05
「……あれ」
コテージの扉まで後数歩というところで、ちらりと湖畔に目を向けると思いがけない人物が居た。
彼はちょうど振り返ったところだが、その姿は紛うこと無く明日の対戦相手だった。
「リョウジ?」
「お前か」
とりあえず、彼に駆け寄る。
「どうしたんだ?」
「お前こそ」
なぜここにいるのかたずねてみたが、逆に問いかけられた。
「……明日のバトルが楽しみで、寝れなくてさ。それでまあちょっと……」
「フン、相変わらず無駄に元気だな」
「うるさいな、リョウジこそ相変わらず口が悪いじゃないか。それで、お前はどうしたんだよ?」
「さあな。……お前と似たようなものだ」
再び聞くと、最初ははぐらかそうとしたが、少し間を置いて静かにそう言った。
「オレさ、リョウジ。お前と会えて、研究所でお前に負けて良かったかもって思ってるよ」
リョウジからは何もが返って来ないが、聞いてくれてはいるのだろうと続ける。
「オレ、調子に乗りやすいとこあるからさ。お前に会わなかったら、今のオレは無かったかもしれない。
お前が居たから、お前にだけは負けたくないってずっと目標にし続けて来たから、ここまで強くなれたと思えるんだ。だから、ありがとう、リョウジ」
「お前が1人で勝手に思っていたことだ。別に礼を言われるいわれは無い」
彼は再び湖畔に向き直り、普段の声色で言う。
「前に言っていたな。強くなった、と」
「え? ああ」
……やっぱり愛想悪いな。なんて思いながらその背を見ていたら、今度は彼が話し始めた。
「俺は、お前のことをうっとうしいと思っていた」
「い、いきなりなんだよ!?」
何を話すのか、少し楽しみにしていたところにいきなりの暴露。それがあまりに急すぎて、何より最初に出て来たのは戸惑いだった。
「弱いくせに何度勝ってもしつこく勝負を挑んできて諦めない。しかも面倒なことに、その度に実力差を埋めてくるから無視も出来ない。本当に厄介なやつだ」
「……ん?」
あれ、これって認めてもらってる? それとも、ホントに嫌がってる?
首を傾げていると、更に彼は続ける。
「だが、それも終わりにしてやる。ちょうど前のバトルの勝ち方には納得が出来てなかったんだ。明日、決着をつける」
「ああ、望むところだ! 絶対負けないからな!」
リョウジはそれ以上何も言わず、フン、と鼻を鳴らしてコテージに入っていった。
アキトは、なんだか自分が一方的に思っていただけではなくリョウジからライバルと認めてもらえたような気がして、嬉しくなりながらコテージに戻った。