02
「へほひーほは、ハヒホ」
「え、なに?」
「もう、ちゃんと口の中のものを飲み込んでからしゃべって」
ダイスケがサンドイッチを頬張りながら話しかけたら、注意されてしまった。
「……でさ、アキト」
「ああ」
しかたなく、きちんと飲み込んでから再び話しかける。
「お前いいよな、幻のポケモンに会えるなんて」
「……まさか、信じてくれるのか? 前はあんだけ疑ってたのに」
ダイスケの言葉に、アキトは驚く。昔絶対ウソ、とまで言っていた彼が、今は信じているのだから。
「……まあ。今はなんか、な」
彼は、どこか照れくさそうに頬をかきながら言った。
「……って、そんなことはどうでもいいだろ!」
恥ずかしくなって、ダイスケはバスケットを見ずに乱暴に自分のサンドイッチを取ろうとした。
「あれ?」
が、その手は空を切り、サンドイッチを掴むことはなかった。
「おかしいな。アキト、おれのサンドイッチ食ったか?」
「オレは勝手に食べたりしないぜ? お前じゃないんだし」
「だよなー。おかしいな、あともう1つ残ってると思ったんだけど……。」
お前じゃないんだし、は無視か。アキトは思った。
ダイスケは不思議そうに腕を組んで、まあいいか、ごちそうさま、と立ち上がった。
「どこ行くんだ?」
「ふっ……! いや、なんとなく立って伸びしたくて」
アキトがたずねると、彼は伸びをしてからまた座った。
「はあー、ねむ」
そして大きなあくびをして、あぐらをかいた。
「おし、じゃあダイスケが寝る前に出発しないとな」
言って、アキトは残り1つのサンドイッチを口に放り込んだ。
「ええ? ……しょうがない、あとで食べよ」
「ならおれが食う!」
カナエはバスケットのサンドイッチを見つめて言ったが、直後にダイスケの両手が伸びてきて残りを掴み取った。
「あ、ちょっと!? 返してよ!」
「はー、ほは!」
ああ、ほら、か。ダイスケが口をぱんぱんにしてカナエに言った。
「いらないよ!」
「ふほっふ! ふほっふ!」
カナエはそんな彼の頬を両手で押して、彼は出そうになって慌てて口を押さえる。
オレは楽しそうだな、と思いながらレジャーシートをリュックにしまった。
「もう! 明日ダイスケのお弁当へらすからね!」
「へ!? は、はふはっはははへ! ほほほーひ!」
「もうやらない?」
「はははい! はははいはあ!」
……なに言ってるんだ、ダイスケ。いや、わかるけど。
多分、わ、悪かったカナエ! この通り! と、やらない! やらないから! ……だな。
……ホントに楽しそうだな。おかげで暇だ。
バスケットも片づけて、アキトは腰に手を当て2人のやりとりを眺めていた。
「片づけありがと。じゃあ行こ、アキト」
見ていると、ダイスケにやらないと言わせることに成功したカナエは、手を後ろで組みながらアキトの隣に来た。
「脅迫で訴えたら勝てるよな、絶対。なあアキト」
ダイスケも両手を腰に当てながら隣に来て、同意を求めてきた。
「まあいいってカナエ。それとダイスケ、元はお前が悪いんだぞ。よし、じゃあ出発!」
アキトはカナエとダイスケの顔を順に見ながら返事をして、言った。