03
「負け……ると思うけど、負けないよ! アキト!」
「ああ、オレも負けないぜ! 行け! ヘラクロス!」
「行って! ムウマージ!」
16番道路に戻って2人は向かい合い、ポケモンを出す。
「うーん……。相性は悪いけど、カナエが相手だしなあ……」
「アキト、バトルは真剣勝負! 前に言ってたよね? ムウマージ、シャドーボール」
悩んでいるアキトに、以前の彼の言葉を投げかける。
「悪いカナエ、そうだったな! ヘラクロス! メガホーンで弾き飛ばせ!」
彼は謝罪して指示を出した。迫ってくる影の球を、硬い角による強烈な一撃で上方に弾き飛ばす。
「高く飛んだなー……」
「ならサイコキネシスよ!」
「おっと」
ダイスケはそれを見上げていたが、カナエが指示を出したため慌ててバトルに視線を戻した。
「ストーンエッジ!」
ムウマージは強い念力を送って攻撃するが、ヘラクロスは効果抜群のその技に怯まず尖った岩を飛ばして反撃する。
「もう一度だ!」
「かわしてシャドーボール!」
そして再び岩を飛ばすが、ムウマージはそれを横に避け影の球を発射する。
「メガホーン!」
彼が急いで指示を出すが、ヘラクロスがその技を使うより先にムウマージの技が命中する。
「やった!」
「まだまだ! ストーンエッジ!」
カナエが油断している隙に指示を出す。
尖った岩が、ムウマージに命中する。
ムウマージは耐えきれず倒れた。
「ああ!?」
「良くやったなヘラクロス、休んでくれ。カナエ。オレが言えるかは分からないけど、油断はダメだぜ」
前もそうだったしな、と続けながらヘラクロスをボールに戻す。
「はい、心に留めておきます……。ありがとうムウマージ、ゆっくり休んでね。うーん……。行って! ピクシー!」
「行け! カビゴン!」
彼女がポケモンを出し、アキトも交替をする。
「ピクシー、おうふくビンタ!」
ピクシーはカビゴンをペシペシとはたくが、カビゴンはものともせず立っている。
「うぅ……。全く効いてない!」
「悪いなカナエ、のしかかり!」
必死にはたいてもあまり効き目はなく、逆に攻撃を受けてしまう。
「ピクシー!」
「もう一度だ!」
そして体を持ち上げ、再び全体重をぶつける。
その文字通り重い2回の攻撃に、ピクシーは倒れた。
「うそ……」
「ありがとう、戻ってくれカビゴン。行け! ウインディ!
さあカナエ、最後は誰を出すんだ?」
アキトはカビゴンを戻し、ウインディのボールを軽く上に放り、キャッチして勢い良く投げカナエに話しかけた。
「……最後は、わたしのパートナー。行って! ラフレシア!」
彼女は少しの沈黙の後そう答え、モンスターボールを投じた。
ラフレシアがボールから出てフィールドに姿を現す。
「おいカナエ、そいつは相性わりい! くさタイプはほのおタイプによええんだぞ!」
「ありがとう、ダイスケ。けどわたしはラフレシアがいいの」
「……アキトかよ」
ダイスケの心配も、彼女は承知しているらしい。彼にはその姿が、今彼女と戦っている少年に少し重なって見えた。
「カナエ。手加減は無し、だよな」
「……もちろん。いまさらだよね、ラフレシア」
確かめるようなアキトの言葉に、彼女もラフレシアも頷いた。
「分かった。なら、決めるぜウインディ! フレアドライブ!」
「ラフレシア、はなびらのまい!」
ウインディは炎の鎧を纏って、ラフレシアの撒き散らした花びらを次々と燃やしながら突撃した。
「ラフレシア!」
効果は抜群、一撃で倒れた。
「うう、強い……」
……全く、敵わなかった。少しは追いつけたと思ったのに。
「けどカナエ、お前のポケモンも結構強くなってたぜ」
アキトは笑いながら駆け寄ってきた。
アキトはそう言ってるけど、バトルはほとんど一方的だった。
「……これじゃあ、追いつけない……」
彼女の心の中に留めるはずの言葉が、思わず口に出てしまう。
「どうした、カナエ?」
「え!? あ、えっと……。うん、なんでもないよ、ありがとね。けど、アキトはやっぱり強いね。じゃあポケモンセンターに戻って回復させて、また特訓しよ! 戻ってラフレシア。じゃあ、先に行ってるね!」
気付かずに発したその言葉は、幸い声量が小さく、うつむいていたこともあり聞こえていなかったらしい。
動揺を必死に抑えながら言葉を続け、言い終わると怪しまれないようもっともらしい口実でその場を離れた。
「あ、おい!……行っちゃった」
取り残されたアキトは、不思議そうにしながらウインディを撫でた。