01
「きやがったなガキども!」
鍵を開けて進んだ先は、また広めの部屋だ。
部屋の奥には階段、その前には以前ダイスケとともに戦った、逆立った青髪、袖の無い団服の幹部が腕を組んで立っていた。
彼はアキト達を見て、不機嫌そうな顔に変わる。
「あ、てめえ、前におれ達から逃げた幹部!」
「んだと!?」
「確かアカフジ!」
「ちげえ、アオフジだ!」
今度は覚えてるし自信もあったけど、間違ってたみたいで怒鳴られてしまう。
「惜しかったね、アキト」
「あと一文字だったのになあ」
「ちょっとぐらいいいだろ、やなやつだな」
カナエが笑いながら言い、ダイスケは残念がるアキトに、わざと彼に聞こえるよう耳打ちした。
「聞こえてんだよ、うっせえガキ! てめえらのせいで怒られたんだ、許さねえぞ!」
「知らねえよ」
「うるせえ! ゆけっ! ドードリオ!」
冷静なダイスケに、アオフジはさらに機嫌を悪くしポケモンを出した。
怒鳴ったせいか、すでに少し疲れたような顔だ。
「よし、行け! サン」
「まあ待てアキト、おれ1人で十分だ! 出番だサイドン!」
「じゃあまかせたぜ、ダイスケ!」
「いいの、アキト君?」
シンヤはモンスターボールを構えたまま、横を見た。
「大丈夫だろ、ダイスケだし」
「え?」
彼はすでにサンダースを戻し、腰に両手を当て観戦モードに入っている。
「うん、ダイスケだもんね」
「ええ?」
彼の隣にいるカナエちゃんも、手を後ろで組んでいた。
「そうそう、おれだからな!」
「えええ?」
そして一歩前に出たダイスケが、振り返って得意げに言った。
「……ねえリョウジ君、いいのかな?」
「好きにさせておけ」
振り向いて、距離を取るように立っていた彼を見るが、彼は興味無さそうにしている。
「……いいのかなあ?」
シンヤは疑問に思ったが、だんだん自分が間違っている気がしてきて、考えるのを止めることにした。
「ちっ、相性わりいな。戻れドードリオ! ゆけっ! ギャラドス!」
「げっ! 相性わるっ! 戻れサイドン、出番だゼブライカ!」
「ああっ……! また相性わりいじゃねえか! 戻れギャラドス! ゆけっ! グライオン!」
2人は相性の悪さにいらつきながらポケモンを交替したが、もう替えないようだ。
「さっきはどく、今度は今のところだが、ひこうでタイプ統一か……」
「ん? ああ、そういえば」
リョウジがつぶやいて、アキトが確かに、と頷いた。
「ということはもしかしたらハシタは……」
「ゼブライカ、10まんボルト!」
「あ、おいダイスケ! グライオンはじめんとひこうの複合タイプだ!」
彼のつぶやきを聞いていたが、ダイスケがミスをしてしまい意識はそちらに向けられた。
「はあ!? 先に言えよそういうの! どうみても飛んでんじゃねえか!」
「てめえ馬鹿だな! やっちまえ、じしんだ!」
「うるせえ! オーバーヒート!」
アオフジの嘲笑にムキになりながら指示を出す。
ゼブライカは跳んで衝撃波を避け、そのままフルパワーで熱線を浴びせる。
「おらぁ! すてみタックル!」
「ちっ、もう一度じしん!」
続けて突進を食らわせる。グライオンは落下してしまったが、そのまま地面にハサミを叩きつけ衝撃波を起こした。
「あっやべ! ゼブライカ!」
着地と同時に起こったその技は、直撃してしまい、効果は抜群、一撃で倒れてしまった。
「あちゃー、タイプ相性がなあ……」
「わりいなゼブライカ、戻れ。出番だベロベルト! パワーウィップだ!」
「シザークロス!」
ベロベルトは思いきり長い舌を振り回すが、グライオンは高度を下げることでたやすく回避して両手のハサミで切りつける。
「ばーか! 捕まえて叩きつけろ!」
だがそれを大きなお腹で受け止めて、舌を巻きつけて思いきり地面にぶつけた。
「パワーウィップ!」
続けて横に一回転して遠心力をつけ、舌を叩きつける。
「グライオン!」
グライオンは横に飛ばされ壁にぶつかり、そのまま倒れた。
「ちっ、戻れグライオン。ゆけっ! ギャラドス! アクアテール!」
「むかえ撃て、パワーウィップ!」
ギャラドスは長い胴体から尾にかけてを振りかぶり、ベロベルトも一回転して遠心力をつける。
だがベロベルトは力負けして、ダイスケの目の前まで飛ばされてしまう。
「ストーンエッジだ!」
