01
「さあ、行きますよタカオさん! ツボミちゃんとも約束したんだ、絶対勝ちます!」
「ああ。おれも前回のリーグ以上の戦績にしたいし、絶対勝つぜ」
「1回戦で熱い戦いを繰り広げたアキト選手と、去年の結果に見合った戦いを見せてくれたタカオ選手! 勝つのはどちらだ!」
アキトとタカオ、2人が言葉を交わし、直後実況が入る。
「アキト君、勝てるかな……」
「もちろん! アキトは絶対勝つよ!」
「つーか勝たねえとおれが困る!」
「約束しましたから! きっと勝ちますよ!」
「……はは。みんな、アキト君を信じてるんだね」
シンヤが不安そうに言うとカナエ、ダイスケ、ツボミから即答され、彼は思わず苦い笑いをこぼした。
「行け! カビゴン!」
「さあ、まずはお前だ! ペンドラー!」
お互い最初に出したポケモンは重く、両者ドスンと砂煙を立てて現れた。
「あら? 速いやつが来ると思ったんだけどな」
「へへ、まさかこいつを最初に出すとは思わないだろうって思ったんです。カビゴン、じしん!」
「ああ、いきなり意表を突かれたよ。つっても、そう悪い対面じゃないかな? かわしてメガホーン!」
「ペンドラー速い! 跳んでかわした!」
カビゴンが地面を殴って起こした衝撃波をペンドラーは高く跳んで避け、すぐさま着地して角を突き出し迫ってくる。
「よし、ほのおのパンチ!」
だが避けようとはせず真正面から来た角をお腹で受け止め、距離を取られる前に思いきり顔面に炎を纏った拳を叩き込んだ。
「あっと、効果は抜群だ! だがまだ耐える!」
「ほのおのパンチを覚えてたのか。まあいい、もう一度メガホーン!」
効果は抜群、しかしやはり一撃では倒してくれないらしい。殴られても踏ん張って体勢を保ち、一度顔を引っ込め再び角を突き出した。
「くっ、さすがにきついかな」
2発目を食らわせて、今度は自分が反撃される前に素早く下がった。
メガホーンの威力は高く、カビゴンは少しつらそうにお腹をさすっていたが、振り返って得意げに右腕を上げた。
「さすがカビゴン、タフだな」
「けど、後一撃も耐えられるかな? メガホーン!」
アキトが安心した直後、三度タカオが指示を出す。ペンドラーはまたも角をかざして突進してきた。
「耐えませんよ。だって、食らいませんからね! 角をつかめ!」
だがカビゴンも右足を前に、左足を後ろにして構え、突き刺される寸前に2本の角を両手で掴み、やや後退しつつも持ちこたえる。
「よし、投げるんだ! ほのおのパンチ!」
そして、思いきり横に倒してそこに拳を叩きつけた。
「ペンドラー、戦闘不能!」
「わお、すげえパワフル……! 1回戦でのヘラクロスといい、意外とパワー系もいけるんだな」
タカオは予想外と言った感じで大口を開け、次に感心したように腕を組んでうんうんと頷いた。
「いいぞアキト! 先制だ!」
「その調子でがんばって!」
「サンキューペンドラー、戻ってくれ。うーん、次は……。お前だな! リングマ!」
彼の次のポケモンは、リングマ。お腹に輪っかを持った茶色い大きな熊のポケモンだ。現れて、雄叫びをあげた。
「去年大活躍してた、あのリングマですね!?」
その姿を見て、アキトが反応を示す。
「お、そうそう! 分かる?」
「はい、見てましたから! 特に準決勝での戦いは手に汗握りましたよ!」
「つっても、負けたんだけどな。惜しかったなー」
「けど、すごかったですよ! 特に最後の……」
会話に花を咲かせる2人にカビゴンもリングマも呆れた顔で自分のトレーナーを振り返るが、全く気にせず話しを続けている。
「……おい、あいつどうすんだ」
「アキトったら、しょうがないなあ」
