01
「また広い部屋だ……」
今度も右手に扉、背後に上ってきた階段があるが、それ以外はなにもない。
というか、オレ達だいぶ階段上ってるけど、一体どこに向かっているんだ……? ……まあいいか、行けるとこまで行けばいいんだ。
今回も今まで同様、部屋の奥に幹部が立っていた。
暗い紫髪、団服はしたっぱと変わらず一見柔和そうにも見える顔つき。
「ウツブシ様の言う通り、本当に君達が来るとはね。僕のことを覚えているかい?」
この顔には見覚えがある。今度こそ名前も覚えている。
「ああ」
「もちろんさ。シッコク団幹部、シコン」
アキトが返答した直後に、シンヤが険しい顔で一歩前に出て言った。
「全く、まさか君達がこんなところまで邪魔しに来るとは思わなかったよ」
言いながら彼はポケットからリモコンを出し、ボタンを押した。
するとスミレの時同様、シンヤとアキト達を隔てる光の壁が現れる。
「スミレさんのとこでもう聞いているだろうけど、ここの扉にも鍵がついている」
「だから1対1で戦おう、ということだよね?」
「その通り。じゃあ行くよ。ゆけっ! ユキメノコ!」
「行くんだキュウコン!」
彼が出したポケモンに対し、相性のいいキュウコンを出した。
「戻れ。ゆけっ! シャンデラ!」
「……。戻ってくれ。行くんだルンパッパ!」
キュウコンでは有効打が無い。弱点をつけるポケモンに変えることにした。
「ねっとう!」
「シャドーボール!」
効果抜群の技を放つも、さすが高い特攻を誇るだけあり、たやすく押しきられてしまった。
「くっ、かわすんだ!」
慌てて回避行動を取り、直撃は免れたもののそれでもダメージはある。
「もう一度シャドーボール!」
「かわせ!」
先ほどのように技をぶつけ合っては勝ち目が無いと判断し、隙を突く戦法に変えた。
放たれた黒球を横に避け、接近した。
「シャドーボール!」
「かわしてねっとう!」
やはりまた放たれたが、あらかじめ視線からどこに撃つか、自分の今居る位置の体の中心と判断して、跳んで空中から熱湯を浴びせる。
「やるね。シャドーボール!」
「しまった……!」
だがシャンデラは耐え、返しの一撃を食らわせた。
「オーバーヒート!」
続けて激しい炎で追撃する。くさタイプも複合のルンパッパではダメージを抑えきれず、倒れてしまった。
「ありがとうルンパッパ、ゆっくり休むんだ」
大丈夫、今までの傾向からすると、シコンもポケモンは5体のはず。まだぼくが有利だ。
「行くんだコジョンド!」
このポケモンなら、シャンデラより素早いし弱点をつける。ユキメノコから一撃でやられたりもしないはずだ。
「シャンデラ、戻るんだ」
まあ、そうだよね。
「ゆけっ! ブルンゲル!」
「とんぼがえり!」
出てきたポケモンに素早く攻撃を食らわせ、ボールに戻る。
「行くんだレントラー! 10まんボルト!」
「じこさいせい!」
レントラーは先手を取って攻撃するが、シコンの出した指示によりたちまちダメージは薄れていく。
「くっ、もう一度10まんボルト!」
「じこさいせい!」
シンヤは苦々しげにしているが、シコンはむしろやや期待をしているように見える。
「……シコンは狙ってる。特性の発動を」
アキトが口を開いた。このまま攻撃を続けるしかないけど、発動したら少しめんどくさいな、と言葉を続ける。
「ブルンゲルの特性って、確かのろわれボディっていうのだよね? ……効果は、忘れちゃったけど」
カナエは、恥ずかしそうに笑っている。
「ああ。攻撃された時に、たまにその技をかなしばり状態にするんだ」
「なにそれずるっ」
そんな彼女の様子に思わず笑みをこぼしながら返答したら、ダイスケが口をとがらせた。
「まあ、確かに」
頷いて、バトルに意識を戻す。
「くっ……!」
シンヤが歯ぎしりした。見ると、レントラーが苦い表情をしている。
「けどまだだ! レントラー、かみくだく!」
効果抜群の一撃には、回復も追いついてはいなかったらしい。
ダメージを伺わせるブルンゲルに、レントラーは突進する。
「避けてねっとう!」
だがそれをゴーストタイプ特有の動きで音も無く横にかわし、通りすぎざまに熱く煮えたぎる水を浴びせる。
「もう一度だ!」
「ねっとう!」
レントラーはへこたれずにもう一度飛びかかるも、再度避けられて食らってしまう。
「行け!」
3度目の突撃で、ようやく食らわせることに成功した。
「ねっとう!」
「かわしてかみくだく!」放たれた熱湯を浴びる前に距離を取り、食らわないよう後ろに回り込んで飛びついた。
ブルンゲルは耐えきれず、やはり音も無く倒れた。
「やはり相性は悪かったかな、戻れ。ゆけっ! シャンデラ!」
先ほどのポケモンが、再度出てきた。
「レントラー、かみくだく!」
「避けてシャドーボール!」
すでに体力は残り少ないレントラーが果敢に突進するも、それはたやすく横にかわされ黒い影の塊を食らってしまった。
耐えられず、地に伏した。
「ありがとうレントラー、戻るんだ。行くんだフライゴン!」
「あ、フライゴン!」
「ショウブさんも連れてたな」
「……」
シンヤの出したポケモンにアキト達3人は反応し、リョウジは以前の敗北を思い出してかひそかに眉をひそめた。
