02
「リョウジさん! あなたはアキトさんに何回も勝ったらしいので相当の腕前だとは思いますが、負けませんよ!」
「あいつの知り合いか? まあいい、お前のポケモンの対策は完璧だ。俺が勝つ」
バトルフィールドで向かい合ったツボミとリョウジ、2人とも準備は万端なようだ。
「とうとう始まるな、リョウジとツボミちゃんのバトルが!」
「うん、やっとだね! どっちが勝つかな?」
観客席で、アキト達は並んで座っている。
アキトは早く始まらないかと期待に胸を膨らませ、カナエも旅に出てからは唯一の女友達のバトルということで他のバトルよりも乗り気に見える。
「そうだな……。やっぱりリョウジは強いけど、ツボミちゃんだってバッジを8つ集めたくらいだから、分からないかな」
「アキトは、どっちに勝ってほしい?」
「うーん、ツボミちゃんにはきっとバトルするって約束をしたから勝ってほしいけど、リョウジともバトルしたいんだよなあ……」
「えへへ、せいいっぱい悩みなさい」
はっきり出来ずに後頭部をかくアキトに、彼女は笑顔になる。
「なあ、お前らあのツボミってやつと知り合いなのか?」
「うん、わたし達の友達。そういえばダイスケは会ってなかったね」
頭を抱える彼の隣で、カナエはダイスケの質問に答える。
「出て来いユキノオー!」
「頼んだよ、チルタリス!」
2人は同時にポケモンを出した。
リョウジが出したのはくさ・こおりタイプのユキノオー。対してツボミは、ドラゴン・ひこうと相性の不利なチルタリスだ。
ユキノオーの特性ゆきふらしで、いきなりフィールドに霰が降り出した。
「フン」
リョウジは相性の有利な相手の登場に、口元を歪める。
「あ、アキト! ツボミちゃんまずいよ! 相性悪いよね?」
「ああ、かなりな……。けど、チルタリスはほのおタイプの技も覚える。もしかしたら……」
「ユキノオー……! けど、きっとチルタリスの方が素早い! かえんほうしゃ!」
「いいぞ、ツボミちゃん!」
アキトの言うとおり、チルタリスは霰の中激しい炎を放つ。
「受け止めろ!」
だがユキノオーは両手を体の前で交差させ、ダメージを軽減させてしまう。
「そんな……!」「さすがリョウジのポケモン……!」
「ふぶき!」
彼女とアキトが驚いている間にも、リョウジは指示を出した。腕を下げて、口から激しい吹雪を吹き付けた。
「チルタリス、かわして!」
「無駄だ。天候が霰の時、ふぶきは必中の技になる」
チルタリスは上空に、横にはばたいて逃れようとするが、その後ろを吹雪が追いかけ、命中してしまった。
「チルタリス、戦闘不能!」
効果は抜群、一撃で地に落ちて動かなくなった。
「ありがとうチルタリス、ゆっくり休んで……。頼んだよ、ムーランド!」
「戻れユキノオー。出て来いクロバット、とんぼがえり!」
ムーランドは、出て来たクロバットにいきなり吠えて威嚇する。それにやや怖じ気づいたようにしながらも、素早く突進してモンスターボールに戻った。
「なるほど。今クロバットを出したのは、いかくを無駄にするためか」
「出て来いエレキブル!」
「ムーランド、あなをほる!」
エレキブルがフィールドに姿を現すと同時に、ムーランドは地面に穴を掘って潜り込み、姿を消してしまった。
そして姿を見失って辺りを見回している間に真下に移動したらしく、いきなり足元が盛り上がりムーランドが現れ、思いきり突進した。
「あーっと、効果は抜群だ! だがまだ倒れない!」
「クロスチョップ!」
エレキブルは空中に投げ出されたが、平然と着地して両手を叩きつけた。
「もう一度あなをほる!」
こちらも効果は抜群だが後退するだけで耐え、再び地面に潜り見えなくなる。
「エレキブル、見失っている!」
先ほど同様、エレキブルは辺りを見回している。そして、足元が少し盛り上がる。
