02
「……来たか」
19道路。広く、カラスバシティが近いこともあり人通りもあまり無い道路。
そこにアキト達が着いた時には、既にリョウジとリンドウが待っていた。
「ああ、もちろん」
リョウジが振り返り、アキトもそれに応える。
「2人とも、準備は出来てるね」
「当然です」
「もちろんです」
アキトとリョウジは、互いから視線を外さず真剣な表情で返事をする。
「では改めて。ルールは6対6。交替有りで、先に相手のポケモンを全て倒した方の勝ちとなる!」
リンドウが言い終わると同時に、2人はモンスターボールを構える。
「このバトル、絶対に勝つ。行け! サンダース!」
「フン、勝つのは俺だ。出て来いハッサム!」
そして、同時にモンスターボールを投じる。草原に、黄色い四足歩行の体と大きなハサミを持った赤い体が姿を現した。
黄色いポケモン、サンダースは、待ちわびたと言わんばかりに体毛にピリピリと電気を帯びさせている。
「サンダース、10まんボルト!」
「ハッサム、とんぼがえり!」
サンダースが強力な電気を放ち、ハッサムはそれを浴びながらも接近して思いきりハサミで殴りつけ、素早くボールへ戻った。
「出て来いゴローニャ!」
続けて出したのはいわ・じめんタイプのゴローニャ。相性がサンダースにかなり有利なポケモンだ。
「サンダース、一度休んでくれ。行け! フローゼル!」
「戻れゴローニャ。出て来いカイリキー!」
これは勝ち目が薄い、とアキトが交替して相性の有利なポケモンを出すと、彼も交替をした。
出て来たのは、かくとうタイプのカイリキーだ。
「カイリキー、ストーンエッジ!」
「きあいだまだ!」
カイリキーの飛ばしてきた尖った岩を、渾身の力で放ったエネルギー球で迎え撃つ。
球は岩を弾き飛ばして、カイリキーに襲いかかる。
「受け止めろ!」
「アクアテール!」
そして、腕を交差させて球を防いだところに横腹にしっぽを叩きつける。
「しっぽを掴め」
だが距離を取るより先に、片方のしっぽを掴まれ宙吊りにされてしまった。
「き、きあいだまだ!」
「クロスチョップ!」
抵抗して球を発射しようしたが、その前に2本の手を叩きつけられる。
「フローゼル! 一旦休んでくれ!」
カイリキーは攻撃力が高い。今の一撃でかなりダメージを食らってしまったらしく、ボールに戻す。
「行け! ヘラクロス!」
ヘラクロスは陽気な声とともにボールから出てきたが、カイリキーを確認すると目つきが変わった。
「ヘラクロス、インファイト!」
「カイリキー、受け流せ!」
前回負けた悔しさを晴らすように連続で拳を繰り出すが、4本の腕で全てさばかれ、片腕を掴まれてしまう。
「ほのおのパンチ!」
「くっ、メガホーンだ!」
その状態で炎を纏った拳を振り下ろされては避けられない。
ならばと硬い角を食らわせたが、自身もやや遅れて拳を食らってしまった。
「角も掴め」
「ヘラクロス!」
さらに、自慢の大きな角も掴まれてしまう。こうなってしまってはどうしようも無い。
「くっ……! ……って、え……!?」
そう思った直後、ヘラクロスの体がいきなり燃え上がった。
「ちっ、こんな時に……!」
「へへ、追加効果のやけどか!」
ほのおのパンチには、命中した時に確率で相手をやけど状態にすることがある。リョウジが舌を鳴らし、アキトは逆にガッツポーズをする。
「行け! ヘラクロス、インファイト!」