「とても楽しそうですね」
「いや、駄目だよね」
ダイスケは呆れて、カナエとツボミは笑っている。シンヤは彼らと特に彼らをとがめない3人に対してツッコミを入れる。
「あっとどうした? 両者にらみ合ったまま動かない!」
「あ、やべ! そろそろ始めるか」
「そうですね。行け! カビゴン!」
「やれ! リングマ!」
さすがに2人も、実況から急かされてしまい慌ててバトルに戻る。
「ほのおのパンチ!」
「かみなりパンチ!」
どっしりと構えるリングマに、カビゴンは走って向かっていく。そして拳と拳をぶつけ合うが、威力は互角のようだ。
「だったらのしかかりだ!」
「確かにかなり重いだろうけど、当たらなけりゃあいいのさ! アームハンマー!」
続けて2匹が同時に動く。カビゴンが体を前に倒そうとするが、それより速くリングマがお腹に両腕を叩きつけた。
「効果は抜群だ! カビゴン、たまらずダウンです!」
「カビゴン、戦闘不能!」
「カビゴン! ありがとう、ゆっくり休んでくれ。……去年はそんな技使ってなかったのに」
「新しく覚えさせたのさ」
悔しがるアキトに、タカオは得意げに笑ってみせた。
「カビゴンがやられてしまいました……」
「大丈夫だよ、アキトもまだ2匹残ってるんだから! イーブンイーブン!」
「はい、確かにそうですね! アキトさん、がんばって下さい!」
「応援してるからね、勝ってね!」
彼の応援をするカナエとツボミ。その隣でダイスケは片方の耳を塞ぎながら、シンヤの肩に笑顔で手を置く。
「え?」
「女2人いるとうるせえよな」
「いや、ぼくは別に」
「だからおれ達も負けてらんねえぞ! アキト、ぜってえ負けんなよ!」
対抗心を燃やした彼が大きな声援を送り、隣できょとんとしているシンヤを見る。
「……」
「なにやってんだ、お前もだ! ほら!」
「……もう、分かったよ! アキト君、がんばって!」
「お、いいぞシンヤ!」
声援を期待しているだろうことは分かったけど、ぼくあんまり大きな声は出ないからなあ、と気づかない振りをしたがダメだった。もう観念して声を張り上げる。
……周りの人、ごめんなさい。
「行け! ピジョット!」
「一旦戻るんだ。次はお前だ! ルカリオ!」
「ブレイブバード!」
「避けてストーンエッジ!」
「かわすんだ!」
先手必勝! と早速攻撃をしかけたが、横にステップを踏んでかわされてしまった。そして後ろから岩が飛んでくるが旋回して避ける。
「なかなか速いですね」
「そっちもな。けどこいつはどうかな? はどうだん!」
ルカリオが構え、両手を突き出して波動の力を放った。
ピジョットは大きく羽ばたき高度を上げてかわすが、はどうだんは弧を描いて後を追ってくる。
「さあどうする? この攻撃は必中、避けられないぜ!」
「どうしようかな……」
なんとか逃げようとするが、やはり無理なようだ。
「もういっちょ!」
その上それは2つに増えてしまう。最初のは後方から、今放たれたものは前方から迫って来る。
「つまり、はさみうちの形になるのか……! けど、まだ道は残ってる。上だ!」
一瞬困ったものの、すぐに逃げ道を見つけた。真上に目をやり指示を出す。
「それがどうした! はどうだんは当たるまで追い続ける!」
「ピジョット! 全力ではばたくんだ!」
彼の余裕は、すぐに驚愕へと変わった。
ピジョットが思いきりはばたくことで巻き起こされた強風がはどうだんを押しとどめ、やがて勢いに負け後退してきた
「さすが大木がしなるほどの強風! はどうだんが押し返されている!」
「ルカリオ、避けろ!」
エネルギー弾は最後まで抵抗を続けたがかなわなかった。
