01
「あれは、リョウジ! と、おじいさんがいるな……」
ポケモンを捕まえたりバトルをしたりしながら13番道路を抜けてアヤメシティに着いたアキト達は、リョウジが白髪で袴姿の老人と話しているのを見かけて、駆け寄った。
ここはかつてサファリゾーンや、街のなかで珍しいポケモンを飼育しており人気もあったが、今はサファリゾーンは取り壊され、珍しいポケモンはシッコク団に連れて行かれるかもしれないため安全な別の場所に移されたため、人が少なくなった街だ。
しかも今いる場所は街の入り口で民家も少なく、バトルが出来るほどの広さがある。
「おーい、リョウジ!」
「またお前達か」
彼は相変わらず無愛想で、アキト達を見てもすぐに老人に向き直った。
「なあ、このおじいさん、誰……って」
老人を見て、アキトは驚いた。
「あ、あなたはもしかして、トウシン地方最強のジムリーダーと言われる、ショウブさんですか!?」
そう。その老人は、ドラゴンタイプのジムリーダー、グンジョウシティのショウブだったのだ。
「ああ。君達はアキト君、カナエ君、ダイスケ君じゃな?」
老人は微笑みながら言った。
「え? し、知ってるんですか?」
自分達のことを知られていたことに、彼らはさらに驚く。
「ああ。弟子から……、リンドウから、話は聞いているよ。元気な子ども達と知り合ったって」
「え!?」
「り、リンドウさんのお師匠さんなんですか!?」
リンドウの師匠。そのことにもカナエとダイスケは驚いた。今日は驚きの連続だ。
「そうだぜ、カナエ、ダイスケ。知らなかったのか?」
だがアキトは元から知っていたため、得意げに言ってきた。
「う……、あまりそういう番組は見なかったから……」
「おれもテレビ見ねえからな……」
「今日はどんな用で?」
「ああ。この街を見に来てな。……まあ、予想以上に廃れていたが。そしたら、たまたま会った彼にバトルを挑まれたんじゃ」
「ショウブさん、早く僕とバトルをしてください!」
彼らが話すのを眉間にしわを寄せながら聞いていたリョウジだが、しびれを切らして言った。
「すまない、リョウジ君。では、始めようか」
そういうとショウブは、彼らと距離をとり、モンスターボールを構えた。
「……ええ」
リョウジもため息混じりで、モンスターボールを構えた。
「ルール3対3じゃったな? ゆけっ! オノノクス!」
「……絶対に勝つ。出て来いハッサム!」
ショウブがまず出したのはやはりドラゴンタイプのオノノクス、対してリョウジは、むし・はがねタイプのハッサムだ。
「オノノクス、いわなだれ!」
「バレットパンチ!」
ハッサムはオノノクスの降らせた岩を次々と砕きながら接近し、硬い拳を叩きつけた。
だがその背中に、岩が降り注ぐ。
「とんぼがえりだ!」
岩を浴びつつも、ハッサムは攻撃をしてモンスターボールに戻る。
「出て来いスターミー!」
「むっ……」
リョウジは次に、スターミーを繰り出した。ショウブがやや苦い顔をする。
「スターミー、れいとうビーム!」
「受け止めてドラゴンクローじゃ!」
オノノクスは腕でその攻撃を受け止めながら近づき、鋭く尖った巨大な爪でスターミーを打ち上げた。
スターミーは宙に投げ出される。
「スターミー、もう一度れいとうビームだ!」
だが、空中から再び凍える光線を発射する。オノノクスは防御が間に合わず食らってしまい、倒れた。
「よし」
「なかなかやるな、リョウジ君」
「すごいなリョウジ、先にショウブさんのポケモンを倒した……」
アキトは、思わず口に出してリョウジを褒めた。悔しいが、やはり彼は強い。
「ならば、次はこいつじゃ。ゆけっ! フライゴン!」
「れいとうビーム!」
ショウブが繰り出した直後に、リョウジは指示を飛ばした。攻撃がフライゴンに迫る。
「りゅうのはどう!」
だがフライゴンは間一髪攻撃を放ち、それはれいとうビームをじょじょに押していき、スターミーは押しきられて倒れてしまった。
「……戻れ、スターミー。出て来いハッサム!」
彼は、再度ハッサムを繰り出した。
「ハッサム、バレットパンチ!」
「かえんほうしゃ!」
向かってくるハッサムに対し、フライゴンは炎を放つ。ハッサムは避けようとしたが、避けれず食らってしまい、倒れた。
「戻れ、ハッサム! ……出て来い、エレキブル!」
気持ちを抑えながらもハッサムを戻し、最後に出したのはエレキブルだ。
「あいつのエレブー、エレキブルに進化してたのか……!」
アキトが驚きながら言う。彼は、とうとう最後まで進化したエレキブルに息を呑んだ。
「でんこうせっかで接近しろ!」
出て来たエレキブルは、早速フライゴンに迫る。
「りゅうのはどう!」
「かみなり!」
フライゴンがさせまいと口から衝撃波を放ち、エレキブルは激しい雷で相殺し、衝撃で辺りに土煙が舞う。
「ドラゴンクロー!」
「跳んでれいとうパンチだ!」