「やはり再び足元に来たか。今だエレキブル、跳べ!」
しかし同時にリョウジが指示を出した。それを聞いて高く跳び、直後ムーランドが地面から飛び出す。
が、先に跳ばれていたせいでギリギリ届かなかった。
「クロスチョップだ!」
そしてその至近距離から繰り出された手刀は顔面に直撃して、フィールドに叩きつけられた。
「ムーランド、戦闘不能!」
「ありがとうムーランド、戻って。リョウジさん、負けませんよ! 頼んだよ、ドレディア!」
うつぶせになった状態で起き上がらないムーランドをボールに戻し、ツボミは最後の1匹を繰り出した。
「これで最後か……!」
「けどアキト、リョウジ君はまだ……!」
「戻れ、エレキブル。出て来いクロバット!」
だがリョウジも交替して、再びクロバットを繰り出す。
そう。ツボミのポケモンが残り1体なのに対して、リョウジはまだ3匹残っている。
「……相性が、すごく悪い……。私、きっとここで……」
「ツボミちゃん、負けるな! 約束しただろ!」
おまけに相性も最悪だ。ツボミがうつむき諦めの言葉を吐きかけた瞬間、観客席から一際はっきりと応援の声が聞こえた。
「アキトさん……!?」
「あいつ……」
声の主を探し、見つけた。赤い帽子の彼は後ろの観客の迷惑にならない程度に立ち上がり、拳を握りしめている。
「まだ負けたわけじゃない! 最後まであきらめるな!」
「アキトさん……。はい!」
自分を励ますその声に、ツボミは顔を上げしっかりと相手を見た。
「ドレディア、ちょうのまい!」
「ヘドロばくだん!」
「エナジーボール!」
ドレディアが神秘的で軽やかな舞を踊っている間に攻めようとクロバットはヘドロを発射したが、舞が終わって自然から集めた命のエネルギーの球で迎え撃つ。
ちょうのまいで特攻、特防、素早さの上がった状態でのエナジーボールは威力が高く、たやすくヘドロを打ち破った。
「避けろ!」
「ドレディア、近づいて!」
高度を下げてそれを避けるクロバットに、ドレディアは素早く距離を詰め跳んで目の前まで接近する。
「やはり速いな……!」
「いいぞツボミちゃん!」
「この技なら、クロバットにだって効くはずです! お願いドレディア、はかいこうせん!」
「くっ、クロバット!」
「おおぉぉっ!?」
「やった!」
「これでクロバットは……!」
眼前で放たれた強力な光線を避けられるはずがない。
リョウジ、アナウンス、アキトとカナエが、思わず声を上げる。
光線に飲まれたクロバットは地面に叩きつけられ土煙が舞い、ドレディアはその攻撃の反動で動けなくなっている。
「……よし、耐えたか」
リョウジがつぶやいた。
「アクロバット!」
そして続けて指示を出した。
「嘘……!?」
まだ晴れない土煙の中から、クロバットが飛び出してきた。
そして未だ動けずにいるドレディアに向かって軽やかに攻撃した。
「ドレディア、戦闘不能!」
「……負けた」
「ツボミちゃん……!」
「勝者、リョウジ選手!」
とうとうツボミの最後のポケモンも倒れ、勝敗がついてしまった。
「……ありがとう、ドレディア。ゆっくり休んでね。
……あの、リョウジさん、ありがとうございました……」
「……ああ。戻れ、クロバット」
ツボミは震える声をなんとか張り上げて対戦相手へ敬意を払って頭を下げるが、リョウジは短く返してクロバットを戻し、バトルフィールドを去ってしまった。
「なんということでしょう! リョウジ選手、またしても1体もやられずに勝利してしまった!」
「……アキト?」
会場が沸き立つ中、アキトは席を立った。
「どこ行くの!?」
「お、おい!」
「アキト君! カナエちゃん!」
そしてカナエの問いかけにも答えず、走っていってしまった。彼女も慌てて後を追い、2人は気になるが次の試合は見たい、とダイスケとシンヤはその場に残った。