02
「おいしかったなあハンバーグ!」
「だけどすごい名前だよね。グレン風火山ハンバーグって」
「正直どんなのが出てくるか不安だったけど、おいしくて良かったよ」
食事を終えたアキト達は、話しながらコテージに向かって歩いていた。
「おれは団子が一番良かったな」
「確かにそれもおいしかったよな。お茶と味が合ってて、甘さも行きすぎず控えめすぎずちょうど良かったし」
「えー? やっぱりケーキだよー。特に生クリームが。ね、アキト?」
アキトとダイスケが話していると、カナエも加わってきた。
「一口食わせてもらったけど、それもおいしかったよな」
「どっちかはっきりしろよ」
「うーん、選びがたい……。じゃあ、ハンバーグ!」
「それデザートじゃないよ」
「はは、まあまあ。良いだろ別に」
「ふふ、まあね」
彼ら3人が楽しそうに話しているのを、ツボミはじっと眺めていた。
「アキトさん達って、本当に仲が良いですよね」
そして会話が途切れたところを見計らって訪ねた。
「え? ああ、まあずっと一緒だったからな」
「いわゆる幼なじみというものですね。みなさん、どんな風に出会ったんですか?」
「そうだな。ダイスケとは母親同士が仲良かったからさ」
「まあ自然に、だな」
「カナエさんとは?」
その言葉を聞いて、アキトの口が動きを止めた。
「あ、アキトさん……?」
「もしかしてアキト……。わ、忘れたの?」
「い、いやごめんカナエ。忘れたわけじゃなくて、どれがどの時か曖昧でさ……」
しかし2人からいぶかしげな目を向けられ、少しの間を置いてからごめんなさい、と頭を下げた。
「もー、ひどいなあ。わたしは忘れたことなんて無かったのに……。
えっとね。まだわたし達が小さいころ、わたしが公園で1人で遊んでたら、アキトが一緒に遊ぼうって声をかけてくれたんだよ」
「ああ、あの時か! そういえばそうだったな!」
「本当に覚えてるの?」
「もちろん! その時ダイスケも一緒だったし、それからよく3人で遊ぶようになったんだよな」
彼女はアキトを疑いの目で見つめたが、自信ありげな様子と発言の内容から本当だと判断してくれたようだ。
「けど、懐かしいなあ」
「ふふ、本当にそうだよね。……アキトはわたしの初めての友達だから、今でも特別な存在なんだ」
「え、おれは?」
「ダイスケは2番目だからなあ。それに話しかけてくれたのはアキトだし」
「残念でしたね、ダイスケさん」
しみじみと語り、それから話す彼らにアキトは加わらなかった。
特別な存在か、となんだか少し照れくさく感じて気持ちを切り替えようと正面に向き直ると、誰かがこちらに向かって歩いてきていた。
「あいつ」
やや長めの黒髪、黒い上着。リョウジ。
あちらも自分達に気づいたようだ。
「リョウジ、すごいな。1、2回戦とも、圧勝……、だったじゃないか」
話しが出来るほどに近づいて、言いかけてツボミのことに気づいたが、止められずに続ける。
「対策をしたからな。当然の結果だ」
リョウジも彼女の存在には気づいていただろうが、目もくれずに返しアキトを見た。
そしてしばし息苦しい沈黙が続いたが、やがて彼の方から目を逸らして通りすぎて行ってしまった。
「……なに、今の空気?」
「……あいつは、僕のライバルなんです。いや、あっちはどう思っているかは分かりませんけど、僕はそう思ってます」
タカオの質問に、彼は帽子のつばを下げて小さく返事した。
それから少ししてまたたわいのない話で盛り上がりながらコテージに着き、彼らは解散した。