03
「じゃあ母さん、行ってきまーす!」
オレは家を飛び出して、カナエとダイスケとの待ち合わせ場所、オレ達の旅の始まりであり、リョウジと初めて会った場所でもあるアオズリ博士の研究所へと走り出した。
風を感じる。肌を撫でるような、柔らかくて心地の良い風だ。どこから来たのか分からない。どこへ行くのかも。
けど、きっとこれからもオレ達はこの風みたいに色々なところを旅して、たくさんの知らないものを見て、聞いて、体験するに違いない。そう思うと、なんだかウズウズしてきた。
「よおし、行くぜ!」
左手を空に掲げながら、軽く流すように走っていたのを着くまでに疲れ果てない程度に速めた。
どんどん流れて行く。家を通り過ぎて田んぼに変わり、やがて草原へと移っていく。見慣れた、けど懐かしい景色だ。
そして見えてきた。小高い丘の上に建てられたこの街で一番大きな建物、アオズリ博士の研究所が。
その入り口のところに立っている1人の少女と1人の少年がこちらに気付いて大きく手を振ってきた。
自分も振り返して、走るペースはそのままに近づいて行く。
「ごめんカナエ、ダイスケ、遅くなった!」
「もう、アキト遅刻だよー」
「ったく、お前ほんと変わんねえなあ」
言いながら2人の目の前で立ち止まって、リストバンドで汗を拭い少しの間呼吸を整える。
「ごめん、昨日目覚ましかけ忘れてさ」
「いいよ、やっぱりそれでこそアキトだもん」
「大体お前の寝ぼう癖は、今に始まったことじゃねえしな。かけてても、どうせ止めてまた寝てただろ」
カナエは微笑んでいるが、ダイスケは肩をすくめて半笑いの呆れ顔だ。
「そ、そんなこと!」
「あっただろ。これまで何回遅刻したと思ってんだ」
「それは……」
「まあまあ、いいじゃない。アキトも謝ってるんだし」
なにも言い返せない……! 言葉に詰まっていると、彼女が助け舟を出してくれた。
「お前ほんとアキトに甘いな。ま、おれも別に気にしてねえけど」
彼もその言葉の通り、頭の後ろで手を組んで気楽そうに片足をプラプラさせている。
「なら良かったよ、ありがとう」
「けど、あなたは少しくらい気にしないとダメだよ。わたしはそんなアキトも好きだけど、困るのは自分なんだから」
「……なるべく、がんばるよ」
カナエに注意されてしまっていつもの勢いを無くす彼に、2人は顔を見合わせ思わず笑みをこぼす。
「よし、じゃあ行こうぜ! カナエ! ダイスケ!」
だが彼はすぐに気を取り直して、威勢良く呼びかけた。
「うん!」
「おう!」
アキトが駆け出し、カナエとダイスケも快い返事とともにそれに続く。
これからどんなポケモン達に出会うんだろう。どんな人達と会って、どんなバトルをするんだろう。今はまだ分からない。
けど、1つ。これだけは言える。
「新たな旅に出発だ!」
そう、オレ達の旅は終わらないんだ! 夢を叶える、その日まで!