドは彼がその技を使っていることを知っていた為に全く動揺を見せなかったが、知らない人達からしたら度肝を抜かれたことだろう。
「そうか、ナッシーはドラゴンに対する有効打が無い。トリックルームを使えばそれだけで役割を果たしたことになる! だから『避ける必要が無い』なのか……!」
「ご名答。やれ! リーフストーム!」
「速い……!」
ナッシーは一瞬でキングドラに迫り、攻撃の隙を与えずに尖った葉っぱの嵐を巻き起こした。
この技は遅い方が先に行動出来るようになる技。ナッシーが速く動けたのはそのためだ。
リーフストームは威力がかなり高い。キングドラは耐えられず、一撃で倒れた。
「さすがだね、グリーン君。してやられたよ。けどこいつはどうかな? カイリュー!」
ワタルはキングドラを戻し、今度はカイリューを繰り出した。
カイリューは彼の代名詞。彼のエースポケモンとして、名前は知れ渡っている。
「だいばくはつ!」
「遅い! しんそく!」
再び距離を詰めて攻撃しようとしたナッシーだが、間に合わない。カイリューがまさに神速の突進を決めて、吹き飛ばされた。
「ナッシー、戦闘不能!」
「ちっ……! 戻れ!」
思わず舌を鳴らしながら次のボールを構える。
「さすがだな、ワタルさんも。トリックルームは遅い方が先に動けるようになる技。だけどしんそくみたいな先制技より速くは動けない」
これにはグリーンも驚かせられただろう、と彼の顔を見てみたが、すでに表情は不敵な笑みに戻っていた。
確かに、ナッシーはすでに役割を果たした。彼からすればこの程度誤差の範囲内なのだろう。
「行け! ドサイドン!」
そして構えたそれを勢い良く投じた。
頭に立派なドリルを持ち、プロテクターを装備した巨体と太い腕、先に丸い岩のハンマーがついた尻尾。
見た目からそのポケモンはパワーとタフさを併せ持ち、かわりに動きが鈍いということが分かる。
「戻れ、カイリュー。ゆけっ! オノノクス!」
「アームハンマー!」
次に現れたのは黄土色の鎧を身に纏い、太い尻尾と半月形の巨大な牙が攻撃力の高さを伺わせるオノノクス。
しかしトリックルームの効果で速くなり、いきなり目の前に迫って来たドサイドンの動きに反応出来ない。重たい腕の一撃に横に倒されてしまう。
「じしん!」
そこに足踏みして衝撃波を起こす。
倒れたままのオノノクスは、なすすべ無く食らってしまう。
「オノノクス、戦闘不能!」
そして一度も攻撃出来ないまま、倒された。
しかし同時に時間が来て、トリックルームの摩訶不思議な空間が消失した。
「戻るんだ、オノノクス」
ワタルはオノノクスを戻し、残った一つのボールを構えた。
「どうした、まさかこれで終わりじゃあねえよな?」
「もちろん、俺はまだ負けるつもりは無いさ。どんな時だって諦めない、それは君も同じだろう? ゆけっ! カイリュー!」
これで最後のポケモンだ。だが、諦めなければ必ず勝機は訪れる。
一層燃え上がった彼の闘志を映し出すように、現れたカイリューは雄叫びを上げた。
「おもしれえ、勝てるもんなら勝ってみろよ! ストーンエッジ!」
「もちろんさ! 飛んで避けるんだ!」
先ほどのアームハンマーでドサイドンの動きは遅くなっている。
ドサイドンが岩を放つよりも先にカイリューが地上から飛び立ち、岩は虚しく空を切るだけだった。
「もう一度ストーンエッジだ!」
「遅い、れいとうパンチ!」
相手は再び両手を突き出し、岩を放とうとした。
しかしただでさえ遅い上に動きが鈍っているのだ。
カイリューは技が放たれる寸前懐に潜り込み、冷気を纏った拳を叩き込んだ。
「まだ耐えるのか……!」
その技は上手く急所に当たった、効果は抜群だ。
しかしプロテクターは伊達じゃない。それでも体力をある程度残して耐え、さらにもう一発食らわせようとした冷気の拳を片手で受け止めた。
そして至近距離から、空いているもう片方の拳で尖った岩を発射。
当然避けられない、効果は抜群だ。
「これで倒……れねえ、っつーことは」
ドサイドンの攻撃力はかなり高い。その一撃を普通なら耐えられない。
「そう。このカイリューの持ち物はきあいのタスキ」
きあいのタスキ。持たせると体力が満タンのとき、一撃で戦闘不能になるダメージ、もしくは一撃必殺技を受けても体力をわずかに残して持ちこたえるという効果だ。
ただし1度効果を発揮すると無くなる。
「けどそっからどうするつもりだ? 今カイリューはドサイドンに片腕を掴まれてるから動けないぜ!」
「こうするのさ、持ち上げろ!」
「はぁっ、マジかよ!?」
終始得意げにしていたグリーンだが、ついにその態度も崩れる。
カイリューが、ドサイドンを片腕と頭を使って持ち上げたのだ。
慌てふためくドサイドンは、思わずずっと掴んでいた拳を離してしまった。
これで両手が自由に扱える。カイリューは両手で、バーベルを支えるかのようにその重い体を腕を伸ばして高く掲げている。
「決めろカイリュー! りゅうせいぐん!」
そしてカイリューは頭上、ドサイドンの腹に向かって橙色のエネルギー球を発射した。
ドサイドンはその球とともに高く打ち上げられ、直後弾けて小さな光弾が雨のようにフィールドに降り注いだ。
同時にその重たい体がドガン、と大きな音を立てて落ちてきた。
「ドサイドン、戦闘不能!」
「……サンキュードサイドン、戻れ」
「……後一匹だ」
希望が見えてきた。最後の一匹によっては勝てる可能性がある。
「行け! ピジョット!」
グリーンの最後のポケモンは、ピジョット。
頭に長く美しい羽根を生やした、グリーンにとって初めて捕まえたポケモンということもあり思い出深い鳥ポケモンだ。
「カイリュー、もう一度りゅうせいぐん!」
「ピジョット、かげぶんしん!」
再び降り注ぐ光の雨は、しかしピジョットが素早い動きでつくり出した分身を消すのみだった。
本体と思わしきものは真正面に迫って来ている。
「とどめだ、エアスラッシュ!」
「受けとめろ!」
しかし目の前のピジョットは何もせずに突っ込んでくるだけだ。
「まさか……!」
そしてカイリューにぶつかると同時に、それは消滅した。
そう。それも分身の一つだったのだ。
「カイリュー、上だ!」
見上げると、ピジョットが羽ばたいていた。
そしてその羽ばたきで生み出された空をも切り裂く空気の刃が、カイリューに襲いかかった。
反応が少し遅かった。防御も回避も間に合わない。
「カイリュー、戦闘不能!
勝ったのはグリーンだ!!」
すでに体力は残りわずかまで減っていたのだ。その直撃に耐えられるはずが無く、大きな音を立てて倒れた。
「……終わった」
「良くやったなピジョット、戻れ」
二人は自分のポケモンを戻す。
「だけど不思議な気分だよ、グリーン。きっと負けた悔しさよりも、君のような素晴らしいトレーナーと素晴らしいバトルを出来たことが喜びが大きいからかな。
けど、次こそは負けないよ」
「へ、いつでも受けて立ってやる! オレも楽しかったぜ、じゃあな!」
そして彼らはフィールドを去った。
グリーンVSワタル、勝者はグリーンだ。

せろん ( 2013/11/10(日) 17:18 )