そしてヘラクロスの特性は、状態異常にかかった時に攻撃力が上がるこんじょうだ。
それが発動したおかげで掴まれていた腕と角を軽々と引き離し、連続で拳を叩き込む。
「よし!」
倒した。彼は、そう思った。
「……ほのおのパンチ!」
「なっ……!? ヘラクロス!」
だが、カイリキーはまだ倒れてはいなかった。歯を食いしばってなんとか持ちこたえて、ヘラクロスに拳を叩き込み、そして互いに耐えきれず力尽きた。
「ヘラクロス、カイリキー、ともに戦闘不能!」
「ありがとうヘラクロス、良くやったな。ゆっくり休めよ」
「戻れ、カイリキー」
リンドウのジャッジで、2人は自分のポケモンをボールに戻した。
「ヘラクロス、せっかくこんじょうが発動したのにやられちゃった……」
「まあしかたねえよ。相打ちになっただけいいじゃねえか」
「うん、そうだね。アキト、がんばれ!」
カナエはダイスケと話してから、戦っている彼に声援を送る。
「……よし、次はこいつだ! 行け! ピジョット!」
出したのはピジョット。とんぼがえりを覚えるため、悩んだ時に出すのに向いているのだろう。
「出て来いゴローニャ!」
彼はその選出を読んでいたのか、それともサンダースへの警戒か。いわ・じめんタイプを持ち、相性の有利なゴローニャを出した。
「ゴローニャ、ストーンエッジ!」
「かわしてとんぼがえりだ!」
ピジョットの勝ち目は薄い。ピジョットは飛んでくるいくつもの岩を軽々と回避して接近し、翼を食らわせボールに戻る。
「行け! フローゼル、アクアジェット!」
「迎え撃て、ストーンエッジ!」
次にフローゼルを出したが、彼は今度は続投するようだ。
フローゼルは飛んでくる岩を避けながら、水を纏って突撃する。
「よし、アクアテール!」
続けて、跳んで2本のしっぽを振り下ろす。
「ふいうちだ!」
だが、ゴローニャは丸い体を生かして背後に転がり、隙の出来ている後ろから殴りつけた。
「しまった!?」
「フローゼル、戦闘不能!」
先ほどカイリキーにやられたダメージは予想以上に大きかったらしい。
フローゼルは倒れ、起き上がらなかった。
「……ありがとうフローゼル、ゆっくり休んでくれ。よし、行け! ピジョット!」
「ゴローニャ、ストーンエッジ!」
「かわしてはがねのつばさだ!」
「ちっ、受け止めろ!」
先ほど同様岩をかわし翼を叩きつけるが、腕に防がれてしまう。おそらく対したダメージにはなっていないだろう。
「戻れ、ゴローニャ。出て来いクロバット! ブレイブバード!」
リョウジはゴローニャより素早い分有利だと判断したのか、交替してクロバットを出した。
クロバットはいきなり突っ込んできて、ピジョットは避けようと羽ばたき上昇したが食らってしまう。
「ならこっちだって! はがねのつばさ!」
「避けろ」
すぐさま体勢を立て直し翼を広げ接近するが、クロバットは当たる直前に下降しそれを避ける。
「ブレイブバード!」
「くっ、かわせ!」
そしてクロバットの上を通り過ぎようとした時に、下から突進される。今度は横に旋回してなんとか避けるが、すぐさま切り返して再び突撃してきた。
「ピジョット、戻るんだ!」
その攻撃を間一髪回避したところで、ボールに戻す。このままやっても勝てそうになかったからだ。
「行け! サンダース!」
こいつなら、瞬発力があるし遠距離攻撃も出来るから互角に戦えるはずだ!