ルカリオは自分に当たりそうなところを後ろに下がってかわした。2つのエネルギーは地面に当たって弾ける。
「よし、ブレイブバード!」
だがチャンスは逃さない。そこに翼をたたんで突撃する。ルカリオは直撃して後方に飛ばされ、ピジョットは攻撃の反動を受けた。
「ねっぷうだ!」
「くっ、ストーンエッジ!」
さらに熱風を起こして追撃するが、同時に反撃にあってしまう。
「ルカリオ!」
「大丈夫だ、ピジョットは耐え……!」
「ピジョット、ルカリオ、共に戦闘不能!」
そして、お互い倒れてしまった。
「あぶねーあぶねー、急所に当たったみたいだな。サンキュールカリオ、後は休めよ」
「ピジョット、よくやったな。ゆっくり休んでくれ。よし、行け! ウインディ!」
「最後はお前だ! リングマ!」
2人は倒れた自分のポケモンを戻して、アキトはボールを軽く上に放りキャッチして勢い良く投げ、タカオも最後の1匹を出した。
「かえんほうしゃ!」
「すてみタックル!」
リングマはウインディの放った激しい炎に構わずかなりの勢いで突進してくる。
「かわしてかえんほうしゃ!」
「お前もかわせ!」
横に避けて通りすぎたところを狙ったが、意外と素早く身を翻してかわされる。
「かみなりパンチ!」
「かえんほうしゃ!」
「防げ!」
さらに振り返って電気を纏った拳を叩きつけられ、すぐに炎をはいて反撃するも両腕を体の前で交差させ防がれてしまう。
「だったらアイアンテール!」
「かみなりパンチ!」
軽く跳んで縦に振り下ろしたしっぽも拳をぶつけられ途中で止まった。
「さすがタカオさんのリングマ、隙が無い……! ウインディ、一度離れるんだ!」
「逃がさないさ、すてみタックル!」
ならばと距離を取ろうとしたが、そこに突進されてしまった。
「ウインディ!」
「あっと、強力なリングマの攻撃が直撃! 耐えられるのか?」
ウインディは山なりに飛ばされてしまい、しかしややつらそうにしながらも着地をする。
「よし、さすがウインディ!」
「驚いたな、まだ倒れないのか」
「もちろん! あなたのリングマを倒すまで、ウインディは倒れません! これならどうだ、しんそく!」
「ものすごい速さだ! リングマ、反応できない!」
ウインディが目にも留まらぬ速さで接近して突撃した。
「かえんほうしゃ!」
それに怯んだところに激しい炎を浴びせる。
「まずい! リングマ、かみなりパンチ!」
「させるか! 決めるぜウインディ! フレアドライブ!」
続けて炎を纏って突進する。リングマは拳を振り上げたが、振り下ろすより先にウインディが技を決めた。
「リングマ!」
耐えきれず吹き飛ばされ、受け身も取れずに倒れた。
「ウインディ必殺のフレアドライブが決まった! リングマ、たまらずダウンです!」
「リングマ、戦闘不能! よって勝者、アキト選手!」
「マジ!? おいおいリングマ、立ってくれよ!」
タカオが声をかけるも、ぴくりととも動かない。
「マジかぁ……。戻ってくれリングマ」
「へへ、やったぜ! よくがんばったなウインディ!」
彼は悲しそうにリングマに歩み寄って軽く撫でてからボールに戻し、アキトもウインディに駆け寄り頭を撫でてから戻した。
「負けたよアキト」
「僕の勝ちですね!」
彼が近づいてきて、少し残念そうにしながらも笑顔で右手を出してきた。
「ああ、前よりもだいぶ順位が……。まあいいか楽しかったし。アキト、おれに勝ったんだから絶対優勝してくれよ」
「はい、もちろん! またバトルしましょう!」
「ああ、次は負けないぜ」
アキトはそれをがっしり掴んで、彼も笑顔で言葉を返した。