02 挨拶まわり
01
「うわあ……」
またしても声が出る。ポケモンワールドトーナメントの会場、その建物は遠目にも大きいということの判断は出来ていたが、近づいて見ると改めて驚かされる。
左右に赤と青の幕が下ろされ、その間にはバトルの様子が流されるのだろう巨大なモニターが設置されている。
「なにやってんだレッド」
「あ、いや」
大きく開いた入り口に足を踏み入れると早速青い絨毯がお出迎えしてきて、一瞬靴を脱いだ方がいいか迷ったがグリーンが土足で踏み入る為自分もすぐ隣に並んだ。
「(……まあ、脱がないよな)」
脱ぐか迷ったことを少し心の中で恥じながら、建物の中を見回す。
床はタイルで、壁際には観葉植物。
左右には対を成すようにエメラルドかなにかを携えた像が立っていて、正面は受付のお姉さんが立っている。
また自販機もあり、黒いソファには知っている顔も座っていた。
見物人か参加者かは知らないが大勢の人間がざわめいているが、2人は気にせず受付に向かう。
「ようこそポケモンワールドへ! 参加受付をなさいますか?」
「はい、チャンピオンズトーナメントのシングルバトルでお願いします」
レッドとグリーンは緑の服のお姉さんにトレーナーカードを提示して、渡された書類にちゃちゃっと記入を済ませた。
レッドがこの大会のことを知ったのは招待状が届いたからだが、それによるとこんな簡単な手順だけでいいらしい。
「はい! これで参加受付は完了です。ではこちらへ!」
そして2人は、お姉さんについていった。



「……」
レッドはパソコンの画面と睨み合っている。
彼は観葉植物とバトルの様子が見られるモニター、対戦相手や自分のポケモンの情報が見られるパソコンなどの置かれた小さな個室に通された。
今はそこで参加者8人の中から決められた対戦相手の手持ちのデータを眺めて、自分がどのポケモンを選出するかを慎重に考えている最中だ。
参加者は先ほども述べたように自分を含めて総勢8人。
カントー地方からは一度チャンピオンになったことのあるレッドとグリーン、そして現チャンピオンのドラゴン使い、ワタル。
ジョウト地方はカントーと同じセキエイリーグの為飛ばしてホウエン地方、ここからは石集めのダイゴと水のイリュージョニスト、ミクリ。
シンオウ、イッシュ地方からは様々なタイプのポケモンを使うシロナとアデク、キョウヘイと言う少年も参加するようだ。
そして自分の1回戦の相手はシロナ。使うポケモンはガブリアス、ルカリオ、ミカルゲ、ロズレイド、トゲキッス、グレイシア。
どれも強力なポケモンだが、中でも脅威なのはガブリアスだ。高い攻撃力と素早さを有し、生半可な攻撃では倒せない耐久力も併せ持っている。
自分がこの大会で出すポケモンはフシギバナ、ピカチュウ、カビゴン、エーフィ、ラプラス、カイリュー。
ルールは試合前にあらかじめ互いの手持ち6匹を見せ合い、その中から3匹を選んで戦う、というものだ。
もし持ち物や技の構成などを間違えたら全員ガブリアスに倒され兼ねない為、対策は怠れない。
次に厄介なのが……。
「すみません」
レッドがどのポケモンを出すか考えていると、コンコン、と軽くドアがノックされまだ若い少年の声が聞こえた。
「はい」
パソコンを閉じてドアを開ける。
立っていたのは、栗色で芝生みたいなボサボサの髪、赤いサンバイザーを付けており、青いランニングウェアに白いハーフパンツのスポーティな少年だ。
確か彼は、
「キョウヘイ君、だったよね」
キョウヘイ。イッシュ地方のチャンピオンで、この地方を悪の組織の魔の手から守ったらしい。
「うん、そういう君は伝説のポケモントレーナーのレッド君、だよね!」
「伝説の……、まあ、そうだけど」伝説のポケモントレーナー、彼は世間からそう呼ばれているみたいだ。
何がどう伝説なのかは分からないし、言われるのは誇らしいが少しこそばゆい気持ちになる。
「ところで、どうしたの?」
勿論キョウヘイ、彼にも対戦相手は居る。なら選出するポケモンを決めないで良いのだろうか、と疑問をぶつけた。
「あはは、なかなかどのポケモンを出すか決まらなくて……。気分転換に挨拶まわりをしようと思って、それでまず一番近いこの部屋に来たんだ」
どうやら彼も出すポケモンを悩んでいたみたいだ。
「気分転換か、いいかもね」
「え?」
ぼくもどのポケモンを出すか悩んでたし……。
「挨拶まわり、ぼくも一緒に行っていいかな?」
「うん、勿論!」
彼は笑顔で頷いた。そして2人で次の部屋に向かった。
「じゃあ……」
「待った」
早速ノックしようとしたキョウヘイ君を引き止める。
ここはグリーンの部屋だ、何かしてやりたい。
「……そうだ」
ピカチュウでドアノブに静電気を流させる、とか面白いかもしれない。
どんな反応をするだろう、怒鳴ってくるかな。
「よし、じゃあ……」
「なにやってんだ、レッド」
「……! ぐ、グリーン!」
ぼくがモンスターボールに手を伸ばして、掴んだと同時に声がかけられた。
振り向くとグリーンが立っていたが、良かった、嫌がら……いたずらしようとしたのはばれていないみたいだ。
「うん、気分転換に挨拶まわりでもしようと思ってさ」
彼は何食わぬ顔でボールから手を話して、やり場に困った為ポケットに入れる。
「ふーん。で、お前は? キョウヘイ、だったっけ?」
「うん、よろしくグリーン君。僕も挨拶しようと思って今ノックするところだったんだ」
「グリーンはなにしてたんだ?」
「ああ、喉乾いたから自販機にこいつを買いに行ってたんだ」
彼は言いながら、ポケットから缶ジュース、ミックスオレを出した。
「一緒に挨拶行く?」
「面倒くせえしいいや。オレ部屋戻るから、じゃあな」
そして彼は部屋に戻ってしまった。



