01
「ん?」
シッコク団を退けたアキト達は、ポケモンセンターで回復を終わらせて、タイミングよく戻ってきたダイスケとともに4人で話したりしていた。
だがサイレンが響き渡り、時計を見る。時計の針は5と12を差していた。
「もう5時か」
「そっか。じゃあね、アキト君。ぼくは久しぶりに自分の家に帰るよ」
「ああ、じゃあまた会おうぜ。じゃあな」
「じゃあね、アキト君、カナエちゃん、ダイスケ君」
「おう、じゃあな!」
「またね、シンヤ君」
シンヤは手を振りながら、ポケモンセンターを出て行った。
アキト達は手を振ってそれを見送った。
「さて、これからどうする?」
「あー、オレは特訓は今日はもう十分やったから疲れたなあ」
「じゃあ先にお風呂入るか?」
「いいや、そんな気分じゃねえし」
「そうか」
「わたしは本読もっと」
彼女の言う本は、バトルの本ではなく今日買った、幼なじみの若い男女の恋愛小説だ。彼女はカバンから一冊の本を取り出した。
「じゃあダイスケ、久しぶりにオレとゲームで勝負しないか?」
「おう、負けねえぞ!」
「君がアキト君かい?」
「え?」
アキトとダイスケがゲームボーイアドバンスを取り出そうとリュックの中をあさっていると、いきなり声をかけられた。声をかけてきたのは、黒いコートに黒いハットの、30代後半くらいの男性だ。
「そうですけど……、あなたは?」
「私はウツブシ。趣味で幻のポケモンについて調べているんだが、まあそれは関係ない。
シッコク団を何度も退けた赤い帽子の少年の噂を聞いて、会ってみたいと思ってたんだ」
彼はそう言ってがっしりとした右手を差し出した。アキトはそれをしっかりと掴んで握手を交わす。
「よろしくお願いします、ウツブシさん!」
「よろしく、アキト君。君に会えて光栄だよ」
「え? ええ、いや、そうでもないですよ〜」
アキトはそう言いながらもニヤニヤしている。嬉しいのだろう。
「はあ、またアキトったら……」
カナエは、それを見て呆れている。
「ところで、ウツブシさんはどんな幻のポケモンを調べているんですか?」
「ああ。私が調べているのは、幻のポケモン、しんしゅポケモンのミュウだ」
「ミュウ……」
アキトはそのポケモンの名前を聞いて、うつむいて口元に手を当てる。
カナエがそれに気づいて、彼を見る。「ああ。南アメリカ・ギアナのジャングルの奥地で発見され、カントー地方に連れて行かれ研究されていたポケモンだ。
現在はホウエン地方のさいはてのことうで暮らしているとも言われる」
「オレ、確か昔……」
ウツブシがミュウの説明をしているが、アキトは聞きながら昔を思い出す。
「それにミュウはめったに人前に姿を現さず、変身能力も……って、どうしたんだい、アキト君」
記憶の片隅に残っていたそのポケモンの姿は、やはりアキトの知っているミュウと一致していた。調べた記憶もある。とはいっても、昔のことだから実際とは違う風に記憶していたり、勘違いしているだけかもしれないが。
「……僕、昔……、ミュウに会ったことがあると思うんです」
「……なんだって?」
それを告げると、ウツブシの表情が変わった。
「え、本当、アキト!?」
「まさか昔言ってた、ミュウを見たとかいうあれか!?」
「ああ。……ダイスケは、冗談だろって信じなかったけどな。カナエは信じてくれたのになー」
「い、いや、しょうがねえだろ……」
アキトがわざとらしく言うと、ダイスケは彼から顔を背けて、頬をかきながら言った。
「その話、詳しく聞かせてくれないか?」
「え?」
「私もミュウに会ってみたいんだ。詳しく聞かせてほしい」
「はい、いいですよ。
あれは、まだ僕が小さかったころです」
アキトは、ミュウに会ったときのことを話しはじめた。
みな、真剣に彼の言葉に耳を傾けている。