01
「ここか、カラスバシティは……」
ポケモンセンターに戻ったアキトらは回復のためポケモン達を預けて、宿泊用の部屋に行き、部屋の中央にある机を囲んでこのトウシン地方の地図を広げた。
ウツブシの言っていたカラスバシティを確認すると、ポケモンリーグが開催する街はトウシン地方の最北端に位置していて、そこを少し下った場所にその街は位置していた。
「……」
今日の大敗のことを思う。
全く、歯が立たなかった。オレとカナエとダイスケ、合わせて5匹がかりでも……。
シッコク団のボス、ウツブシ。本当に、強かった。……悔しいけど、あの強さは本物だ。
今の自分達では、一矢報いることすら怪しい程の差があった。
「……へへ」
思わず、笑いがこぼれる。しかしやけになったわけではない。
「アキト?」
不審に思ったカナエがたずねてきた。
「すっごく強かったよな、ウツブシは」
「……なに、笑ってんだよ。お前は、悔しくねえのかよ!」
負けたのに笑っているアキトに対してか、自分の怒りと屈辱をぶつけたいからか、両方か。ダイスケが、今にも掴みかかりそうな勢いで怒鳴った。
「ああ、もちろん悔しいさ。ミュウを守れなかったことも、サンダースの悔しさを晴らせなかったことも、見逃してもらったってことも。
けどさ、ダイスケ。オレ、嬉しいんだよ」
「……なにがだよ」
なに言ってんだ、こいつは! ボロ負けしたのに、嬉しい?
わけが分からず戸惑って、語気が先ほどよりも弱まった。
「ショウブさんもウツブシも、すっごく強い。けどさ、ダイスケ。あんなに強い人がいるってことは、オレ達だってあんなに強くなれるかもしれないんだぜ? そう考えたら、ワクワクするだろ?」
「……。お前……! ほんっとにバカだな!」
アキトのポジティブシンキングに、呆れかえる。思わず脱力して、ため息まじりになった。
「へへ、バカだからな!」
「自慢げに言うな」
「自慢げに言わないでよ……」
「う……」
2人とも、厳しい……。
「……けど、アキト。本当に行くの? カラスバシティに……」
彼女はダイスケとともにつっこんでから、少しの間を置いて不安と諦観が混じった声色でたずねてきた。
「ああ、もちろん」
「……やっぱり」
即答すると、やはりアキトの答えが分かっていたらしく、つぶやいた。
「けど、アキトがやるようなことじゃないよ……。こういうことは、警察に任せれば……」
「いやだ」
彼女がどうして、と言おうとたずねてきて、続ける。
「オレはミュウを助けてもう一度しっかりミュウに会いたいし、サンダースの悔しさも晴らしてあげたいんだ」
言いながら思い出す。捕まる時のミュウの姿と、初めて対面した時のサンダースを。
「ミュウが捕まる時に、一瞬だけど確かに聞こえたんだ。助けて、って」
あれは、ミュウのテレパシー能力だったのだろうか。
「けど、アキトが助けなくても、ミュウを助けてもらってから会わせてもらえば」
「ダメだ。確かにミュウは幻のポケモンだ。けど、それを捕まえちゃいけないって決まりはない。それに捕まったポケモンは自分の意思で逃げることも出来るけど、長年ミュウを追い求めてきたウツブシがそれを許すはずがない。それに、昔助けてもらったから、今度はオレが助けたいんだ。サンダースだって、今は慣れてるけど、最初はほんとに人間を怖がってた。それだけ傷つけるなんて、許せないだろ」
「それは……、けど……」
彼女が何か言おうと口を開いたが、構わず続ける。
「それになにより、どうしても勝ちたいんだ、ウツブシに。
オレ自身の悔しさを晴らすためにも、最強のトレーナーになるためにも。負けたままには出来ないんだ」
「……ほんとに、昔から負けず嫌いなんだから」
分かっていたその答えに、しかしため息をこぼさずにはいられなかった。
「ごめん、カナエ。けど、決めたんだ。オレはカラスバシティに行って、ウツブシを倒すって」
「……はあ、ほんっと変わらねえよな、お前。……分かった、お前を止めねえし、止めさせねえよ!」
彼の言葉に、ダイスケは頭をかいて言った。
「だから、おれもついていく!」
「え!?」
「あ、ずるいダイスケ、わたしもアキトと行きたい!」
「カナエまで!」
彼の言葉に驚いて叫んでしまったが、彼女の言葉にも驚かされた。
「ダイスケ、カナエ……。けど、もしオレがウツブシに勝てなかったら」
「大丈夫、アキトは勝つ! わたしは信じてるよ」
「まあ負けたらお前を置いて逃げるだけだしな!」
「そうそう」
「お前達なあ……」
2人を巻き込みたくはなかったが、……1人じゃあ少し不安なのも事実だった。軽口を叩いている2人を見て口では呆れたようにしつつも、内心はとても嬉しかった。
「……2人とも、ほんとにいいのか?」
「もちろん!」
「置いてこうとしたって、勝手についてくからな!」
改めて意思を確認しても、変わらないようだ。
「……カナエもダイスケも、オレと同じくらいバカじゃないか」
「あはは、まさかあ」
「それはねえよ、一緒にすんな」
「……さすがに傷つくぞ」
カナエとダイスケに、笑いながら否定された。
冗談、だよな……? カナエはともかく、ダイスケなら本気で言いそうだから不安だ……。……まあ、いいか。
「……けど、ほんとにありがとう、2人とも。一緒に来てくれて」
本当に、2人が一緒に来てくれるのは心強いし嬉しかった。
「ううん、わたしだってアキトに助けてもらったから」
「おれはまあ、お前にリベンジする前にお前がポケモン取られたら困るからな」
2人ともそう言ってはいるけど、ただの口実だろう。付き合いは長いんだ、分かってる。
オレはほんとに、いい友達を持ったな。
「……よし! じゃあ2人の期待に応えるためにも、特訓しないとな!」
アキトは机の上に広げっぱなしだったタウンマップをしまい、もう回復も終わってるだろ、と付け加えてリュックを持って立ち上がった。
そして帽子をかぶりなおして、部屋を飛び出した。
「わたし達も、ポケモンを受け取りに行こう」
「だな」
残された2人は、普通に歩いて部屋から出た。