「フライゴン、ストーンエッジ!」
「避けてシャドーボール!」
「かわしてだいちのちから!」
お互いに飛ばした技を避け、フライゴンは相手の足下に大地の力を放った。
効果は抜群、シャンデラは戦闘不能になった。
「戻れ。ゆけっ! ゲンガー!」
「ドラゴンクロー!」
「避けろ」
だいちのちからは効果が無い。爪をかざして接近するが、ゲンガーは素早く身をひるがえしてかわす。
「こごえるかぜ!」
そして通りすぎたフライゴンを追いかけ、背後から冷気の風を吹かせる。
「シャドーボール!」
さらに続けて影の球を食らわせる。
フライゴンは体力が尽き、力無く落下した。
「……戻ってくれフライゴン。行くんだトゲキッス!」
「10まんボルト!」
「かわしてでんじは!」
ゲンガーの放つ電撃をトゲキッスは避けたが、同様にこちらの技もかわされてしまった。
「でんじは!」
だが接近して、今度こそ微弱な電気を浴びせることに成功した。
「エアスラッシュ!」
そして空気の刃で切りつける。
「ゲンガー、10まんボルト!」
しかし、体が痺れて動けなかった。
「さすが、いやらしいな」
彼は、悔しい気持ちを隠さずに表した。
「そういう戦い方なんだ。エアスラッシュ!」
「しかたない、みちづれ!」
トゲキッスが再び空を切り裂く空気の刃を放つ、と同時に、ゲンガーから黒い影が伸びてきた。
そしてそれが自らの影と重なった直後に、攻撃が命中した。
そして2体は、同時に倒れた。
「自分がやられそうになったら、強引に相討ちに持ち込む。人のことは言えないじゃないか」
「ふふ、僕もそういう戦い方なんだ」
彼がそう返しながらゲンガーを戻すと、シンヤもむっとやや悔しそうにしながらトゲキッスを戻した。
「行くんだコジョンド!」
「ゆけっ! ユキメノコ!」
2人とも残っているポケモンは、後2匹だ。
シンヤは相手の最後の1匹がどんなポケモンか分からない以上一番の相棒は温存しておきたい、とコジョンドを出した。
「ストーンエッジ!」
「サイコキネシス!」
ユキメノコは飛ばされた岩をたやすくかわして、念波を食らわせた。
「もう一度サイコキネシス!」
「避けて近づくんだ!」
念波を食らわないように素早く近づき、そして跳んで岩を降らせる。
効果は抜群だ、が、まだ倒れない。
「ならもう一度!」
「こちらも避けて、サイコキネシス!」
後方に飛ばされたユキメノコを追って再び岩を飛ばす。しかしそれはなめらかに滑るような動きで避けられ、再び念波を食らってしまった。
効果は抜群、コジョンド、戦闘不能だ。
「……ありがとうコジョンド、戻ってくれ。行くんだキュウコン!」
最後のポケモンだ。もちろん、負ける気は無いけどね。
「だいもんじ!」
「かわしてシャドーボール!」
放った大の字の炎は、しかし当たらなかった。
だがかわりにこちらも避ける。
「じんつうりき!」
ならばと見えない不思議な力を送って攻撃した。
先ほどの岩で大ダメージを受けていたため、耐えられなかった。
「よし、いいぞシンヤ! 後1匹? 2匹? だ!」
今までを考えると5匹だけど、断言出来ないからな。おかげでちょっと決まらないけど、とりあえずシンヤに声援を送った。
「僕のポケモンは後1匹さ」
「あ、良かった。後1匹だぜ!」
「あはは、負けないぞ!」
言い直したアキトの決まらなさに思わず笑ってしまったが、気を取り直して言った。
「ああ、別にいいよ。僕は少しでも相手のポケモンを削れればいいから。ゆけっ! ヨノワール!」
ヨノワール。お腹に大きな口を持ったポケモンだ。
「キュウコン、おにび!」
まずはその攻撃力を削るために、不気味で怪しい炎を9本のしっぽの先に灯し、放つ。
「むっ……」
かなり鈍足(足は無いが)のヨノワールは、避けられなかった。体が燃え上がり、シコンはやや険しい顔をした。
「だいもんじ!」
「いたみわけ」
ヨノワールは大の字の炎を浴びたが、両手をキュウコンに向かってかざし、直後やけどのダメージを食らった。
「くっ……、じんつうりき!」
ヨノワールはキュウコンと体力を合わせ、それを2匹で半分に分けた。
「度じんつうりき!」
「もう一度いたみわけ!」
今度は技を食らわせられたが、再び体力を分けられ、やけどのダメージを食らう。
「じんつうりき!」
「いたみわけ!」
そしてそれを3回繰り返し、そのころには、もうキュウコンはボロボロだった。
「最後だ! キュウコン、だいもんじ!」
もうこれで終わらせたい。キュウコン渾身の大技に、とうとうヨノワールは崩れ落ちた。
この見ているのもつらいバトルも、終わったのだ。
「ありがとうキュウコン、ゆっくり休んでくれ」
キュウコンはつらそうにしているため、すぐにモンスターボールに戻した。
シコンもヨノワールを戻し、直後にリモコンを取り出し壁を解除した。
「負けたよ。はい、鍵」
そして軽い口調で鍵を手渡し、彼は定位置に戻った。
「……行こう」
「だな。やったなシンヤ!」
「うん、危なかったけどね」
それ以上の敵意は感じられない。シンヤはアキト達と話しながらそれを扉に差し、鍵を開けた。