06
途中何度かしたっぱ達を退けながら、たどり着いたのは社長室だ。
ここでなにかしているらしく見張りが居たが、たやすく退けてそこに飛び込んだ。
「ここか!」
中に入ると、スーツ姿でヒゲを蓄えた小太りの老人と、したっぱ達と同じ服装の、だが彼らとは雰囲気の違う明るい青緑の髪の男性が向かい合っていた。
「き、君達は……!?」
老人は助けと分かったのか、安堵の声を出した。
「僕はコキヒタウンのアキト、彼はリョウジです」
「……やれやれ、したっぱ達は子ども2人相手になにをやっていたんだ」
自己紹介をして、帽子を脱いで頭を下げ、かぶりなおす。
男性はうっとおしげにこちらに振り向いた。
「君のことは知っているよ、アキト君。何度も我々シッコク団の邪魔をしているそうじゃあないか」
「へへ、オレのサンダースがお前達に借りがあるんでね。
お前も幹部なのか、お前達の目的はなんだ!」
「いかにも、私は幹部のハシタ。私達の目的はこの会社を乗っ取ること、だったんだが……。さすがに2対1は少し厳しいかな?」
アキトとリョウジを順に見て、しかし余裕を持った口調で言う。
「そんなことはどうでもいい、この街を襲ったことを後悔させてやる。出て来いハッサム!」
対してリョウジは、腹立たしげにポケモンを出す。
「全く、うるさいガキだね。悪いが、私は君には興味無いんだ」
「いいからポケモンを出せ。それとも、直接ハッサムの攻撃を食らいたいか?」
「……しかたないね。ゆけっ! フーディン!」
「あ、行け! サンダース!」
彼の脅しにハシタはため息混じりにポケモンを出し、アキトも取り残されないように慌てて出した。
「ハッサム、とんぼがえり!」
「ふふ、ここは撤退させてもらうよ。フーディン、テレポート!」
ハッサムがフーディンに迫るが、フーディンは目を閉じ2本のスプーンを前にかざして、一瞬の間を置き消えてしまった。
「ちっ、逃げられたか……!」
ハシタの姿もなくなっていた。瞬間移動で逃げられたらしい。
「あの、社長さん、大丈夫ですか?」
アキトはサンダースを戻して駆け寄る。
社長室にいるんだから、多分社長だろ。
「あ、ああ。助かったよアキト君、リョウジ君。わしはトウオウ。君達には、どうお礼をしたらいいか……」
「え? い、いや、いいですよそんなお礼なんてそんな! なあ、リョウジ!」
「お気持ちだけで十分です。失礼しました」
アキトがリョウジに目をやると、彼は心のこもってない声で言い、一礼して部屋を出ていった。
「あ、えっと、彼はちょっとせっかちなんですよ! 早く旅を再開したくて……」
……って、なんであいつのフォローをしてるんだオレは。
「ははは、構わないよ。彼は君の友達かい?」
「友達っていうか……。ライバルです!」
「ふふふ、ライバルか。青春じゃのう。ところでお礼についてじゃが……」
「え? あの、いいですって! 物が欲しくて来たわけじゃないですから!」
口ではそう言いつつも、アキトの目は輝いていた。
「少し待っていてくれ」
「はい!」
……それから少しして、トウオウは戻ってきた。手には紫色のなにかを持っている。
「さあ、受け取ってくれ」
「こ、これ……!?」
差し出されたそれを見て、アキトは驚いた。
紫と白が半々で、紫の方にはMの字がかかれた球。
これは……!
「マスターボール!?」
以前雑誌で見たことがある。ポケモンの研究で功績を残した博士などに贈られる、どんなポケモンも必ず捕まえられるというとても貴重なモンスターボールだ。
「い、いいんですか、これ!?」
「ああ、今はこれぐらいしかなくてね。友人が自分はトレーナーじゃないからとくれたんじゃが、わしも使いどころに困っておってね。だから、君が持っていた方がいいと思ったんじゃ」
「あ、ありがとうございます!!」
思わず背筋が震えながら受け取ったそれを、アキトは慎重にリュックの中にしまい、大きく礼をした。
「こちらこそ礼を言うよ。我が社を救ってくれてありがとう。
では、またいつでも来てくれ、小さな英雄さん」
「英雄……! は、はい!」
アキトは再び大きな礼をして、社長室を後にした。