01
「そろそろだな」
眼前にそびえるこの街の一番大きなビル、そこがシッコク団のアジトだ。
リンドウが突入して、もう10分ほどが経つ。
『みんな、分かっているな? 俺が突入して10分経ったら、君達も来てくれ』
彼の先ほどの言葉だ。ビルの見張りは気絶している。
「リンドウさん、大丈夫かな……?」
「大丈夫さカナエ、リンドウさんはチャンピオンなんだ」
アキトは心配そうにビルを見上げる彼女の頭に手を置き、自分もそれを仰ぎ見る。
そうだ。彼ならきっと無事なはずだ。このトウシン地方で一番強い、チャンピオンなのだから。
目線を下げて、正面を見る。
ガラス張りの自動ドア。この向こうに行けば、どうなるかは分からない。
だが、リンドウからの信頼に応えるため、ミュウを助けてまた会うため、サンダースの悔しさを晴らすため。そして、ウツブシと戦い、勝つために。
今さら引き返す気は無い。もう、覚悟は決めている。
「みんな、心の準備はいいよな?」
カナエ、ダイスケ、シンヤ。3人の顔を順に見る。
「う、うん!」
カナエは、少しの不安を残しつつも頷いた。
「たりめえだ!」
ダイスケは、自分達が負けるはずがない、と自信たっぷりに拳を握りしめた。
「もちろん!」
シンヤは、迷いはない、という感じで帽子のつばを掴んで返事をした。
「必ず、みんな無事に帰ろうぜ。よし! じゃあ……、行くぜ!」
そして正面に向き直り、帽子をかぶりなおして歩きだした。
自動ドアが開き、4人は足を踏み入れた。
「よお」
入った瞬間、左から声が聞こえた。見ると、1人の少年がポケットに手を突っ込んで、左側の壁にもたれかかっていた。
正面はエレベーター、右側には廊下だ。
「お前は……」
やや長めの黒髪に切れ長のつり目、黒いトレーナー。すでに見慣れたその格好。
間違いない。その少年は……、
「リョウジ!? どうしてここに?」
アキトのライバル、リョウジだった。
彼はいきなり思わぬ人物に会った驚きで、アジトの中ということも忘れて叫ぶ。
「静かにしろ」
彼は両手を入れたまま壁から背を離し、近寄ってきた。
「リンドウさんから頼まれたのさ、力を貸してくれって。だから、ハシタを見かけても手を出さないという条件で協力することにした」
そして、ここにいる理由を説明する。
「つまり、仲間になってくれるのか?」
「勘違いするな。協力はするが、仲間じゃない」
淡い期待を込めてたずねるが、彼は背を向け平然と言い放った。
「……相変わらず愛想悪いな」
ため息混じりにこぼした愚痴に彼は全く反応を示さず、早く行くぞ、と急かされた。