01
ここはウスズミシティ。そこそこの大きな建物が何軒か建っている、摩天楼とまでは行かないがトウシン地方ではシノノメシティ、カラスバシティに次いで大きな街である。
それと、心なしか街の配色が全体的に薄暗いが、名前がウスズミだからだろうか。
アキト達はセイランシティから18番道路を通ってこの街に着き、ポケモンセンターを目指して歩いていた。
そして後数メートルというところで、少年が出て来た。黒い髪に黒いトレーナー、相変わらずポケットに両手を突っ込んでいる。アキトがライバル視している相手、リョウジだ。
「リョウジ!」
声をかけて駆け寄ると、彼は何も言わずに見つめてきた。
「な、なんだよ」
「……まさか、お前がショウブに勝つとはな」
少しの間を置いて発した彼の言葉には、めずらしく感情がこもっているように感じられた。
「へへ、強くなったからな」
「強くなった、か。……」
彼は言葉を途切れさせる。だがどうしたんだ、とたずねようとした時に再び口を開いた。
「おい。俺と、バトルだ」
「……え?」
そして言ったことは、予想外だった。まさか、あいつがこれを言ってくるなんて。
「聞こえなかったのなら、もう一度言ってやろうか?」
驚き返答が遅れた彼に、リョウジは嫌みを言う。
「あ、いや、聞こえたけど……。まさかお前から言ってくるなんて思わなかったからさ」
「で、どうなんだ? 受けるのか、受けないのか」
そして答えを急かされる。
「ああ、もちろん受けるさ! お前に負けたままなんて悔しいからな!」
「フン。確かめてやる、お前の実力が本物かどうかな!」
アキトとリョウジが向かい合い、火花を散らす。2人のこういう光景を見るのは初めてのことだ。
「じゃあ、ルールは……」
「フルバトル、6対6はどうだい?」
言いかけて、影が落ちてきて見上げる。
グンジョウシティでも同じことがあった。そして今回もボーマンダが降りてくる。
「リンドウさん!」
「やあ、見てたよ2人とも。ずいぶん燃えてるじゃないか」
やはり乗っているのはリンドウだった。彼は、前回同様ボーマンダから飛び降りた。
「あなたは、チャンピオンの……」
「ああ、よろしく。俺はリンドウ。君はリョウジ君だね、テレビで見たよ」
「はい、よろしくお願いします」
彼は突然のチャンピオンの登場に少し驚きつつも、定型句を返す。
「ところでリンドウさん、フルバトルですか?」
そしてアキトがたずね、そういえばカナエは分かるだろうか、と横目で見ると、大丈夫、と小さくガッツポーズをされた。
「ああ。君達は経験あるかい?」
「いえ、ありません」
「僕達もです」
「まあ、だよな。普通に旅をしてたらそんな機会そうそうないからな。だから、この機会に経験しておくべきだと思ったんだ」
「え?」
どうやら経験が無いだろうと考えた上での質問だったらしい。彼の言葉に、全員が不思議そうにする。
「シッコク団との戦いでは手持ちをフルに使った戦いもあるかもしれない。
それにリョウジ君にも、ポケモンリーグの準々決勝からはフルバトルだから悪くない話だと思うんだけど、どうかな?」
確かに、言う通りだ。それにフルバトルなら、リンドウさんも言った通り手持ちをみんな出すことができる。リョウジと、本当の真剣勝負ができる。
「リョウジ、いいよな?」
「ああ。どんなルールでも、俺の勝ちは変わらないからな」
「それはオレのセリフだ! 絶対負けないぜ!」
「フン」
にらみ合う2人の表情は、真剣そのものだ。リョウジがアキトに対し真剣になっているのは、カナエもダイスケも初めて見る。
「決まりだな。じゃあ初めてのフルバトルってことで、時間は3日後の正午。場所は、19番道路でいいかな? あそこは広いし、バトルにぴったりだと思うんだ」
「はい、もちろん」
「かまいません」
「当日は、俺が審判を務めるよ。それじゃあ、健闘を祈る」
2人は一旦リンドウに目を向けたが、彼が時間と場所を決めボーマンダに乗り飛び去ると、再び火花を散らし始めた。
「リョウジ。3日後のフルバトル、絶対に負けないからな」
「悪いが、勝つのは俺だ。全力で行かせてもらう」
そしてそれだけ言うと彼はアキトから視線を外し、3人の横を通り抜ける。
アキトも彼とすれ違うように、ポケモンセンターへと歩き出した。