「10まんボルト!」
「避けてヘドロばくだん!」
「かわせ!」
放った電撃は右に移動してかわされ、しかしサンダースも飛んできたヘドロの塊をジャンプで避ける。
「これならどうだ、でんこうせっか!」
「上昇しろ!」
ならばと目にも留まらぬ速さで接近するが、上昇されかわされてしまう。
「10まんボルトだ!」
しかし距離はそこまで開いていないため、上空のクロバットに電気を放つ。
「ヘドロばくだん!」
攻撃は命中したが、一撃で倒すには至らなかった。その上サンダースも技を食らってしまう。
「もう一度10まんボルト!」
「避けてブレイブバード!」
再び放った電撃も避けられ、サンダースは、寸前で横に跳んで回避した。
「ヘドロばくだん!」
しかしクロバットはすれ違いざまにヘドロを撃つ。サンダースは、それは避けられなかった。
「サンダース!」
もう体力も危ないだろう。心配して声をかけるが、サンダースは短く吠えて、闘争心を伝えるためか電気を放つ。
「よし、分かった。サンダース、10まんボルト!」
「避けろ!」
「でんこうせっかだ!」
クロバットはやはり上昇して避ける。そこに跳んで目にも留まらぬ速さで接近しても、横にかわされてしまう。
「今だサンダース、10まんボルト!」
だがそれも予想の上だ。サンダースはすぐに振り向き、距離が離れる前に電気を放った。電気に包まれたクロバットは、無抵抗に地面に落下した。
「クロバット、戦闘不能!」
「よし、やったぜ!」
「やった!」
「……戻れ、クロバット」
アキトがガッツポーズをして、見ていたカナエとダイスケもともに喜ぶ。リョウジはその間にクロバットをボールに戻した。
「出て来いハッサム! バレットパンチ!」
そして再度赤い体が姿を現す。ハッサムは素早く接近して、拳を振り下ろした。
「かわせ!」
サンダースは当てるまで何度も振り下ろされるその拳を、その度に下がって避ける。
だがすでに消耗しているサンダースは、じょじょに動きのキレが落ちていく。
「まずい……! こうなったら……。サンダース、跳べ!」
このままでは食らってしまうのが目に見えている。アキトは、一か八かの指示を出す。
「10まんボルトだ!」
「受け止めろ」
これを食らわせればもしかしたら、と放った一撃は、しかし平坦な声で出された指示の通りに2つのハサミに防がれてしまう。
「そんな……」
「フン、残念だったな。バレットパンチ!」
そして重力にしたがい落下したところに、鋼の拳は叩きつけられた。
その攻撃を今のサンダースに耐えられるはずがない。サンダースは、目を閉じ地に伏した。
「サンダース、戦闘不能!」
「サンダース、良くやったな。ゆっくり休めよ。……行け! ピジョット!」
「ピジョットか。……まあいい、バレットパンチ!」
アキトが次に出したのはピジョット。ねっぷうを覚えているため、有効打を持っている。
リョウジはそれを知ってか知らずか少し考えるようなそぶりを見せたが、交替しないようだ。
拳を突き出し迫って来たのを、高度を上げることで避ける。
「よし、ねっぷうだ!」
「でんこうせっかで避けろ!」
さらに羽ばたき熱風を起こすが、ハッサムはそれを高速で動いてかわす。
ピジョットの起こした熱風は後を追うが、やはり当たらない。
「だったらブレイブバードだ!」
このままやっても、ピジョットが先に疲れてしまう。指示を切り替えて突撃した。
「来たか、受け止めろ!」
しかし今まで逃げていたハッサムは振り向いて2つの拳を突き出し、自慢のパワーで完全に勢いを止められてしまった。
「ピジョット!」
「バレットパンチ!」
そして硬い拳を叩きつけられてしまい後方に飛ばされる。
「ブレイブバード!」
だがすぐさま立て直し、再び突撃する。
「アキト、駄目だ!」
「どうして!?」
「こりないやつだ、もう一度受け止めろ!」
ダイスケとカナエは驚く。またダメージを食らってしまうだけだ、と。
「ピジョット、旋回しろ!」
今までも何回か使ったことがある戦法だ。しかしこのままでは彼には通用しないだろう。だが……、
「ねっぷう!」
今ハッサムは防御の姿勢に入っている、反撃も回避も出来ないはずだ。ピジョットは空中に半円を描くが途中で止まり、羽ばたく。
熱風に吹きつけられたハッサムは、防御の姿勢を崩して崩れ落ちた。
「ハッサム、戦闘不能!」
「へへ、どうだリョウジ!」
「フン、戻れハッサム」
これでお互い3対3。アキトはガッツポーズをするが、リョウジは大して動揺していないようだ。
「出て来いスターミー!」
彼はすぐに次のポケモンを出した。迷うそぶりを見せないあたり、ハッサムが倒れる前から誰を出すか決めていたのだろう。
もしかすると、倒されるところまで計算していたのかもしれない。
「よし、ピジョット! ブレイブバード!」
「避けろ」
ピジョットは翼を折りたたみ突撃したが、スターミーは跳んで軽々とかわしてしまう。
「スターミー、進化してさらに素早くなってるな……! ならねっぷうだ!」
「れいとうビーム!」
羽ばたき熱風を吹き付けても、スターミーは効果が今一つなのもあり、あまり気にせず冷気の光線を放つ。
「かわしてブレイブバード!」
だがピジョットもそうやすやすとは食らわない。高度を下げてかわし、そのまま突撃した。
「れいとうビーム!」
攻撃を食らわせて距離を取ろうとしたところに、光線が襲いかかる。
「くっ、かわすんだ!」
だが距離もまだ近く、間に合わない。冷気に射抜かれたピジョットは、無抵抗に地に落ちた。
「ピジョット!」
「ピジョット、戦闘不能!」
「ありがとうピジョット、ゆっくり休んでくれ。やっと出番が来たぜ! 次はお前だ! 行け! カビゴン!」
ピジョットをボールに戻し、巨体が砂ぼこりとともに現れる。
カビゴンは特防が高い、スターミーに有利だ。よし、行ける!
