01
「リンドウさん、話ってなんですか?」
グンジョウジムを出てポケモンセンターに戻ってポケモンを預けると、リンドウから話があると言われた。そしてここではなんだからと、一度外へ出た。
「ああ。アキト君、君の実力を見込んで頼みがあるんだ」
リンドウは真剣な表情だ。真面目な話なのだろう。
「はい、僕にできることでしたらなんでもしますよ!」
「それは良かったよ。頼みって言うのは……」
彼は少し言いづらそうに間を置いたが、やがて口を開いた。
「シッコク団って、知っているかい? 人のポケモンを取ったり博物館のものを盗もうとしたり、シノノメシティを襲撃したりした黒服の悪いやつらなんだけど」
「はい、もちろん。僕達で撃退したことも、何度かありましたしね」
「え!?」
苦笑いしながら答えると、リンドウは驚愕の声を上げた。
「幹部だって、撃退したこともあります!」
「つっても、1人で戦ったことねーけどな」
「相手がすぐに退いたこともあったしね」
「う、うるさいな……」
得意げにしていたところに水を差されて、アキトはやや不機嫌そうにする。
「まあ、確かに自分だけで撃退したことはないけど、それでも2人だってすごいよな?」
「ふふ、まあそれもそうだよね。それに、わたしも助けられたし。あの時はありがとね」
「いや、オレこそカナエの素直さにはお礼を言いたいよ。オレこそありがとう」
「ううん」
カナエに同意を求めると、頷いてくれた。ほんと、カナエは素直で助かるよ。
「たまたま弱かったか、タイコウ山ん時みてえにもう誰かと戦ってたからとかだからだろ?」
「い、いや、まあ似たようなもんだけどさ! シンヤと協力したり、ほとんどリョウジが倒したりもあったけどさ!」
……それに比べて、ダイスケは! もう、慣れたけどさ。
「……アキト君。カナエちゃんとダイスケ君も。……君達」
「あ、はい!」
「なんですか?」
リンドウの声で、アキトは彼に視線を戻す。
「君達、……俺と一緒に、シッコク団と戦ってくれないか?」
「え?」
オレの目的は、ウツブシを倒すことだ。だから断る理由もない。けどリンドウさんからそんなことを言われるなんて、予想外だった。返事をする前に、彼は続ける。
「……君達みたいな子どもに申し訳ないとは思っている。けど、これは信頼出来るトレーナーにしか頼めないことなんだ。頼む、この通りだ!」
彼は、頭を下げてお願いしてきた。
「そんな、いいですよ! 顔を上げてください!
リンドウさん。僕はシッコク団のボス……、ウツブシを倒したい。だから、断る理由がありません」
「本当かい? ありがとう、アキト君!」
彼はアキトの言葉に、嬉しそうに顔を上げた。
だが、一つ質問したいことがある。
「いえ、いいんですよ。ところで、なんで僕達なんですか?」
「ああ。ダイスケ君とカナエちゃんは分からないけど、アキト君、君は強い。そして真っすぐなトレーナーだ。
俺はトウシン地方のチャンピオンとして、出来れば被害は最小限に抑えたいんだ。強くないトレーナーを巻き込んでポケモンを奪われるわけにはいかないし、強いトレーナーでもシッコク団の仲間になられたら困る。
それに、街を守る人も必要だからな」
「けどおれ達も、敵になるかもしんねえぞ?」
「大丈夫だ、君達はそんなことをしない。俺は信じているよ」
「お、おう。そこまで言うのか……」
「ああ、言うよ」
リンドウに真っすぐ見つめられて、からかおうとしたダイスケは戸惑ってしまった。
「なんだよお前ら、言いたいことあんのか!」
「いや、べっつにー?」
「なんにもないよー?」
アキトとカナエがニヤニヤしながらそれを眺めていたら、ダイスケから怒鳴られてしまった。だから、視線を逸らして白々しく返す。
「この……!」
「はは、まあまあダイスケ君。とにかくアキト君、そういう意味で君は信頼出来るんだ。本当にお礼を言うよ。ありがとう」
「いえ、ほんとにいいですよ! 僕はウツブシを倒したいだけですから!」
「なら、カラスバシティのポケモンセンターでまた会おう! 俺はもうこの街を出るよ。それじゃあ!」
彼は再びお礼を言って、マントをなびかせ走っていった。そして走りながらボーマンダを目の前に出して、とうっ! というかけ声とともに勢い良く背中に飛び乗った。
ボーマンダはため息を吐いたが彼は気にせず指示を出し、飛び去っていった。
「……ねえ、やけに勢い良かったね」
「おう。シノノメシティではもっと普通にボーマンダに乗ってたのにな」
「た、多分、故郷だしアキトが協力してくれるし、すごく気分が良かったんだよ! ね!」
「……だと、いいな」
その去り方になんだか微妙な気持ちになったカナエとダイスケは、先ほどから黙っているアキトを見る。
「……すごい、かっこいい!」
「……はは」
アキトは、目を輝かせていた。
2人はそれに、苦笑いしか出なかった。