さらにたたみかけるように飛ばされた石の雨に、耐えきれなかった。
「サンキューベロベルト、戻って休めよ。出番だナッシー!」
「こおりのキバ!」
「ウッドハンマー!」
大口を開けて突っ込んでくるギャラドスに、ナッシーは胴体を使って迎え撃つ。
技の威力の差もあって、ギャラドスは力負けしてしまった。
「リーフストームだ!」
さらに続けて技を食らわせた。
ギャラドスは、耐えられず倒れた。
「いいぜダイスケ!」
「たりめえだ!」
アキトの声援に、握り拳で返す。
「くっそ! ゆけっ! ムクホーク!」
「もう一発リーフストーム!」
「おせえよ、とんぼがえり!」
再び尖った葉っぱの嵐も巻き起こすもムクホークは高く飛んでかわして、頭上から襲いかかった。
「まずっ……!」
効果は抜群、ナッシーは倒れてしまった。そしてムクホークはボールに戻る。
「ゆけっ! ドードリオ!」
「へっ、出番だ! サイドン!」
こいつはかなり有利だ! 勝ちはもらったな!
「ストーンエッジ!」
「避けてはがねのつばさだ!」
サイドンは尖った岩を次々と飛ばすが、ドードリオは持ち前の素早さで回避し接近して翼、というのだろうか、体側を叩きつけた。
「……ねえ、アキト」
「ん?」
カナエが耳打ちをする。
「……ドードリオの翼って、どこにあるの?」
「……ごめん」
「……そっか。アキトでも、分からないことってあるんだね」
「はは、まあな」
彼女の質問は、今のアキトには難しい。
謝ると、意外そうにしていた。
……カナエにそう言ってもらえるのは、頼りにされてるみたいでなんだか少し嬉しいな。けど、ホントどこに翼が……?
「ストーンエッジ!」
だがサイドンも、離れる前に至近距離で尖った岩を放つ。
効果は抜群、一撃で倒れた。
「ちっ、……相性きついな。まあ負けねえけどな! ゆけっ! ムクホーク!」
「ストーンエッジ!」
「またかよ、はがねのつばさ!」
始まりは先ほどと同じだった。岩をかわして、翼を叩きつける。
「まただよ、ストーンエッジ!」
「やっぱおせえな、インファイト!」
そして同様に岩を飛ばそうとしたが、ムクホークは足と翼を用いて連続で打撃を食らわせ、サイドンは技を放つ前に倒れてしまった。
「……まじかよ」
まさか倒されるとは思わなかった。予想外のことに、口から出たのはそれだけだった。
「まあしかたねえか。あんがとなサイドン、後は休めよ。おし、出番だメガヤンマ!」
「ブレイブバード!」
「げんしのちから!」
翼を折りたたんで突撃したムクホークに、エネルギーの塊で迎え撃つ。
だがエネルギーは突撃の勢いに敗れ、眼前に迫ってきた。
「か、かわせ!」
言うが早いかメガヤンマは動く。
間一髪、腹の下を通り過ぎた。
「おし、げんしのちからだ!」
だが加速して狙いは外れてしまう。
「ブレイブバード!」
「まずい、かわせ!」
今度もギリギリだった。いや、かすってしまった。
「げんしのちから!」
バランスを崩しながらも必死に後ろを向き、放つ。直撃して一瞬制御を失い、しかしすぐに体勢を立て直し突撃してきた。
「メガヤンマ!」
今度は、避ける間もなかった。
一撃で倒れ、ムクホークも反動を受けた。
「おう、どうした? 威勢の割りにはよええじゃねえか?」
「弱っ……! うるせえ!」
再度の嘲笑に、弱いという言葉に、ダイスケは強く反応を示した。
声を荒げ、拳を固く握りしめ、目をつり上げて怒りをあらわにしている。
「おれは……! 弱くねえ! まだポケモンは残ってる、おれにはこいつがいんだよ!」
「ね、ねえアキト! 大丈夫なの? ダイスケの最後の1匹は……!」
彼に残されたのは、初めてもらい、ともに旅をしてきた相棒だろう。
タイプはみず、かくとうの複合だ。ひこうには相性が悪い。
彼女は不安げに彼の顔を覗くが、焦りは見られない。
「アキト!」
「大丈夫さカナエ、ダイスケは強い」
強く呼びかけると、落ち着いた声で返された。さらに続ける。
「あいつの強さは、何度も戦ったオレが一番よく分かってる。勝つ、ダイスケは」
そして彼は口を閉じた。
「出番だニョロボン! あいつの鼻っ柱をへし折れ!」
「ニョロボン!?」
シンヤは出されたポケモンに、驚愕した。
カナエちゃんの言うとおりだ、さすがに相性が悪い!