「カビゴン、のしかかり!」
「スターミー、サイコキネシス!」
けどリョウジは交替しないみたいだ。
スターミーが攻撃するも、カビゴンは涼しい顔をしながら接近する。
そして体重を乗せて倒れ込むが、横に転がられて避けられた。
すぐに起き上がって近づこうとしたが、バックステップで距離を取られてしまった。
「だったらじしんだ!」
次は思いきり地面を殴って衝撃波を起こす。
「跳べ!」
「のしかかり!」
だが跳んでかわされてしまったため、着地する前に距離を詰めようと走る。
「サイコキネシス!」
落下されながら送られた念波など気にも止めずに、接近する。しかし、もう着地してしまうのにまだスターミーとはカビゴン1匹分ほど開いていた。
「もう一度じしん!」
そこで指示を変える。スターミーが着地すると同時に地面を殴り、衝撃波を食らわせた。
「もう一度サイコキネシスだ!」
「のしかかり!」
すでに距離は充分近い。もはや回避は止め、やられるのを覚悟で技を放ってきた。
カビゴンは少し顔を歪めながらも全体重をぶつける。
体を持ち上げた時には、下敷きになったスターミーは動かなくなっていた。
「いいぞカビゴン!」
「戻れ、スターミー。出て来いゴローニャ!」
彼は残った2匹の内の、すでにバトルに出ているゴローニャを出した。
お互い手負いだ。顔にはやや疲労が浮かんでいる。
「ゴローニャ、じしん!」
「こっちもじしんだ!」
フィールドの両方から放たれた衝撃波は、中央で相殺された。
「ストーンエッジ!」
「防御してじしんだ!」
続けて尖った岩をいくつも飛ばされたが、腕を体の前で交差させダメージを和らげ、地面を殴る。
「ゴローニャ、避けて接近しろ!」
だがゴローニャは体を丸めて転がり、勢い良く跳ねて衝撃波をかわしそのままカビゴンの目の前に落ちる。
「まずい、もう一度防御だ!」
「無駄だ。だいばくはつ!」
「なっ!?」
攻撃を警戒して防御の姿勢を取るが、なんとゴローニャが使った技はだいばくはつだった。
体の合間から光が漏れ、直後大きな爆発が起こった。
「くっ……!」
「きゃあ!」
「おわっ!」
「むっ……!」
「っ……!」
辺りに砂煙が舞い、皆一様に顔を守るために両腕を目の前に持ってくる。
そして煙が晴れた時には、2匹はあお向けになって倒れていた。
「……カビゴン、ゴローニャ、ともに戦闘不能!」
……よし、これで互いに残ったポケモンは、1匹だけだ。
「カビゴン、がんばったな。ゆっくり休んでくれ」
「戻れ、ゴローニャ」
2人はポケモンを戻し、アキトはふぅ、と肩で息をして汗を拭い、帽子をかぶりなおす。
「よし、最後はお前だ! ……信じてるぜ」
アキトはモンスターボールを構え、それを見てつぶやく。
「行け! ウインディ!」
そして最後のそれを軽く上に放り、キャッチして勢い良く投げた。
「出て来いエレキブル!」
リョウジも、ボールを投じる。
「……フン、相変わらずだな、お前は」
「相変わらず?」
早速指示を出そうとしたアキトだが、彼の一言でピタリと止まった。
「最後に出すのはウインディ、俺の予想通りだ。そいつを最後まで残して、エレキブルにリベンジする。
お前のことだ。どうせそんなくだらないことを考えていたんだろう」
彼の言葉にアキトはうつむき、しかしすぐに顔を上げ笑った。
「へへ、良く分かってるじゃないか。確かにその通りさ。それに、バカだし負けず嫌いだしあきらめは悪い、ここぞって時にはウインディに頼るとこだって、オレはなにも変わっちゃいない」
