02
「よし! ヘラクロス、メガホーン! フローゼル、かわしてアクアテールだ!」
メガホーンは角を突き出し飛んで突進するが、フローゼルはそれをジャンプでかわして背中にしっぽを叩きつける。
「ん?」
アキトの顔に、細かいなにかが当たった。
「うわ!」
「きゃあ!」
そして、いきなり辺りに砂嵐が巻き起こった。
「な、なんだ!?」
「あくのはどう!」
彼らが戸惑っていると、アキトの後方から声が飛んできた。
「アキト!」
「アキト、あぶねえ!」
「うわ!」
それに気づいて振り返ると、悪意に満ちたような黒いオーラが迫っていた。
慌ててしゃがんだが狙いは彼ではなかったらしく、彼の頭上を通り抜けた。
そして空中で何かに当たったように弾け、ポケモンの悲鳴が辺りに響いた。
「え? って……!?」
「ゆけっ! ハイパーボール!」
アキトがあくのはどうが弾けた点に目をやると、なにもない場所から顔を歪めたピンク色の肌に長いしっぽの、神秘的な姿のポケモンが姿を現し、そこに向かってアキト達が普段使っているものよりかなり高価な、黄色、黒、白の3色のボールが投げられた。
「ミュウ……!? ミュウ!!」
そのポケモンにすぐにボールが命中し、姿は一瞬しか見えなかった。しかし確かに、昔アキトが見た幻のポケモン、ミュウそのものであった。
「フフ、礼を言うよ、アキト君」
ボールは三度揺れ、動きは収まった。
そして痛みを感じるほどに勢いを増した砂嵐の中から、1人の男性と1匹のポケモンが姿を現した。
「あ、あなたは……!」
黒いハットに黒いコート。そして片手に先ほど投げたものと思われるハイパーボールが握られていた。
「ウツブシさん!」
そう、コクボウタウンで会った、趣味でミュウのことを調べていると言っていた男性、ウツブシだった。
「君のおかげで、とうとう長年追い求めていたポケモン、ミュウを捕らえることが出来た」
「どういう……ことですか……?」
「驚いたよ。私のシッコク団の邪魔を何度もしていた少年を見に来たら、まさかこんな無邪気な子どもだったとは。しかしそれもだが、その少年がまさかミュウに会ったことがあるとはな」
意味が分からず問い詰めると、彼は淡々と口にした。
「じゃあ、オレのせいで……!」
「ああ、その通り。感謝しているよ。もしかすると、と君の後をつけていたら、姿を消したミュウが君を見るためにやってきたのだから」
「そんな……!」
アキトはショックで言葉をなくし、うつむいて拳を握りしめる。
「待って下さい、ウツブシさん! 私のシッコク団って……」
アキトが衝撃を受ける中、カナエが先ほどの言葉の、私の、に反応して、それを強調して口にする。
「そう。私こそがシッコク団のボス、ウツブシだ」
「なっ……!?」
そして彼が口にした驚愕の事実に、カナエとダイスケも言葉を失う。
「ミュウを……!」
「ん?」
「ミュウを自由にするんだ、ウツブシ! 行け! サンダース!」
アキトが握りしめた拳をほどいて、勢い良くモンスターボールを投げた。
「そのサンダース……」
「サンダース、10まんボルト!」
ウツブシが反応を見せるが、アキトは構わず指示を出す。
「サンダース、どうしたんだ!?」
が、サンダースは震えたまま動かない。
「サンダース……?」
サンダースは、彼らを見つめて固まっている。
「あのポケモン、バンギラス……!」
彼の後ろには、凶悪な面、サンダースのおよそ3倍の体躯、背中にはいくつものトゲ。怪獣のような見た目の、砂嵐の元凶と思われるポケモンが立っている。
バンギラスはカイリューやボーマンダなどの希少なポケモンと並ぶ程の力を持つと言われている。
アキトはその迫力に怖じ気づいているかと思ったが、そんな眼をしていないのが分かった。
純粋に、ウツブシとバンギラスに恐怖をしている眼だ。
「恐ろしいか、私が。フフ、だがしかたあるまい」
「ウツブシ! まさかお前が、サンダースを!」
「ああ、その通り。力の限界を見るために少しばかり痛めつけていたら、さすがは全ポケモン屈指の瞬発力のポケモンだ、逃げ出されてしまったが……。君が捕まえていたか」
「ウツブシ、お前が……! オレはお前を許さない! ヘラクロス、インファイト! フローゼル、きあいだまだ!」
サンダースを痛めつけた者の正体で、ミュウを捕まえたウツブシ。さらに部下は罪も無い人からポケモンを奪っている。
激昂したアキトは、アキトの後ろで臨戦態勢に入っていた2匹に指示を出した。
「弾き返せ」
だがバンギラスは腕の一振りでフローゼル渾身の力で放ったエネルギー球を弾き、迫っていたヘラクロスにぶつけた。
「くっ、戻れ、ヘラクロス、フローゼル! サンダース、10まんボルトだ!」
先ほどまでの特訓のこともあり疲弊している2匹を戻したアキトは、再びサンダースに指示を出した。
「……フフ」
だがサンダースは、やはり歯を噛みしめて固く目をつむりながら震えている。
「サンダース!」
「……ほう」
アキトが呼びかけて、サンダースはとうとう動いた。サンダースは薄く目を開けて彼らの姿を確認し、電気を放った。
しかしバンギラスには大したダメージではないようだ。
「まかせろアキト! 出番だニョロボン、ばくれつパンチ!」
「掴んで投げてしまえ」
出てきたニョロボンは接近して思いきり拳を突き出すが、バンギラスは半身を切ってかわし、腕を掴んでダイスケの目の前に思いきり投げ捨てた。
「ニョロボン!」
「行って、ラフレシア! マジカルリーフ!」
「効かないな」
そしてカナエが出したラフレシアの攻撃は身動き一つせずに食らい、しかし平然としていた。
「無駄だ、今の君達では束になっても勝てない。だがミュウを捕まえさせてくれたお礼だ、見逃してあげよう」
ウツブシはバンギラスを戻して、彼らに背を向け言った。
「ウツブシ……!」
「アキト君、カラスバシティで待っているよ。無論、来るも来ないも君の自由だ」
彼はそれだけ言い残すと、立ち去ってしまった。
後には、砂嵐だけが残った。