「やってみろよ。ブレイブバード!」
姿を現した彼の相棒にかなりの速度で迫る。
「ハイドロポンプ!」
だが迎え撃つ水に飲みこまれる。バランスを崩し、整えようと羽ばたいた。
「もう一発ハイドロポンプだ!」そこに激しい水流を浴びせた。
ムクホークは壁に叩きつけられ、そのまま落下した。
「ありえねえ! ……後1匹じゃねえか!」
こんなガキに! と声を荒げながら、最後の1匹を出した。
以前も出していた、ウォーグルだ。
「まあてめえはこれで終わりだ。こいつは俺のポケモンの中で一番つええからな、覚悟しやがれ!」
「てめえがな! おれに弱いって言ったのを後悔しやがれ! ニョロボンだっておれの最強の相棒だからな!」
「……なんだか」
「ん?」
今まで口数の少なかったシンヤが、複雑そうにつぶやいた。
「2人とも、……似てるね」
「……まあ、確かに」
この会話をもし聞かれていたら、恐らく2人は口を揃えて似てねえ、と怒鳴ったことだろう。
「ハイドロポンプだ!」
「かわしてブレイブバード!」
早速攻撃をしかけるが、避けられてしまう。
だがニョロボンも、突進を跳んでかわす。
「ニョロボン、ばくれつパンチ!」
自分の下を通り過ぎたウォーグルは、まださほど離れていない。
すぐに空中から、拳をかかげ迫る。
「当たれよ!」
そして思いきり振り抜く。
渾身の一撃は背中に直撃して、地面に叩きつけられた。
「いいぞニョロボン、いいぞダイスケ!」
「だろ? れいとうビーム!」
続けてばくれつパンチの追加効果で混乱しながらも必死に立ち上がろうとしていたところに、冷気の光線を食らわす。
ダメージは大きく、再び地に伏した。
「ウォーグル! おい、早くしろ!」
「わりいな。とどめだニョロボン、ハイドロポンプ!」
アオフジは焦っている。しかし間髪を入れずに、容赦無く激しい水流を浴びせる。
ウォーグルは、3連撃に耐えられず、倒れた。
「……!」
まさか負けると思わなかった彼は、絶句している。
「やったぞニョロボン!」
対してダイスケは、嬉しそうに自分の相棒に駆け寄り抱きつく。
そこにアキト達も集まる。
「やったなダイスケ!」
「一時はどうなるかと思ったよ」
「結局、アキト君が信じていたのは正しかったんだね」
アキト、カナエ、シンヤ。3人で彼を囲む。
「アキトが信じてた?」
「うん、最後までダイスケ君が勝つって言ってたよ」
その言葉にダイスケは嬉しくなり、ニョロボンから離れ彼を見つめた。
「ほんとか……?」
「ああ、まあ……」
ダイスケがすごい嬉しそうに聞き返してくる。確かにそうなんだけど、なんだか恥ずかしいな……。
「サンキューアキト!」
「いった!」
なんで頭をたたくんだ! とずれた帽子をかぶりなおしながら言うと、じゃあ抱きついたほうが良かったか? と冗談か本気か分からない顔で返されてしまった。
いや、いい、ごめん、と顔を逸らして、放心状態のアオフジの後ろの階段に目をやり、そこに向かって歩き出す。
まずカナエとシンヤが、次にリョウジが、最後にダイスケがニョロボンを労いボールに戻してから、それに続いた。