02
「なあ、カナエ。お前、なにかあったのか?」
2人は木陰に移動し、背をもたれて座っていた。アキトは隣に座るカナエになんとなくたずねた。
「え!? な、なんで?」
自分は2人に早く追いつきたい。そう思って最近特訓することが前より増えていた。
そのことで心配をかけていたのかもしれない。彼の質問に、思わず声が裏返ってしまった。
「いや、カナエ、もともとバトルが好きなわけじゃないのに最近がんばってるな、と思ってさ。いや、前に話してた理由だけならいいんだ、ごめん」
彼は申しわけなさそうにしているが、……アキトに、話そうかな。聞いてもらいたい、思いをうち明けたい。どんな反応が返ってくるか少し怖いけど、アキトなら安心も信頼もできる。彼女は少しの沈黙の後、口を開いた。
「……ねえ、アキト。話に付き合ってもらっていい?」
「カナエ? ……ああ、もちろん」
……良かった。アキトならこう言ってくれると思ってたけど、ちょっと不安だったから。
「あのね、アキト。わたし、不安なの」
「不安って、なにがだ?」
「……アキトと、ダイスケのこと」
「……え?」
彼女の予想外の発言にアキトは間抜けな声を出すが、構わず続ける。
「2人は、どんどん強くなってるよね。わたしじゃあ届かないくらいに」
「あ、ああ、ありがとう?」
褒められた? ……んだよな?
「うん。それはもちろん嬉しいし、2人がジム戦に勝ったりしたら、おめでとうって思うよ。
けどね、最近、思うんだ。なんだか距離を感じるな、って」
「距離?」
「わたし、うらやましかったんだ。ジム戦の後に、一緒に喜ぶ2人が。なんだかわたしだけ蚊帳の外みたいで。……いつか、2人が遠いところに行っちゃいそうで」
「……そうか。確かにカナエはジム戦をしないし、オレとダイスケの夢はポケモンマスターだもんな」
「……うん」
今までずっと一緒だった、2人の幼なじみ。しかし、将来彼らが夢に近づけば近づくほど、遠い存在になるはずだ。
彼女の不安は、そこにあるのだろう。
「……はは、けど、そんなこと気にしてたのか」
「わ、笑わないでよ! わたし、ほんとに悩んでたんだからね!?」
「だってさ、カナエ」
アキトは笑っていたが、優しい笑顔に変わった。
「オレ達、これまでずっと一緒だっただろ? ダイスケはどうか分からないけど……。オレは、お前とずっと一緒にいたいと思ってるよ」
帽子のつばをつかんで、空を見上げて続ける。
「お前は大切な仲間で、友達で、幼なじみだ。いつか距離が離れたとしても、それは変わらないさ」
そうだ。オレ達の関係は、そう簡単には変わらないはずだ。たとえ、なにがあっても。
「……アキト」
ずっと一緒にいたい。その言葉が頭の中で繰り返され、頬に熱を感じた。
アキトのことだから、無自覚なんだと分かっているのに。
「……カナエ、どうした?」
「アキト、よくさらっとそんなこと言えるね」
「え?」
「ずっと一緒にいたい、なんて、まるで……」
自分で言ったことの意味にもカナエの顔にも気付かず平然としている彼に最後まで言えず、口ごもる。
「え? あ、その……。えっと、今のは違うんだ! 今のは本当に変な意味じゃなくて、もちろんお前だけじゃなくてダイスケとも一緒にいたいと思ってるし、……とにかく、違うんだ!」
しかし彼はそれで自分が何を言ったのかが分かったらしく、顔を真っ赤にして慌てて否定した。
「ふふ、大丈夫、分かってるから。ありがとうアキト、すごく嬉しいよ!」
「あ、ああ、なら良かったよ……」
彼は恥ずかしさに顔をそらして言った。
「……そうだよね。できれば、一緒に居たいよね。アキトとダイスケとわたし、3人で、ずっと」
なんとかさっきの発言を頭の片隅に追いやり、しばしの間を置き熱が引いたのを感じて話を戻した。
その声にはまだ多少の不安が残っていたが、それでも話をする前に比べれば幾分かトーンも明るくなっている。
「……ああ、だな」
彼もうなずき、沈黙が続く。
……なんだか。
「……カナエ!」
「え?」
「特訓しようぜ!」
なんだか、特訓したくなってきた。
「よし、出てこいサンダース! 行くぜ!」
返答を待たずにポケモンを出す。戸惑った様子の彼女だったが、分かった、とポケモンを出した。