すぐさま構えて爪を振り下ろしたフライゴンだが、エレキブルは跳んでそれをかわし、そのまま空中から冷気を込めた拳を叩きつける。
かなりのダメージで、フライゴンは倒れてしまった。
「どうしたんですか、ショウブさん。これがトウシン地方最強と言われるジムリーダーの実力なはずがありませんよね。しっかりと出して下さい。あなたの本気……、カイリューを!」
今日のバトル、リョウジは心なしかいつもより感情的に思える。
「カイリュー……!」
その言葉に、またもアキトは驚く。カイリューは破壊の神の化身と言われるほどの力を持ったポケモンで、その進化前のミニリュウも長らく幻と言われてきていた。アキトですら、トレーナーの連れているのを見るのはこの地方ではショウブのだけだ。
「もちろん、言われずとも出そう。久しぶりじゃよ、後1匹まで追いつめられたのは」
「……ええ、3年ぶりですね」
リョウジは一瞬うつむいたが、すぐに顔を上げて言った。
「ああ」
「そうなの?」
ショウブが頷き、カナエはアキトにたずねた。
「3年ぶりっていうのは、ショウブさんが強くて、挑戦者自体が少なかったのと、その挑戦者もみんな1匹目に倒されたからなんだ。四天王候補とも言われてた、3年前の挑戦者、名前は……、なんだったかな……」
「ああ、テレビでやってたな」
「確か……」
「ゆけっ! カイリュー!」
アキトとダイスケが考えていると、ショウブがカイリューを出した。
その姿は最初はアキトがテレビや雑誌で見たことのある穏やかそうなものだったが、目の前の相手を見て一瞬で雰囲気が変わった。殺気すら感じるほどだ。「う……」
「エレキブル、れいとうパンチ!」
その殺気にアキトは一瞬怖じ気づいてしまったが、リョウジは怯まず指示を出す。
「かわらわり!」
2匹は接近して、互いの拳と拳をぶつけ合った。だがカイリューがパワーで勝り、エレキブルは押しきられてしまう。
「ちっ、かみなり!」
だがエレキブルも、激しい電気で反撃する。……が、そこまで聞いてはいないようだ。
「カイリュー。ドラゴンダイブ!」
「っ……、腕で防げ!」
リョウジは一瞬迷ったが、でんこうせっかでも避けれるか分からない。ならば、と防御の指示を出した。
カイリューは殺気を放ちながら突撃する。やはりエレキブルはその体当たりに耐えきれず、後方に飛ばされた。
「エレキブル!」
「なんて威力だ……」
その技の威力は凄まじく、攻撃の衝撃で辺りに大量の土煙が舞い、見ているアキト達のところまで衝撃波が届いた。
アキト、カナエ、ダイスケ、リョウジの4人は、目と口を腕で守る。
そして土煙が晴れ、見ると、エレキブルはなんとか、本当に危ない状態だが、立ち上がっていた。
「今のを食らって、まだ立てるのか……!」
アキトは、エレキブルは倒れた、と思ったが、まだ立っている。……なんて体力だ。リョウジの相棒だけあるな。
「エレキブル……。……かみなり!」
残り体力も少ない。エレキブルは、全力で激しい電気を放った。
「もう一度ドラゴンダイブ!」だがその攻撃も、押しきられてしまう。
またも辺りに衝撃波が届き、二度もその攻撃を食らってしまったエレキブルは、今度こそ倒れてしまう。
「……なっ、エレキブル!?」
リョウジの呼びかけにも、全く反応を示さない。何度呼んでみても、倒れたままだ。
「……戻れ!」
リョウジはうつむき歯ぎしりしながら、エレキブルをモンスターボールに戻した。よほど悔しかったのだろう。
「ショウブさん! ……今回は、レベルが足りず倒せませんでした。ですが、次に戦う時に勝つのは僕です!」
彼は普段とは別人と思えるほど感情をむき出しにして叫ぶ。
「ああ、いつでも君の挑戦を待つ。君のような、強い挑戦者を」
そしてショウブはカイリューを戻した。
「……」
リョウジの見たこともない姿。カイリューの、エレキブルをも寄せつけぬレベルの高さ。
その2つに、アキトはあ然としている。
「……ありがとうございました」
リョウジは、頭を下げてポケットに左手を突っ込み、右手でエレキブルのモンスターボールを見ながら立ち去った。
「あ、あの、ショウブさん!」
「ん?」
「グンジョウジム……、いつか僕も行きます! そして、必ずあなたに勝ってみせます!」
あんなに強いんだ、今はまだ勝てないかもしれない。それでも、いつかは勝ちたい! ライバルですら歯が立たないその強さに、アキトはとてもわくわくしていた。
「ああ、楽しみに待っているよ」
ショウブはそう言って、カイリューに乗って飛び去っていった。
「さようならー!」
彼は精いっぱい手を振ってショウブを見送り、それからモンスターボールを取り出した。
「よし、出てこいウインディ! これから特訓だ、行くぜ!」
「ええ!? ちょっとアキト、どこ行くの!?」
「行っただろ、特訓だよ! ポケモンセンターで待ち合わせな!」
「お、おい!」
アキトは2人の声も聞かずに走っていく。
残されたカナエとダイスケは、顔を見合わせてうなだれた。