01
扉を開けた先は、まあ予想通りそこそこ広めの部屋だった。
そして部屋の奥には明るい青緑の髪の青年、その後ろにエレベーター、すぐ横の壁にはカードキーを使うだろう小さな機械が取り付けられてある。
位置的に、あれは今までのエレベーターとは繋がっていないらしい。
「あの時の少年達と、その仲間か」
「シノノメシティを襲った、ハシタ!」
「フン、シノノメシティ以来だな。出て来いハッサム!」
青年、ハシタにアキトが反応を示したが、リョウジはそれだけ言葉を返してポケモンを出した。
「やれやれ、血の気が多いな」
「そんなもの必要無い。お前達、手を出すなよ」
ハシタがリモコンを取り出したのを見て彼が制止し、振り返って肩ごしに言った。
それにハシタが一瞬眉をひそめるが、すぐに平静を装った。
「リョウジ君、だったかな。以前私の邪魔をしたんだ、覚悟は出来ているね?」
「俺はお前と仲良くお話する気は無い。早くポケモンを出してもらおうか」
「この……! しかたないね……! ゆけっ! エルレイド!」
聞く耳を持たない彼にハシタは怒りをこらえ、ポケモンを出した。
その肘には刀がついている。
「戻れ。出て来いクロバット!」
「くっ、戻れエルレイド! ゆけっ! ドータクン!」
「とんぼがえり」
4つの羽を持ったコウモリのポケモン、クロバットは素早く攻撃して戻った。
「出て来いカイリキー!」
「サイコキネシス!」
「クロスチョップ!」
ドータクンは念波を放つが、カイリキーは構わず接近して両手を叩きつける。
「もう一度クロスチョップ!」
「くっ、サイコキネシス!」
2回の攻撃はかなりのダメージだったが、ドータクンはなんとか耐えて反撃した。
効果は抜群、ダメージが無かったわけではないらしく、カイリキーはあお向けになって倒れた。
「戻れ。出て来いクロバット!」
「またそのポケモンか!」
「ねっぷう!」
クロバットが羽ばたき起こした熱風が、ドータクンの体を熱していく。体力はもう無いらしく、ゴトッと音を立てて床に落ちた。
「ゆけっ! ヤドラン!」
「とんぼがえり!」
「じこさいせい!」
攻撃を食らわせて戻るが、ヤドランは直後に回復してしまう。
「出て来いスターミー!」
「くさむすび!」
「10まんボルト!」
スターミーは電撃を放ち、しかしヤドランはそれを耐えながら草で転ばせ反撃した。
「戻れ。ゆけっ! フーディン!」
「戻れ。出て来いゴローニャ! じしん!」
「避けてサイコキネシス!」
ゴローニャは足踏みして衝撃波を起こすが、フーディンは念力でその場に浮いて念波を放った。
「ストーンエッジ!」
だが負けじと岩を飛ばして反撃する。
「くっ……、サイコキネシス!」
しかしギリギリまで体力を削ったが、後一押し足りなかった。
再び念波を送られ、ゴローニャは倒れた。
「戻れ。出て来いクロバット!」
「サイコキネシス!」
「避けてとんぼがえり!」
クロバットは技を使われる前に素早く羽ばたき、食らわないよう不規則に動きながら接近し、攻撃してボールに戻った。
フーディンはすでに皮一枚だったところを押され、戦闘不能になった。
「出て来いスターミー!」
「ゆけっ! エルレイド!」
「サイコキネシス!」
「リーフブレード!」
念波を送ってダメージを送っても、エルレイドにはそこまで効いてはいないらしい。
「おい、あぶねえぞ!」
ダイスケが叫ぶが、リョウジはこれ以上なにも指示を出さない。
エルレイドは少し顔をしかめるだけで、接近して肘の刀で切りつけた。
「なんで避けないんだ……?」
アキトは疑問に思ったが、彼の性格を考えてすぐに分かった。
スターミーはもう役割が無いからと、言い方は悪いが捨てたのだ。
「……」
だがそれも彼のやり方だ。アキトは納得は行かなかったが、口出しはしなかった。
「戻れ、スターミー。出て来いクロバット!」
「戻れ! ゆけっ! ヤドラン!」
「ヘドロばくだん!」
ハシタは交替してヤドランを出したが、クロバットは現れると同時にヘドロの塊を浴びせた。
「ブレイブバード!」
「……サイコキネシス!」
さらに翼を折りたたみ突進する。
最後の頼みに念波で攻撃したが倒しきれず、ゆっくりと倒れた。
クロバットは反動を受けたが、まだなんとか倒れずにいる。
「……ゆけっ! エルレイド! サイコカッター!」
「ブレイブバード!」
続けて出したエルレイドの技も横に羽ばたきたやすくかわし、再び突撃を食らわせた。
効果は抜群、エルレイドは倒れ、反動でクロバットも落下した。
「戻れ……! ゆけっ! ランクルス!」
ハシタは歯を食いしばっておそらく最後の1匹を出した。
「戻れ。フン、出て来いハッサム!」
リョウジはそれを鼻で笑いながら、またそのポケモンを出した。
「きあいだまだ!」
「受け止めろ。とんぼがえり!」
ハッサムはランクルス渾身の技を2つの大きなハサミで防ぎ、接近してその片方で思いきり殴ってボールに戻る。
「少しくらいは花を持たせてやる。出て来いエレキブル! 終わらせろ、ワイルドボルト!」
「くっ、ランクルス」
そして最後に出て来た彼の相棒が、電気を纏って突進した。
素早くないランクルスはかわすことが出来ず、直撃して倒れた。
「っ……! この私が、こんな小僧に……!」
「フン」
膝をついて歯ぎしりする彼にリョウジは鼻を鳴らして、近寄って手を差し出す。
「なんだ……!」
「カードキーを出せ」
自分を見下ろすリョウジの後ろでは、エレキブルが両拳を合わせ、出さなかったらどうなるかを伝えるかのように2本のしっぽの先から電気を放っている。
ハシタは思いきり拳を床に叩きつけ、なおも歯を食いしばりながら胸ポケットから薄い一枚のカードを出した。
「悔しいだろうな、子ども相手に負けて命令されるのは。全く、シノノメシティさえ襲わなければ良かったものを」
彼は嘲笑しながらそれを受け取り、ハシタが罵ってくるのを無視してアキトに投げた。
「うわっと。あ、ありがとうリョウジ」
彼はそれを落とさないように慌ただしくキャッチする。
「俺はもうここに用は無い、くれてやる」
「待ってくれ」
自らの相棒を戻してアキト達の横を通り過ぎようとしたところを、引き止められた。
「もしかしたらこの先にシッコク団のボス、ウツブシが居るかもしれない。だから、見ていってほしいんだ。オレとウツブシのバトルを。オレが、ウツブシに勝つところを」
隣で立ち止まって、用件を待っているかのように黙って見つめてくる彼に言った。
「随分な自信だな。……まあいい、付き合ってやる。ポケモンリーグで戦うかもしれない相手に手のうちを晒したいというのならな」
「いいさ。どうせオレ達は、何度も戦ってるんだ」
そう返すと、なら行くぞ、と振り返りエレベーターへと歩き出した。
……幹部4人に守らせるくらいなんだ。きっとこのエレベーターを上った先に、ウツブシが居るはずだ。
オレは帽子をかぶりなおして、カードキーを使ってその扉を開き足を踏み入れた。