彼は、リョウジはその言葉を、肯定も否定もせずに少し不思議そうな顔をしながらも黙って聞いている。
「けど、一つだけ変わったよ。強くなった! オレも、オレのポケモンたちも!」
アキトが勢い良く言うと、リョウジはフン、と鼻を鳴らした。
「なるほど。なら見せてみろ、お前達の力を!」
「ああ、全力で行くぜ! ウインディ、しんそく!」
「受け止めろ!」
2人は指示を出す。
ウインディは目にも留まらぬ速さで接近したが、エレキブルは両腕を交差させて受けとめる。
「アイアンテール!」
ならばと跳んで水平にしっぽを叩きつけるが、エレキブルは左腕を体側に持ってきてそれを防ぐ。
「クロスチョップ!」
「かわしてかえんほうしゃだ!」
「ちっ、エレキブル!」
接近され振り下ろされた両手を下がってかわし、激しい炎を放つも両腕を交差させ防がれてしまう。
「かみなり!」
「かえんほうしゃ!」
そして近距離でお互い電気と火炎を放つ。
2つのエネルギーがぶつかり合って小さな爆発を起こし、2匹は素早く後ろに下がった。
「もう一度かえんほうしゃだ!」
「でんこうせっか!」
再び激しい炎を放っても、避けられて再び距離を詰められた。
「かみなり!」
「かわせ!」
ウインディが構えると、直後に激しい雷が放たれる。
しかし間一髪、寸前で跳んでかわす。
「跳べ。クロスチョップ!」
だが攻撃はそれだけでは終わらない。エレキブルも追うように跳び、両手が体に振り下ろされた。
ウインディは地面に叩きつけられたが、受け身を取って落下の衝撃を和らげる。
「かみなり!」
しかし同時に、電撃を浴びてしまった。
ダメージは大きいが、まだ戦えそうだ。
「しんそく!」
歯を食いしばり、電気を食らいながらも反撃した。
「アイアンテール!」
続けてしっぽを叩きつけ、相手の攻撃に備えて構える。
「エレキブル、かみなり!」
「かわしてしんそく!」
「受け止めろ!」
そして電撃を目にも留まらぬ速さでかわし、接近して、
「回りこめ! かえんほうしゃ!」
両腕を交差させ構えるエレキブルの後ろに回りこみ、その背中に激しい炎を浴びせた。
「決めるぞウインディ! フレアドライブ!」
エレキブルは、炎の勢いに押されて飛ばされた。その隙を突いて、激しい炎の鎧を身に纏い突撃する。
「エレキブル、地面にかみなり!」
しかしすぐさま受け身を取って体勢を整え、ウインディの足元に激しい雷を落とす。
雷は地面を穿ち、たった今出来たくぼみに足をとられてバランスを崩し転倒してしまう。
「なっ、そんな!? ウインディ、まずい!」
「終わらせるぞ、エレキブル! ワイルドボルト!」
「かわせ! かわしてくれ!」
アキトが必死に叫び、リョウジが指示を出す。
隙だらけのところに、エレキブルが激しい電気を身に纏い突撃する。
ウインディは直撃してしまい、後方に飛ばされる。
無抵抗のまま転がって、少しして勢いが弱まり止まった。だが、ウインディは立ち上がらない。
「立て! 立つんだウインディ!」
「……フン」
……終わった。倒れた姿にそう確信したリョウジは、顔を背けて鼻を鳴らし、エレキブルにモンスターボールを向けた。
「ウインディ……!」
だが、まだ勝負はついていない。アキトの声に応えるかのようにウインディは歯を食いしばって痛みをこらえ、必死に踏ん張り立ち上がった。
「戻れ、エレキブル」