「すみません」
ワタル、ダイゴ、ミクリと回って、次はレッドの対戦相手、シロナだ。
部屋をノックすると、はい、と返事が来てから少しして扉が開いて頭に黒い雫のような飾りを付けた女性が現れた。
「あら、君達はレッド君とキョウヘイ君」
「こんにちは、シロナさん」
2人はぺこりと頭を下げる。
「レッド君、噂には聞いているわよ。ありとあらゆる修羅場をくぐり抜けて来た百戦錬磨の強者らしいわね。1回戦、よろしくね」
「はは、少し大げさに思いますけどね」
レッドは、彼女が笑いながら差し出してきた手を頭をかきながら握った。
「それとキョウヘイ君も、よろしく」
「よろしくお願いします」
次はキョウヘイに差し出し、彼もそれを掴んだ。
「じゃあバトルフィールドで会いましょう」
「ええ、負けないわよ」
「ぼくも負けませんよ」
そして再び頭を下げ、最後の部屋に向かった。
先ほどと同じ手順を踏むと、扉が開いた。
「こんにちは、アデクさん」
「こんにちは」
「おお、君達はキョウヘイ君とレッド君か」
中から、燃える炎のような、紅葉にも見えるような髪型の老人が現れた。
「アデクさんとバトルするのは2回目ですね。負けませんよ!」
「おお、また胸を貸してもらうことになるな。わしも負けんぞ!」
「そういえばアデクさん、この前バンジロウ君と戦いましたよ!」
「聞いたぞ。あいつがとても悔しそうにしていたよ」
「けど、すごく強かったですよ! 3匹なのに、こっちは最後の1匹でなんとか勝てたくらいですもん!」
「そうだ、バンジロウといえば」
雑談を始めてしまった。……そういえば、出すポケモン達を決めなきゃ行けないんだった。
「じゃあ、ぼくはもう戻るよ」
「あ、うん。また会おうね」
そしてぼくは部屋に戻った。……本当、どのポケモンを出そうかな。

せろん ( 2013/11/10(日) 13:40 )