01
「ありがとう、カイリュー」
「サンキュー、リザードン。ゆっくり休めよ」
トキワシティに、一匹の竜と一匹の翼を持った大きなトカゲが降り立った。
そしてその二匹から二人の少年が降り立ち、トカゲの方は赤と白の球から放たれた赤い光に包まれて消えた。
2人はイッシュ地方で開かれていた世界規模の大会、ポケモンワールドトーナメントに参加していた。
そしてレッドは優勝、グリーンはベスト4という結果に終わり、2人はカントー地方に帰って来た。
……一応言っておくが、2人はイッシュ地方からカイリューとリザードンで飛んで来たわけではない。
イッシュ地方のヒウンシティから船でクチバシティという、無論カントー地方の街まで来て、そこから飛んだのだ。
「グリーン、お前はこれからどうするんだ?」
「ジムトレーナー達が待ってるし、とりあえずジムに帰らねえとな。お前は?」
「ぼくは、また旅に出るよ。……今度は、カロス地方にでも行こうかな」
言ってから行き先を考えて無かったな、と思い、パッと頭に浮かんだ様々な地方の中からそこに決めた。
「カロスか、そういや昔留学したな」
そう。グリーンは、昔カロス地方へと留学したことがあるのだ。レッドが行き先をカロスに決めた理由にはそれも含まれている。
「ま、それはいいか。おばさんには会いに行かねえのか?」
グリーンはその地方を特に懐かしむなどはせず、すぐに質問を投げかけて来た。
レッドには、一番されたくなかった内容だが。
「母さんには……。……まあ、いいんじゃないかな? グリーン、ぼくは元気だって伝えといてよ」
旅に出てからもう三年経つが、まだ一度も連絡をしていない。心配をかけているかもしれないので彼に言伝を頼んだ。
「やだね面倒くせえ。自分で行けよ」
が、断られた。まあ当然か。
「そのくらいいいだろ、ケチだな。……なら、今度手紙を書いて送ろうかな」
「いや、会いに行けよ」
彼の言う通りだ。しかし……。
「……グリーン、分かるだろ? ぼくは……」
「早く新しいとこに行きたいんだろ。まあ、気持ちは分かるぜ」
グリーンはレッドの言葉を遮り、うんうん頷き同意している。
「グリーンもよくジムを放り出してるからな」
そんな彼に、先ほどのお礼をしてやった。
「うるせえ! ……まあ、その通りだけど」
「ぼくが言えることじゃないけど、あまりジムトレーナー達を困らせるなよ」
へっ、お返しだ。内心笑いながらもそれらしいことを言っておく。
「本当にお前にだけは言われたくねえな」
「な、なんだと!」
「事実だろ。それに、自分で言ったんじゃねえか」
「くっ……!」
こいつめ、得意げに笑いやがって……! やっぱりグリーンはぼくの一歩先を進んでいるみたいだ。何も言い返せない、というか墓穴を掘った……!
「……じゃあ行くよ、グリーン。次に会う時は、運だけじゃない、実力でも勝つからな」
もうこれ以上続ける話も、彼を言い負かす見込みも立たない為、話を切り上げる。
「へっ、次は運でも負けねーよ。ま、実力ならオレ様の方が上だけどな」
「……今度会う時にはそんなことは言えないからな」
相変わらず自信満々な笑みを浮かべる彼にライバル心が燃え立ったが、抑えてなるべく冷静に返す。
「無理無理。お前がいくら強くなろうが、オレはその一歩先を進んでんだからな」
「だったらぼくはその二歩先を進んでやるさ!」
「ならオレはその三歩、いや、五十歩先だ!」
「じゃあぼくは百……、いや、もういいや……」
そこまで来て、終わりが見えなくなってレッドが区切りをつけた。
「……じゃあ、今度こそぼくは行くよ」
「ああ。次は絶対負けねえぜ! あばよ、レッド!」
「ぼくも、絶対勝つからな! またなグリーン!」
そして少しの沈黙の後、これ以上話すことは特に無いと判断してレッドは再びカイリューに跨がって飛び立つ。
グリーンは少しの間それを眺めてからトキワジムへと向かった。
「おかえりなさい、グリーンさん!」
「見ましたよ、すごかったです!」
グリーンがジムへ入ると、ジムトレーナー達がすぐに駆け寄って取り囲んで来た。
「ああうるせえ、いくらオレがかっこよかったからって集まるな!」
しかし彼らは目を輝かせて、次々に賞賛の言葉を浴びせてくる。
まったく退く気配を見せない。
「今は戦いたい気分なんだ、今日はとことん実戦訓練だ!」
「はい、グリーンさん!」
グリーンは彼らを強引に押しのけて、指示を出してから移動パネルに足を乗せた。
そしてジムトレーナー達もそれに続く。
「行け、ケンタロス!」
「出てこいウインディ!」
移動パネルの果て、グリーンが普段立っている場所。
そこに向かいあったグリーンとジムトレーナーの一人、ヤスタカがポケモンを出した。
「来いよ、先攻は譲ってやる!」
「じゃあ遠慮無く! はかいこうせん!」
ケンタロスがしっかりと床を踏みしめて、凄まじい光線を発射した。
「遅いぜ、避けてインファイト!」
しかしその攻撃は横に跳んでたやすくかわされ、返しの連撃でケンタロスは倒れた。
「いいかヤスタカ。そういう大技はいきなり使うもんじゃないぜ。もし当たっても、倒せなかったら反動で隙だらけだからな」
「分かりました、気をつけますグリーンさん! ですが負けませんよ!」
「ああ、出来るならやってみろよ!」
「もちろんです!」
そしてヤスタカは二匹目を出した。
「へっ、行くぜ!」
レッド、次は絶対負けねえぜ! 確かにお前はPWTで優勝したが、世界で一番強いのはこのオレ様なのさ! 次こそそれを証明してやる!
いつか必ず、オレがお前を倒すからな!
「フレアドライブ!」
グリーンは、旅立った彼のことを思いながら指示を出した。
「よし、ぼくの勝ちだ!」
「まさかピカチュウ一匹にやられるとは……」
カロス地方へ向かう船の上でのバトル。船内のバトルスペースで行われた6対6の戦いだったが、レッドの圧倒的な勝利だった。
対戦相手のジェントルマンは、悔しそうに左手を握りしめながらペラップをボールに戻した。
「強いなあ……。……そういえば君、どこかで……。そ、そうだ! 確かPWT優勝者の……!
あ、あれ……?」
しかし彼が気付いた時には、既にレッドの姿は無かった。
「見えてきた、カロス地方……!」
レッドは甲板に上がって、柵から身を乗り出していた。
潮風が強く顔を吹き付ける。帽子が飛ばないように押さえながら、浮かび上がってきた新天地に思いを馳せる。
新たなポケモン、新たな人々との出会い、新たなバトル。
どんなものになるかは分からないが、きっと新鮮なものばかりだろう。
レッドは逸る気持ちをなんとか抑えて、その場に座り込んだ。
そしてPWTのことを知りカントー地方に向かった時からずっと書いていなかったレポートを、グリーンとのこと、PWTでの熱い戦い、知り合った人々や今の気持ちなど、沢山沢山書き留めた。
THE END