「待てよリョウジ! 勝負はまだ終わっちゃいないぜ!」
今にもエレキブルをボールに戻さんとしていたリョウジに、声をかぶせる。
「なに……!?」
彼は、驚きを露わに倒れていたはずのウインディを確認した。
立ち上がっている。しかも、先ほどよりも瞳に強い意志が込められている。
リョウジは無言でボールを戻し、アキトを見た。
同じ眼をしている。彼と、彼の相棒は。
彼らは諦めていない。今でも勝利を信じている眼だ。
「ちっ……。本当に相変わらずだな、お前は……!」
「……へへ。ああ、もちろん!」
舌を鳴らすリョウジに、アキトは口角を吊り上げて返す。
「今度こそ……、決めるぞ! ウインディ! フレアドライブ!」
「受け止めろ!」
拳を握りしめ両手を体の前で交差させ構えたエレキブル。
そこに、激しい火炎の鎧を纏ったウインディが突撃する。
「……なに!?」
エレキブルは後退しながらも必死にこらえていた。だが、その勢いを止めきれず、防御を崩され吹き飛んでしまう。
「くっ……、エレキブル!」
後方に飛ばされたエレキブルの姿は、砂煙に紛れて確認できない。
ウインディは、攻撃の反動で体力が限界に達し朦朧としながらも、こらえて、それを見つめている。
「……!?」
煙が晴れて、じょじょに見えてきた。
「そんな……!?」
そして見えたその影は、片方の手と膝を地面につきながらも、まだ倒れていなかった。
ウインディはそれを見て、力無く静かに崩れ落ちた。
「……ウインディ、戦闘不能! よって勝者、シノノメシティのリョウジ!」
「……」
アキトは、がっくりと肩を落とした。
後、もう少し。ほんのわずかでも威力があれば、エレキブルは倒せていただろう。
今でさえ、倒れないように必死に持ちこたえているほどなのだから。
「……戻れ、エレキブル」
「……ありがとう、ウインディ。よく、がんばったな。……ゆっくり休んでくれ」
ウインディが戦闘不能になったことにより、アキトには戦えるポケモンが1匹もいなくなった。つまり、僅差とはいえこのフルバトルは、アキトの負けだ。
2人は、自分の相棒をモンスターボールに戻した。
そしてリョウジは、皆に背を向ける。
「リョウジ! ……負けたよ。やっぱり強いな。……けど、楽しかったよ。ありがとな」
彼はそう言いながらリョウジに駆け寄り、右手を差し出した。
「……楽しかっただと? 分かっているのか、お前は負けたんだぞ」
だが彼はその手を無視して両手をポケットに突っ込み、振り返って眉をひそめた。
「ああ、負けたよ。……確かに、それはすっごく悔しい。……けど、それとこれとは別だろ?」
アキトは、笑っている。
「……なにをへらへらしている?」
「え?」
「確かにお前は強くなっていた。だが……、くだらない、負けは負けだ」
彼はリンドウにありがとうございました、と頭を下げ、アキト達3人に背を向け歩きだした。
「じゃあ聞くけど、なんでお前はポケモンバトルしてるんだよ!」
アキトはそれを引き止める。
「……勝つために。強くなって、勝つためにだ」
彼は立ち止まり、それから少しの間を置いて言った。
そして彼は、今度こそ去ってしまった。
「……勝つため、か」
彼の返答に、しかしアキトは反論出来なかった。
自分はリョウジに勝ちたい。少なくとも彼には、リベンジするために挑んでいるのだから。
アキト達はリンドウと別れるとウスズミシティに戻り、ポケモンセンターにモンスターボールを預けた。